2年生 春1
4月、私が記憶を取り戻してちょうど1年。新学期になり、2年の学園生活も折り返しを迎えた。そんなある日、私はとある喫茶店の奥の部屋にいた。
この喫茶店は貴族の令嬢や夫人の御用達の喫茶店で個室が完備してある。つまり、前世の料亭みたいな使われ方もされているというわけだ。私は、そこにセルギウスを呼び出した。
「なんの様だ、脳筋令嬢」
私は、すかさず概念領域を活用した土のナイフをセルギウスにかすらせる。
「次言ったら当てるわよ」
「おっけー、悪かった」
とセルギウスは両手を上げ降参の意思を示す。
「早速だけど、ファイナルミッションよ」
「ファイナルミッション?」
首を傾げるセルギウスに私は教える。
「魔術教団を潰すわよ」
「ついにか……俺は自由の身になれるのか」
セルギウスには脅しをかけて以来ずっと働かせていたので、顔が社畜のように死んでいるのだった。
「そうね、少なくとも私からはなにも命令しないわ」
「その言い方だと、俺から進んでお前に従うように聞こえるのだが」
「さあ、どうだろうね」
と私ははぐらかす。
「それじゃあ、この計画書通りによろしくね」
そう言って私は喫茶店から立ち去った。
☆
「エリちゃーん!早く行こう!」
私とセレナは今、温泉街に来ている。表向きは、セレナとの旅行だが真の目的は、魔術教団を潰すことだ。
マスラで、奴らはこの夏の魔術戦で敗北して傷心中の私につけ込み、強くなれるからとかアーサーの心を取り戻せるよとか、甘い言葉を呟き私を人体改造した。そして、人体改造された私はセレナと攻略対象の前に立ち塞がり、殺された。
私は、とんでもない悪人である奴らを野放しにして置くわけにはいかない。なので、悪いことをする前に先に潰してやることにした。これこそ世のため人のためという奴だ。
セルギウスにやらしてたとはいえ、私は奴らについてコソコソ探っていたので警戒されていると思い単独で行くのは避けるためにセレナに旅行と称して一緒に来てもらった。危険なめに合わせてごめんよ、今度謝るからね。
さて、先に来ているセルギウスから情報を受け取るため、私はとあるレストランに入る。
「オムライスください」
と私がオムライスを頼むと、
「じゃあ、私もオムライスで」
とセレナも同じものを頼んだ。実は、このオムライスのケチャップに暗号を書くようにセルギウスに頼んだのだ。
「お待たせしました、オムライスになります」
ウエイターがオムライスを持ってきた。
セルギウス君は頑張ってるかな?
あれ、オムライスは普通だぞ。
チラリとセレナの方を見る。
既に食べ始めているが、暗号があったことはわかる。
セ、セルギウスー!あのバカぁなにやってんだよ。もう、暗号はセレナの胃袋の中だ。
「エリちゃん、美味しかったね」
「……そうね」
「そう言えば、私のオムライスのケチャップ881て書かれていたんだよね」
「……」
881かーやばいかー。あいつ何やったんだ?
「エリちゃん、足湯あるよ!入ろー!」
うん、まぁいっか足湯に入ろう。
ふぅ、極楽極楽。やっぱり日本人の記憶があるから温泉は好きなんだよな。足湯だとはいえ、気持ちいいのだ。
「エリザベート、黙って聞け」
セルギウスが自身の属性である隠密を使って話しかける。その状態のセルギウスは他人に気づかれないようだ。
「奴らに気づかれた。お前もホーリナーも明日には、取り押さえる予定らしい。今夜奇襲を仕掛ける手伝え」
私は、黙って頷く。
「協力感謝する」
その後振り向くと、既にセルギウスの姿はなかった。
「ねぇ、エリちゃん。ちょっと来て」
そう言ってセレナが私を呼ぶとセレナは私の匂いを嗅ぎ始めた。
「……男の匂いがする。ギュー!」
とセレナに抱きつかれた。突然の事で驚いたが可愛いから別にいいよね。
「どうしたの?」
「悪い男の匂いを私の匂いに変えてるの」
と笑顔で話すセレナ。なにいってるかよく分からないが、可愛いから問題ない。
☆
「セレナ、山奥の秘湯にいかない?」
「うん!いくいく!」
こうやって私はセレナに危ないおもいをさせてはいるが、自然に敵の本拠地に接近することができた。
ごめんね、セレナ。でも、私が何がなんでも守るから。
「ふぅ、ついた」
「疲れたよぉ」
秘湯に着いた私は、概念領域を利用して壁と大量のゴーレムを作り出した。
「えっ、エリちゃんどうしたの?」
「私達の入浴シーンを覗こうとする、不埒な奴がいるかもしれないでしょ」
「さすが、エリちゃん。天才だよ」
もちろん、こいつらは私とセレナを守る護衛でもあるんだけど、半分はセルギウスに送ってやる。まぁ、せいぜい頑張るんだよ。
それでは、秘湯に浸かるとしようか。
「ふはー、気持ちいい」
「そうだね。それにしてもエリちゃん、ドスケベな体してるよね」
突然セレナがとんでもないことを言い出した。
「……ゴボッゴボッ。どうしたのセレナ」
「いや、つい本音が。さっきから鼻血が出るのがまんしてるんだからね」
「いや、セレナも人の事言えないからね」
セレナもパーフェクトボディの私とおなじくらいスタイル抜群なんだよな。
「エリちゃんのエッチ」
「エッチなのは、どっちよ。それより、セレナ顔赤いわよ」
「のぼせただけだもん」
そういって顔の半分をお湯に沈めるセレナ。可愛い。
こうして、私達は秘湯でゆっくりしたのだった。