#4 王家の秘宝
『ん??あれ? なんか凄く違和感のようなものを感じるんだけど...いつもそこにあるのが当たり前の何かなんだけど、なんだろ?』
玉座に近づいた時にすぐに違和感には気付いた。
玉座は清潔感のある、この城で唯一綺麗な場所だ。うん、さっきそれは思ったから違う。
宝石がいくらで売れるんだろうと思った。うん、そりゃ気になるけどこれも違う。
この玉座の雰囲気、某ゲームの見た目に似てるような気がするぞ...? あ、コレかも?
違和感の答えはそれかも?と思い、真っ先に行動したのは、
『玉座の後ろに階段は......... あるわけないか』
ムダにゲーム知識は豊富に蓄えていたが、なんぼ異世界といっても今は現実世界。
怪しい所をAボタン連打のごとく調べたが何もなし。くそぅ
玉座には何もないと思い、一度ヘルハウンドの死体を調べに戻ろうとした時に
『ん?あれ?この玉座の近くだけ良い匂いがするな』
今この瞬間、前世の時に当たり前にあったものの違和感に気付いた。
いや、良い匂いじゃなくこれは”無臭”か?
自分の体臭が臭すぎるから、無臭ってだけで良い匂いと鼻が感じてしまう。
玉座を少し離れるといつもの生ゴミが腐ったような、あぁ何か甲殻類の腐ったような匂いも混じってきた気がする。
自分の腐敗臭の微妙な匂いの違いに気付けるようになってきた気がする。
早くなんとかしないと.....
いやいや、そうじゃなくて
『なんだコレ!この玉座の近くにいるだけで自分の少し慣れかけていた凄まじい体臭がしないぞー!!!』
生まれ変わった事を後悔した。
生まれ変わってまだ1日も経っていない。
でも、前世の人生で旅先で見てきた絶景の景色より、高校の滑り止めにギリギリ受かった時より、初恋の相手から【義理】の文字が入ったチョコをバレンタインデーに貰った時より
『感動した..........!! 泣』
自分の体臭が匂わなくなった。
ただそれだけの事で涙が溢れてきた。
幸せはココにあったんだ。
もう俺は死ぬまで玉座から離れれない、離れたくない。
心よりそう思えた。
~リスタートライフ!~ THE END
いやいやいやいやいや、あかんあかん。
どんな転生物語だよ。物語の半分近くが臭いとかしか言ってないぞ。
生まれ変わりは超臭かった。のタイトルに変わっちまうよ。
『ハッ!!なんかあまりの幸せに我を失ってた気がする...そうそう、なんでこの玉座の周りだけは自分の体臭が匂わないんだ?』
この部屋に来るまで、きっとこの廃城はカビ臭い匂いや刺激臭なんかもあったんだろう。
だけどそんな匂いを圧倒的な匂いで蹴散らしてきたのが俺の体臭だ。
だから慣れてきたといってもやっぱり臭いものは臭かったんだ。自分が。
『何か特別な仕掛けがあるのかな? ...ん?』
玉座をくまなく触りながら調べていた。
座り心地は大変良さそうだ。
背もたれのテッペンに宝飾されてるのは”白い宝石”かと思った。でもこれって...
『なんかこの宝石柔らかくないか...?いや、この触り心地...ビーズ?』
手の平サイズの大きさのデカい宝石?と思っていたらほんのり柔らかいビーズのような感触だった。
これはもしかして...
『鑑定』
【宝珠:ヴァンパイアデオドライザー】
【詳細:ヴァンパイアの王家に代々伝わる秘宝。国を統べるヴァンパイアの王は決して玉座より動いてはならない。王が動く時、宝珠の力が解放され、世界は滅びの運命に導かれよう】
『ただの消臭剤じゃねーか!!! 』
『詳細カッコよく書かれてるように見えるけど、単にヴァンパイアの王族が臭いから、消臭剤の近くを離れるとみんな臭いで逝ってるだけだろこれ!!』
先代のヴァンパイアロードも凄かったんだろうな...体臭が
いや、そりゃこの匂いをかき消せるだけの効果があるのはまさに秘宝かもしれんが...
『悲しい種族だなぁ...ヴァンパイアって』
超不人気種族ってのも今なら確信が持てる...
モテるモテないの次元じゃない。
女性の男性の一番嫌いな部分が断トツで「清潔感がない」って週刊誌にも書いてたな...
『このでかいビーズ外しても大丈夫かな..?ヴァンパイア王家の秘宝なら貰ってもいいよね?』
誰に確認してるか分からないが、玉座に埋め込まれてた宝珠を外してみる。
『取れた!これ持って玉座を離れてみると....おぉ!効果は大丈夫ぽいな!』
特に玉座限定の秘宝ってわけでもなさそうだ。
いや、さっきはただの消臭剤かよ!ってバカにしたけど、これあれば自分の腐敗臭な体臭を消せるって最高じゃないか?神頼み1日1回スキルなんかより断然これのほうがいいや!!
創造神デウスから授かったスキルの方をバカにしながらヘルハウンドの死体の所に向かう。
『うへぇ....さっきはちゃんと見てなかったけど、白目むいて泡吹きながら胃の中の物が口から逆流してる...なんかの生物の肉かな...?』
壮絶な死に様を晒しているヘルハウンドに「うぇぇぇ..」ってなってると
『スンスンッ...体臭が消えて今なら感じる...この匂い...血の匂いがする...!』
グロテスクな光景なのに、血の匂いを嗅いだ瞬間に腹が鳴った。
そういえば俺、生まれ変わってからずっと何も食べても飲んでもないから...
『ガブリッ!!』
気付いたらヘルハウンドの死体に自分の八重歯を突き刺していた。
『フンゴー!フンヌゥー!うぅぅ。。。!』
血が美味い。でもめっちゃ気持ち悪い...泣
毛むくじゃらのデカいワンコの死体に噛み付いてる。
空腹を満たしてくれる血の美味さと獣臭が凄いヘルハウンドに噛み付いて離れない自分に驚愕した。
料理を食べてると味は美味いのに変な匂いがするのと見た目が不気味だから鼻息が荒くなっていくこの感じ。でもやめれない、離れれない...!
『プヘッ!!』
変な声が出て吸血し終わった時にはヘルハウンドの死体が干からびていた。
マジかよ..このデカい犬の血液全部吸い尽くしたのかな...?
ぅ~...気持ち悪いよぉ...
でも美味かった...
【【スキル:瞬足】を会得しました】
【【血液貯蔵量:5,500ml】】
『うげげげ...どんだけ血を飲んでるんだよ...とゆうかスキル:瞬足を会得って?吸血って相手のスキルまで奪えるのか...!』
ヴァンパイアロード、めちゃくちゃ臭いだけの種族かと思ったけど、相手のスキルを奪ってしまうって、もしかしてとんでもない種族に生まれ変わったんじゃ...?
とりあえず今は
『うぅ~...飲みすぎた....頭が痛い』
血を飲みすぎて吐き気が止まらない俺がいる。
...二日酔い?