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第3話 命の価値

「シュリ、教会で買える魔法の聖水。 あれ1本いくらで購入することが出来る?」


リュウから急に質問されて、シュリは戸惑いながら当たり前の答えを返した。


「なにをいまさら…銅貨1枚に決まってるじゃないですか。 【病に苦しむ者から金を多く取ろうとする者はミミズにも劣る】と古くからの言い伝えにもあります」


この世界ではどんな病さえ治してしまう薬が、たったの銅貨1枚で買えてしまう。

銅貨1枚が100円相当なので、その安さが分かるだろう。


「これを手に入れた日本の政府が、一体いくらで売っていると思う?」


「輸送費を加えても、精々銅貨2枚では?」


「500万円、白金貨50枚だよ」


「なんですって!?」




ここでこちらの世界に通貨について軽く説明しよう。

最低の通貨が銅貨で、最高が前述の白金貨である。


銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚、そして金貨10枚で白金貨1枚。



こちらの世界の聖職者たちの善意と慈悲を、日本政府は金儲けに利用しているのだ!

腫瘍が全身に転移して余命わずかな人たちに、品切れと嘘を言い倍の値段で売ることも平気で行う。

数千本、数万本の在庫があるにも関わらず。


今の日本は文字通りミミズ以下の一握りの人間が富を独占する、醜悪な国と化していた。


「無論、これまでにも多くの元冒険者が隠して日本に持ち帰ろうとした。 本来の値段で広めたい人も居たけど、密輸で一攫千金を狙う人の方が多かったと思う」


シュリは静かに話の続きを聞く。


「けれど誰1人、日本に持ち帰ることは出来なかった。 検疫と称した徹底的な身体検査で、持ち込みを防がれた。 そして品物を没収されるだけでなく、自殺に見せかけて処分された…」


「なんで、そんな簡単に人の命を奪えるのですか!?」


「国民の生活よりも、自分がより肥え太る方が大事な人たちに政治を預けてしまったのが原因だ。 国民はいくらでも湧くボウフラと思っているんじゃないかな?」


絶句しているシュリにリュウは気になっていた事を尋ねた。


「そういえば聞くのを忘れていたけど、シュリの祖母である魔王はゲートの仕組みについて何か研究とかしているのか?」


「いえ、特にはなにも…。 破壊さえすれば、すべての事が収まるとお考えですので」


「それは危険だ、日本では既に半世紀以上に渡って研究が行われている。 ゲートを破壊されたとしても再構築可能にするのはもちろん、より強力な兵器を送り込む為に」


悪い意味での勤勉さがここで発揮されていた、ゲートはこれまで人が通るのがやっとの大きさだった。

そのお陰でこちらの世界に車両などを持ち込まれることが無かった為、大規模な侵略行為は行われなかった。

だが人の欲に限度は無い。 ゲートを破壊された場合に再構築する為の研究が、徐々により大きなゲートの構築に目的がスライドしていった…。


「魔王からのスカウトにすぐに応じられなかったのは、同じ日本人を狩ることに躊躇していただけじゃない。 ゲートを破壊するにしても、強力な武装をした相手に挑む可能性が高いからなんだ」


「強力な武装とは、かつてお祖母様を封印した剣の様なものですか?」


「そんな生易しいものじゃない。 指先くらいの大きさの鉛の弾を、向こうに見える丘の上から精確に額に撃ち込める筒状の武器。 ゲートの向こう側の兵士達は、全員それを所持しているんだ」


「【銃】と呼ばれる異端の兵器のことですか?」


剣と魔法の世界に銃が最初に持ち込まれた時、弓や魔法の射程外から一方的に撃ち出される悪意を前に打つ手は無かった。

ある程度の装備を手に入れクーデターの可能性に恐れを抱いた政府が銃の貸与を禁止するまで、異端の兵器は猛威をふるう。


「ゲートの反対側には、銃よりも恐ろしい兵器が大量にある。 こちらに持ち込ませる訳にはいかないが、魔族だけじゃなくこちらの世界の住人の力もきっと必要になるだろう。 だが優先してやっておくべき事が1つある」


「それは?」


「俺の後任として送られてくる新しい勇者を、撃退もしくは仲間に引き入れなければならない」




リュウとシュリが食事をしながら会話をしている時、とあるビルの一室で契約書を交わしている者が居た。


「…以上がおおまかな規約となりますが、何か質問はありますか?」


「ああ、この【魔王】って奴とその部下を契約中に全員始末すれば良いんだな?」


「ええ、そうです」


「こんなヌルゲーで正社員になれるのに、前の奴はサボり過ぎだったんじゃねえの?」


あまりの酷評ぶりに、担当者も苦笑いを浮かべている。

新しく勇者となろうとしている者が、過去に魔王を倒した者と同じ質問をした。


「あのゲートの先は日本じゃない、つまり何をしてもお前らは知らぬ存ぜぬしてくれる訳だな?」


「はい、それなりの成果さえ出してくれれば何も問題ありません」


「…言ったな」


担当者から契約書を取り上げ、名前を記入しながら男は言った。


「じゃあ俺はあっちの世界に自分の領地でも持たせてもらうぜ、魔王を倒すついでに手頃な国を奪い取る。 終身雇用の勇者様が治める国だ、ゲートの研究で使う実験台の調達も楽にしてやるよ」


リュウはこの時知らなかったのだが日本政府は新しく建造予定のゲートの通過実験に、異世界の住人を拉致する計画を立案していた…。

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