突然の初日!初日からもう事件!
1-1)
ゴ…
ゴゴ…
ゴゴゴ…
ゴゴゴゴ……
ドドーンッ!!
「うわぁっ何だっ!?」
地震のような地鳴りと揺れ。
ベッドから飛び起きて驚いたオレだけど、よくよく考えたら宇宙船が着陸した音だ。
毎度迷惑だよなー。せめて昼間にすればいいのに。
しかし何だってオレたちが宇宙人のホームステイに付き合わなきゃならんのだ?
地球側に拒否権がないってのが悔しいんだよなあ。銀河警察は怖いらし……。
ピンポーン
ん?こんな夜中にベル音?あ、もしかして……。
ピンポーン、ピンポーン
うるさいなあ。隣ンちのロザリーちゃんが起きるだろ!いま出るよ!
「こんばんは!N101星から来た楓です。一週間居座るのでよろしく!」
…………
……よろしくって、オイオイ、楓さんとやら、世話するオレの身にもなってくれよ。
このテンションと図々しさ、間違いなく宇宙人だ。
そういや隣の山田さんの家にも一昨日S77星から宇宙人が来たらしいな。
かわいいから家族にするとか……ついにウチにも!
見た目は地球人と変わらない。ハスキーな声と長い髪を一本に結った人型宇宙人か。
人型なら、というか同じ人間だから暮らしやすくていいな。山田さんの家のはどう見てもサ……ま、いいや。
それにしても足腰細いなあ。そのジーンズのサイズいくつだ?
貧弱な男を見ると蹴り飛ばしたくなる。鍛えてやるかな。
「オレはアキラ。とりあえず一週間よろしく」
「よろしく!」
楓は満面の笑顔を浮かべ冗談めかして左腕で敬礼の仕草をしてみせた。
左利きなのかな?にしても何となくワザとらしい動作。ま、いいか。
こうしてオレと楓の共同生活がはじまった。ちなみに楓は22歳。
げ、年上かよ……。
◆
「ああ床がかたい。疲れてるのに。2歳も年上なのに。ああ床がかたい」
夜中、電気の消えた室内に呪いのようなうめき声。
床に寝せられた自分に対し、柔らかなベッドで寝るオレへの嫌がらせだ。
声の主はホームステイで来たばかりの宇宙人、楓。
オレは朝まで無視をした。突然やって来たオマエが悪い!我慢しろ!
1-2)
夜が明けてオレの生活は一変すると思った。
でも楓は気さくないい奴で、時間を乱されるストレスもなく、今のところ平穏な日常を過ごしている。
初日から大変な目にあいたくないしな。
午前中は楓の母星N101での生活習慣なんかを聞いた。あまり地球と変わらないみたいで少し期待外れ。
違うのは食生活。
好きな量の錠剤を腹が空いたら食べるらしい。サプリメントみたいな物か?どうりで痩せてるわけだ。
一錠もらって食べたらイチゴ味がした。なかなか美味い。もう一錠もらった。
楓は地球の銀行に通帳を作っていた。見せてもらったらオレより額が多い。
いや、とんでもない額だった。ホームステイ中の一週間、何度か食事をオゴってもらおう。
「いいけど、一回千円以内な」
……あっさりと笑顔で言うなよ。コイツ、意外にケチだ。
1-3)
大学受験に失敗して二浪中のオレの午後は勉強だ。
その間ひとりで集中したいし、楓は暇だろうから近くの体育館内のジムを紹介した。
ここで運動して鍛えろ!と強引に勧めて案内した。
ひとりでマンションに帰宅すると玄関前で隣の山田さんトコのご主人と出くわし挨拶を交わした。
S77星人だから語呂あわせで『ナナ』と名付けられた宇宙人も一緒だった。
でもあれってどう見てもサ……。ああ、ウチは楓で本当に良かった!
楓をジムに追い出してから数時間。時刻は午後6時になろうとしている。アイツはまだ戻らない。
イヤな顔しながらブツブツ言ってたしなあ。意地になって運動してるのか、迷子にでもなってるのか。
急に心配になって、オレは家を足早に離れた。
後で思えば電話で連絡すればいいだけのことだった。
でもこの時のオレは楓を自分で連れ戻したかったんだ。何でかはわからないけど……。
◆
すぐに楓は見つかった。体育館の途中にある公園のベンチに腰かけていた。
その表情はうつ向いて寂しそうで、線の細い顔立ちなだけに哀愁が漂っていた。
「どうした?」
不意の声に驚いたようで、楓は勢いよく頭部を上げてオレを見上げた。
オレだとわかると安心したのか強張る表情を緩めた。
「ん……ホームシックかな……」
ハスキーな声で、ポツリと呟いた。
オレにも経験がある。コイツの気持ち、わかる気がする。
一人暮らしに馴染めなくて家族とか地元の友人とかに電話なんかしょっちゅうしてた。
まして遠距離と言うにはあまりに遠く、惑星が違うんだし。うーん、スケールが違いすぎる。
ふと楓の脇にコンビニ袋を認めた。中身は弁当と飲み物みたいだ。
オレのために買ってくれたんだ。何だか胸がジーンとしてきた。
ありがとう、楓!
うん、コイツとはいい共同生活ができそうだ。
もちろん故郷を知らないから慰めもロクにできないけど、ひとつだけ言える。
「帰るぞ。ひとりじゃないんだから」
無器用なオレ。うまく伝わったかはわからない。
でも会ったばかりのオレたちだけど、肉親のように古くからの友人のように信用してほしい。
ここを第2の故郷として寂しがらないでほしい。そうなってくれればと望んだ。
楓は「ありがとう」と口にしてコンビニ袋を手に取り腰をあげた。黙ってオレの背中を追う。
しかしその袋の中身、しっかり千円以内だったのは言うまでもない。
1-4)
帰宅したマンションの一室。そこそこ広いワンフロアの室内。ここが現在のオレの家だ。
いまオレは昨夜からのホームステイ相手の宇宙人、楓と床に座って食事中。
なかなかいい奴で、夕食はコイツのオゴりのコンビニ牛丼。久しぶりで美味い!
楓の食事はサプリみたいな錠剤でいいらしいけど、興味があるのか地球の食べ物を真剣に見てる。
試しに牛肉を一切れ食わせてみた。
「美味しい!」
気にいったみたいだ。次は自分用にも買ってくると言い出した。
結局何でも食べれる人種なんだ。ま、同じ物を一緒に食べた方がオレも楽しいし助かるけど。
そして!
事件は突然起こった。ワザとじゃない。本当に偶然だった。
飲み物を取ろうとしてついフタの開いたペットボトルをテーブルに倒してしまった。
ヤバいと手を伸ばしたけど遅かった。
「きゃあっ!」
「わっ!ごめ……」
大きな音と共に液体が楓の方へ。
その物音が驚かせたのか、同時に隣の山田さんの家からロザリーちゃんとナナの声。
けどそっちはひとまず無視だ。でもナナのあの鳴き声ってやっぱりサ……ま、いいや。
日中、男らしくなれ!と楓に無理矢理買わせた新品の白のジャージが汚れてしまった。
「悪い!」ととっさに謝りかけたオレだけど……。
え?きゃあ?いま、きゃあって……。
はぁっ?コイツ、もしかして……もしかして……。