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第2話 冒険者たちの正体

「伝宮 龍よ、お前は私の孫の父親が一体誰か分かるか?」


孫? 孫って一体誰の事だ?


「お前を転送させた、シュリの事だ。 あの娘は、私の孫だ」


そういえば、目尻のあたりとか顔の輪郭がどことなく似ている気がしないでもない。

しかしそれが俺のスカウトとどう関係するというのだろうか?


「いきなり言われても…。 教えてくれるのか?」


「ああ、よかろう。 あの娘の父親は、私を封印した先代勇者だ。 先代はな、私を封印した後にあろうことか我が娘を犯して身ごもらせたのだ」


「ちょっと待て! 前任者がそんな事をしていたとは、まったく聞いていないぞ!?」




突如聞かされた前任者の蛮行に龍は驚く、そして魔王の口からは他の冒険者達の卑劣な行いについても語られた。


「この地に送られてきた冒険者たちはな、盗賊よりもたちが悪い。 冒険の成果と嘘をつき、民家に押し入って強盗を働く。 実際にダンジョンに入る者も居るが、そんなのは極わずかにすぎない。 パーティーと称して窃盗を働く無法者達、それが冒険者の正体だ!」


殺気を漲らせていく魔王の姿を見て、それが本当のことだと龍は確信した。

ならば冒険者や勇者と称してこちらの世界に送られてきた自分達は、侵略者と同じではないか?

そんな風に思えてきた。


「お前が与えられた力に酔うこと無くだらだらと勇者生活を送ってくれたお陰で、こちらの被害も最小限で済んでいる。 その間に何人かの冒険者を排除する事も出来たからな」


排除…よほど目に余る行いを繰り返してきた冒険者なのだろう。

この世界のルールで罰せられたのかもしれないが、出来れば日本でその罪を償って欲しかった。


「無理だ、日本政府の連中はこちらを日本国内と認定していない。 捕まる心配が無いから冒険者達は暴行略奪に走り、その成果を国が搾取しているのだ」


言い訳のしようが無い事実。

つまり立ち寄った町や村で住人の愛想が良かったのは、気分を害して襲われない様にする知恵みたいなものだ。

見えない所で、どんな罵詈雑言を浴びせられているのか想像すら出来なかった。


「それじゃあ、ハーフやクォーターの存在を政府が認めようとしないのは!?」


「勘が良いな。 ハーフやクォーターを認めれば、自らが主導で送り出してきた者たちの愚行も認めることにもなる。 そんな真似、する筈が無かろう」


ゲートを破壊する目的がようやく理解出来た、これ以上この世界に来て欲しくはないのだ。


「冒険者のすべてが悪い訳ではない。 だがこの世界に残るアナザーニートの多くが犯罪行為に手を染め、住人を苦しめる存在となっている。 お前にはこの世界の住人を救ってくれる、本当の意味での勇者となって欲しいのだ」


魔王に乞われて勇者となる…その意味は同胞を狩り、故郷へ帰る手段を無くすこと。


「結論を急いで出す必要は無い、だがあまり長く待つことも出来ない。 待っている間も犠牲者は増え続けるのだから…」


考える間、シュリが身の回りの世話をすると魔王が言ってきた。

そして引き受けてくれる際に、それなりの装備を渡す旨も伝えられた龍は再び元の町に帰された。




「このような願いを言える立場ではありませんが、龍様が引き受けてくれることを心から願っております」


戻ってきた龍を出迎えたシュリの言葉を聞いて、心が痛んだ。

だがそう簡単に答えが出る問題では無い。

同じ日本人を討てるかどうかすら怪しいのだ。


思い悩んでいる龍の顔を見て、シュリが小さく微笑んだ。


「お優しいんですね、龍様は」


「いや、優しくなんてないよ。 本当に優しい人なら、ここまで悩まずに即答で勇者を引き受けていたと思う。 それなのに日本に帰れなくなるかもしれない事を気にしている俺は、シュリさん達からして見れば偽善者に近いだろうね」


「あの…私のことは、シュリと呼んでくださって結構ですよ」


「それじゃあ、俺のこともリュウで良いよ。 龍だと言いづらいかもしれないから」


その後リュウとシュリは町の中を適当に歩きながら、お互いのことを紹介しあった。

シュリの母親は産んですぐに心労がたたって若くしてこの世を去り、魔王の側近の1人が乳母の代わりをしていたそうなのだが…。


「えっ!? じゃあ、あのブラドがシュリの育ての親なの?」


「ええ、実はそうなんです。 うっかり私に排除した冒険者の生き血を与えようとして、お祖母様からえらく怒られたそうです」


シュリが笑いながら、当時を振り返る。

その笑顔を見ながらリュウは、母親が生きていればもっと違う人生になっていたのだろうと思わずにはいられなかった。


時間が瞬く間に過ぎ去り、日も暮れようとしている。

まだ語り足りない2人は場末の寂れたレストランに入ると、ちょっとした貸し切りの気分を味わいながら夕食を食べることとなった。


「私の本当の父、いえ先代の勇者は日本に戻ってどんな暮らしをしたのか分かる範囲で良いので教えてくれませんか?」


シュリからのこの問いかけに、リュウはありのままを話す。


「先代の勇者は国に莫大な富と安寧をもたらしたと高く評価され、ギルドに正規雇用される。 そして圧倒的な知名度を武器に政界へ進出し、以後その子孫は搾取する側の生活を満喫しているよ」


「それでは今もその血は途絶えずにいるのですね?」


「ああ、そして…」


リュウは1度言葉を切ってから、強い口調でシュリに話した。


「…そして現在の日本の首相こそ、先代勇者の孫の高部たかべ 慎二郎しんじろうだ」

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