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第43話『お騒がせ』


「おいグレイ! まずい! 明らかに取り締まりの役人っぽいのが来てる!」

「なぁにビビッてんですか! 大丈夫ですよ法にはたぶん触れてませんから! 公共の空を飛んでるだけです!」


 グレイの提案からわずか数分で、俺たちは王都に到着していた。

 人目を憚って自重していた魔法を解禁し、グレイは大勢で賑わう王都の中心部を我が物顔で飛行している。


 しかも、これまでのようにただ単純に飛行するだけではない。

 俺たちを包む光球は目が眩むような七色に輝き、空に光の軌跡を描いていく。さらに空中で方向転換するたびに、花火のように派手なエフェクトが弾ける。


 そして、王都の空にでかでかと描かれた軌跡は――文章になっている。


『クラン・ララ・アルヒューレ様へ。ぜひお会いしたく参りました。あなたの友グレイ・フラーブより』


 既に俺たちの眼下では、警告らしき笛がピーピーと鳴らされまくっている。

 市街の警備の役人だろうが、激昂した表情で腕を何度も振り下ろしている。降りて来いという指示だろう。


「本当に大丈夫なんだろうな!?」


 グレイが「合法的な範囲で目立つだけ」というから承諾したが、明らかに法を踏み外している雰囲気がする。


「禁止区域じゃない限り、ちょっと飛ぶくらい問題ないですって!」

「でも下見てみろ! 明らかにまずそうな感じだぞ!」

「んー……ヴァリアとか私の故郷での基準ですから、この国の場合はちょっと厳しいのかもしれませんけど。ま! 最終的には【迅剣】さんに仲裁してもらえば大丈夫でしょう!」

「【百器夜行】があれだったんだから、またハズレ英雄な可能性もあるんだぞ」

「まっさかぁ。さすがにこれまで散々ハズレ引きまくったんですから、今回はそろそろまともな人に当たるころですって」


 あくまで笛や身振りでの警告が続くだけで、迎撃してこようとしないあたり、辛うじてまだセーフなのかもしれない。


「そこのあなた! 今すぐ飛行をやめて着陸しなさい!」


 と、そこに。

 風を纏ってふわりと浮き上がってくる魔術師がいた。歳若い女性で、口調や振る舞いに気位の高さが窺える。


「あ! もしかしてクラン・ララ・アルヒューレさんですか!?」

「違います。この区域の警備を管轄している者です。無暗に騒乱を起こすおそれのある遊戯飛行は禁止されています。今すぐ光を消して降りなさい」

「もうちょっとだけ許してくれませんか? クランさんにメッセージが届くまで」

「許可できません。警告に従わないのであれば、強制的に地面に降ろさせていただきます」


 言うなり、女性は身を翻した。

 纏っていたマントの内側から素早く杖が抜かれ、流れるように呪文が詠唱される。


「風よ、槌となれ!」


 竜巻のごとき突風が巻き起こり、グレイの光球を上方から叩き付けた。

 そのまま地上に落とされる――ことはなかった。


「ふっ。この私にその程度の攻撃は通用しません。分かったならクランさんを呼んできてください」


 味方の俺ですら腹が立つほどの得意顔で、グレイがふんぞり返っている。

 風の直撃を受けつつも、光球は揺らぐことすらなく健在だ。腐ってもグレイは【暴君】を倒した世界最強の魔術師。そんじょそこらの魔術師の攻撃は受け付けない。


「くっ……! あまりふざけた態度でいると、本当に逮捕しますよ!」

「まあまあ。そんなに怒らないでください。そんなに騒ぎを起こそうっていうつもりはありませんから。ただクランさんを呼んでくれれば」

「何か用?」


 とん、と。

 目の前にいた女性魔術師の肩の上に、まるで瞬間移動したかのごとく、唐突に姿を現した者がいた。

 黒い髪は肩口まで短く揺れ、目はどこか浮世離れした垂れ目をしている。


「私がクラン。あなたは誰? グレイという名は知らない。そんな友達はいない」

「クラン様!」


 足場にされている女性魔術師は、慌てたように肩上を見返る。


「このような賊を相手に、あなたが出る必要など……!」

「……賊? 悪い人たち? 斬った方がいい?」

「えっ、いえ。そこまではまだ……」


 そこでグレイが、嬉しそうに声を発した。


「あっ! あなたがクランさんですか! いえいえ賊なんてとんでもありません! 私は一目あなたに会いたかっただけです! なんせ未来の大親友ですから!」

「……大親友? どうして?」

「何を隠そう! この先あなたと私は強い絆で結ばれた最高の親友になるんです! さあ! 語り合おうじゃありませんか!」


 沈黙。

 最悪だった。ただの妄想癖のある馬鹿の発言としか聞こえない。このままでは、危険人物とみなされて敵対される危険すら、


「……どうして?」


 ところが、クランは首を傾げて、心底疑問そうに問いを返してきた。


「分からない。なんで親友になるの?」

「この先、世界は危機に直面します。そのとき、私は世界最強の魔術師として世界を救います。あなたはその右腕――つまり世界No.2として私の相棒になるんですよ。それが親友でなくて何ですか?」

「……世界が危ないの?」

「はい。ヴァリアに現われた怪物のことは知っていますか? あれを倒したのがこの私です。あの怪物がこの先、もっとたくさん出てくるかもしれないんです」

「うん、それは、とても大変」


 こくこくとクランが頷く。

 相変わらず足場にされたままの女性魔術師が、窘めるように声を放つ。


「クラン様! まともに聞いてはいけません! 何の根拠もない賊の言葉を……」

「でもこの人、本当に強いかもしれない」

「えっ」

「あなたの攻撃を受けても、全然効いてなかった」


 値踏みするかのように、クランが真っ直ぐにこちらを見据えている。


「私に、何の話?」

「はい! 仲間になって欲しいんです! あの怪物を倒すのに、戦力が必要なんです! 私に次いで強いあなたがいれば、怖いものなどありません!」

「分かった」


 俺は瞠目した。足場にされている女性魔術師も同じ表情をした。


「やった! ほぉらアランさん! やっぱりこの人は大当たりじゃないですか! 将来の仲間同士、ちゃんと目を見れば通じ合えるんですよ!」

「でも、一つ」

「はい?」

「あなたの話が本当かどうか、分からない。だから確かめさせて欲しい」


 じっとクランの目はグレイを睨み続けている。


「あなたは、世界で一番強いと言った。私は二番目だと言った。それが本当なら、あなたの言うことを信じる。あなたの仲間になってもいい」

「クラン様!」

「止めなくていい。さあ、こっち」


 クランの姿が急に消えた。

 どこに行ったのかと見渡して探せば、その姿はもう地上にあった。こちらを見上げて、グレイが降りてくるのを待っている。


「……なるほど。ここで決闘して、格の違いを見せつければ仲間ゲットというわけですね?」


 悪辣にグレイが笑う。

 その顔は、既に勝利を確信している。

 全力を出せば【暴君】にも勝利できたグレイだ。調子に乗るのは無理もないし、俺自身、おそらく勝てるだろうと踏んでいた。


「勝てるな?」

「もちろんですよ。アランさん、全力でサポートお願いしますよ」


 グレイが光球を地上に降下させていく。

 地に足を着けば、周囲は野次馬たちに包囲されている。そして真正面には【迅剣】クラン・ララ・アルヒューレが待ち構えている。


「決闘であなたに勝てば、仲間になってくれるんですね?」

「それでいい」

「手加減はしませんよ?」

「それでいい」


 俺は空模様を確認する。真昼間で、天候は晴天。グレイの力を発揮するにはこれ以上ない環境だ。


「じゃ、遠慮なく勝たせてもらいます。私が勝ったら、あなたのことはクララさんって呼ばせてもらいますね」

「なぜ?」

「だって、あなたの本名はクラン・ララ・アルヒューレさんって言うんですよね? 長いじゃないですか。だからクララさんって略させてもらいます」

「それ。さっきから、変だと思ってた」


 首を振った【迅剣】は、虚空に手をかざした。

 そこに突如として、銀色の刃を持った両刃の長剣が出現する。


「私は、クラン・アルヒューレ。ララなんて名前は、知らない」

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