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第33話『原動力』


 反撃の勢いが明らかに増した。


 グレイの攻撃が徐々に押し返されていく。

 まずい。

 既にこちらは掛け値なしの全力だ。俺の魔力もあと数十秒で底を尽き、グレイは無能に逆戻りしてしまう。


 誤算だった。まさか最後でここまでの抵抗があろうとは。


「くそ……! グレイ! こんなとこで負けるなよ!」


 もはや俺は、意識を保っているのだけで精一杯だ。割れそうな頭痛に加え、鼻の奥から鉄臭い血の匂いまでする。

 しかし、窮地に焦る俺と違って、グレイはむしろ落ち着いていた。


「大丈夫です。負けませんよ」


 空飛ぶ光球の中。眼下の【暴君】とミュリエルに向け、グレイは懸命に掌をかざしている。


「アランさん。言ったことありましたっけ。私、ヴァリアに出てくる前に一度だけ魔法を使えたことがあったんです」

「そういえば……前にそんな話してたな」


 河原で杖を試し振って、無能を晒した直後に「一度だけ腕力強化に成功したことがある」とか言っていた気がする。

 だが、今この状況でその話がどうしたというのか。


「田舎の山道を歩いてたとき、家族の上に降ってきた落石を殴り砕いたんです。まあ、そんなに大きい石でもなかったですけど……とにかく、そのときに一度成功したんです」


 二度目の成功は、とグレイは繋げる。


「あの黒い巨人から、アランさんを逃がそうとしたときです。あのときも自然に魔法が使えました」

「……おい。諦めムードで思い出に浸ってるんじゃないだろうな?」

「違います」


 機嫌を損ねたようにグレイが目を眇める。


「要するにですね――私は誰かを倒すときよりも、助けるときの方がずっと根性入るってことです。だって」


 灰髪がふわりと撒き上がる。

 これまでとは比にならないほどの存在感がグレイから放たれる。


「その方が感謝されますもんね! 助けた人からチヤホヤされますもんね! 私の勇名が轟きますもんね! そりゃ遣り甲斐があるってもんですよ!」


 その瞳に現金な光を煌々と湛え、最高に生臭い動機を叫び散らすグレイ。

 どう聞いても英雄らしからぬチンケな小物である。


 そうだった。こいつの原動力は、この有り余る自己顕示欲なのだ。


「だから負けませんよ絶対! あの二人が嫌な人じゃないってのはなんとなく分かりました! ここで助けて未来を変えて、私の偉業を崇めるチヤホヤ要員になってもらおうじゃないですか!」


 俺は魔力切れの苦悶に喘ぎつつも、笑った。


 グレイの背中を拳で突き押して、一言。


「勝て」


 次の瞬間、グレイの放つ光線が数倍に膨れ上がった。

 俺の制御下で放っていた出力を遥かに凌駕して。


「いっけぇぇぇぇえええ―――――っ!!」


 グレイの叫びとともに、白い光条が【暴君】の放つ魔力砲を呑み込んで伸長していく。


 目を焼かんほどの閃光。

 すでに限界を超えていたであろうグレイの光瀑がさらに爆発的に膨れ上がる。荒野に降り注ぐ陽光のすべてが攻撃に収束し、空が一瞬だけ日食のごとき暗転を見せる。


 轟音。


 足場を突き破って地に叩き落とされた【暴君】を爆心地として、地殻が吹き飛び抉れていく。アルガン砦の残骸も、着弾の余波だけで粉微塵に消し飛んでいく。



 ――そこでついに限界が来た。



「……すまんグレイ。落ちる」

「えっ?」


 俺の魔力が底を尽きると同時、空飛ぶ光球が消滅した。

 目の前の力比べに熱くなっていて、着陸のことまで考えていなかった。



 勝敗を確かめる暇もなく、俺とグレイは悲鳴を上げながら地面に落下していった。


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