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銀の星降る夜 ✻①✻  作者: YUQARI
第一章 始まりの理由
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お誘い

 ラースが尋ねてみると、やはり彼は、前魔法師長セウ=クルーガーの関係者だった。


 名前は玖夜(ひさや)と言うらしい。身寄(みよ)りをなくし、セウ=クルーガーの養子になったそうだ。



「君は、学校に行かなくていいの?」

 素朴な疑問を投げ掛ける。


 この国では学校に行かない者も多いが、クルーガー家は代々魔法師になっている。魔法師になるには、高等学院まで行くのが必須条件である。

 確かに、目の前の相手は、竜人のようにも見える。しかも、これほどの召喚をこなすとなると、学校で魔法を学ぶ……などと言うことは、不要なのかもしれない……。

 そんな風にも思った。


 けれど玖夜(ひさや)は、意外にも、悲しそうな表情をした。


「まだ、国王の許可が降りてなくて……」

 まだ、エルダナへ来たばかりで、なんの手続きも行っていないらしい。許可が下り次第、通学する予定なのだと玖夜(ひさや)は言った。

「その間、図書館に行って学べる事を見つけてみろと、義父(ちち)に言われています……」


 それはつまり、(てい)よく図書館の発電機になれと言ってるのに過ぎない。図書館の維持魔力を、提供して来い! ということなのだろう。


 そもそも子ども一人でこの図書館にやる、強者の親など、このエルダナには存在しない。

 相手がこの規格外に魔力を兼ね備えた、竜人だから言える事なのに違いなかった。



「……それは、助かる」

 ラースは呟く。


 召喚を六体も出来るのだから、魔力に関してはまず問題はない。玖夜(ひさや)が発電機になってくれれば、その分犠牲者も減る。


 思わず出たその言葉に、玖夜(ひさや)がぴくりと反応する。


 《怒られる!》と思っていたようで、プルプルと身を(ちぢ)こませていたが、それが杞憂(きゆう)だったのだと知ると、パッと花が咲いたように、満面の笑顔を見せてくれた。長い褐色の耳が、パタパタと動かいた。


 肌をほんのり赤く染めて、照れているその様子は、好ましくもある。

 思わずラースが微笑み返すと、玖夜(ひさや)は真っ赤になった、


 照れ隠しのように、玖夜(ひさや)は慌てて言葉を(つむ)ぐ。

「あ、……あの。だけど俺って、あまり人と話したことなくて、その……あの、なんて言えばいいのか分からないけれど、……あの、すごく嬉しくて……っ!」

 バタバタと手を動かし、一生懸命に話をしようとしている。



(……可愛いなぁ)


 初めて見た時からラースはそう思っていたが、玖夜(ひさや)と話すと、その想いは一段と強くなる。玖夜(ひさや)はひどく素直で、ただ見ているだけで、考えていることが分かった。


 そしてそれが嫌な気持ちにならず、むしろ好ましい。

「……」

 いつも人を避けていた自分が、そんな事を思う日が来るなんて、ラースは思ってもみなかった。

 軽く微笑み返しながら、不思議に思う。玖夜(ひさや)といると何故、こんなにも心が和むのだろう……。


 初めて出会ったのに、まるでずっと前から知っていたかのような、そんな感覚に(おちい)り、思わず玖夜(ひさや)のその頭を撫でた。

「……っ!」

 玖夜(ひさや)はビクッと体を強ばらせはしたが、直ぐに真っ赤になって、されるままになった。


(人の頭を撫でるなど、何年ぶりだろう……?)

 ラースは記憶を探る。



 思えばはるか前に、妹の頭を撫でたきりだ。

 その妹も今や十三歳。

 例え自分の妹だとしても、不用意に頭を撫でられる歳でもない。


 本来なら、こんなことなどしない。

 自分から他人に触れるなど、もっての他である。


 だが、相手の見た目が珍しいことと、反応が面白いことで、自分でもおかしいと思える行動を、ラースは素直に取ってしまっている。そのことに気づいて、ラースは少し驚くが、玖夜(ひさや)相手にそれはごく自然な事のようにも思われた。



(フフ……。本当は、耳を引っ張りたいところなんだけれどね……)

 くすりと笑う。


 そんな風にも思っている自分が可笑しくて、ラース苦笑しながら、それだけは止めておこう……と自分を抑えた。いくらなんでも、それはあまりにも失礼である。


 その分、頭を撫で回わそうと、ワシワシと撫でくり回した。玖夜(ひさや)の髪はとても細く、艶やかで柔らかい。

 手触りが良くて、離すのが惜しいくらいだ。


 けれどそうこうしていると、玖夜(ひさや)が急に、顔を隠して座り込んでしまった。


 ラースは、ハッと我に返る。

「あ。ご……ごめん。嫌だった? 嫌だったよね……!?」


(自分は今、何をしていた……?)

 サーっと血の気が引いた。


 慌てて玖夜(ひさや)から手を離した。

 真っ青になって、玖夜(ひさや)(のぞ)き込む。けれど玖夜(ひさや)は、顔を見せてくれない。

 かろうじて見える、褐色の長い耳が、有り得ないほど真っ赤になっていた。

 ラースは焦る。


(余りにも馴れ馴れしかったか……?)

 顔を見ようと、その腕を退けようとするが、逆に逃げられてしまった。

「……あ、」


 自分のやった事を振り返り、ラースは血の気が引いた。

 明らかに、今の状況はおかしかった。



 無意識に触れ、撫で回し、挙句の果てに柄にもなく《嫌われたくない》と思った。

 こんな事は、未だかつて一度もない。

 自分は、そんなやつだったろうか……?


 考えても答えは出ない。


 それよりも、僕は、なんて事をしてしまったんだろう……?

 しかしそんな事を、悠長に考えている暇はない。

 嫌われたくないのなら、必死に謝って関係を取り戻さなければならない。


 ラースは自分の気持ちに、戸惑いを隠せないまま、玖夜(ひさや)を覗き込む。

 出来るだけ触れないように、けれど顔が見えるように──。



「ごめん。本当にごめん……。もう、二度としないから……」

 必死に声を掛けた。

「い、いえ……! 俺もすみません。……頭を撫でられたのが、あまりにも久しぶりで、……!」




 ゴン──!




「……ふぐっ!」


 ガキッと小気味よい音が響き、玖夜(ひさや)の頭がラースの顎にヒットする。

 あまりの激痛に、ラースはうずくまった。

 まさか急に頭を上げるとか……。


「……うわぁ!すみませんんんんん」

 言って、玖夜(ひさや)は思わずラースの(あご)を撫で回した。


「ぶっ、」


「ふふ、ふふふふふ……」

 思わず見つめ合い、二人は笑った。


 どちらも、こんなに笑ったのは久しぶりだった。

 それもたった今、見知ったばかりの人と……!


 不思議な体験は、どちらも同じで、かくして、この日からラースは玖夜(ひさや)から懐かれることとなる。


 親しく話しかけられたのも、頭を撫でられたのも、玖夜(ひさや)にとっては遠い昔の記憶で、《欲しい》と思っても、その気持ちはいけないことなのだと、封印してきたものだった。

(素直に慣れたのは、いつぶりだろう……?)

 しう思う。


 ラースに触れられると、ひどく安心して、心が休まる。

 ずっと傍にいたいとすら思えた。


 その想いは、ラースも変わらない。


 人が苦手で、近寄ることすらままならなかったラースも、人懐っこく見た目が《人のそれ》とは少し違う玖夜(ひさや)に対しては、例外だった。


 どちらも同じことを思い、

 どちらも少し、不安になる。


 傍にいたい。

 だけど、いてもいいのだろうか──?





「で? 何でここで召喚なの? 本を借りて、家で試せば良かったのに……」

 ラースが顎を擦り、少し涙目になりながら(たず)ねた。すると、玖夜(ひさや)が申し訳無さそうに肩をすくめる。


「……借りれないの。まだ、正式な国民ではないから」

 長い耳が残念そうに垂れた。


「あ。あぁ、そうか。……ん? あ、そうだ。じゃあ、僕も実はそれを借りたいって思ってたから、僕が借りるってのはどう? 今日は君が見て、明日僕がもらうってのは……?」


 思ってもみなかったラースからの提案に、玖夜(ひさや)は目を丸くする。

「え? いいの?」


「うん、もちろん! 出来れば、君のアドバイスも聞きたいんだ。召喚には詳しそうだから……」

「アドバイス?」


 玖夜(ひさや)は小首を傾げる。

 玖夜(ひさや)の髪を束ねている飾り紐の鈴が、チリン小さく鳴る。

 その小さな鈴は金色に輝いていて、玖夜(ひさや)にとても似合っていた。


 ラースは自分が何故、この図書館へ来たのか、玖夜(ひさや)に事の顛末(てんまつ)を話した。





 × × × つづく× × ×


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