#15 鮮血魔法の秘密
『瞬足ッッッ!!!』
俺は初日にヘルハウンドからありがたく頂いた【スキル:瞬足】で戦場を駆け出した!
瞬間移動に近い感覚の移動法だが、オークの数は馬鹿に出来ないし、一撃で倒せるにしてもまたゴブリンが城壁に攻撃魔法を放ってしまう。
リディアが特大魔法を撃つんだ、邪魔させねぇぞ!
標的はゴブリンウィザードだ!
でもぶっちゃけ全部同じ顔に見えるから、どれがウィザードなのか分からん。
だから俺が出した答えはシンプル is Best!
『37564だッ!!』
瞬足でゴブリンに近付きながら、鑑定をかける。
【種族:ゴブリン 】
【属性:火水風土 】
【レベル:7 】
【戦闘力:1,220 】
【スキル: 属性魔法 】
【弱点:斬撃 打撃 】
【特徴:低級モンスターの中では、バリエーションが豊富な濃緑の小鬼。普段は平野や森の動物を狩って食する事が多いが、ヒューマン等も見かけたら、力の差が圧倒的に開きがあっても、積極的に襲ってくる。1匹1匹の戦闘力は低いが、数の個体数がとても多く、いつも5~6匹で行動している。集団で村を襲う事もあり、また知能は低いがズル賢い為、討伐にきた冒険者に最初は1匹だけと思わせ、追い込まれたフリをして、隠れていた数十匹で惨殺することもある。斬撃や打撃にとても弱い】
低級モンスターとか言われてるけど、ゴブリンも恐ろしいものだ。
どっかの世界で一番恐ろしいモンスターはゴブリンだ。って言ってずっとゴブリンだけ狩ってる人がいた気がする。
まぁ弱点が打撃で良かった!今の俺は打撃しか攻撃手段はない!持ってるのは団扇だけだが、こんなんで叩いても絶対痛くないし。
『でやぁぁぁぁーーー!!』
瞬足スキルを使いまくり、瞬間移動をしているような視界のまま、加速した拳で手当たり次第にゴブリンを殴っていく!
とゆうか数が多い上に密集してくれてるから、手を出してるだけで当たる!
『せいッ!!』
そのまま蹴りを繰り出したらオークにも当たった!
スピードが乗った蹴りでオークが吹き飛び、近くに居た数匹のオークやゴブリンも巻き添えで倒れていく。
『すっげぇ気持ち良いけど、数がなかなか減らんな』
俺は範囲攻撃も攻撃魔法もない、ただ素手でひたすら敵を殴り蹴るだけだ。
まだまだ敵は沢山いる。瞬足のおかげで敵の攻撃は当たる気はしないが、無限に使えるわけでもない。
モンスターの武器を奪って使ってもいいんだが、”生兵法は大怪我の基”ってことわざがあるぐらいだからかえって危ないかもしれない。
さて、どうしたものか。余談だが、甚兵衛を着て瞬足を使うと風が体を通り抜けて気持ち良い。
「ブフォォーー!!」
「グモォォォォーーー!!」
「ガルァァァァーー!!」
「ゲギャギャギャ!(ファイアーボール!)」
「グギャグギャー!(エアカッター!)」
「ゴギャッギャウ!(ストーンバレット!)」
オークが、オークジェネラルが、オーガが、ゴブリンが一斉攻撃を仕掛けてきた。
瞬足で逃げ回る俺を取り囲もうってか!
『しゅんそ......う、ちょっと遅かったかな。囲まれた』
モンスター達が、もう逃がさないぞ!って笑みを漏らしてる。
小中大からなる大きさの違うモンスター達がジリジリと近づいてくる。
だが、これはモンスター側もデメリットがある。
「ガルァァァァーー!!」
オーガの馬鹿でかいバトルアックスを俺めがけて振り回す!!
「ゲギャッ!?」
「ゴッ...!」
「ブモッ!?」
俺を攻撃しようと振り回したバトルアックスが、先に他のモンスターを巻き添えにし始めた。
速度の落ちたバトルアックスを俺がヒョイッと避けると、更に他のモンスターに被弾した。
「ガ、ガルァ...?」
オーガも何が起きた?って顔してる。
そうなんだよ。俺を囲ってジリジリと近づいてきた時点で攻撃範囲が狭くなってる事に、知能の低いモンスター達が気付くワケもない。
こっちも移動が制限されるけど、同士討ちさせるのもアリだな。
いや、それよりも......あれ、もしかして......?
『瞬足!!』
俺はさっきゴブリンを殴り倒した所に戻った。
血液貯蔵庫が減ってきたってのもあるけど、もう一つの目的は、
『いただきまーす』
ガブリッ!!
ゴブリンの血を一気に吸い上げた!あんまりのんびり吸ってると、すぐに追いついてくるからな!
『ぷぅー!』
血を吸った俺はすぐに心臓を2回トントンっと叩き、ステータス画面を確認した。
【名前:レオニー 】
【年齢:15歳 】
【種族:ヴァンパイアロード 】
【属性:不死 】
【クラス: 】
【レベル:15 】
【戦闘力:45,900 】
【能力値:筋力:D 体力:E+F 魔力:B 敏捷:F 技量:F 耐性:F 特殊:B 幸運:なし 】
【スキル:吸血 腐敗臭 自己再生 鮮血魔法 鑑定 】
【強奪スキル:瞬足 火魔法 】
【特殊スキル:神頼み1日1回 】
【血液貯蓄量: 61,200ml 】
【装備:甚兵衛 団扇 】
おっし!地味にレベルも上がってる!
装備欄も出たが、装備も地味にショボイ!
そんでもって手に入れたぞ!
【強奪スキル: 火魔法 】
最初からこれを奪う事も考えてたんだけど、初級魔法だと威力もそんなに期待できないし、殴ってる方が早いかと思ったんだ。
でも戦いながら、ふと久しぶりに思い出した。
創造神デウスのあの言葉を!
<固有魔法の鮮血魔法は”魔力”だけではなく血を練り込む事で強力な魔法になるんじゃぞ!>
俺は今さっきまで、デウスじいさんの言葉をずっと勘違いしてた。
鮮血魔法を使ってる時、魔力を使うってどうやるんだろ?って思いながら幾度か鮮血魔法を使った。
そして勘違いした。
鮮血魔法や瞬足を使う時に消費する血液は、体の中の血液が、凄い勢いで逆流してるような感じになる。
俺はそれが魔力と思ったが、違った。あれはただ ”血を使ってた”だけなんだ。
だって血を練り込む事で強力な魔法になるんじゃぞ!って鮮血魔法なんだから血を使うのは当たり前じゃないか。
ずっと、『なんで鮮血魔法の数が増えないんだろう?』と思ってた。
他のメイジの人なんて、多種多様な魔法を城壁から撃ってるのを見て、いいな~って羨ましく思ってた。
ゴブリンに魔法で攻撃されながら思った。こいつらの使ってる魔法は”魔力”
俺が鮮血魔法で使った魔法らしきものは、”血だけ”
リディアに”輸血”を使った時も、ゼファーさんから吸った血液を分け与えつつ、配分を間違えて自分の血液まで輸血しちゃったから貧血になって倒れた。
”魔力を込めた事なんて一度もない”
だから今からやる事は生兵法に近いかもしれない。
でもやってみる価値はある!!
逃げまくってばかりの俺に、怒り心頭のモンスター達が、俺を殺そうと全力で向かってきてる。
不思議と落ち着いた心で【スキル: 火魔法 】と【スキル: 鮮血魔法 】の”魔力”と”血”をぐるぐると混ぜ合わせるように掌に力を集中させた。
そして......
『鮮血魔法!! ”血爆炎”!!!』
手から直径3mはありそうな”血の塊”が、モンスターめがけて飛んで行った!
飛んで行った血の塊は、血が蒸発してるような、陽炎のように揺らめいていた。
あっという間に、先頭にいたオーガに着弾、その瞬間
⦅ッッバーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!⦆
一瞬、鼓膜が破れたんじゃないかと思うぐらいの爆発音が戦場に鳴り響いた!
後から熱風と衝撃波が混ざったようなのが来て、ちょっと転んだ。
『な、なんじゃいまの・・・??』
撃った本人すら何が起きたか分からない程の魔法が炸裂した。
着弾したオーガと、周りにいた約100匹近いモンスターが跡形もなく消し飛んだ。
『えっぐいな......!!っとと、、撃った後は随分フラつくぞこれ......』
気のせいだと思いたいが、ステータス画面を開いてみる。
【名前:レオニー 】
【年齢:15歳 】
【種族:ヴァンパイアロード 】
【属性:不死 】
【クラス: 】
【レベル:25 】
【戦闘力:61,500 】
【能力値:筋力:D 体力:E+F 魔力:B 敏捷:E 技量:E 耐性:F 特殊:B 幸運:なし 】
【スキル:吸血 腐敗臭 自己再生 鮮血魔法 鑑定 】
【強奪スキル:瞬足 火魔法 】
【特殊スキル:神頼み1日1回 】
【血液貯蓄量: 31,200ml 】
【装備:甚兵衛 団扇 】
うへぇ!一発撃っただけで、血液貯蔵庫の血が30,000mlも減った!
あと一発撃ったらほぼ空になっちまう......!強力な魔法なだけに消費血液量も莫大だな。
ってレベルが10も上がってるし!!
オーガとオークジェネラルも消し飛んだモンスターの中に結構居たのか。
あと少しだけ眩暈がする。慣れない事するもんじゃないな......
『ふぅ......魔力を練るってのは大変な事なんだな......でも出来た!新しい鮮血魔法の完成だ!』
テンションが上がったのも束の間、まだまだいっぱいモンスターは大量に居る。
少しだけ後退りはしたものの、再び俺めがけて走ってきた。
『ちょっとは休憩したいな~・・・』
逃げようにも眩暈と一気に血液が無くなった反動でフラフラしてる。やばい...
オークジェネラルの槍が俺を突き刺そうとしてきた、その時!
「ソニックスラッシュ!!」
目の前のオークジェネラルの腕が、槍ごと切断された!
オークジェネラルも??ってなってる所に、頭にトゲトゲの鉄球が生えた。
これ確かタイガーさんが持ってたモーニングスター・・? オークジェネラルの潰れた頭の後ろから、タイガーさんがこっちを見てウィンクしてる。むっちゃ怖い絵面だ......
ゲ「ご無事だったか!!」
治療を終え、体力も回復したのだろう。
ゲオルグさんとミスリル級とプラチナ級の冒険者チームが戻ってきてくれた!
『ふぅ、ゲオルグさん!助かりましたよ!ちょっと疲れてて、結構今のはヤバかった』
ゲ「何をおっしゃる!よくぞご無事で!それに遠くからではありましたが、見ましたぞ!!凄まじい魔法をお使いになられる!! 門の兵士から大魔導士とは聞いていたが、これほどとは......!!」
俺もびっくりしたよ。でも魔法は初めて使ったし、大魔導士なわけないです。
『ゲオルグさんごめんなさい。少し休ませてもらえないですか?ちょっとさっきの魔法で魔力切れになっちゃって』
ゲ「勿論だ!ゆっくり休まれてくれ。みなの者!まだ戦いは終わったわけではないが、敵の数はかなり減り、こちらは体力が回復した!あと一歩だ!勝つぞ!!」
セ「あんたには借りが出来たな。いつかこの恩は必ず返す!」
タ「後でオラがじっくり回復魔法をかけてあげますからねっ!逃げずに待ってて下さいねっ!」
逃げよう。モンスターとタイガーさんから......
『あぁ~・・リディアにカッコつけて、ゴブリン殲滅して二度と撃たせない!とか言ったのに、まだ結構ゴブリン残ってるな~・・』
少し後退した俺は、門近くのオーガの死体から、みんなに見えないように血を吸っていた。
ゴブリンのスキルも奪いたいけど、死体が爆散してるのばっかで血が残ってない。
太陽もどんどん昇ってきているせいか、暑さでも体力を奪われる。あっつぅ......
今はとにかく、俺も体力の回復が先決だ......!
『とはいえ、オークやオーガをかなり減らしたからか、ゲオルグさん達が上手くゴブリンを狩ってくれてるな。城壁への魔法砲撃を阻止するためか』
俺が一人で戦場を荒らしていた時。城壁からの弓隊による攻撃とメイジからの魔法攻撃は一時止まっていた。
敵を挑発して標的をずっと俺にさせてたから、ゴブリンの魔法砲撃対象が俺になり、その間に弓隊とメイジ隊は手当と門の入り口でオーク達と戦っていた、シルバー級の援護にまわってたんだ。
『あれ?それじゃリディアは今どこにいるんだ?』
城壁にリディアの影はない。
門付近を見える限り凝視したが、リディアはいなかった。
やられてはないはずだ。あの後に城壁に向かって、ゴブリンウィザードは魔法砲撃を放っていない。
城に避難した?いや、あの子に限って魔法をぶっ放す前に戻るわけがない。
妙に不安と焦りが出てくる。ゼファーさん達が街を出て、まだ半日も経っていない。
二人っきりになって1日も経っていない状況なのに、あの子の声が聴こえないだけで心が揺れる。
リディア......無事でいてくれよ。
「だ~れだ?☆」
急に視界が真っ暗になった。
『ん~オーガの手にみえ......ってイテテ!目が潰れる!』
オーガ並みの腕力で目をギューッ!と潰されそうになった。
「だ~~~れ~~~だ~~~!?」
ここで冗談でもオークの手とか言ったら、本気で目を潰されるんじゃないかと思った......
心が恐怖で揺れる。
『この可愛い手はリディアさんです』
潰されそうになった目がフワッと柔らかくなり、視界が明るくなった。
リ「エヘヘ~☆ さすがレオニー!バレちゃった☆」
バレちゃった☆じゃねぇよ。この遊びって敢えて分からないフリをするから面白いのに、ガチで怒って目を潰そうとするんだもの......
それでもまぁ許そう。ハニカムリディアの笑顔を見て、声を聴けて心が安らいだ。
リ「あっ!?レオニー、口から血が出てるよ!?ケガしたの!?」
『ちゃうちゃう。オーガの血を吸って体力と血液補充してた。リディアこそ、なんでここに?』
リ「うん!精霊魔法の詠唱が終わったからレオニーのとこに来たよ!」
『えっ?詠唱終わったって、特大魔法は?それに俺の頭の上はまだ氷の板があるから、スノウとはまた別の精霊になるの?』
リ「そうだよ☆スノウと違って今回呼んだ精霊は見えるから!その子に声をかけたらいつでも特大魔法を撃てるよ☆」
『んん?見えるったって、どこにいるんだ?』
リ「呼ぼっか?お~い!”サラマンダー”のサラちゃんおいでー!」
『サラマンダー!?もしかして、あのトカゲみたいな火の精霊か!?』
サラマンダーと言えば、トカゲのような見た目をしている火の精霊だ!
俺が飼ってた”フトアゴヒゲトカゲ”を思い出す。エサを食べる姿が可愛いんだぁ~
あと、○○の使い魔に出てくる女の子のキ○ルケって子がめちゃくちゃタイプだった。
その子の使い魔が火の精霊サラマンダーだったが、そんな事はどうでもいいんだ。
そのナイスバディな女の子が可愛いんだ!!
もしやサラちゃんとはボンキュッボン!な見た目なんじゃ!?
あれ?俺なんの話をしてたんだっけ......?
リ「来た来た!ほら、可愛いでしょ?☆」
『・・・・』
それは火の精霊であることは間違いなかった。
それは恐ろしい角が生えてた。
そいつはおっさんのような怖い顔をしていた。
そいつははまるで悪魔のような風貌をしていた。
そいつは......
『ってこの見た目、イフリートじゃねぇか!! なんでこの見た目で名前はサラマンダーなんだ!?』
魔人のような火の精霊が「へへ、すいやせんねぇ」って顔で頭をポリポリかいていた。
リ「イフリートって名前可愛くないじゃん!サラマンダーの方がサラちゃんとかに略せて可愛いよ☆」
名前だけの部分で言われるとすんげー納得してしまった。
確かにサラちゃんって名前は可愛い。
でもごっつい怖い見た目の炎のおっさんの名前がサラちゃんって......
う~ん、深いような深くはないような~・・・?
リ「サラちゃん!あそこにいっぱいいる豚さんと鬼さんを懲らしめてきて!出来る限り、苦しまないように灰にしてあげて~!☆」
サラちゃん「イエス ユア マジェスティ」
『喋った!?てかリディアも毎回セリフが恐ろしいわ!そんな天使のような笑顔で言うセリフじゃねぇよ!あの精霊よかよっぽどリディアの方が悪魔な気がしてきたぞ......』
あ、でもリディアの場合はおじさん心を手で転がして弄ぶ、小悪魔ってところか?
リ「ほら、サラちゃんの鏖殺が始っま~るよ~!☆」
やっぱ純粋に悪魔だわ。いや魔王かもしれん。
引き攣りそうな顔をイフリートのようなサラちゃんに視線を向けた。
サラちゃん「インフェルノ!!」
さっき俺が鮮血魔法と火魔法を組み合わせて作った魔法”血爆炎”は、沸騰した3mぐらいの血の塊を敵に当てて爆散させる、火魔法というより爆弾みたいな魔法だった。
サラちゃんが”インフェルノ”と唱えた魔法は、まさに火魔法の極意のような魔法だ。
『炎の滝......?空まで燃えてるんじゃないかアレ......?』
ゲオルグさん達も戦いの手が止まってしまう程の”地獄のような光景”に目を奪われていた。
直径がもはや測定できない程の火柱、いや炎の滝が出来上がり、まだ半分近く残っていたモンスターの大群を、全て炎が飲み込んだ。
ゲオルグさんと戦っていたオークジェネラルとオーク達も唖然とした表情になっているのが分かる。
最奥で大岩に腰掛けていた”オークキング”と”オーガロード”もビックリしたのか、新○さんいらっしゃい!の○三○さんのようなコケ方をしている。
『いや、ほんとに凄いな......俺の使った魔法が子供の真似事に見えるぐらい、圧倒的な力の差を感じるよ』
リ「レオニーが使った魔法も凄いじゃん!城壁から見てたけど、着弾してモンスター達が爆散した時に、血桜のようなのが舞っててとっても綺麗だったよ!☆」
それ、モンスターの肉片なんじゃね......?
『でもリディアが2体同時に精霊を召喚できるってのは知らなかったな。エレメンタルメイジって何体まで精霊を召喚できるの?』
リ「えっ?今出してる精霊はサラちゃんだけだよ?」
『ん?でも俺の頭の上の氷の板は消えてないぞ? いや、氷の板が消えたらサラちゃんに灰にされたモンスターのように、俺も灰になっちゃうだろうけど......』
リ「あぁ!スノウの事ね!あの子はレオニーに懐いちゃって、私が帰っておいで~って言っても、嫌!って言われちゃった☆だからもうレオニーの精霊みたいなもんだよ!」
『俺に懐いた!? え、でも俺スノウが見えないぞ?』
リ「大浴場で拾ったレオニーの団扇、見てみて!」
『団扇・・?』
そいや、手に持ってたら戦えないから甚兵衛の帯に差してたな。
背中の帯に差してた団扇を取ってみる。
『雪だるまの絵?これは......サッポロ雪祭り?』
リ「それがスノウだよ☆」
まさか団扇に精霊が入ってるとは夢にも思わなんだ。
今にして思えば、瞬足で加速した時も、ピッタリ氷の板が付いてくるから優秀な精霊だな~と思ったが、俺の背中にずっと居たのかよ。
『スノウってまんま見た目雪だるまなんだな。バケツを頭に被って木の枝の手には手袋が着いてて。鼻はニンジンか?』
リ「スノウ可愛いでしょ? 大切にしてあげてね☆」
目の前の戦場はほんとの地獄のようになっているのに、こっちはほのぼの雪だるまに癒されてて、なんかゲオルグさん達に申し訳なく思った。
『しかし、あの炎の滝はいつまで燃えてるんだ?もう飲み込まれたモンスターなんて、塵一つ残ってないんじゃないのか......?』
戦場に目を向けると、サラちゃんのインフェルノはまだ消えていなかった。
リ「炎の精霊の力の源は、私の想いの力みたいなもんだからね! そう簡単には消えないよ☆」
『炎の力の源が想いの力って?』
リ「そりゃあ恋の炎に決まってる...!...でしょ...ぅ...///」
『えっなんて?』
リディアって普段は大声なのに、時々声が極端に小さくなるから、何を言ったか聴き取れない時がある。
ん?どしたリディア?桃のように顔がピンク色になってるぞ?
リディアの顔を覗き込むように見ようとしたら、目を思いっきり指で刺された。
『うぉぁぁぁぁぁ......!目がっ...目がぁぁぁ!』
幸い自己再生のおかげで失明は免れたようだ。
リディアに顔を近付けるのはやめておこう......
まだ自分の顔がどんな見た目かも知らないのに、目が見えなくなってしまう。
涙をこぼしながら、少しぼやける視界で再び戦場を見てると、ゲオルグさん達と戦っていたオークジェネラル達がオークキングの所に逃げていくのが見える。
大岩から腰を上げて仁王立ちしていたオークキングに、助けを求めてオーク達が走っていく。
そこへ
⦅カキーーーン!!⦆
オークジェネラルとオーク達が一瞬で”氷像”になった。
氷像になったオークジェネラルとオークを見て、驚愕していたオークキングを無視して
⦅バキンッ!!⦆
巨大なバスターソードのような大剣で、オークの氷像を粉々にした”オーガロード”がこっちを見て、ニヤリと笑っている。
”かかってこい!”
そう言ったかのように、指をクイクイってしてる。
おうおう、売られた喧嘩は俺も買うぜ?
それにさっきゴブリン殲滅してくる!って言って出来なかったもんな。
リディアにカッコいい背中を見せたいんだ。
勝てる気はこれっぽっちもしないが、”負ける気”も全然しない。
『さて、そろそろ大詰めだな。リディア、ちょっくら行ってくる!』
リ「行ってらっしゃい、レオニー!☆」
なんか新婚さんみたいなやり取りに感じるな。
大剣を肩で担いだ”オーガロード”の元に、この戦場の最後の戦いに、俺は駆け出した!