第4話 後任者の真意
(魔王四天王の1人と戦おうとしていた所で、契約を解除されたのか…)
前任者の契約期間中にしてきた活動記録を見ていた後任勇者、虎島 巌はそれまでの評価を改め始めていた。
前任勇者は決してサボっていたのではなく、現地住人に一切危害を加えない様にしていたのだ。
その結果進行が遅れ、3年で成果を上げることが出来なかった。
「魔獣の退治だって何回も引き受けなければ、四天王全員倒しきっていた筈だ」
魔獣の退治は成果にならない、それでもこの世界の住人を助けようと動いていた。
呆れるほど善人のくせして、下手すると己よりも強いかもしれない前任者。
逆に目的を果たす好機かもしれないと、巌は考えた。
「とりあえずギルドの連中の目を誤魔化すために、アナザーニートの連中を襲うとするか…」
後任として送られてきた勇者は、強盗団の真似事をしていたアナザーニートのアジトを突如襲った。
事が露見しない様に口封じすると、貯めていた金塊や装備を全てギルドに納める。
契約してから1週間もしない内に大量の品を納めた巌を、ギルドの職員達は
『前任者と違い、非常に有能な人材』
と評価して、監視を緩め自由に行動させることにしたのだった。
後任が契約時の言動と全く違う行動をしていることを知らないリュウは、シュリと共に魔王とある計画を提案していた。
その計画とは…。
【日本が巨大ゲートを立てると同時に、こちら側の戦力を結集して逆侵攻を図る】
というものだった。
非生命体であるゴーレムの群れを先頭にして雪崩れ込み、そのままゲートを出た直後に待ち構えているであろう機銃の盾にする。
第2陣にドラゴンや飛龍を中心とした種族を投入して、狙撃兵などの排除と制空権の確保。
そして他国からの増援が来る前に政府中枢を占拠し、魔法の聖水と復活薬の価格を徐々に適正価格まで下げていく事を確約して他国の軍を撤収させる計画だ。
当初リュウは制空権を確保した直後に、聖水や復活薬の価格を公表する考えだった。
しかし魔王から今まで騙されていた人たちの怒りが爆発する恐れがあるので、止めた方が良いと言われた。
「下手をすれば政府の連中だけでなく、国民全員も奴隷にされかねない。 それだけの金額を騙し取ってきたのだ政府の連中は、うかつに公表すると国が滅ぶぞ」
問題は山積みだが何とかしなければ、両方の世界で犠牲者が増え続ける結果となってしまう。
失敗する訳にはいかない、その思いがリュウに焦りを生んでいたのだろう。
「そう焦らずとも良い。 我らの願いを聞き入れ、こうしてスカウトに応じてくれた事だけでも感謝しているのだ。 1人で全てを背負わず、徐々に仲間を増やしていくのだ。 そうすれば道はきっと拓かれる」
今後の活動の為の装備や資金の受け渡し等は明日行うことにして、リュウとシュリは一旦町に戻る事にした。
明日の待ち合わせの時間などを話していると、少し前から数人の男に尾行されていることに気がついた。
「シュリ、どうやら尾行されているようだ。 俺から絶対に離れないで」
「は、はい」
人気の無い路地の奥の行き止まりまで進んだリュウは、振り返ると尾行している男達に声をかけた。
「尾行に気付かれていないとでも思ってるのか? 登場しやすくしたんだ、早く姿を見せろ」
その声に反応したのか、ぼろぼろの服を着た男3人が姿を見せる。
何ヶ月も身体を洗ってないらしく、異臭すら漂っていた。
「お、女、女だ」
「俺たちにも、その女めぐんでくれ」
「ついでに金も少しくれ、腹が減って死にそうなんだ」
シュリは思わずリュウの背後に隠れた、心なしかガタガタと震えている。
リュウはシュリの頭を優しくなでると、男たちに憐れみの欠片も見せずに言い放つ。
「冒険者として生活している間、楽して稼いできた結果だ。 魔獣を退治することもしないで、こちらの世界の住人の家を襲撃して暴行略奪をおこなう。 人の誇りすら捨てたおまえらを救う義理は無い。 勝手に野垂れ死ね、恥知らず共が」
逆上した男達が胸元からナイフを取り出した、あちこち刃が欠け落ちているが殺傷力はまだ残っているようだ。
リュウが迎え撃とうとした時、背後から拍手をする者が新たに現れた。
「まるで麗しの姫を懸命に守るナイト様じゃないか、そうやって魔獣も退治してきたのか? 伝宮 龍」
「誰だ、お前は?」
「俺か? これを見れば、説明しなくても分かる筈だ」
そう言って見せてきたのは、数週間前まで自分が装備していた武器や防具だった。
「…後任か」
「当たり。 正体が分かれば俺が今、何を取り出すかも予想付くよな?」
懐に手を伸ばすのを見て、リュウはシュリの視界を手で塞いだ。
「すまない、耳までは塞げない。 出来る限り聞き流してくれ」
プシュッ! プシュッ! プシュッ!
3回空気が漏れるような音がすると、男たちが苦しみながらその場に倒れる。
辺りに静けさが戻ると、リュウはシュリの視界を塞いでいた手を外した。
「今、一体何が?」
リュウに聞こうとすると、目の前には3人の死体が転がっていた。
それを見たシュリは、その場に尻餅をついてしまう。
「ひぃっ!」
ちょろちょろちょろ…。
背後から何かが流れる音と、アンモニア臭がただよってきた。
恐怖のあまり漏らしてしまったシュリには後で謝るとして、リュウには目の前に居る男の真意を知っておく必要があった。
「助けてくれてありがとう…って言いたいところだが、前任者の俺をわざわざ探しに来るとはどういうつもりだ?」
「そう警戒しなくて良い、こっちの世界に出来るだけ多くの信頼出来る仲間を作っておきたいからな」
仲間? 急に何を言い出すんだこいつ。
警戒心を強めるリュウに向かって、巌が本当の目的を語る。
「伝宮 龍、俺に協力しろ。 俺は今の腐った連中に富を独占され、支配される世の中にうんざりしている。 日本は巨大ゲートの建造計画を開始した。 そのどさくさを利用して向こうのお偉方を殺し、俺たちで日本を支配しないか?」
日本の新たな支配者になりたい巌と、こちらの世界の住人を救いたいリュウ。
手を結ぶべきか、断るべきか。
難しい判断を迫られている…。