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第28話 どうして……なんで……

前回のあらすじ……騎士団長が肉の塊になりました。

「何してるのって、見たらわかるでしょ。悪魔召喚だよ」


 俺は、背後から声をかけてきた声の主に丁寧に教えてあげる。


「何、言ってるの?」

「そのままの意味だよ。悪魔を召喚して契約してるんだ。もう、そろそろ終わるからちょっとそこで待ってよ、エレイン。あ! 後、そんなに心配しなくてもこの前のとは違って、こいつは襲ってこないよ。そういう契約はしていないから」


 俺は、振り返ると優しい笑顔を投げかける。見た目が恐怖を呼び起こす悪魔がいるからこそ、俺が安心感を与える必要がある。


「ねぇ、そこに倒れているのってもしかして騎士団長?」


 深紅の髪を振り乱し、唖然と目を見開くエレインが尋ねてくる。


「ん? ああこれ? そうだよ、元々騎士団長だった肉の塊だよ」


 俺は、足の先で人型の肉の塊を蹴る。


「……ジャックが騎士団長を殺したの?」

「そうだよ。俺の邪魔をしようとしてくるから、殺したんだよ」


 ついでに言えば、これは正当防衛のはずだ。だって先に俺のことを殺そうとしてきたのは、騎士団長だ。


「……なんで……どうして……」

「いや、どうしてって、さっき言った通りなんだけど……」


 エレインは、初めて見る悪魔に混乱しているのかもしれない……あれ? この前グネヴィア卿が召喚した悪魔と戦っていたような? まぁ、いっか。そんなことよりも悪魔に契約を履行してもらう方が大切だ。


「それよりちょっと待っててよ。もう少しだからさ」


 俺は、悪魔に向き直ると、革袋の中身を漁ると魔導陣の中に放り込む。


「これで最後だろ。しっかりと契約を履行しろよ!」

「ああ、確かに我の望んだ臓物だ。少女の心臓ハツはコリコリ感がたまらんのだ!」


 悪魔も満足したようだ。これで、ジェーンの病気も治ることだろう。


「今回も、余った他の臓物も持ってきてやったぞ」

「本当か!? さすがだな。血抜きも完璧か?」

「ああ、もちろんだ。抜いた血も瓶詰にして持ってきてある」


 今度は革袋ごと魔導陣の中にいる悪魔に投げ渡す。


「持つべきものは、契約者だな」

「そうだ。これも今さっきできたばかりの、肉なんだがいるか? 男でもよければだが……」


 傍らに横たわる元騎士団長、現肉の塊を目線で指し示す。


「男は、肉が固くてうまくはないが、貰えるものは貰っておこう」


 俺は、片腕に力を籠め魔導陣の中に放り込もうとする。


「やめろ!」


 唐突にエレインが叫ぶ。


「え?」

「やめろ! 騎士団長に触るな!」

「エレインもこの肉を何かに使う予定だったの?」


 狩ったのは俺だけど、エレインが何かに使うなら渡すのもやぶさかではない。これでエレインに恩が売れるなら安いものだ。


「一緒にするな! 私は、私は……!」


 腰に帯びたロングソードが抜き放たれる。エレインの瞳には、憤怒の炎が灯っている。


「……エレイン。エレインも俺のこと邪魔するの……?」


 ここまでしっかりと好感度を上げてきた人物二人を今日ここで一気に失ってしまうのは痛手だ。


「黄金獅子魔導騎士団団長付き魔導騎士、エレイン・アストラットの名において汝に決闘を申し込む! 燃え広がる魂(バーニングソウル)


 本物の騎士が放つ加速の乗った一撃には、燃え上がる炎が巻き付いている。片腕の俺が受けきれるものではなく、俺の体は砲弾のごとく飛ばされる。


 激しく大樹の幹に打ち付けられ、肺から空気が強制的に排出され、人間の本能が新しい空気を求める。

 しかし、俺が空気を肺に入れることをエレインは許してくれない。さらなる追撃が俺に襲い掛かってくる。


「どうして騎士団長を殺したの!?」


 紅蓮の炎を纏った刀身が振り降ろされると共についさっきと同じ問いが投げ掛けられる。

 俺は、酸素を欲する体に鞭を撃つと真横に転がる。体のすぐ横を炎が駆け抜け、髪の毛が数本、チリチリと白い煙を上げる。


 俺の体が打ち付けられた大樹は、エレインの一刀でメキメキと音をたて倒れる。その切断面には、エレインのロングソードと同じ紅蓮の炎が揺らめいている。

 転がりながらも、肺に空気を入れることに成功した俺は、エレインでも理解できるように単純明快に説明する。


「ジェーンのために敵を殺したんだよ」

「そんな、そんな独りよがりな理由で騎士団長を殺したのか!」


 縦横無尽にして精密に繰り出される、魔導を織り交ぜた斬撃をスレスレで躱していく。


「エレイン達だって同じじゃないか」

「私たち騎士の崇高な使命を殺人と一緒にするな!」


 エレインがつばを飛ばしながら吠える。


「崇高な使命? 俺だってジェーンを守りたいという崇高な使命の為だよ」


 ジェーンを守るということ以上の気高い行為があるのだろうか?


「ジャックが妹のことを大切に思っていることは、もちろんしているし理解している。しかし、それが大勢の人の命を奪っていいということにはならない!」


 エレインの痛烈な刺突が衝撃波を伴って繰り出される。


「なんで? エレイン達騎士も帝国の為とか言いながら、本当は皇帝陛下の為に大勢の敵を殺しているんでしょ」


 俺は新たに産み出した漆黒の剣で、エレインの刺突をいなす。


「そんなことはない!」

「じゃあ、敵に蹂躙される貧しい帝国の村と皇帝陛下、どちらかしか助けられないならどっちを助ける?」

「……それは」


 エレイン自身が生み出した刺突の勢いを利用した頭突き(カウンター)がエレインをとらえる。兜をかぶっていないエレインの額から燃え盛るような赤色の血が一筋、流れ出る。


「ほら! 同じじゃないか。エレインだって一人のために大勢を殺しているじゃないか」

「違う! 私は皇帝陛下も弱き人も両方助ける!」

「そんなことできないよ」

「出来るように努力する。神は人の努力を裏切らないのだ」


 確かにエレインは、一緒に仕事をしていた期間、毎日欠かさずに鍛練に励んでいた。神への祈りも欠かさずに。流石は正義の体現者だ。


「……フハハハハハハハ……エレインは本当にすごいよ。尊敬する。お世辞抜きにすごいよ!」


 エレインは帝国騎士として騎士の矜持を完成に体現する存在なのだ。だからこそ、己の正義に一切の疑念を持たない。そして、他者が必ず己の正義を理解してくれると信じているのだ。


「……でもね、それは自己満足だよ。エレインは正しいことをする自分自身に酔っているだけだよ」


 弱者を助ける自分。命を賭して国を守る自分。正義を行う自分。騎士なんてみな、それらを行う自分たちに心酔しているだけだ。他人がどう思おうが知ったことじゃない。

 敵がどんな想いを胸に抱いて戦っているのかなど考えたこともないはずだ。


 俺の頭突きを受けてひるんだエレインに剣戟、魔導だけでなく体中のありとあらゆる部位を使った攻撃を乱れ撃つ。


「才能のない俺みたいな人間は、エレインみたいに全てを手に入れることなんてできないんだよ。だから、本当に大切なもの以外を切り捨てるんだ」


 エレインの乱撃によって森の木々は、俺たちを中心に轟轟と燃え始めている。その光景は、まさに灼熱の地獄で、悪魔がいるにふさわしい光景だ。


「切り捨てた結果が禁忌の悪魔召喚に帝都での連続殺人、騎士団長の殺害だなんておかしいよ! だって、私の知ってるジャックはそんな人じゃない!」

「おかしくないよ。俺は、本当に大切なもの(ジェーン)の為なら何でもする。労働も看病も強盗も殺人だってやる。俺の命が必要なら神でも悪魔にでも捧げるよ。それでジェーンが助かるなら何の問題もない」


 俺は、師匠に拾われるまでの数年で正義とは、必ずしも正しくないことを知った。

 他人の物を盗むのはよくない。人の命を奪ってはならない。そんなことは、俺も理解している。

 じゃあ、食べ物を盗まなければ生きていけない時。人を殺さなければ生きられない時。正義のため死ななければならないのだろうか?


「俺のことを悪だと言うのなら、俺の行いを罪だと言うのなら、そんな世界ぶち壊してやる!」


 俺の攻撃を回避しながら後退し続けていたエレインの背後に紅蓮の壁が立ちはだかる。これでもう逃げ場はない。


 俺は左腕に力をこめ、空高く振り上げた漆黒の剣を重力に導かれるようにエレインに浴びせる。

 エレインは手に持つロングソードで防ごうとするが一足遅い。既に完全に防ぎきれるような状態ではない。


 エレインの面前で打ち合わされた二つの剣は、乾いた金属音を響かせる。エレインの深紅の瞳に漆黒の剣の切っ先が深い傷を作り出す。


「っっ!」


 エレインが声にならない嗚咽を上げて右目を抑える。


「無駄に防ごうとするから、一思いに殺せなかったじゃないか。次は、避けたりしないでね」


 俺は今度こそ確実に息の根を止めるべく、正眼に剣を構え直した

お読みいただきありがとうございます!


お兄ちゃんは妹のために今日もがんばります!

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