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王女を取り巻く大人の話

 美しい花の国、白の王国、この美しさにひかれる他国の者は多い。


 白い石造りの建物、黒い木の窓枠、茶色の屋根、柔らかく茶色があせた色した石畳のが道、そこに樹木がバランス良く植えられている。


 そして何より一番目立つのは、彼方にこちらに、耐えること無く、次々と咲き続ける艶やかな『深紅の薔薇の花』


 溢れる様に群生している。かつては白の王国にふさわしい、純白の薔薇の花が咲き誇っていたが、今ではそれ一色になっていた。


 ×××××


「全く、あの花も困った物だね、一度触ると絡み付き血を吸われる」


 一人の母親が我が子の髪を、染め粉で黒くしながら、気をお付け、お隣のが転んで花に食われたよ、と声をかけた。


「え?おとなりの?転んじゃったの?お花の上に?」


 娘が振り返り、母親に尋ねる。前をおむき、と母親はそれを制すると、万が一があるからね、こうして染めなきゃいけない……


 そこで、ため息をつく母親、そして真剣な声でいい放つ。


 そうだよ、転んでね、お花の呪いに殺されてんだよ、前の王様と同じ様にね、王様はお姫様を庇ったのだよ、お前もお気をつけ。


「早く呪いが解けないかねぇ、おとぎ話じゃ『金の華』を差し出せばと、言われてるけど……」


 母親は、目の前に座る我が子を、案じる様に眺める。彼女の娘は、綺羅な金の髪を持って生まれていたのだ。


 庶民は、瞳の色がそれでは無いので『華』では無い。しかし、万が一を思いその色の女達は、髪を染めるのが習わしになっていた。


 ……今の『王女様』噂に聞くと『金の髪』だったらしい。それにお目のお色も確か『瑠璃』……女王様が『華』であると、お認めになったとか、次の晴れし時に、彼方に行かれる?小さくとも、さっさと渡しゃいいのに。


 常に危険と背会わせに、暮らしている街の人々は、この母親と、考えが同じなのは、言うまでもない。


 ×××××


「いいですか、あなたは次の晴れし時に、輿入れするのです。国に恥じぬ、ふさわしい立ち居振舞い、知識を身に付けなさい」


 元より前王の死後、女王の位に着いたブランカの母親は、国を守る多忙な日々の中で、幼い彼女に愛情をかける事が、どういう訳か希薄だったが、この夜を境にそれは更に深まった。


 一日を通して、礼儀作法から始まり、勉学は勿論、音楽、舞踏、刺繍……ありとあらゆる事を学ぶ事のみに、ついやされた。

 

 ……彼方に此方の者は、連れて行く事はなりません。側近の騎士が一人おればよい。


 にべなくそういい放つ女王。それから間もなく、王宮から、外に出れる年齢になった王女に仕える者を、との家臣達の声に対しての言葉。


 そしてしばらく後、闇夜と名をつけられた少年が、唯一の王女の側仕えに年若ながら、女王から『称号』を与えられて、終生を誓い、その任に着いた。


 ×××××


「せめてその時迄は『黒』にされればよろしいのに……」


 ブランカが自室から、出ると密やかに囁き声がまとわりつく『華』と女王が認めた為に、


 その必要は終わりました。と、陛下の告げられ、艶やかに光る髪に戻された王女。


 それは綺羅に光り放ち、とても美しいがこの国では、何処か『呪い』そして『王の死』を彷彿とさせるのか、人々は、不吉な物に取りつかれ、冷たく彼女に目をやる。


 うつむく事は許されません。王族は毅然と前を向くもの。


 冷酷な母の教えが、彼女の血となり肉となっている。ブランカは毅然とそれらを跳ね返すかのように、声に視線を向ける。


 青く炎の様な瞳を受けて、黙り混む囁き声。そして彼女は、女王に呼び出されて戻らない、己に唯一仕える者を、探しに城内を歩く。


 また、ろくでもない者に絡まれてると、想いながら……



 ×××××


 年若いにも関わらず、称号を与えられている闇夜は、何かと絡まれてる事が多い。


 今日も女王陛下からの用が終わり、主の元へ帰り際に、めんどくさい者達が、人目のつかぬ場所で待ち構えていた。


 お前は生意気だなぁ、親の七光りで王女様に取り込んだくせに、


 ため息しかでない闇夜、剣の腕前は彼等達より上なのだが、城内で抜刀は禁止されており、破ると王女に、父親に迷惑となる。


 なので、なるべく穏便に、逃げる事を選択するのだが、それはそれで時折負傷する事にもつながる。


 今日も上手く立ち回りつつ、交わしていたのだか、相手が複数ともあり、苦戦を強いられていると


「みなさんは、何をされているのかしら……」


 そこに現れたのは、綺羅に輝く髪を持つ少女のブランカ王女。人々の囁き声を一瞥で閉じさせる事のできる射るような、青の視線を放っている。


 彼から離れなさい!といい放つと、ツカツカと近付き、道を割る。そして逃げ出す事も出来ない者達の前で、


 先ずは闇夜に、側に居合わせる者達が、首をすくめる音を彼の頬に飛ばす。


「あなたは!何を考えてますか!自分の身は守りなさい、それすら出来なくて、私を守る事ができますか!」


 それに対して頬を押さえ、答える闇夜。


「しかし、王女様、剣を使えば何とかなりますが、流石に素手だと複数は……」


「ならば、私がゆるします。叩ききりなさい!」


 その言葉に唖然とする、その場に居合わせた者達。そしてその後、闇夜以外の者達にも、当然ながら、彼女の指導が頬に飛ばされたのは、当然の成り行きだった。



 ―――強くなければ、ここではいつか闇夜があやうい


 ブランカはそう思っていた。彼が怪我を負うのは過去にもあったのだ、その都度女王に呼び出され叱責を受けていた。


「ただ一人の人間も守れないとは!情けない、それでも王女なのですか、貴方が弱いと闇夜は、そのうち命を落としますよ」


 すみません。母上、と彼女は唇を噛みしめ答える。まだ母の愛情を、受けて育つ年にも関わらず、それとは無縁の冷たい対応。


 身の回りの侍女達も、余分な言葉は一言もない。彼女が問いかけても、お答え出来かねます。この一言。


 城から外の大聖堂へと出向ける年に、側近として闇夜が仕える様になった。


 彼のみ、ブランカの問いかけに答え、他者が居ない場所では、無駄口を返してくれる。外の世界を話してくれる。


 ブランカを、呪いも、過去の事実も、何もかも知り得た上でその事には関係なく、仕えてくれる……闇夜の存在。


「出来ぬならば、闇夜を親元へと帰します」


 女王の声に、はっと、その表情を強ばらせるブランカ。そして頭を下げ、許しをこう。


「申し訳ございません、このような事にならぬよう気を付けます」


 対して女王の言葉は辛辣だった。


 次はありません、以後気を付けなさい、しばらくは謹慎です。部屋から出ないように、と冷たく告げる女王陛下。


 その言葉に少女ながらに、理不尽なものが込み上げる。


 そんな彼女に、下がる様に促す女官長、


 王女は思う。闇夜が彼等に喧嘩を売った訳でもない、卑怯にも複数で、絡んで来たのはあちら。


 なのに理不尽にも、弱いからと叱責を受ける自身。そこまで母上は私が父上をあやめる事になったと聞かされた『あの事』がゆるせないのかと思う。


 強くならなければいけない、ここは『白の国』親子の、そして人の情など無い国。


 凍り風を引き連れ、冷たく降りしきり、徒歩にて旅行く者の命を奪う、空から舞い降りる白き雪。その色を名にもつ事に、ふさわしい冷たい国。


 この国の人々は皆そう。母上もお城の人たちも、大聖堂に向かった時に出会う、街の人々も


 呪いをとくために、さっさと彼方に行けばいいのに、と囁き、視線を送る。冷たい冷酷な人間の国。


 ブランカは女王の前を下がり、部屋へと向かう。そして無意識に、背に流れる髪の一筋を前に出し握る、


 そしてあわてて、それを振り払う、あの事は夢、それにすがっていては強くなれない。


 代わりに手を見つめる。あの時、バルコニーで出会ったやがて自分が嫁ぐ国の使者。


 姿形はまるで違う、恐ろしい者だったが、優しく声をかけてきた。その声を思い出してた。


 そして寒さに冷たくなっていた手を、しゃがみこみ、暖かく包んでくれた。あの温もりを……


 僅かな思い出をよすがに、生きてる。ここでの冷たい毎日。


 後何年、幾日、朝が来ると数え、夜になると指折り過ごしているか……


 そしてその日が来たら、一族の者も、家臣達も、国民も、母上も全てを捨て去り、


 闇夜と共に国を去る、決して後ろは振り返えらない。


 そんな想いを心に刻み、ブランカ王女の時は過ぎて行く……




























































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