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第20話 スチュアート伯爵という男

前回のあらすじ……ジャック達は、ついに帝国を騒がせるシリアルキラーの手がかりを手に入れました。

 事件現場から歩くこと数分。周囲の家よりも数十倍は大きい屋敷の前にたどり着く。


 スチュアート伯爵家。エレインによると帝国の貴族の中でも大きな権力を持つ貴族の一つで、またの名を『帝国の財源』と呼ばれる大貴族の屋敷だ。

 その由縁は、帝国全土に支店を持つ商会を経営し、帝国の国家予算に及ぶとも言われる資産を持っていることだ。


「ごめんくださぁい」


 俺は、精巧な彫刻の施された鉄製の門に備え付けられた魔導具に向かって話しかける。これは、屋敷の使用人に声を届かせることのできる魔導具らしい。騎士団の持っている『精霊の住処』といい便利な魔導具だ。


「はい? 騎士団の方々当家にどのようなご用件で?」


 本当に魔導具から老年の男性の声が聞こえる。『精霊の住処』も驚きだったが、なんとこの魔導具は屋敷から我々の顔まで見ることができるというのだ。


「今朝方帝都にて事件がありまして、こちらのお嬢様が被害にあわれましたのでお話に伺いました」

「分かりました。今、お開けします」


 その声とほとんど同時に鉄製の重々しい門が観音開きに開いていく。これも魔導具の一つなのだろう。


「どうぞお入りください」


 俺とエレインは、声に促されて開け放たれた門を進んでいく。もちろん門は、俺とエレインが通り抜けると自動で閉まる。

 スチュアート伯爵家の敷地の中には、まず草原が広がっていた。

 敷地の中に草原と言うと「芝生の間違いだろ」と言われそうだが、これは間違いなく草原だ。ここなら、ゴルフを広々とできるに違いない。


「流石に帝国一の金持ち貴族の屋敷だな」


 エレインも開いた口が塞がらないようだ。


「これぞ貴族の屋敷と言う感じがする」


 もはや、ここからどこに向かって行けば屋敷にたどり着けるのか分からない。

 木の棒に向かう先を決めてもらおうか悩んでいると、正面の道から豪華な馬車が向かってきた。

「お待たせいたしました。当家にて家令をさせていただいております、ブラッドフォードと申します。ブラッドとお呼びくださいませ」


 俺たちの前にきれいに止まった馬車から出てきた老紳士が恭しく頭を下げる。


「申し遅れました。私、黄金獅子魔導騎士団団長付騎士エレイン・アスタラットであります」

「同じく、特務騎士のジャック・ドウであります」


 エレインと俺は、右手を左胸に当てる騎士の敬礼で答礼する。


「主人がお待ちになっております。どうぞお乗りください」


 屋敷の敷地の中で馬車がいるとかありえんだろ! と思わず叫びそうになる。

 それに、皇帝陛下のお乗りになる馬車よりも豪華絢爛ではないかと言うほど煌びやかだ。


 俺とエレインが馬車に案内されるがままに乗り込むと、全く振動せずに馬車が動き始める。


「これ見てよ! 馬車の床に大理石が使われてるよ」


 馬車に大理石を使うなんて聞いたことがない。


「それ、大理石じゃなくてホワイトクリスタルっていうダイヤモンドの10倍するぐらいの宝石だ……私も本物は初めて見た」

「えっ! まじかよ!」


 俺は、反射的に床から足を離す。小さな傷をつけてしまったら……怖すぎる。


「それと、この椅子に使われている布もタブラス産の超高級レッドシルクだと思うから1メル300ユニオンぐらいのはずだ」


 そんな高価な布座る場所に使うなよ! と言うかいちいち価値を教えないでもらいたい。心臓に悪い。


 そんな俺の思いを知ってか知らずか、エレインは屋敷の玄関の前で馬車が止まるまで細部の装飾まで一つずつ懇切丁寧に教えてくれる。


「到着いたしました」


 老執事は、流れるような動作で馬車の扉を開け、自らの手を差し出す。

 エレインは、老紳士の差し出した右手に自身の左手を預けると、華麗な足取りで馬車のタラップを降りる。


 これで豪華絢爛なドレスを身にまとっていたら、どこかのお姫様かと思うぐらいだ。まぁ、実際にエレインは、貴族の娘なんだからお姫様なんだけれども……。


 俺もエレインの後に続いて馬車を降りる。


「……すげー……」

 馬車から降りた先には、白亜の屋敷……いや、城が建っていた。


 三つの尖塔が連なり、それを中心に左右に巨大な窓が無数に並ぶ建物がくっついている。いったいいくつ部屋があるんだろうか?


「これがうわさに聞く『白の城』か……」

「白の城?」

「ああ。赤を基調とした皇城を『赤の城』。青を基調としたモントベル大聖堂を『青の城』と呼んでスチュアート伯爵家の屋敷を含めた『帝都三大城』と帝都民は呼んでいるのだ。その中でも臣民では、位置の関係から見ることのできないスチュアート伯爵家の屋敷は、幻の城と呼ばれているのだ」


 分かってはいたけども、スチュアート伯爵家ってものすごい貴族だ。そんな貴族と今から会うと思うとなんだか緊張してくる。

 無性にトイレに行きたくなってきた。


「こちらになります」


 老執事に案内され、弧を描く階段を上った先にある玄関の扉をくぐる。


「スチュアート家にようこそおいで下さいました」


 レッドカーペットがひかれた大広間には、執事服をしっかりと着こなした紳士たちが並んで頭を下げている。俺たちはその間を老執事に先導され歩いていく。


「騎士殿をお連れしました」


 いくつもの廊下と階段を越えたどり着いたのは魔王の部屋……ではなくて、スチュアート伯爵の執務室だ。


「どうぞ」


 老執事が音もなく扉を開ける。


「「失礼します」」


 エレインと共に部屋の中に足を踏み入れる。


 部屋の中は至ってシンプルだ。


 大きな大理石たぶんでできたテーブルと3人掛けのソファーがテーブルをはさんで二つ。帝都を見渡す巨大な窓が二つ、太陽の光を取り込んでいる。そして、部屋の一番奥にきっちりと整頓された執務机が一つ。もちろんそこには、スチュアート伯爵その人がいる。


「ようこそおいで下さいました。まずは、歓迎の意を」


 洗礼された所作で俺たちを歓迎してくれたスチュアート伯爵は、身長約190センチメル。完璧にセットされた茶髪がよく似合う柔和な顔の紳士だ。


「気を付けろよ、ジャック。スチュアート伯爵は、ああ見えてもやり手の貴族だ」


 エレインが俺にしか聞こえないような声で耳打ちしてくる。


「どういうこと?」

「伯爵は、自らの利益のために手段を選ばない。邪魔者だと判断されて闇に消された貴族は数知れずだ」


 あんなに優しそうな紳士がそんなことをするようには見えないが、エレインが言うのだ本当なのだろう。注意しなければ。


「そんなに身構えなくても、取って食ったりしませんよ」

「いえいえ。大貴族の方とお話しするのです。粗相があってはいけませんから」


 エレインが上手いこと身構えている理由を付けてくれる。


「立ち話もなんですから、どうぞお座りください」

「ありがとうございます」


 俺とエレインは、下座のソファーに腰を下ろす。


「それで、御用件は当家の娘が殺された件でよろしいですか?」

「「……!」」


 単刀直入に紡ぎだされた言葉に俺たちは絶句してしまう。なぜなら、いまだ事件のことは、近衛兵と黄金獅子魔導騎士団しか知らないはずなのだ。


「そんなに驚かれなくても。私の知人が先刻詳しく教えてくれたもので」


 だから、朝早いというのにやけに対応が早かったのだろう。恐るべし、大貴族。


「それならば、まずはお嬢様をお守りできなかったことを謝罪させていただきます」

「その必要はありません」


 ソファーから立ち上がろうとするエレインと俺を伯爵が引き留める。


「当家の娘の天命はここまでだっただけなのです。騎士団の方がわざわざ謝罪ずる必要はありません。娘の死を無駄にしないためにも当家は、最大限の協力をさせていただきます」

「寛大なお言葉ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただいて、無礼だと分かっておりますが、昨夜のお嬢様の行動をお教えしていただいてもよろしいですか?」


 質問をするエレインの声に緊張が混ざっている。


 貴族の行動は基本的に秘匿とされていることが多い。高度に政治的な事象を含んでいるからだ。


「問題ないですよ。ブラッドお答えして差し上げなさい」

「分かりました。旦那様」


 部屋の隅で待機していた、老紳士が歩み出てくる。


「ルーシーお嬢様は、昨晩どなたかとお会いになるために出かけられております。お会いになる方のお名前等はお聞かせさせてもらえませんでした」

「……そうですか」


 重要な部分は結局分からずじまいだ。


「ただ、お嬢様は『シュングルツの花』と『メクラキ草』をお持ちになってお出かけになりました。お出かけの際は、とても目を輝かせておいででした。」

「シュングルツの花とメクラキ草ですか!?」

「知っているのかジャック!」

「……一応は。両方とも貴重な薬草だ」


 ジェーンのために真夜中の山を駆けずり回って探したことがある。


「娘は、薬草学に詳しくてね。休みの日は、薬草を探しに行くのが日課だったのだよ」


 嬉しそうに話すスチュアート伯爵は、父の顔そのものだ。


「実は、その薬草はもう一つ使い道があるんです」


 あまり知られていないが、本来の用途とは別の使用方法があるのだ。未来では、こちらの方が本来の使い方になるかもしれないほどの使い方が。


「もう一つ?」

「この二つの薬草の成分を抽出して混ぜ合わせると火薬ができるんです。それも、黒色火薬の5倍以上の破壊力があります」


 ただし、取り扱いは要注意だ。少しの衝撃で爆発してしまう。


「私も聞いたことがあるぞ! 高性能な新型爆薬が発見されたと」


 伯爵が身を乗り出してくる。


「金の匂いを感じる話だったのでよく覚えている」


 流石、貴族でありながら帝国全土に支店を持つ商会の主だ。


「それを踏まえて、お嬢様がお会いになった人物にお心当たりは?」

「……分からない……と思っていたが、一人だけ心当たりがある。その人物とは……」


 スチュアート伯爵が口にした人物は、思いがけない人物だった。

お読みいただきありがとうございます!

さぁ、この事件の犯人は!?

既に小説内で語られていますよ。お分かりになった方は感想で教えて下さい!

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