表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/14

1年生 春

 学園の入学式の朝、新品の制服に袖を通した自分の姿を鏡越しで見た瞬間、ありとあらゆることが腑に落ちた。


 どうやら私は乙女ゲームの悪役令嬢というものに転生していたようだ。私が転生したゲームはマジカルスクール・ラブというタイトルで通称マスラ。貴族しか使えないはずの魔法を使えることで貴族ばかりの魔法学校に入学した平民の主人公が王子やその他諸々と恋愛していくよくあるタイプの乙女ゲームだ。


 転生したことを思い出した感想はというとどこか腑に落ちたというのが正直なところだ。この私、エリザベート・アストロンは本来マスラの世界では、わがままでやりたい放題の悪役令嬢と呼ぶに相応しい性格をしていた。転生前の日本人気質な性格が影響したらしく、どこかおしとやかなお嬢様のような性格になっていた。


 その事に気づいた私は、ちょっとやりすぎたと思った。なにがやりすぎたかと言うと、マスラの世界では私は性格には難があるが、勉強、魔法さらには剣もほぼパーフェクトな才女だったのだ。その要素は今の私も変わってない。つまり、私はただでさえ完璧だったのに唯一の弱点だった性格まで完璧になってしまったのだ。つまり私は、ウルトラ完璧なパーフェクト令嬢になったようだ。え?完璧が2つあるって黙らっしゃい。


 私が完璧すぎるのは、当然の事実なので問題はないのだが私には多くの問題があった。まぁ、完璧な私にとってはほとんど大したことはないのだが1つ大きな問題があった。


 エリザ・アストロン、死亡フラグ多すぎ問題である。

 これは、なにが悪いかといえばマスラのシナリオが悪い。マスラでは、グッドエンド以上のエンディングではエリザベート・アストロンは死ぬ。理不尽すぎませんか、主人公ちゃんが幸せになるためには私は生きてちゃいけないとか許さないからな。


 私の死亡パターンをタイプ分けすると4つに分かれる。

 その1、主人公をいじめていた事を責められ婚約破棄されたあげく処刑台行きで死亡。

 その2、ストーリー終盤の戦争に巻き込まれて死亡。

 その3、人体改造されたあげく敵キャラとして登場して死ぬ。

 その4、なんかバラバラ死体になって見つかる。


 部屋の外でメイドが待っているが、なにも考え無しで学園に行くと死亡フラグに巻き込まれるので、時間ギリギリまで対策に講じることにした。


 死亡パターンその1、処刑ルート。これは私の婚約者であるアーサールートでのみ起こるイベントで、アーサーといちゃついていた主人公に嫉妬した私が主人公を暗殺しようとしたのがばれて婚約破棄された挙げ句に処刑台行きだ理不尽すぎる。これの対策は主人公とは、一切関わらずにいることだ。関わらなければいじめの事実も生まれないしね。転生前から、あの腹黒王子のことは好きじゃなかったおかげで顔だけはめちゃくちゃいいあの王子に惚れなかったので嫉妬に狂う予定もないのでもしかするとアーサールート狙いで行くのが正解かもしれない。


 死亡パターンその2は、アーサールート以外のルートで起きる可能性がある。マスラは終盤の戦争が本編みたいなところがあるのだが、そのころには私は空気なのであまり関係ないはずなのだが、魔法が使える貴族は戦争に参加する義務があるので、わたしも戦争には参戦することになった。しかし、終戦後主人公が聖女だなんやら言われてる端でテキストメッセージで一言「この戦争で、エリザベート・アストロンなど多数の死者が出た」と書かれておしまいだったりする。なので私の目標としては戦争を起こさないというのが最優先だと考えてる。特に留学生のセルギウスは影でクーデターの計画を立てたりしていて、戦争を起こす直接の原因になりかねないので潰す。


 死亡パターンその3は、アーサールート以外でいくつかの条件を踏むと私は魔術教団という組織に捕まり人体改造されたあげく闇堕ちしてラスボスとして登場して殺される。ひどいひどすぎるどうして行く先々で私は殺されなきゃいけないんだ許せないのでとりあえず魔術教団はぶっ潰す。


 ここまでの死亡パターンもひどいが一番ひどいのが逆ハールートだったりする。逆ハールートの私は2年生の春に街でバラバラ死体で見つかる。ゲーム内で理由は判明しなかった。しかし、シナリオライターはブログでこの真相は続編がでたら明らかになるかもと言って匂わせていた。エリザベート・アストロンに転生した私に言わせて見ればうるせぇ、しばき倒すぞと汚い言葉遣いが出そうになる。まぁ、結局続編は出ずにゲーム会社が潰れたのでどうしてなのかはシナリオライター以外わからない。やっぱりシナリオライターはしばき倒すべきな気がした。とりあえず、逆ハールートはだめだな。


 そうこうしてるうちに入学式の時間が迫ってきたので、私は立てた計画を胸に刻み、遅刻ギリギリになりながらも学校に向かった。



 ☆



「あう、助けてください」


 校門に入ると真上から声がしたので上を見ると主人公がいた。そういえば、マスラの主人公とアーサーの出会いは木の上から降りれなくなった猫を助けたら逆に自分が降りれなくなったところをアーサーに助けて貰うんだっけ。


 冷静に考えればこの後アーサーが助けに来るので主人公を助けて知り合いになるのは避けるべきなのだが、私の中の日本人が見捨てるという考えを持っていなかったので普通に助けた。


「ありがとうございます」


 そう言ってペコペコとお辞儀をする主人公ちゃん、かわいい。


「当然の事をしただけよ」


 とまあ私はちょっとカッコつけた。


「自己紹介がまだでしたね、セレナ・ホーリナーです。新一年生になります」


 とセレナさんが自己紹介をしてくれたので私も自己紹介をしなければと思ったら、


「おい、エリザじゃないか。こんなところでなにしてんだ」


 と私の婚約者のアーサー・シメシリアが現れた。


 もちろん前世の記憶があったおかげで、ゲームでは私がベタぼれでアーサーは嫌ってるということはないのだが。私達の関係は完全に上っ面だ。正直に言うと私はアーサが嫌いだ。なんていうか今みたいにいい人ぶるところが気持ち悪い。


「あら、アーサー様。ごきげんよう、その言葉そっくりそのままお返ししますわ」

「いやー、僕は入学式面倒くさくなったからサボれそうなところ探してたんだ。それで、エリザは?」


 嘘くさいアーサーの笑顔に引いていると、


「あの、木から降りれなくなった私をたすけてくれたんです!」


 とセレナが言ってくれた。


「へー、君には聞いてなかったけど。まあ、いいや」


 そう言って、アーサーはあくびをしながら去って行った。


「あっ、時間」


 と、焦って入学式にセレナと入学式の会場の講堂に駆け込んだが結局私達は遅刻した。



 ☆



「馬鹿だねぇ、あんた」


 と私に話すのは、ヨシエ・キャサリン。貴族の世界では私の唯一の友達である。日本人みたいな名前だが、見た目はちゃんと欧州系の顔だ。性格はと言われるとかなり日本人なので、私とかなりウマが合い10年来の付き合いになる。


「この天才の私に馬鹿とは酷い言い草ね」

「そうかしら、でも自分が死ぬ原因になるかもしれない女の子を助けるなんて馬鹿のやることでしょ」


 とまぁこんなやり取りができる程の関係ではある。


「あれは、不慮の事故ってやつよ」

「それで、今日やる事は?」

「あれは、私の名誉挽回よ!」

「そう。じゃあ頑張って、どっかで見といてあげるから」


 そう言って、ヨシエは次の授業に向かった。


 あの入学式から1ヶ月、大学のように自由に授業を選べる魔法学校の仕組みにも慣れてきた。そして、攻略対象達はセレナに接近していき概ねゲーム通りの展開になった。


 私は当初の方針通り、徹底的に接触を避けていたのだが、ゲームの強制力なのかちょっとまずい状況になっている。


 攻略対象のイケメン達と接点を持つセレナに不満を持つ人達が多く、マスラと同じようにセレナいじめというのがあるらしい。しかも、主犯は私となってるらしい 。まじかよ、ふざけるな。


 私が特に酷いと思ったのはクソアーサーを初めとする攻略対象のボンクラ達である。アイツらは自分達のせいでセレナがいじめられてるのにも関わらず、自ら進んで解決しようとする気が全くない。信じられないクズどもだ。


 だから、私が主犯じゃないと証明するためにもそしてセレナをあのクズどもから守るためにも私はマスラのシナリオに沿って1つ行動を起こすことにした。


 マスラのシナリオでは、4月の最終週に起きる強制イベントで私に呼ばれたセレナは、中庭で私にアーサーと仲が良かったことを責められ、挙句には魔法で攻撃されるのだがアーサーが助けてくれるという、乙女にはキュンと来るイベントだ。私から言わせてみれば、くたばれアーサー。


 セレナや周りに私がいじめをしてないと言うことを証明するにはこのイベントを利用しない手はない。


 授業終わりのセレナを見つけた私は、彼女に声をかける。


「入学式以来ですわね、セレナ・ホーリナーさん」

「はい、エリザベートさん」

「お話したいことがあるの、中庭まで来て下さる」

「わ、わかりました」


 緊張してるのか、セレナはどこかもどかしかった。なんというか、主人公補正というのか守りたくなるような不思議な雰囲気をもった子だ。


 中庭は、いつもなら人が少ないのだ。しかし、私がセレナになんか言う事に生徒達は興味を持ったのか、うわさ好きの生徒が何人か野次馬として集まっていた。


「あなた、いじめられてるみたいね」


 私は、単刀直入にセレナに聞く。


「はい」

 セレナは俯きながらそう答える。


「その理由は分かってるかしら?」

「えっと、平民の私がアーサー様達と仲良くさせて貰ってるからですか?」


 申し訳なさそうにセレナはそう言った。


「50点」

「えっ?」


 驚くセレナに私は続ける。


「正解は、自分のせいでセレナさんがいじめられてるのにも関わらず、自らは何もしないこのクズのせいよ」


 と私はセレナの後ろにあった茂みを思い切り蹴る。

「うっ」


 うめき声をあげて茂みから現れたのは、アーサーだった。


「ごめんなさい、アーサー様。邪魔な虫かと思って間違って蹴ってしまいましたわ」


 なんか、思ったよりスッキリしたので少し追撃する。

 こんだけやったんだから、きっとアーサーは屈辱的な目をしてるに違いないと思ったら、なんかうっとりした目をしていたので私は、気持ち悪くなって追撃を止めた。


「ねぇ、セレナさん。いえセレナ、私とお友達にならない?」

「えっ?」


 セレナは困惑した様子を見せた。


「えっ……本当に貴族であるエリザベートさんとそんな関係になってもいいんですか?」


 と聞かれたので私は、


「いいに決まってるじゃない、だって私は友達を身分で選ばない。ただ私があなたと友達になりたいだけなのだから」


 と答えた。


「では、よろしくお願いします。エリザベートさん」

「エリザでいいわ、親しい人はみんなそう呼ぶから」

「それじゃあ、よろしくね。エリちゃん」


 セレナは私に数多の攻略対象を落としてきた笑顔でそういった。危うく私はときめいてしまいそうになった。


「エリちゃん……」

「ダメでしたか?」


 不安そうに首を傾げるセレナ。かわいい。

「悪くないわ、気に入った!」


 そう言うとセレナはパァと顔を輝かせた。私が男だったら完璧に惚れてるね。


 私は、一息ついて耳を澄まして見ていた野次馬達に向かって告げる。


「いいわね!聞いてたわよね!これから先、私の友達のセレナになにかしようものならこいつみたいに10倍返しにしてあげるから」


 と私は、倒れてるアーサーを踏みつけて言ってやった。


 すると野次馬してたセレナをいじめてた勢力であろう生徒たちは急ぎ足で逃げていった。こうして中庭の騒動は終わり、セレナのいじめはなくなった。


 そして私はアーサーを蹴飛ばした事がバレて1ヶ月の謹慎をくらった。なんで。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] かわいい。ヒロインがどれだけ自信があるか好きです。これをありがとう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ