#14 守る覚悟
銅メイジ隊「ウォーターボール!!」
銅メイジ隊「ファイアーアロー!!」
銅メイジ隊「ロックストライク!!」
銀メイジ隊「アクアスプラッシュ!!」
銀メイジ隊「スコールレイン!!」
金メイジ隊「ハイドロブラスト!!」
リ「スパーククラウド!!」
城壁から多数の魔法が一斉に放たれた!
主に水魔法を中心とした、魔法砲撃が先行で門前に着いたオークやゴブリンを押し流す!
そこにリディアの風魔法で作られた、小さい雷雲のような雲が、水のフィールドに電気を流し、追加ダメージを与えていく!
身体が電気ショックを受けたように痺れてるオークやゴブリンに、一般兵40人からなる矢の雨が突き刺さる!!
10秒足らずの一瞬の防衛側の攻撃で、オークは13匹、ゴブリンは約30匹程倒れていた。
す、凄い......!!テレビ画面越しに見てきたターン性の戦闘ゲームとはワケが違う!!
これが戦争、これが戦場、これが争いというものなのか......!!
映画の世界をリアルで見ているような、そんな気分になり、心が昂った!!
だが、これは本当の死と隣り合わせの戦場。モンスターの大群は怯む事なく進軍してくる!
兵士長「弓隊!! 手が遅いぞ!! なにやってんの!!」
兵士長が一般兵に喝を入れている。
無理もない。ここにいる一般兵は殆どがモンスターと実戦をした事がない人達ばかりなんだろう。
恐怖のあまり手を震わせながら矢を取り、弓を構えている。
メイジ隊も次の魔法の詠唱を唱えているが、何人かは涙目になっていた。
モンスターが近付くと、約800匹という数より多く見えてしまう。
ゴブリンはヒューマンの子供ぐらいの身長だが、オークやオークジェネラルは約2m オーガは倍近くの約4mもある。
しかも精鋭冒険者が相手をするような、白金級のモンスターだけで100匹以上いるんだ。
数の暴力に、個の力も強いモンスターが、倒れたモンスターなど意に介さず進んでくる。
命にかえても守る!その決心は本物だが、心のどこかで、死ぬのは嫌だ......!! と思ってしまうのだろう。それだけで体が鈍る。
そんなスキをモンスター達は見逃さない。
ゴブリンは銅級、下手したら雑魚級の弱いモンスターにあたる。
そんなモンスターが約300匹集まろうと、最前線に出たギルドマスターやトップクラスの冒険者なら余裕で殲滅するだろう。
だが、それより数が多く、耐久力の高いオークの肉壁が迫ってくる為、数を減らす事が出来ない。
ゴブリンは弱い代わりに冒険者と同じく、1匹1匹が違うクラスを持っている。
・ゴブリンファイター
・ゴブリンアーチャー
・ゴブリンウィザード
・ゴブリンプリースト 等
この4匹だけで冒険者チームのようなパーティーに変貌する。
そしてこの戦場にいるゴブリンの多くは......ゴブリンウィザード!!
約半分にあたる150匹のゴブリンウィザードが、城壁に向かって詠唱を唱え始めた。
ゲ「まずいぞっ!!詠唱を止めさせろ!!」
ギルドマスターの戦闘力なら、耐久力の高いオークでも2,3撃 急所にクリティカルヒットすれば一撃で倒せる。
ゲ「ソニックスラッシュ!!」
衝撃波のような斬撃がオーク達を襲う!!
オーク数匹を巻き込み、そのままゴブリンウィザードも何匹か切断された。
だが、それでもすさまじい数のゴブリンウィザードの詠唱は止まらない!
セス「ギルマス!!後ろだ!!」
ミスリル級冒険者チームのリーダー、セスがギルマスに警告を飛ばす!
ゲ「ぐぉっ!!」
ゴブリンウィザードに気を取られすぎてしまった。
本来であればすぐに気配に気付くはずが、城壁の守備隊の事を考えてしまった。
オーガの斧が、フルスイングでゲオルグの体を吹き飛ばす!
ゲ「ゲホッ!!なんのこれしき!まだやられんよ!」
タ「無茶せんといて下さい!キュアヒーリング!!」
プラチナ級冒険者チームのリーダー、タイガーが回復魔法でゲオルグを癒す。
歳を取ったのぅ......とゲオルグが小声で呟く。
同時にゴブリンウィザードの詠唱が完了した!
兵士長「魔法砲撃来るぞ!! 盾を構えろ!!」
兵士長が叫ぶと同時にゴブリンウィザードの一斉魔法砲撃が来た!!
「ゲギャギャギャ!(ファイアーボール!)」
「グギャグギャー!(エアカッター!)」
「ゴギャッギャウ!(ストーンバレット!)」
「ゲッホゲッホ!!(詠唱中に舌噛んだ!)」
火水風土を司る、大量の初級魔法の嵐が城壁に着弾していく!
兵「ギャッ!」
兵「ガッ!」
兵「アァッ!!」
銅メイジ「ゴフッ!」
リ「あっ......」
『リディア!!』
一斉砲撃により城壁が揺れ、石の壁が剥がれた。
城壁には隠れるような場所がない為、盾を構えていた一般兵にも次々着弾し、体の一部を潰されたり、片方の腕が切断された者や、盾ごと爆散した者もいた。
たった1回の一斉魔法砲撃により、一般兵の半分が被弾し、戦闘不能もしくは致命傷を受け息絶えた。
ブロンズ級のメイジも数人やられた。
『イタタタ......リディア大丈夫か?』
リ「う、うん......ありがとう。レオニーさんが守ってくれたから大丈夫だったよ...!」
俺は咄嗟にリディアを抱き締め、被弾を全部背中で受けた。
初級魔法とは言え、リディアは後衛職だ。
当たりどころが悪ければ深手を負っていたかもしれない。
それに、一応女の子だしな。顔に傷でもついたら大変だ。
今回は抱き着いた事に、さすがに怒らなかったし、殴られもしなかった。
魔法砲撃の音が止むと、血の匂いに敏感になっている俺は辺りを見渡した。
『うっ・・・!』
城壁の守備隊は凄惨な光景になっていた。
辺り一面、血の海ができたかのように赤く染まり、生きている者は仲間の死に、嗚咽をもらしながら震えていた。
一般兵の心は、モンスターの一度の反撃で、既にボロボロになっていた。
もう戦えない......友が仲間が逝ってしまった。そう思ってしまった時に、
兵士長「お前達!! 仲間の死を弔うなら弓を取れ!! 今この時も、下の戦場では冒険者達が戦い、街を、国を守るために死んでいるんだぞ!! 貴様らはその犠牲を無駄にするつもりかぁ!!!」
兵士長が魂の叫びかと思うぐらいの怒声を、生き残った半分の兵士に浴びせた。
防衛側の攻撃が止んだ為、モンスターが一気に門側に侵攻しているようだ。
悲鳴に近い声も時々聞こえる。ゴールド級冒険者にも犠牲者が出始めた。
そんな状況でも、兵士長の「国を救って、逝ってしまった友や仲間に報告するまで死ぬな!」
そう言われた気がして、一般兵も顔を再度引き締めなおし、弓を取って攻撃を開始した。
メイジ隊は次のゴブリンウィザードの一斉魔法砲撃が始まる前に、既に詠唱を始めている。
死線を潜り抜けてきた冒険者は、一般兵よりも心は強い。
喋った事はない他人でも同じ冒険者、仲間のカタキを取る為、魔法を紡ぐ。
リ「ごめんねレオニーさん。ちょっとビックリしちゃって」
おや?急にリディアがしおらしくなったぞ?
『ん?あぁ、俺がリディアを庇って、抱き着いた事に?』
リ「それは少しだけキュンッとした! ってそっちじゃなくて!!」
苦節30年とこの世界で3日目。やっと女の子の口からキュンっとしたって言わせた...!
わが生涯に!いっぺ・・! いや、もうちょっとキュンってしたってセリフが聞きたい。
リ「私は戦うのが大好き。戦場に立つのは初めてだけど、恐怖なんて一切なかった。さっきまでも、どんな魔法であのモンスターの大群を殲滅しようってワクワクしてたんだけど......人の死って嫌だね。兵士さんがやられたのを目の当たりにして、凄く悲しくなって思考が止まっちゃった......レオニーさんに庇ってもらってなかったら、私も危なかったと思うよ。ちょっと怖くなってきちゃった......」
前半のセリフは女の子が話してるとは思えない程、物騒なセリフだ......
でもやっぱりこの子は優しい子だな。人の死に何も思わなくなったら、それは人の形をした”別の生き物”だと俺は思う。
それに怖くなった、か。初めてリディアと出会った時は、オークジェネラルに不意を突かれて死にかけてたんだよな。
自分がやられた時の記憶なんてほとんどないまま、初めての戦場で自分以外の人間が死ぬのを目の当たりにしたんだ。戦闘狂とはいえ、まだ15歳の女の子なんだ。そりゃ怖かろう。
でもこれだけは言っておくか。
『俺も人が死ぬのを見るのは辛い。でも戦場、戦争ってこういうものだからな? キツい言い方かもしれないけど、遊び感覚でここに来たのなら城に避難しな?年が若いからとか女の子だからとかじゃなく、”覚悟”が出来ていないなら、戦場に立つ資格はないよ』
俺達はモンスターを”殺す”。なら、モンスターに”殺される”覚悟も必要なんだ。
リ「うん......ごめんね......」
無茶苦茶落ち込んでる......ちょっと言い過ぎたかな。フォローせねば!
『いや、俺も言い過ぎた。なんにせよリディアが無事で良かったよ。今のリディアには”殺す”覚悟はあると思う。でも”殺される”覚悟は、今はないんだと思う』
リ「うん......」
『でも大丈夫だよ』
リ「うん......?」
『リディアはモンスターを殺す”覚悟”だけを背負え。あとの半分の”覚悟”は俺が背負ってやる!俺が絶対にリディアを死なせないし、絶対に守る!!』
リ「・・・!!!」
フォローはこれぐらいで良かったかな......?
しっかし、我ながら臭いセリフだな......身体も臭けりゃセリフも臭いて、あと何処が匂わない箇所なんだ?
・・・ん?どしたリディア?顔が真っ赤だぞ?
リディアがトマトのように顔を赤くしながら固まっている。
『もしも~し?本当に大丈夫か? ハッ!?まさかさっきの攻撃魔法が!?どこかケガしてないか!?』
リディアにケガがないかとジロジロと見てみた。
リ「ち、ちがう......ごめん、こっち見ないで......!!」
げげ!?こっちみんな!って拒否られたぞ!? もしやさっきの臭すぎるセリフで嫌われたんかな......!?
『あの、その......変な事言ってごめん...な?』
リ「あ、謝らないでよ......別に変な事何も言ってないじゃん......スゴクカッコヨカッタトオモウヨ......///」
『ん?ごめん、聞こえなかったからもっかい言っ...ぐおぉっ...!?』
顔を真っ赤にしたリディアの肘エルボーが、思いっきり俺の腹に炸裂した。
さっきの攻撃魔法なんかと比べ物にならないぐらい痛い......
兵士長「ゴ、ゴホン......あの~二人の世界に入るのは戦争が終わってからでもよろしいでしょうか......?」
兵士長が気まずそうにこっちに声をかけてきた。
『ゴホッゲホッ!あ、あぁ、申し訳ないです......ふぅ、、よし!!リディア!戦えるか!?』
城壁で鑑定しかしてない俺が、人に説教を言っちゃいかんわな。
リディアに半分俺が背負ってやるって言ったんだ。
カッコ悪い背中だけど、しっかり見てもらわなくちゃな!
リ「フフッ うん!!まかせて!! 本気のリディアさんの精霊魔法をとくとご覧あれ!☆」
いつものリディアに戻ったようだ。
『そりゃ期待しなきゃな!兵士長さん!俺が戻るまでの間だけ、リディアを頼みます!リディア、俺は下の攻撃魔法を撃ってくるゴブリンを殲滅してくる!二度と城壁に攻撃させないから、そしたら特大魔法でオークとオーガ共を蹴散らしてやりな!!』
リ「わかった!.....レオニー、無事に帰ってきてね!えっと...そう!借金返済まだなんだから!!☆」
『あいよ!今日中に返済する!!』
そう言って俺は城壁から飛び降り、戦場に降り立った!
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『ゲオルグさん!無事ですか!?』
ゲ「お、おう・・!レオター、じゃなくてレオニー君!見ての通り、元気いっぱいじゃ!!」
ゲオルグさんはそう言ったが、引き攣った笑顔は脂汗が垂れている。体力がもう限界なのだろう。傷は癒せても体力は戻らないからな。
すでに100匹以上のオークと、オーガも20体近く倒れている。
半分以上のオーガの肌が、ドス黒く変色しているのを見ると、あれは毒か。
片膝をついて肩で息をしているセスさんが倒したのだろうな。凄い!!
だが、ミスリル級とプラチナ級の冒険者チームも半壊気味だ。
セスさんを守ろうと、タンカーがオークジェネラルの攻撃を弾いているが既に満身創痍のようだ。
タイガーさんに至っては魔力切れなのか、モーニングスターを振り回してオークと対峙している。
それでもトップクラスの冒険者チーム、半壊気味とはいえ、死者は出ていないようだ。
しかし門側は酷い。ギリギリ街への侵入を許してはいないだけで、門を死守していたゴールド級の冒険者が、ほぼ壊滅している。
今回参戦した冒険者はブロンズ級、シルバー級、ゴールド級で合わせると約270人。
そのうちゴールド級の冒険者は、たったの30人程だ。
その約30人のゴールド級の冒険者は、今も死にかけている5人を除き、全員が息絶え、街に入った時に迎撃するシルバー級の冒険者約40人が、ゴールド級の代わりに門を死守しようとしている。
『戦況はかなりまずいですね』
ゲ「ハァハァ......うむ、そうだな......君も街に残ってくれたのに済まない。このような戦場に繰り出してしまうとわ......」
『いえいえ、気にしないで下さい。ゲオルグさんも”ザ・揚げ物”と”ハエ男はつらいよ”の皆さんと一緒に、一度戦線離脱して体を休めてください』
ゲ「なにを言っているのかね!? 1人でここに残るなど自殺行為だ! 冒険者ギルドのマスターとして、そんな事は許さん!」
『ほんと貴方はイケメンですなぁ。大丈夫ですよゲオルグさん、俺にはリディアがついてますし、それに俺、まだ正式な冒険者じゃないので』
ゲ「イ、イケ・・・?いや、ゼ、ゼファー君は君を『命の恩人と言っただけで、仲間とは言ってないですよ?まぁ俺は仲間だと思ってますが』
『それに』
ゲ「・・む?」
『俺、今かなり怒ってるので』
さっきはリディアにやられる事もあるんだから!と言った。
モンスターとの戦争なんだ。攻撃したら攻撃される。それは当たり前の事だが......
理由はどうあれ、自分の大切な仲間に手を出されたんだ......!!
よくもリディアにあの程度の攻撃とはいえ、危ない目に合わせやがったな......!!
拳を握り締めすぎて、手の中から血がポタポタと落ちる。
ゲ「・・!君は一体・・?」
『もう一度だけ。避難してください』
ゲ「......分かった。すまぬ、本当にすまぬ。すぐに戦場に復帰するから無事でいるのだぞ!!」
ゲオルグさんがオークジェネラルとオーク数体と対峙していたタンカー職の人のところに行き、瞬く間にオークジェネラル含む数体を切り刻んだ。
そのまま膝を折り、倒れそうなところをタイガーさんに支えられ、セスさん達も他のみんなも俺をチラリと見て、申し訳なさそうに街の中に撤退していった。
今戦場に立っているバスタニア共和国軍は俺1人だ。
まだ数百匹はいるオークやゴブリン、オークジェネラルとオーガ、そして一番奥でずっと走ってたから疲れていたんだろう。大岩に腰掛けて座って休憩しているオークキングとオーガロードも俺を見ている。
ものすごい殺気が体にビリビリと感じる。
だが、俺もアドレナリンが出ているんだよ。怒りのアドレナリンがビンビンとな。
俺も出したことはないが、殺気を出してみようと怒りの形相になる。
モンスター達が武器を構えた......!!
今から俺を殺す準備は整ったと言っているようだ!
『よろしい!! ならば一人残らず吸い尽くしてやるっ!!!』
そういって頭に氷の板を浮かべ、団扇を甚兵衛の帯に差して、俺は戦場を駆け出した!
『瞬足ッッッ!!!』