#2 目覚めの夜
う~ん...
身体がめちゃくちゃだるい...
何があったんだっけ...
目は見える。でも真っ暗な箱のような所に入ってる感じがする。
ここは何処だ?
確か心臓が凄く痛くなって意識が無くなって...
髪の毛フサフサのナイスミドルなお爺さんが居て...あれ違うな?何か違和感を感じる。
そうそう、確か運悪く心臓病が発作を起こして死んじゃった所を心優しい神様に助けられて...いや、なんか違う気がするぞ。
頭の中身をこねくりまわされてるような違和感を覚えながら最初に感じたのは...
『くっっせぇーーーーーーーーー!!!』
ドカンッと箱のフタらしき物を蹴破って外に出れた。
とにかく臭かったのだ。卵の腐った匂いにカメムシの匂いが混ざって、それにシュールストレミングと生ゴミの匂いが加わって夏の間ずっと放置してたような、とんでもなく臭い匂いで身体が一気に活性化した。
『なんの匂いだ?うわっ!!くっさ!!』
あまりの臭さに涙目になりながら、周りを見渡す。
不気味な程薄暗く、かなり広い部屋だ。蜘蛛の巣だらけだけど、元は豪邸のような所だったのかな。
調度品の鎧やシャンデリアらしき物はかなり汚れているものの、いかにもお高そうな高級感がある。
『何処なんだここは...?そもそも俺は一体何があったんだ?なんでこんなに臭いんだろう?』
心を落ち着かせる為に箱らしき物に腰かけて思い出そうとした。
箱はいわゆる棺桶のような形をしていた。
時間が経つにつれ、少しずつ匂いに慣れてきた。
頭がクリアになっていくと...
『確か俺は宇宙のような空間で1人のじいさんに会った事は間違いない。髪の毛がフサフサだったか記憶にはないけど...とにかくそのじいさんと夢のような感覚ではあったけど確かに話をした』
一つ一つパズルのピースをはめ込むように答えを探し出す。
『う~慣れてきてもやっぱり臭いな...そういえばこの匂い、部屋の匂いとゆうより...もしかして俺の身体の匂いか?』
部屋や服とゆうか黒いマント、周辺の物の匂いではなく自分の身体から出てる匂いだと気付いた。
自分がトイレに行って大をしても匂いは気にならないのに、人が大を出した後の匂いは凄く臭く感じる。この匂いがもし自分の体臭の匂いで涙目になりそうなら、これ他の人が匂ったらやばいんじゃ...?
『待てよ、身体が臭くてこの部屋は...廃城?みたいな感じがする。服もこの黒いマントみたいな物が一枚だけでほぼ裸で...えっとマントをこう持って立つと裏地が赤色だから、なんか吸血鬼みたいだな。吸血鬼?吸血鬼... ヴァンパイア...』
ああーーーーーーーっ!!
思い出したぞ!!!
髪の毛フサフサじゃない!ハゲだ!!
前世であんのハゲじじぃの創造神にクシャミで俺の寿命がかき消されて...
もう一度人生をプレゼントしよう!って言われたものの、生まれ変われる種族が【ヴァンパイア】だけで...
そうだ、確か説明文に身体が臭いとか書いてた...
『いやいやいや、尋常じゃないよこの臭さ!まさかずっとこの匂いは取れないのか...?』
どうしよう...生まれて早々自分の体臭が嫌になって自殺しそうだよ...
なんだかんだちょっと転生ものには憧れていた事もあった。
スライムになる人や無職の人が生まれ変わって本気出してたのも知ってる。
でもこれはやばいよ、自分の体臭が凄まじい異臭がするってどんだけだよ。
絶望して放心状態になった。もう設定とか忘れてしまったと思えるぐらい目が虚ろになっているのがわかる。
鼻で息をするのも忘れてたから体臭の事も忘れてると....
<.....ぉーぃ。おーぃ。おーい!聞こえとるか~?ワシの声、届いとるか~?>
『!!』
頭の中に声が聞こえる。
この声を知ってる...!!
『ハゲじじぃ~~~!!!』
<誰がハゲじゃぃ!!>
2回目のやり取りであろう。
ハゲ創造神デウスから声が届いた。
『じいさん!これはどういう事だよ! そりゃ確かに体臭が臭いとは書いてたのを思い出したよ!でもこれは異常だよ!俺がこの体臭で外の世界に出たら、匂いで世界が滅びるよ!!....あと何か俺の記憶操作しただろ...?カーネル〇ンダース並みのフサフサ髪のお爺さんが優しい笑顔で俺を助けてくれてるってイメージが最初に出たぞ』
<ギクッ! い、いやぁ~だってお主ずっとワシの事ハゲハゲ言うからショックだったのじゃもん...だからちょっとだけイメチェンしたワシを記憶に埋め込んだだけじゃからの!でもワシも若い頃はあれぐらい髪があったんじゃ『どうでもいいからはよこの匂いをなんとかしろ』>
<ゥオホンッ!で、では気を取り直してじゃ。まずお主の【ヴァンパイア】とゆう種族。これは他の種族と違って昔から突然変異で生まれる種族での。長年積りに積もった負の感情や憎悪、近くにゾンビやグールのようなアンデットモンスターわんさかと居るときに、それらのエネルギーを吸収して突如生まれてくるのが【ヴァンパイア】とゆう種族なのじゃ。お主の身体が臭いのは生まれてくる時に腐敗したアンデットモンスターのエネルギー、まぁ魂みたいなもんじゃな。それらを何百何千何万か分からぬが、全部吸収したんじゃもの。そりゃ臭かろう。>
『そりゃ臭かろう じゃないよ!! 自分の身体がこんなに臭いなら、消滅を選んだ方がまだマシだと思えるよ! ...なんとかしてくれよ泣』
前世の時は1日に風呂は朝夜寝る前と3回は入っていた。風呂が好きってのも勿論あったが、年を重ねるごとに加齢臭なるものが自分の身体から出るのが嫌だったから。ずっと死ぬまで清潔にしようと思ってた。そしたら死んで生まれ変わったら腐敗臭の塊として生まれ変わるとか耐えれない...
<う、うむ!ワシもお主に選択させれる種族が【ヴァンパイア】だけだったのは責任を感じ取る。それに王族と言ってもそこは廃城じゃ。家臣も家来もなんもおらん。だからせめてワシからお主にとってプラスになるチカラを授けよう!心配するな!匂いもいつか取れるからの!>
『いつかっていつだよ...とりあえず石鹸でいいから欲しい...』
<まずはお主のステータス画面を確認しようぞ。心臓のある部分を手でトントンと2回叩くのじゃ>
話を聞いてくれよ神様。と思いながら心臓部分をトントンと2回叩いた。すると...
電子掲示板のような板が目の前に現れて、ステータス画面が出てきた!
【名前: 】
【年齢:15歳】
【種族:ヴァンパイアロード】
【属性:不死】
【クラス: 】
【レベル:1】
【戦闘力:30,000 】
【筋力:D 体力:E 魔力:B 敏捷:G 技量:F 耐性:F 特殊:B 幸運:なし】
【スキル:吸血 腐敗臭 自己再生 鮮血魔法 鑑定】
【血液貯蓄量: からっぽ 】
<ほう~!凄いステータスじゃの!レベル1で既にBが2つもあるのか!ワシも【ヴァンパイア】に生まれ変わらせたのはお主が初めてじゃからの。うむ、ステータスはなかなか見事じゃ。固有魔法の鮮血魔法は”魔力”だけではなく血を練り込む事で強力な魔法になるんじゃぞ!しかも鑑定まで持ってるとはのぅ!いいものを持って生まれたの!>
この世界のステータスランクはS~Iまでの10段階評価で分類をされるらしい。
レベルをあげていく内にステータスが変動していくが、なかなか次のランクにはいきにくい代わりにランクが1つあがるだけで飛躍的に戦闘力が上がるみたいだ。確かにゲーム感覚で言えばレベル1の時点で上から3つ目のステータスが2つもあるのは嬉しいんだが....
『スキルの腐敗臭とかいらねぇ~....しかも幸運:なしって、これもしかしてどんだけレベルあげてもランク上がらないんじゃ?』
<うむ、そのようじゃなふぉっふぉっふぉ笑>
いやいや、確かに前世もとんでもなく運は悪かったよ?
投資詐欺とかこれは儲かる!詐欺とか宝くじ当たりました!振込詐欺とか...
まぁ自己責任の部分は多少あったけど、それでも幸運:なしって...
嫌な部分が継承されちゃったな~てかじいさん笑ってないか?
『はぁ~...とりあえずステータスは高評価だったからいっか。じいさん、ステータス画面を確認したら次は何をすればいいんだい?』
<そうじゃったそうじゃった!!お主にプラスのチカラを授けると言ったじゃろ?流石に創造魔法のような凄まじいチカラは世界のパワーバランスが崩れてしまうからの。じゃからワシが授けるのはこれじゃ!!>
『おぉ!?』
身体と心が熱くなる!
あぁ、神よ!!私の全てを貴方様に捧げます!!
【特殊スキル:神頼み 1日1回まで を新たに習得しました】
『....えっ?ナニコレ? ってかさっき俺は何を口走った?』
<ふぉっふぉっふぉ!1日1回までの、お主が困ってる時苦しい時にワシに祈りを捧げるのじゃ!そうするとその時役に立つアイテムが出てくる有難いスキルなのじゃ!>
『今まさに困ってるし苦しいよ!?』
<今日はもうワシとこうやって念話までして色々助言したからの。それに普通はワシと会話する事自体そもそも出来ないのじゃ!神頼みスキル100回分ぐらいの有難みはあるぞぃ!!>
『絶対有難みそんなにないよ。まさかヴァンパイアになってまで神様に祈る事になるとわなぁ...あっもう少しで夜が明けそう』
気付いたらそろそろ朝日が昇りかけてる。
じいさんと話してたらとりあえず自分の匂いにはほぼ慣れた。
まぁある意味有難みはあったのかな?
まずはこの廃城を調べて見て回って、その後に外に出かけてみよう。
王族からのスタートだったのにまさか誰一人味方がいない状況で、見知らぬ世界に飛び出すことになろうなんて、本気で思わなかったよ...
朝日が窓に差し掛かった。
そういえば俺マントの下は何も履いてないから少し寒かったんだよな。
太陽の温かさが懐かしい...太陽が寂しかった心を癒してくれる...
そんな気持ちで太陽のぬくもりを求めて手を差し出したら
『あっっつ!!!めっちゃ熱い!!!ゲ、ゲェ!?手が燃えてるよ!!』
<覚えとらんかったか?ヴァンパイアは夜行性じゃ。朝は太陽の光が出てる時は動かぬほうが良いぞ。消滅しちゃうし。>
『不死じゃなかったのか!?属性:不死ってなんなんだ!?』
<ヴァンパイアの定めじゃ!朝に生きるのは諦めるのじゃ! ふぅ、長い事念話をすると疲れるのぅ。今日はこのへんでお暇するのじゃ。またワシから気になった事があったら念話を飛ばすから頑張るのじゃぞ~!!>
夜行性の意味間違えてないか...?
太陽の光に当たると消滅するとか、下手すりゃ一番書いておかないといけないデメリットじゃないのか? いや、体臭も凄まじいデメリットではあるけどさ...
自己再生で少しずつ再生されていく手を見つめながら俺は心の中で誓った。
【何がヴァンパイアの定めだよ!そんなの嫌だ!クソくらえ!絶対に朝に生活が出来るようにしてやる!せっかく違う世界に来たのに、夜の世界だけしか見れないなんて嫌だ!!】
前世の記憶で一人旅をしていた頃を思い出していた。
世界を見て回る事がどれだけ素晴らしい事か。
文化、文明、言葉、色々な壁は確かにあったけど、俺は旅で国を知り風景を知り人を知り世界を知っていった。
別に夜の世界だけが悪いわけじゃない。100万$も夜景も素晴らしいのは間違いない。
でもそれだけじゃ魅力は半分なんだ。
ハゲじじぃにクシャミで命をかき消された。地球とゆう奇跡の星に生まれたにも関わらず、すべての世界を見る事は出来なかった。
ならせめて、この第二の故郷の星は全て見たい。
夜だけじゃ物足りないんだ。
”この世界の全てを目に焼き付けるまで俺は死ねない!種族の壁なんて乗り越えてやるさ!!”
あと俺は夜22時には寝てたんだもの。
暗くなったら眠くなる、とゆうか寝る。規則正しい生活を送らないと時差ボケの多い旅行なんて出来なかったからな。人間、健康には気をつけなきゃ。
『あぁ。でも俺今はヴァンパイアだったけか...とりあえずお風呂に入って身体洗いたい...』