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第7話 致命的な欠陥の露呈

城の外へ出たリュウは、とりあえず目を凝らして茂みを見つめる。

すると右前方の茂みに、わずかに揺れている部分があった。


89式のレバーを3の位置にスライドさせて、息を潜める。

距離はおよそ150、向こうはまだこちらの存在に気付いていないようだ。


ガサガサガサ……。


茂みから姿を見せたのは、中型サイズの魔獣狐シングルホーンフォックス。

額に生えた角で畑の野菜を掘り起こしたり、相手に突き刺して攻撃してくる厄介者だ。


照準の中央に得物の腹部がくるように見据えながら、引き金を静かに引いた。


タタタッ!


発砲音に反応して、シングルホーンフォックスの動きが一瞬止まる。

放たれた3発の弾丸は、腹部に吸い込まれる様に消えていった。


(1発だけでも当たれば良いと思っていたが、想像以上の命中精度だ)


実際の89式だと、命中精度はここまで高くはない。

思いもしなかった高精度に舌を巻いていると、シングルホーンフォックスがよろよろと動き出す。

腹部に3発全て命中したものの、致命傷には至らなかったようだ。


とどめを刺すべく再び照準を定めようとしたその時、突如指先から力が抜けた。


(な、なんだ!?)


銃が手から離れ地面に落ちると、そのまま前向きに倒れる。

その音でシングルホーンフォックスは、攻撃してきたのが目の前で倒れているリュウだと気付いた。

残る力を振り絞ってシングルホーンフォックスが突進してくる、しかしもう一方のリュウは身動きすら出来ない。


あと数歩で角が突き刺さるというところで、リュウの前に何者かが出てきた。


「どうやら、その銃には問題点があるみたいだな」


リュウをかばいシングルホーンフォックスにトドメを刺したのは、ブラドだった。

日の光の前に出ているので、身体のあちこちが焼け爛れている……。


「すまないがこれ以上日の光を浴びると、再生に時間が掛かってしまう。 一旦、城の中に戻ろう」


ブラドに肩を貸してもらいながら、リュウは問題点が何かを突き止める為に城の中へ戻るのだった。




「……これは恐らく魔力の枯渇が原因ね」


「魔力の枯渇?」


医務室のベッドで横たわりながら、医師のサキュアの説明に耳を傾ける。


「こちらの世界の住人では珍しいのだけど、皆無ではないわ。 その身に宿す魔力を使い切ってしまうと、魔力の代わりに精気を使ってしまうの。 だけどあなたや他の日本人は魔力を微量しか持っていないから、精気を代用してしまいたった3発で使い果たしてしまったみたいね」


あの魔王はなんて欠陥品を渡してきたんだ、一歩間違えば、死んでいたところだ。

怒りが込み上げているのを感じ取ったのか、サキュアがフォローに入ってくる。


「でもあなたのお陰で、この武器をどう改善すれば良いかが分かったわ。 次からは、精気を使い果たして倒れることは絶対に無いわよ」


その理由をたずねようとした時、医務室の扉が勢いよく開かれた。


「リュウ! ブラドから銃を撃って倒れたと聞いたのだけど、大丈夫ですか!?」


「大丈夫、大丈夫だから! 服を脱がそうとしないで!!」


シュリが混乱して着ている服まで脱がそうとするので、リュウが慌てて止める。


(ふふ~ん、なるほど……)


女の勘で何かにきづいたサキュアは、少しだけ2人をからかって遊ぶことにした。


「だいぶ回復したみたいだけど、少しだけ熱を図らせてもらうわね」


サキュアはそう言いながら白衣を脱ぐ、胸元を大きく露出させた服を着ておりかなりセクシーだ。


「どれどれ……?」


前かがみになりながら、リュウの額に己の額を付けるサキュア。

自然とリュウの眼前には、サキュアの胸の谷間がすぐ近くまで迫っていた。


ゴクリ……。


思わずつばを飲み込む、それを見たシュリがリュウの頬をつねった。


「痛たたた……! 急に何をするんだシュリ!?」


「リュウが鼻の下を伸ばしているからよ! それからサキュアさん、サキュバスの性かは知りませんがリュウを誘惑するのはやめてください!」


「あらあらシュリ様、リュウ殿が鼻の下を伸ばしたので思わず嫉妬してしまいましたか?」


図星を突かれて、顔を真っ赤にするシュリ。

リュウと目が合うと、耐え切れなくなったのか医務室を飛び出していった。


「もっ、もう知らない!」


呆然と見ているリュウ、一方のサキュアはケラケラと笑っている。


「あ~楽しかった! ごめんね、あなたを利用して遊んじゃって」


「感心せぬな、リュウ殿を使ってシュリ様をからかうとは……」


いつの間にかサキュアの背後にブラドが立っていた。

背筋に寒気が走るくらい、怒っているのが分かる。


「あっ、こ、これは、その……」


ふぅっ! とため息を吐くと、ブラドはサキュアがもっとも恐れる一言を放った。


「この事を母君に報告せねばならないな、これに懲りたら不用意な言動は慎むことだ」


サキュアの顔が一瞬で青ざめた、そんなに怖い母親なのだろうか?

その答えはすぐに分かった。


『サ~キュアちゃん、あなた何をしたのか分かっているのでしょうね?』


「……おっ、お母様!?」


医務室の中に女性の声が響き渡る。

するとサキュアが突然、何匹もの黒いコウモリに姿を変え逃走をはかる!


『逃げられるとでも思っているの?』


今度は部屋全体を黒い霧が覆いつくした。

サキュアが化けたコウモリは全てその霧に行く手を阻まれ、弾かれたサキュアは元の姿に戻り黒い霧も妙齢のご令嬢へとその姿を変える。


「シュリちゃんをいじめるなんて、許さないんだから!!」


それから5分もしない間に、サキュアは見るも無残な姿に変わってしまった。

一方のサキュアの母親は悪鬼羅刹の顔と化しており、リュウは恐怖から指1本動かす事も出来なかった。


「……さて、リュウ殿?」


振り返りながら、自己紹介を始める。


「私はこの至らぬ娘サキュアの母親で、魔王四天王の1人吸精姫サレア。 シュリちゃんを泣かせたら、あなたにもそれ相応の報いを与えますから覚悟してくださいね?」


「で、ではあなたもサキュバスってことですか?」


目を見るだけで惹きこまれそうになるが、耐えながら何とか質問した。


「サキュアちゃんはパパの血が混ざっているからサキュバスになってしまったけど、私は純血のサキュバスクイーンよ。 シュリちゃん共々、今後ともよろしくね♪」


(クイーンって女王の事だよな? でも何で姫!?)


異名と種族名が一致していないので困惑しているリュウの背中を、ブラドが叩いた。


「それを問いただして、サキュアと同じ目に遭いたいか?」


「いいえ、結構です……」


魔族四天王の中でも色々と力関係がある事を理解したリュウであった……。

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