1年生 夏1
さっそくですが、8話で終わらないことが確定しました
この世界の6月は、日本と同じように梅雨がある。というか見た目は中世のヨーロッパがモデルなのに季節や行事は日本がベースだ。だから、夏はバカみたいに暑いし冬はアホみたいに寒い。
なぜそうなってるかと考えると、その方がプレイヤー的にはわかりやすいからだと思う。シナリオライターの頭が足りてない可能性もあるが信じたくはない。
6月に入るとようやく私の謹慎も解除される。あの中庭の事件は私がアーサーを蹴飛ばしたことで、ちょっとした騒ぎになった。
私の事を目に入れても痛くないと断言するお父様に生まれて初めて説教をされた。30分という短時間でさらに最後に「私のためを思って叱ってくれるなんて、お父様だーい好き」なんて言ったら、次の日にケーキ買って帰ってきた。ちょろい。
謹慎期間中は、ヨシエとセレナから手紙が来た。ヨシエからは、「あんた、相変わらず馬鹿だねぇ」と来た。うるさい、馬鹿と言った方が馬鹿なんだよ。
セレナからは、中庭の1件に対する感謝の気持ちと寂しいから早く学校に来て欲しいと書いてあった。そんな事言われたら、学校に行くしかないよねと思って学校に行こうとしたら。お母様に怒られた。よく考えたら私、謹慎中だった。てへぺろ。
☆
そんな感じに過ごしてたら割とすぐに謹慎期間は明けた。さぁて、謹慎明けだし気合い入れて頑張るぞーと学校に行ったら。
「エリザベート・アストロン!貴様に決闘を申し込む!」
といきなり、決闘を申し込まれた。
申し込んできた男をよく見ると、攻略対象だった。
ランスロット・ツーベルク、騎士の家系で代々王族の側近として有名なツーベルク家の次男。こいつのルートは、忠義には厚いがメンタルクソ雑魚のこの男を支えるという意味わからんシナリオだ。
ハッキリいって決闘はめんどくさかったが、こいつはマスラだとちょくちょく私に絡んで来るめんどくさい奴なので、それを避けるためにもここで力の差というやつを分からせるべきな気がしてきた。
「いいわ、うけてあげる」
「そうか、では日時だが……」
突然威勢が良かったランスロットが黙ったので、後ろを見たら。
「おはよう、エリちゃん。謹慎開けたんだね、おめでとう」
セレナがいた。ニコニコしてて、可愛い。なるほど、ゲーム通りに進んでるから、ランスロットの奴、セレナの前では恥ずかしがってモジモジしちゃう小学生のようなリアクションをするんだ。
「それじゃ、エリちゃん教室行こ」
「待ってくれ、ホーリナー。俺は、エリザベート・アストロンに話があるんだ」
とランスロットが嫁に逃げられるダメ夫のような発言をすると、セレナがピキっと固まった。
「ねぇ、エリちゃん。それって本当?」
「うん。なんか決闘申し込まれたから仕方なく相手にしてあげようかと思って」
「ふーん、それで何を賭けてるの?」
「そう言えば、私もそれ聞いてない」
そう言うと、ランスロットはちょっと怒った顔で、
「私は、アーサー王子への謝罪を求めてる」
トンチンカンなことを言い出した。
「私、アーサーには謝ったんだけど」
そうだ、私は謹慎初日あいつの所まで、お父様と一緒に謝りに行ったのだ。そしたらアイツなんて言ったと思う?
「はぁ、エリザ。僕を僕をもう一度蹴ってくれー」
と息荒く、変な目で言ってきたのだ。私はそれを見て気持ち悪かったので、ついまたアーサーを蹴ってしまった。その事は、アーサーにドン引きしていたお父様と黙殺を決めたので、ランスロットが知ってるわけないのだ。なので、コイツは1度終わったことをほじくり返す面倒臭い奴というわけだ。
しかし、決闘を受けると言ってしまった以上、ほとんど無いとはいえ、貴族の誇りにかけて断る訳にはいかなかった。
「いいわ、分かった。その代わり私が勝ったら、ランスロット。アンタは私の奴隷よ」
「ふん、いいだろう。俺が負けるわけないしな」
うわぁ、腹立つ、絶対勝とう。
「ねぇ、エリちゃん。ランスロットくん、戦闘訓練の授業でアーサー様に次ぐ成績だけど大丈夫?」
とセレナが、心配そうな顔でこっちを見てきた、可愛い。
「おい、ホーリナー。こいつは、アーサー様に無礼を働く愚か者だぞ。あまり近づくな!」
ランスロットが無駄口を叩いたら、セレナはちょっと怖い顔をした。
「ねぇ、ランスロット君。私とエリちゃんは友達なの。それを邪魔するなんて私許さないからね」
「なにを言ってるんだ、ホーリナー。……はっ!きっとエリザベート・アストロンに洗脳されてんだな。おい!エリザベート・アストロン!」
「なに?」
1人暴走するランスロットに呆れながらも私は返事をした。
「俺が勝ったら、ホーリナーを解放しろ」
はい、言うと思いましたよ。この坊ちゃん、まったく馬鹿なんだから。
「やれるものなら、やってみなさい」
こうして謹慎明け初日から波乱のスタートとなった。
☆
決闘、当日。決闘というのは、貴族が多いこの学校は年に何回かは問題解決のために行われるらしく。今回も学校公式ルールに従い決闘がおこなわれることが決まった。
学園の決闘公式ルールは体力方式と呼ばれ、前世のゲームみたいに相手の体力をゼロのしたら勝ちというシンプルなルールで、よくある異世界物と同じように何故か怪我をしない魔法がついてる。
決闘が行われるコロシアムには、話を聞きつけた人が沢山集まっていた。こんだけ人が集まったので、賭けというのも当然行われてる。ちなみにランスロットの方に、私の3倍くらい賭けられてるらしい。
そんな賭けの様子を私が見ていると、隣にいたセレナが、
「私は、エリちゃんに今月のお小遣い全部かけたから、安心してね」
いや、安心できないから。もし、私が負けたら責任重大だよね。
そんな会話をしてるうちにもうすぐ開始時間だ。
「それじゃ、行ってくるわね」
そう言うと、セレナはちょっと泣きそうな顔で私に抱きついてきた。
「エリちゃん、負けないでね。エリちゃんと離れたくないから」
そして、とても可愛いことを言ってきたので、私はセレナの頭を撫でて
「私を誰だと思ってんの、エリザベート・アストロンよ。完全無欠の私が負けるなんてありえないことです」
これは、たしかマスラの私の名台詞だ。ちなみにマスラでは、このセリフを言った後、普通に負けた。それをひっくり返してのこの第2の人生だと思うから、私はあえてその言葉使った。
「よぉ、逃げずによく来たな」
と全身鎧で固めたランスロットはさっそくコロシアムの中に入った私を挑発してきた。
「そちらこそ、負けたらどうしようとか考えてる事を、悟られないためにわざと挑発してるの見え見えですよ」
「……!」
ランスロットは、図星だったらしく顔が真っ赤だ。言い返そうにもうまい言葉が思いつかなくて、なんか泣きそうになっている。メンタルクソ雑魚だなぁ、ちょっと可哀想になってきたよ。
「それでは、始めて貰ってもいいですか」
と私は、審判の先生に伝える。
「ちょっ……!」
とランスロットは慌てるが、審判の先生は気にせず、
「それでは、ランスロット・ツーベルクとエリザベート・アストロンによる模擬戦を開始する!」
そうやって、戦いの狼煙はあがった。
ランスロットの魔法は自身を強化するタイプで近づかれると私も勝てる自信がないが、相手が有利になる前に倒せばいいのである。
そして、土魔法の使い手である私があの男を倒すには、遠距離でかつ一撃で倒せるものが正解だ。ならば、私は前世のとあるゲームで一撃必殺と名高いあの技を再現しよう。
「うぉーー!」
と近づいてくるランスロットに私は、
「地割れ!」
地面に魔力をこめる。ランスロットの足元の地面は割れてランスロットはその割れ目に落ちていった。さよなら、ランスロット。君の事は忘れないよ。
ランスロットが落ちると周りから歓声が上がる。体力を表示する掲示板には、ランスロットの体力が0と書かれていた。
「エーリーちゃーん!」
とセレナが観客席から抱きついてきた。まぁ、あっさりとした結末だったがこれで私の勝利である。
「さすがエリちゃんだよ。信じてたよ!」
とまぁ、セレナは超至近距離で物凄くキラキラした顔でそう言った。ちょっと顔が近くてビックリだけど、まぁ可愛いからいっか。
その後、わざわざ見に来てくれたヨシエから、
「やるじゃん」
と褒められた。
アーサーからは、
「さすが、俺のエリザだな」
と言われた。
おいおいアンタのために頑張ったランスロットはどうしたんだよ。あと、私はアンタのものではない。ムカついたのでこっそりみぞおちに拳をぶち込んだ。そしたら、
「うん、みぞおちも悪くない。ハァハァ」
とか気持ち悪い事をまた言い出したので、ちょっと殴った事を後悔した。
しばらくすると、ランスロットが這い上がってきた。
「しかたない。今日から俺はお前の奴隷だ」
潔いがちょっと気持ち悪かったので、
「うーん、いらない」
と私は断った。
ランスロットは捨て犬みたいな顔をしてちょっと可哀想だったがまぁいっか。