第21話 確信
前回のあらすじ......ジャックは、帝国一金持ち貴族の豪華絢爛過ぎる屋敷の装飾品にビビりまくった。
俺とエレインは、老執事に見送られてスチュアート伯爵の屋敷を後にした。
「どう思うジャック?」
道すがら、エレインが聞いてくる。もちろん内容は、伯爵の挙げた人物のことについてだ。
「俺は、可能性は高いと思うよ」
率直に答える。
「……しかし……」
「エレインの言いたいこともわかるけど、状況証拠は完璧だ。禁書指定の魔導書の入手も現場からの証言の鈴の音も高位の魔導を使えることも当てはまってる。さらに、まず間違いなくアリバイもない。ほぼ間違いなく犯人だよ」
実際の俺の心では、確実に犯人だ。絶対にだ。
「動機は何なの?」
「それは、分からないよ。本人に聞けばいいと思うよ」
本当は、動機も見当はついている。
「でも、もしこれが事実なら帝国にとって政治的な意味でも大事件だ。慎重にならなければ……」
この期に及んで、エレインは現実を直視できていない。立場ある人間だからこそなのだろうが……俺にとっては早期解決が重要だ……いや、既に早期解決ではないのか?
「そんな悠長なこと言っている場合なの!? エレインは次の犠牲者が出てもいいと思っているの?」
それに、早く解決しないとマリーン従医長にジェーンを診てもらえなくなってしまう。
「そうゆうわけではないが……決定的な証拠がなければ……」
「善は急げ! 思い立ったが吉日だよ!」
「……確かに、そうだな。帝国臣民が安心して眠れるようにするのが騎士の務めだからな」
ジェーンが安心して暮らせるようにするのがお兄ちゃんの務めだからな。
「そうと決まれば、騎士団長に報告しなければ……」
エレインの言葉を遮るように『精霊の住処』が鳴り出す。
「噂をすればなんとやらだ。ちょうど騎士団長からだ……はい。こちらエレインです」
『精霊の住処』を耳元に当てて、見えない騎士団長とエレインは喋り始める。
「はい……はい……犯人について……そうです。間違いありません。……本当ですか!? すぐにそちらに向かいます」
「騎士団長、なんだって?」
エレインは、騎士団長との連絡を終え『精霊の住処』をベルトのポーチに戻す。
「現場で決定的な証拠を見つけたって!」
「え!? どうやって?」
現場検証は、俺とエレインで隈なく行ったはずだ。あそこからこれ以上証拠が出てくることなどありえない。
「ついにリュネートの作っていた『残留魔力検知器』がしっかりと動作したみたいだ」
「えっ……! よ、良かったね!」
「まだ結果分からないとに事だ。急いで現場に向かおう!」
「もちろん!」
俺とエレインは、来た道を現場に向かって走り出した。
「お待たせしました」
近衛兵によって無残な死体が既に撤去された事件現場に到着する。死臭はいまだに漂っているが幾分かましになっている。
「こっちだ!」
俺たちを待っていてくれた騎士団長についていくと、リュネートが何やらいじくっている。
リュネートがいじくっている箱形の何かには『残留魔力検知器』が細い線でつなげられている。
「これなんですか?」
「私にも分らん」
騎士団長にも分からない事らしい。
「ただ、検出した残留魔力に何かするものらしい。つまり、決定的証拠だということだ」
「本当ですか!?」
「よし!」
続いた騎士団長の言葉に俺とエレインは喜びを隠せない。
今回の一件で事件は大きく解決に向けて動いている。
「出ました! 照合終了です!」
後ろからのぞき込む俺たち3人に振り返ったリュネートがエッヘンと胸を張る。
リュネートのたわわな胸がぶるんと揺れる。
目のやり場に困るから、そういう動作はやめていただきたい。
「見てください。これが決定的な証拠です!」
箱形の何かには、様々な数値と重なった二つの波形が映されている。
「……いやさっぱり分からないのだが……」
専門的過ぎる。素人にどう理解せよというのだ。
「説明してくれないかリュネート」
俺以外の二人も理解ができないと言わんばかりに首をかしげている。
「分かりました。まずこちらがですね、魔力波形グラフと言うものなのです。これは、個人の魔力を生命エネルギーをX軸、思考エネルギーをY軸によって現わしているのです。あ、魔力と言うのはですね、人間の生命活動に用いられる生命エネ……」
「細かい理論はあとで聞かせてもらうから、これの見方を教えてくれ!」
騎士団長が目を輝かせて説明するリュネートの言葉を遮る。
「分かりました。この左上にある赤い波形が現場で検出した魔力波形です。そして青い波形がデータベースにある一致した魔力波形です」
「……つまり……」
「皆様が考えられている通りです。青い波形の持ち主こそ、この殺人現場にて魔導を行使した犯人の物なのです!」
想定外だがこれで犯人が特定されたのは嬉しい限りだ。
「それで犯人の名前は?」
エレインが食い気味にリュネートに聞く。
「それでは、発表させていただきます。この事件の犯人は……ドルルルルルルルルル、ド、ドン!」
俺は、ごくりとつばを飲み込む。
「犯人は……ドルルルルルルルルル、ド、ドン」
騎士団長とエレインも両手の平を胸の前で合わせて祈るようなポーズで待望の犯人の発表を待っている。
「約八カ月の歳月を費やした犯人の名前が……ドルルルルルルルルルルルルル、ド、ド、ド、ドン」
俺たちの長い戦いがついに報われるときが来たのだ。
「待ちに待った発表なのです! ドルルル……」
「「「長すぎだろっっっ!」」」
あまりの溜めの長さに3人で一斉にツッコミをかましてしまう。
「長かったですか?」
「長いよ!」
帝都歌うま選手権の優勝者発表でももう少し早かったぞ!
「……で? 結局誰なの?」
「あ、はい。犯人は……確認するの忘れてました」
って、おい!
あまりのリュネートの天然ぶりに心の中でズッコケてしまう。
リュネートが箱状の何かを操作すると映し出されていた魔力波形が消え、代わりに大きく顔写真と名前が映し出された。
「えーっと、犯人の名前は……えっっ……まさか……そんな……」
リュネートが凝視する先には大きくこう書かれていた。
『グネヴィア・レオデグランス』
騎士団長の幼馴染であり、帝国13人会議に末席を持つ魔導科学研究所の所長の名前が。
「グネヴィアが……まさか……そんなことありえない……」
騎士団長はそこに書かれていることことが信じられないと言うようにわなわなと震えている。
先ほどスチュアート伯爵の口から出てきた名前もグネヴィア卿だ。
証言にあった鈴の音も魔導科学研究所の研究員の証として身に着けている。だからこそリュネートもよく鈴の音を鳴らしている。さらに、魔導科学研究所では、もちろん魔導も必須技能とされている。生物の解剖も行われている研究所では、刃物の使い方も心得ているはずだ。
もう、決定的な証拠も発見されたので躊躇する必要もない。あとは捕まえるだけだ。
「所長がこんなことするなんて……」
リュネートも直属の上司がまさか犯人だったとは思いもしなかった様子だ。
「騎士団長とリュネートは、ここで待っていてください。俺とエレインで逮捕してきます」
今だ放心状態の二人は、使い物になりそうもない。
まぁ、無理もないことだろう。近しい人が猟奇殺人鬼だったのだ。
「エレイン、行こう」
「あ、ああ」
俺とエレインが科学魔導研究所のある皇城外縁に向かおうと一歩を踏み出すと、背後から騎士団長に呼び止められる。
「待て」
「グネヴィア卿が犯人なの残念ですがほぼ間違いありません。止めても無駄ですよ」
「……分かっている。だからこそ私が行くのだ」
「私も行きます!」
リュネートも瞳に涙を溜めながら訴えてくる。
「騎士団長として……親友として、友の間違いを見過ごすことはできない!」
既に騎士団長の瞳には動揺の色はなく、燃え滾る信念の炎が灯っている。
幼いころからの友人を自らの手で捕まえると決心した騎士団長の気持ちは、俺たちでは想像もできないほどのものだろう。
この気持ちをないがしろにするなど同じ男としてできるはずがない。
「分かりました。行きましょう」
悪魔召喚士殺人事件捜査チームは全員で最後の捜査に踏み出した。
お読みいただきありがとうございます!
ついに事件の犯人が確定しましたね。皆さんの予想はあっていましたか?
物語も残すところあと10話程度です。このまま突き進みますよ!




