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第18話 俺はエレインが好きだ!

前回のあらすじ……ジャックは、甘いホットミルクが苦手です。

「おはようございます!」


 俺は、元気よく悪魔召喚士(エヴォーカー)殺人事件捜査会議室の扉を開ける。会議室の中には捜査チームのリーダーの騎士団長、メンバーのエレインとリュネートが既に座っている。俺が最後のようだ。


「きたか、ジャック君」


 騎士団長が資料をめくる手を止める。


「遅くなりました」

「いや、遅くはないぞ。まだ始業時間まで十分に時間はある」


 俺は、壁にかけられているタイムカードを押す。


「ジャック! リュネートを止めてください!」


 エレインが怯える子犬のような顔で俺の背中に回り込む。


「はぁ。今日は何?」

「リュネートが研究材料として私の髪の毛が欲しいって」


 エレインが目線で指し示す。


「高位魔導を使う人間の髪の毛は、魔導具を作るいい材料になるんです」


 そこには、マッドサイエンティストが大きなハサミを握りしめて立っている。


「別の人からもらえばいいじゃん」

「私の知り合いに高位魔導を使いこなせる人は、エレイン様しかいません。もちろん、市場で買うお金もありません。さぁ、ちょっとだけでいいですから」


 リュネートがジリジリと間合いを詰めるように近づいてくる。シャキーン、シャキーンとハサミを動かしながら近づく様はもはやホラーだ。


「リュネート! エレインがいやがってるでしょ。やめなさい!」

「分かってください。ジャック様。科学の発展のためには犠牲が付きもなのです!」


 リュネートは、相変わらずジリジリと間合いを詰めてくる。

 こうなったら最終手段だ。


「やめないとこれ捨てちゃうよ」


 俺は、ポケットから金属製の部品を取り出す。『残留魔力検知器』の部品だ。

 実は『残留魔力検知器』を作っていたのは、師匠だったのだ。騎士団長の剣を引き渡しに来た時のやたら重い木箱には『残留魔力検知器』が入っていたみたいなのだ。あの白い煙をあげて壊れたやつだ。


 俺は、今後のためにも師匠に格安で作ってもらえるように頼みこんでみたのだ。実質ほとんど利益がでないぐらい安く作られた、この部品は昨日新しくできた改良部品だ。


「うっっ……分かりました」


 リュネートは、エレインの髪の毛と改良部品を交互に見ると、心底残念そうにハサミを下ろす。


 俺は、若干涙ぐんでいるリュネートに改良部品を手渡す。

 リュネートは、改良部品を受け取ると(二回ぐらい落としそうになった)早速『残留魔力検知器』に取り付け始める。


 このやり取りもほぼ毎日行っている気がする。うーん、そろそろめんどくさい。


「ありがとう。ジャック。助かったわ」


 いつも思うんだけど、俺が助けなくてもエレインなら力ずくで阻止することもできたはずだ。なんでしなかったんだろう? まぁ、聞かないのが紳士(ジェントルマン)というものだろう。


「どういたしまして。それよりも、今日は何するの?」


 殺人事件は、俺が特務騎士に任命されてからも相変わらず続いている。残念ながらいまだに犯人につながるものは、何一つ見つけることができていないのが現状だ。


「今日は、警邏だ。今日はと言うよりも今日もの方が正しいのか……」


 事件が起きない日は、毎日警邏をしている。警邏しかすることがないというのが正しいのかもしれない。


「了解。今日も南地区を見回るの?」


 ここ3ヶ月は南地区で集中的に事件が起きているのだ。


「いや、今日は中央(貴族)地区を見回ろうと思っている。そろそろ、中央地区で事件が起きてもおかしくない」


 逆に中央地区では、一度も事件は起きていない。


「中央地区は、近衛兵がしっかり見回っているから大丈夫じゃない?」


 中央地区には近衛兵がどんな時でも見回っている。そんな中で犯罪を起こすのは難しいはずだ。俺なら間違いなくしない。


「そうなんだけど……なんというか、騎士のカンかな」

「まぁ、エレインがそういうのなら問題ないよ」

「騎士団長。中央地区の警邏に行ってきます」


 エレインは、行き先明示版の自分と俺の分の磁石を会議室から中央地区に移動させる。備考の欄に警邏と書くことも忘れていない。


「気を付けて行って来いよ」


 騎士団長は、矢継ぎ早に印鑑を押す手を止めずに見送ってくれる。

 俺とエレインは、中央地区に向かって歩き始めた。


 中央地区は、他のどの地区よりもきれいだ。なぜなら、貴族たちが自らの権力と財力、それに人脈を誇示するために贅の限りを尽くして建てた住居を構えているからだ。

 今、通り過ぎた家の門についている手のひらに乗るような石像ですら、庶民の家が一つか二つ買えるぐらいするらしい。

 俺には、理解できない世界だ。不用意に触れないようにしなくては。


「ふふっ。そんなに怖がらなくても大丈夫だ。壊しても騎士団の経費で何とかなる」


 エレインはそう言ってくれるが触れぬ神に祟りなし。触らないことにこしたことはない。


「それより、なんか近くない?」


 エレインは、俺の手とエレインの手が触れそうな、いや、時々触れる距離で歩いているのだ。

 もちろん、俺も男だから一般的に見て美人なエレインが近づいてくれるのはうれしいのだが……なんというか、自分が抑えられなくなりそうで困る。ふとした拍子に手を握ってしまいそうだ。


「っっすまない!」


 エレインも恥ずかしかったのか湯気が出そうなほど顔を紅色に染める。そして、ほんの少し俺との間に距離を開けた。


 俺もそこまで鈍感ではない。この8カ月間一緒に歩き回ったエレインが俺に好意を持っていることになどとっくに気が付いている。むしろ、エレインは口では言ってこないが行動が積極的で、これに気が付かない男がいたらそいつはゲイだ。


 もちろん俺もエレインに好意を持っている。こんなかわいい女のジェーンほどではないがと付き合いたいという願望もある。

 しかし、俺はジェーン以外の人間にここまで好意を持ったことが一度もない。要するに経験が皆無なのだ。


 だから、ジェーンの本棚の『モテる男のデート術』を呼んだのだが、段階を踏むことが大切だと書いてあった。エレインとはまだ付き合ってもいないし、そもそも好意を伝えていない。


 問題は、どうやって好意を伝えるかだ。本にはロマンチックなムードは必要不可欠だと書いてあった。


「気にさわったのなら、すまない」


 エレインが押し黙っていた俺が怒っていると勘違いして謝ってくる。


「違う、違うから。怒ってないから」

「それなら良かった」


 そう言ってエレインが破顔する。

 その向日葵のような笑顔がまた、可愛くて俺の心臓が跳ねる。


 やばい。余計なことを考えていたせいでいつも以上にエレインがきれいに見える。話題、話題が必要だ!


「エレインの実家もこの辺にあるの? ついでによってみる?」


 エレインの出自も貴族だ。この辺に実家があってもおかしくはない。


「く、来るのか! まだ両親に紹介するのは……いや、来てもいいが」

「あ、いや、その、そういう意味じゃなくて……ないわけでもないけど……」


 完全にミスった。振る話題が完全に違った。


「ただ、私の実家は貴族と言っても男爵位の小さな家だ。帝都に居を構えられるほどの財力はない。案内するなら、この事件が解決してからだな」


 危ない。エレインの実家が帝都になくてよかった。しかし、これで事件が解決するまでにロマンチックなムードなるものを作って愛の告白をしなくてはならなくなってしまった。今日、帰ったら『モテる男のデート術』をもう一度読み直さなくては。


「そういえば、西ガリアとの戦争はどうなの? 確か黄金獅子魔導騎士団も出兵してるんだよね?」


 俺が騎士になった日に騎士団長とエレインが言い争っていた原因がそれだ。

 今度こそ間違いのない話題のはずだ。


「今のところ帝国の優勢で進んでいるはずだ。西ガリアは、数は多いが腕の立つ騎士が少ないからな」

「それなら良かった。また、黄金獅子魔導騎士団の武勇が上がるね」

「ただ、海の向こうの王国の動きが不穏だと、騎士団長がおっしゃっていた。王国は、腕の立つ魔導士も多い。西ガリアよりも危険だ」


 帝国は、四方を敵に囲まれている。北と西にそれぞれ北ガリアと西ガリア。北ガリアとはこの前ちょうど一年ほど前に大規模な戦争があった。東の海の向こうに王国。南には蛮族の国がある。圧倒的な国力と軍事力によって侵攻を防いで入るが毎日どこかで戦闘が起こっている。


 そのおかげで騎士や兵士たちの剣が磨耗するので、師匠の仕事も後を絶たないし、俺も飯にありつけている。


「騎士は大変だね。治安の維持に戦争に」

「大変なのには違いないが、やりがいのある仕事だ。帝国のために誰かがやらなくてはならない仕事だからな」

「そうだね」

「私には、その才能があったのだ。帝国臣民の一人として義務を果たさなければならない」


 義務と献身に己を捧げるエレインは、素直にかっこいい。尊敬できる。


「エレインは、すごいね。それに比べて俺は……」

「そんなことはない。ジャックも妹さんのために身を粉にして頑張っている」

「ありがと……」

「キャァァァァァァァァァァァ!」


 俺の言葉を遮るように唐突に悲鳴が中央地区に響き渡る。こんな風に悲鳴が響き渡ることが前にもあった気がする。


「行こう! エレイン!」


 俺は、エレインの手を取ると悲鳴がした方角に向かって走り出した。


「えっ! ジャ、ジャックが私の手を取って……」


 エレインが何か言っているが気にしている余裕はない。一秒でも早く駆けつけることが最優先事項だ。

 俺は移動魔導を手短に唱える。もちろんエレインも同じように移動魔導を唱えているので引きずるようなことにはならない。


「まず間違いなく事件が起きているね」

「それが、何の事件なのかが問題だ。私のカンが当たっていないことを祈るばかりだ」


 エレインは、猟奇殺人事件でないことを願っているが、俺は全く逆だ。猟奇殺人事件が起きていればいいと思っている。

 なぜならば我々捜査チームはいまだに犯人の手がかりもつかめていない。ならば、犯人側からのアクションがなければ事件解決には向かわないのだ。

 ジェーンの容体が一刻を争う現状では、モーガン侍医長に診てもらうためにも事件を解決しなくてはならない。


 そして、俺の願いは神に届いたようだ。

お読みいただきありがとうございます!

なんだかエレインとジャックがいい雰囲気ですね。

羨ましい限りだ、コンチクショー!


そんな、微笑ましい二人を応援するためにも評価、ブクマ、レビューお願いします。

誤字脱字がありましたら感想でお願いします。すぐさま直します。

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