#18 決着
デカい……!!
って前も言ったな。
前回はオーガロードの体長の大きさにビビってしまった。
動きが鈍いと思い、腕のリーチと大剣にだけ意識してしまった。
他のオーガと同じに考え、知性があそこまで高いとは考えていなかった。
だが、一度完敗した時にそれらは全て見せてもらった。
今度はこっちがオーガロードのスキルの”対処法”を模索させてもらうよ。
オーガロードは3階建ての家に匹敵する大きさだ。俺達なんて小型犬ぐらいの大きさにしか感じないだろう。
反応速度も悪くなく、後ろに回り込んでもすぐに長いリーチの腕か大剣を振り回してくる。
前後左右に空中への反応と、隙がないようにも思える。
しかし一か所だけ、そこに居た冒険者に気付いていない”場所”があった。
そう、オーガロードは胴長短足である為、真下がほとんど見えていない。
”股の下”に居た冒険者には全く反応していなかった。
短足とはいえ、足の長さだけで普通のオーガに近い大きさだ。人がすっぽり入れる空間になっていた。
股の下に潜り込んで、オーガロードの硬い皮膚を槍で突いている冒険者に全く反応せず、「今何かチクッとしたような??」と、ちょっと覗き込もうとした程度である。胴長短足の為、覗き込もうにもほとんど何も見えていないのだろう。
氷魔法も水魔法の上位魔法だけあって、強力な魔法に違いはない。特に地面を凍らせて、足を封じられたのは驚いた。
しかし俺の心臓に刺さっていた氷の牙は、熱で溶けてなくなった。
ここは剣と魔法が発達した、よくあるファンタジーな世界であり、今は現実の世界だ。
だが、俺が前世で生きていた世界は”科学が発達した世界”だ。
魔力が通っている氷は熱では溶けない!というわけではないのだろう。現に俺の心臓に刺さっていた氷の牙は溶けた。ならば氷の性質をある程度知っていたら、氷の弱点である部分も分かってくる。
それらを分析しながらオーガロードに近付いていく。
あとはもう1つ、リディアとの口付けというか、接吻というか、キ、キ、キッスをした際に、リディアの口元が切れていて、俺の中にリディアの”血”が入ったおかげで体力や傷が回復した他に、”新しいスキル”が増えたことが分かった。
ゴブリンから奪ったスキル”火魔法”は掌にグググッ!と魔力を感じながら力を入れると熱くなってくる。
リディアとキスした後は掌にギューッ!って魔力を集めると、”掌が濡れてくる”のが分かる。 勿論汗ではない。
リディアも気付かずに俺に与えてくれたスキルは”水魔法”だった。
ステータス画面でも確認している。
【名前:レオニー 】
【年齢:15歳 】
【種族:ヴァンパイアロード 】
【属性:不死 】
【クラス: 】
【レベル:25 】
【戦闘力:61,500 】
【能力値:筋力:D+E 体力:E+F 魔力:B 敏捷:E 技量:E 耐性:F 特殊:B 幸運:なし 】
【スキル:吸血 腐敗臭 自己再生 鮮血魔法 鑑定 】
【強奪スキル:瞬足 火魔法 】
【贈与スキル:水魔法 】
【特殊スキル:神頼み1日1回 】
【血液貯蓄量: 49,200ml 】
【装備:甚兵衛 団扇 】
リディアから与えてもらったスキルは【贈与スキル:水魔法 】となっていた。
無理矢理血を吸って奪い取ったわけでもなく、またゼファーさんの時のように血だけ吸ったワケでもない。
リディアが想いを込めて”血を与えてくれた”おかげで発現したスキルだ。
このスキルを上手く活用すれば氷魔法を打ち消す事が出来る!
氷魔法が水魔法の上位魔法だからといって、勝てないワケではない。
リディアの力と前世の記憶とオーガロード自身が気付いていない弱点、1つも欠かさず全てを駆使して必ず倒す!!
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オーガロードは苛立っていた。
己より矮小な存在の生物は、叩き潰したりグチャグチャにするだけのオモチャ、もしくはエサにしか思っていなかった。
危険かもしれないと思った、足が異様に速く、頭に自身の魔法と同じ氷魔法を浮かべている、青白い肌の生物。
かなり危険だと感じた、凄まじい炎の魔法を使う、恐ろしかった生物。
どっちも下手をすれば、自分を死に追いやる存在かもしれなかった。 だが、それでも勝ったのは自分だ。
先ほど戦った2匹の生物に共通していた事は、”金色の弱き生物を守ろう”と意識し、そして自分に敗れた。
やはり自分は最強なのだ。自分より弱き者を守ろうとして倒れた者も、敵ではなかった。
後ろに居る長年の天敵も、配下の豚が居なければ何もできない弱き者。
小さき生物を全て叩き潰した後は、後ろの豚も潰し、目の前に見える岩の国を、我が新しい”隠れ場所”とし、もう一度オーガの集落を築き上げれば良い。
どれほどの数が居たところで、力と魔法で捻じ伏せれると、自分の強さを信じて疑っていなかった。
あの”生物”以外は……
自分に向かってきた大量の小さき生物は、最初は剣を振る度に数人ずつ肉片にする事は出来た。
しかし、斬撃を飛ばしてくる者。自分の唯一、苦手な毒を使ってくる卑怯な者達。一撃で死ななかった者を、回復させている者。時間が経つにつれ、負ける事は決してなくても、確実に肉片にしている人数は減っている。ちょこまかと動き回るのが本当に腹立たしい。全て肉片に変えたら、更に叩いて細かき肉片にして喰ってやる。
そう決心し、先程使い過ぎた氷魔法の魔力が回復してきているのを感じ、ニヤリっと笑った。
あと少しで、ちょこまかと動き回る者達に足場を、”アイスフィールド”で凍らせて動きを封じ、一気に叩き潰す! そう思ってた矢先に異変を感じ取った
最初に危険かもしれないと感じた、”青白い肌”の生物が、何故か復活し、自分に向かってきている! なぜだ!? ”弱き者”の代わりに自分の氷魔法を受け死んだはずだ!! あれほど深く”フリーズバイト”に貫かれていたのなら、とっくに息絶えているはずなのに、なぜ!?
周りの小さき生物に苛立っているのに加え、オーガロードの怒りは頂点に達した!
二度と復活できないよう、徹底的に叩いて斬り刻んでやる!!
オーガロードは咆哮を鳴らし、氷魔法の魔力を練り始めた!
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急に大声で叫ぶからビックリしたじゃないか。
俺に向かって叫んでたよな? 「よくぞ死の淵から戻ってきた!我が好敵手よ!」 こんな感じか?嬉しいねぇ、俺は今からお前を倒すけどな!
オーガロードの大剣が、少しずつ薄青に染まっていく。 来るか!? ”アイスフィールド”!
『ゲオルグさん!! 遅くなってすみません!!』
ゲ「……おぉ、、、!?ハァハァ、レオニー君! ぶ、無事だったのかね!? 遠目ではあったが、致命傷に見えたのだが……?」
『甘酸っぱく、柔らかいマシュマロなリディアのおかげで助かりました!!』
ゲ「?? ……なんのこっちゃよう分からんが、無事でなによりだ……!」
『ええ! それよりゲオルグさん、皆に指示を! オーガロードの氷魔法が来ます! おそらく大地を凍らせる氷魔法、”アイスフィールド”です!』
ゲ「な、なに!? 分かった!! みなの者、すぐにオーガロードから離れるのじゃ!!」
『ゲオルグさんも離脱を!』
ゲ「ならん!ここで退けば、この戦いで逝った者達に顔向けできん!ワシも残る!! セスやタイガー達のチームも残ってもらうぞ!!」
セ「へいへい、まったく、終わったら報酬ははずんでもらうぜ?」
タ「レオニー!生きてただな!傷が残ると大変だから、後で上の服を脱いで見せてみるだ!」
『遠慮しときます……』
ゲ「2人の趣味は後にするんだ!! タイガー!防御魔法を!!」
趣味じゃねぇよ。ゼファーさんといいタイガーさんといい、変な目で俺を見るなよ……
っと!そろそろ来る!!
「ゴォゥァァァァ!!⦅アイスフィールド!!⦆」
オーガロードが地面に大剣を突き刺す!!
大地が一気に凍り付いていく!!
ゲオルグさん達も、タイガーさんに防御魔法をかけてもらっていたが、やはり足元は凍らされている。
セスさんはジャンプして逃れようとしたが、氷が意思を持ったように、ジャンプしたセスさんに氷が伸び、足を捉えていた。
しかし俺は氷の性質を前世の記憶で知っている。
学校の理科の授業中に、実験で調子に乗ってしまって先生によく怒られたなぁ……
迫りくる凍て付く大地に、俺はリディアから与えてもらった”水魔法”に”鮮血魔法”をこねるように混ぜ合わせ、合成魔法を放った!
『鮮血魔法!! ”血流水”!!!』
血のように赤い大量の水が、俺の掌から放射線状に放出される!
氷とは表面温度が零度以下の水の体積が増えた固体だ。
よくコップに入れた氷に水を入れると、ピキッと言って氷が割れた。
あれは氷の表面温度に、零度より高い温度の水が当たる事によって、氷の表面温度が変わり、体積が小さくなろうとする。
水が当たっているのは氷の表面だけな為、氷の後ろの方、つまり氷の内部側には表面温度が体積を小さくなろうとしているのが伝わっていないんだ。
結果、氷の温度全体のバランスが崩れてヒビが入ったり割れたりする事になる。
俺が放った”血流水”は簡単に言えば、血の温かさ、約37℃前後の温度が加わった水だ。
大量の水魔法に20,000ml程度の血液を混ぜただけだから、さほど熱くもなく常温よりちょっとぬるい程度の水だ。
それでも十分、”アイスフィールド”の自分の足元を凍らせようとしてくる氷だけはヒビを入れる事が出来た!
流石に凍り付いた大地全てに水を流す事はできないが、俺1人分のヒビが入った氷なら簡単に抜け出せる!
オーガロードが赤い血の水を見て、何が起きた!?って顔をしてるが、俺は氷の大地から足を抜け出した瞬間に、スキルを発動させる!
『瞬足ッ!!』
若干、氷のせいでスベって転びそうにはなった。
そんな姿をリディアに見られたらカッコ悪すぎる。
オーガロードの後ろに回り込むフリをして、股の下に入った。
「ウガッ!? ゴアァァァァッ!!?」
どこ行ったあの野郎!?と周りを見渡しているみたいだが、見えるわけないわな。
動き自体はやっぱり遅いから、オーガロードの移動に合わせれば、俺が股の下にいるのは気付かれない。
それに上手くゲオルグさんやセスさん達が、足が凍っている場所から遠距離攻撃を仕掛けて気を引いてくれている。
意識が拡散され、おおよそ俺は瞬足で動き回っているのか、逃げたとでも思っているのだろう。しかし気付いた……
『クッセェ~~……! こいつの股下の匂い......!鼻を塞がないと変な匂いがする……!』
オーガロードの股下は、凄く酸っぱいような、鼻から目にくる匂いがする......
よく股下で槍を突いてた人、耐えれたな……鼻が詰まってた人だったのか?
なんにせよ、生き物って2パターンしかいない。 いや、ゼファーさんやタイガーさんは……まぁ気にしないでおこう……
『こいつやっぱり”オス”だな』
何かの動物の皮で出来ているのであろう腰巻の下から、男のアレが見える。
オーガロードの弱点ってか、男の弱点が見える。
『この部分って外に出ている”内臓”のようなものなんだよな……今から俺がやろうとしている事はオーガロードとはいえ、ちょっと可哀そうな気もしてくるが……仕方ない』
オーガロードは俺を見失った事で怒りながら、ゲオルグさん達を標的に絞り出した。
サッサと倒さないとあの人達が危ない。
少し自分のもヒュンッとなりながら、鮮血魔法を練り上げていく!
『鮮血魔法!! ”血水刃”!!!』
血を凝縮し、ウォーターカッターのよう細くした赤い水の刃、”血水刃”を、オーガロードの股下から発動させた!
ダイヤモンドですら切断すると言われているウォーターカッターだ。皮膚がいくら硬いとはいえ、従来のウォーターカッターより強力な”血水刃”が、オーガロードの股間から脳天まで貫く!!
「ゴギャアァァァァァァーーーーー!!!!」
鬼王の断末魔が、大地を震わせるほど鳴り響いた!
リディアやゲオルグさん、他の皆も目を瞑りながら耳を塞いでいた。
俺からすれば、オーガロードの血は浴びるし、断末魔の真下だからものすっげぇ声量が頭をシェイクする……!
しばらくすると断末魔は小さくなっていき、オーガロードはズズンッと倒れ、痙攣を起こしながら動かなくなっていく。
『ふぅ……いくら2回目とはいえ、”水魔法”と”前世の知恵”とオーガロードの”死角”が無かったら、やられてたな』
身体中に血を浴びながら冷や汗をぬぐった。
この血はちょっと滴り落ちてきた場所がグロすぎるから、後で違う場所からオーガロードの血を吸わせてもらおう……
もう血を使い過ぎてフラフラだわ……
『あっ!!!』
オーガロードを倒したことで喜びと安堵で忘れていた!
まだ”オークキング”が残っている!
かなり体力も血液も使い、他の皆も限界近い……
まずいぞ……と思いながらオークキングの方を向いた。
『あれっ?』
そこには居るはずのオークキングが居なかった。
よく見ると、オークキングは遠くの方にまで走って逃げているのが見えた。
自分の配下が全てやられ、これオーガロードも倒されるんじゃないか?と察知し、オークキングもヤバい!!と思って先に逃げたのだろう。
いや、良かった……助かったよ……!ぶっちゃけこのままオークキングと連戦してたら勝てるか分からなかった……
そう思いながら、逃げていくオークキングを見ていたら……
⦅オークキングの身体がいきなり穴だらけになり、何が起こったか分からないまま、オークキングが倒れた ⦆
『えっ・・・・?』
急に身体中が穴だらけになって倒れた……?
いや、違う……”倒された”ようだ。 ”何者”かの手によって……
そして、見覚えのあるクロークのような布を纏った”何者”かが、宙にフワフワと浮いていた
あれ……?もしかしてあのクロークを被っているのは……?
モンスターの大群が迫ってきた時、リディアが ”モンスターの動きが少し変じゃない?”と言っていた。
まるで”何かから逃げてるみたいだ”と俺も思った。
アレがその何かか?と思っていたら、こちらに近付いてきた”アレ”は、物凄いスピードでこっちに飛んできた!!
『あぁ、やっぱり……』
俺のトラウマとも思えるモンスターだ。
『リッチ……!!』
穴だらけになって殺されたオークキングに群がっている、人のような影も多数見える。
それの正体は”グール”
リッチ率いるアンデットモンスターの大群がこちらに向かって来ようとしていた。