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第14話 騎士になります

前回のあらすじ……ジャックは、超高額バイトを師匠の紹介ですることになりました。

 師匠の家を出て一時間、既に俺は帝都の黄金獅子魔導騎士団の詰め所前にいる。


 本来なら馬で半日、歩きで1日の距離が家から帝都までの距離がある。

 どうしてこんなに早く帝都にたどりつけたのか言うと『アルスブイズの母屋』を使ったのだ。

 今回は、大きな荷物を持っていない。『アルスブイズの母屋』は、通常の使用者なら体重と同じ重さの荷物以下しか持っていなければ使用できる。まぁ、師匠クラスの魔力保持量ならその制限以上のことが可能かもしれない。

 帝都のそこら中に建設された『アルスブイズの母屋』は、お金を払えばだれでも利用できるのでこれを利用しない手はないのだ。


「すみません。レイク騎士団長にお会いしたいのですが……」


 俺は、衛兵に声をかける。もちろん、伝書鳩に括り付けられていた衛門の通行証を提示することも忘れていない。

 衛兵は隅から隅まで通行証を確認する。それこそ紙に穴が開くほどまじまじと二人がかりでの点検だ。


「どうぞお通りください。騎士団長殿は馬屋におられます。ただし、詰め所内部のことは他言無用でお願いします。」


 前回来た時よりも衛兵がピリピリとしている。衛門の出入りが厳しくなっただけでなく、衛兵一人一人がにわかに殺気立っている。


「お勤めご苦労様です」


 人一人がやっと通れるように開けられた通用門を腰をかがめてくぐる。


 通用門をくぐった先で目に飛び込んできた光景は、せわしなく動き回る騎士たちの姿だ。訓練場兼中庭には、いくつもの武具や食料、天幕資材が山のように積まれている。


 まさに出陣前の様相だ。


 俺は、騎士たちの邪魔にならないように馬屋に向かって移動する。馬屋に向かう途中でも、あちこちで武具の手入れをする騎士や見習い騎士に指示を飛ばす騎士が散見される。


 騎士団長は、衛兵の言った通り馬屋の前にいた。隣には、エレインもいる。いや、隣にいるというよりも騎士団長に襲い掛かろうとしている。


「どうして私を連れて行ってくれないのですか!?」

「どうもこうも、騎士団長の私が行かないのに騎士団長付のエレインが行けるわけないだろう」

「それならどうして騎士団長は行かれないのですか!?」


 ものすごい剣幕でエレインが騎士団長に詰め寄っている。修羅場だ。


「帝都の守りも大切だろう」

「帝都にはまだ11個も騎士団が残っているではありませんか!」

「しかしだな……おお、ジャック君よく来てくれた!」


 俺に気付いた騎士団長が助けを求めるような目で俺に近づいてくる。


「お久しぶりです。騎士団長殿、エレイン殿」


 俺は、片膝をつき最上級の敬意を示す。これから雇い主となるのだ、今まで以上に礼を尽くして損はないだろう。


「今さらそんなにかしこまっても待遇は変わらないぞ。と言うより、何だけ変な気になるからいつも通りにしてくれ」

「お見通しでしたか」


 俺の見え透いた下心は、百戦錬磨の騎士にはバレバレのようだ。


「そんなことよりもジャック君。こいつを何とかしてくれんか。戦場に連れて行ってくれとうるさいのだ」

「何とかしてくれと言われましても、状況がいまいちわからないんですが……」


 なんとなく察しはつくが、詳しいことが全く分からない。


「いや、なに簡単なことだよ。つい先日、騎士団に出陣の命令が発令されたんだが、そのメンバーに自分が入ってないことに納得がいかないと駄々をこねるのだ」

「駄々ではありません。不当な命令には従えないということです!!」


 エレインが横から会話に割って入ってくる。


「不当じゃないだろう。さっきも説明したが、私が行かないのにエレインが行けるわけないだろう」

「説明になってません。騎士団長が行かない理由が私にはわかりません。騎士団長がいた方が兵士の士気も上がりますし、何より戦力的に天地の差があります。さぼってないで仕事してください!」

「まぁまぁ、二人とも落ち着いてください」


 要するにこの二人の主張をまとめると、こうだ。

 黄金獅子魔導騎士団には出陣の命令が下ったのに、最高戦力の騎士団長は参加しない。だからエレインも参加できない。


「騎士団長。出陣しないことと俺に何か関係がありますか?」


 この時期に騎士ではない俺が呼ばれたのだ。何か関係があるに違いない。


「もちろん、おおありだ。帝都に残った我々二人とジャック君で帝都を騒がせている連続猟奇殺人事件の捜査を行うのだ」


 騎士団長は「もう一人、助っ人もいるからな」と付け加える。


「その捜査のために残るんですか?」

「そうだ」


 犯罪捜査も騎士団の主要任務の一つだ。出兵するからと言っておろそかにするわけにもいかないのだろう。


「だそうだよ、エレイン。これなら仕方がないんじゃないの?」

「で、でも、他の騎士に頼めば問題ないでしょう!」


 エレインはまだ不服そうだ。


「私が行かない理由話もう一つあるぞ」

「何ですか! しょうもない理由だったら無理やりでも連れて行きますから!」

「そろそろ、副騎士団長にも戦場指揮の経験を積ませてやらんといかんと思ってな」


 騎士団長は、感慨深そうにどこか遠くの空を眺める。

 騎士団長も師匠が騎士を引退した年齢に近づいてきているはずだ。そろそろ、後継者を本格的に育てなければいけないのだろう。


「騎士団長には騎士団長で考えがあるんだよ。それに、犯罪捜査も立派な仕事だろ。俺も精一杯頑張るからさ!」


 頑張ると言っても、何をするのかは分からないが……。


「ジャックがそこまで言うのなら仕方ないけど出兵は諦める。でも、その代わりに私とバディ組んでもらうからな!」

「……バディ?」


 俺は今まで、人生のほとんどをジェーンと師匠と共に辺境の山奥で過ごしている。だから、もちろん騎士団の犯罪捜査方法などほとんど知らない。


「立ち話もなんだし、詳しいことは中で話そう」


 騎士団長が俺の頭の上に無数のクエスチョンマークが浮かんでいることに気が付いてくれる。

 俺は、騎士団長とエレインの後に続いて詰め所の建物の中に入っていく。


 騎士団長は『会議室』と書かれた扉を静かに開くと、帝国と騎士団の旗が掲げられた壁の前の中央部が空洞になっている円卓に腰を下ろした。


「好きなところに座ってくれ」


 俺は、騎士団長から見て対極にある席に腰を下ろす。エレインは、騎士団長から二つほど離れた席に座る。

 普段は、ここで騎士団の幹部が作戦会議でも開いているのであろう。


「それでは、ジャック君。本題に入る前に守秘義務について話しておこう」


 騎士団長の顔つきが、いつもの優しくてどこか遊び心のある顔から、百戦負け知らずの無双の騎士の顔に変わった。顔つきだけでなく体から発せられるオーラともいうべき威圧感が段違いに跳ね上がる。


 師匠もエレインもだが騎士と言うものは、誰しもが気高き心の内側に猛獣のような獰猛な牙を隠し持っていることを改めて自覚させられる。


「この詰め所の中で見たこと、聞いたことは一切他言無用だ。今回の仕事の中で知ったことも今後、生きている限り誰にもしゃべってはならない。誓約できるか?」


 全てを見通すかのような鋭いまなざしで騎士団長が俺を見据える。


「はい。分かりました」

「それでは、この魔導契約書にサインしてくれ。この契約書にサインをした後に契約違反があれば帝国全ての騎士がどこまでも追いかけて捕まえに行くことになる。断るなら今のうちだ」


 騎士団長の手を離れた契約書は、ひらひらと宙を舞って俺の元に届く。


 俺は、守秘義務と細々とした契約内容、400ユニオンの報酬についてのみが書かれた契約書に迷いなくサインをする。


 ここで俺に拒否権はない。俺の知りうる限りどんな仕事内容であろうともこんなに稼げるような仕事はないのだ。例え仕事内容が俺の命を燃やし尽くすようなものであってもジェーンのためなら迷う必要もない。


「これで今回の仕事の事務作業は終わりだ。本題に入ろうか」


 さっきまでの圧倒的なオーラは鳴りを潜め、今はいつもの騎士団長と変わらない。


「今回ジャック君に頼みたい仕事と言うのは、我々と共に帝都で起きている連続猟奇殺人事件の捜査だ。本来なら我々騎士だけで行うのだが、今回は出兵が重なってしまい人手が足りない。そこで君の出番と言うわけだ」


 ここまでは、馬屋の前で聞いた話とほとんど同じだ。


「帝都には他にも騎士の方がたくさんおられると思うんですが?」


 帝都に駐屯しているのは何も黄金獅子魔導騎士団だけではない。俺よりも本職の騎士に頼んだ方が絶対にいいはずだ。


「そこなんだが、今回の事件の犯人は騎士である可能性もあるのだ。下手に騎士を捜査員にしてしまうと捜査情報の漏洩に繋がる可能性がある」


 なるほど。確かにそれもそうだ。


「他に仕事の内容で何かあるか? 詳しい操作内容は、後で渡す資料に細かく書かれているから、目を通しておいてくれ」

「すみません、もう一つだけいいですか? さっきのバディと言うのを教えてもらいたいんですけど……」

「それについては、私が答えてあげる」


 今まで、静かに聞いていたエレインが口を開ける。


「騎士の捜査では、二人一組での行動が基本とされていて、そのことをバディシステムと言うの。バディは、捜査中にお互いに危険から身を守るために必要不可欠なシステムなの。騎士と言えども不意打ちされたら負けるかもしれないでしょ」


 なるほど。確かに二人一組の方が不意打ちの危険は下がる。


「まぁ、でも安心しなさい。ジャックのことは私が守ってあげる」


 エレインに守ってもらえるのは、心強い。見た目は可憐な美少女でも帝国最強の騎士の一人だ。


「ありがとう。よろしくお願いします」


 俺は、心の底からの感謝を伝える。


「任せなさい!」


 エレインは、得意そうにプレイトメイルで覆われた胸を張る。さっきまで戦場に行けなくて不機嫌だったのが嘘のようだ。


「騎士団長、すみませんが質問ではなくて、お願いがあるんですけどいいですか?」

「私で答えられる範疇の頼みなら善処しよう」

「事件解決の暁には、ジェーンをモーガン侍医長に診てもらいたいのです」


 今日、騎士団長に会ったら必ずお願いしようと思っていたことを口に出す。モーガン侍医長は、皇帝陛下のお医者様。つまり、帝国で一番腕のいいお医者様だ。普通の医者では、治せないジェーンの病気もモーガン侍医長なら治せるかもしれない。


「モーガン侍医長か……何とかできるようにしてみよう」

「ありがとうございます! イテッ!」


 俺は、思い切りよく頭を下げすぎて円卓に激しくおでこを打ち付けてしまう。でも、それぐらい騎士団長の返答はうれしいものだ。


「契約の話もまとまったということだし、ジャック君こちらに来てくれ」


 騎士団長に呼ばれるがままに、俺は帝国と騎士団の旗がかかった壁の前に立つ。


「最敬礼の姿勢をとってくれ」


 一体、これからなにが始まるというのだろう。

 とりあえず俺は、騎士団長の目の前で片膝をつき首を垂れる。

 頭上から騎士団長が剣を鞘から抜く、金属の擦れ合う音が聞こえてくる。そして、騎士団長の腰から抜き取られたであろう剣の腹が俺の肩にやさしく触れる。


「黄金獅子魔導騎士団騎士団長ランスロット・レイクの名においてジャック・ドウを帝国特務騎士に任ずる」


 左右の肩を一度ずつ触れた剣が騎士団長の腰に納められる。


「これで略式ではあるが、ジャック君は帝国特務騎士になったというわけだ」

「?」


 騎士ってこんなに簡単になれるものなの? 俺がなってもいいの?


「ははっ! そんなに驚く必要もないぞ!」


 どうやら、顔に出てしまっていたようだ。


「俺なんかが騎士になってもいいんですか?」


 俺の中の常識では、本物のエリートしかなれないはずなのだ。


「もちろん、正規の騎士ではないぞ。特務騎士は捜査権のみを認められているだけにすぎん。まぁ、騎士であることには違いないから変なことはするなよ」


 どうやら、騎士にも色々あるみたいだ。


「分かりました。騎士の名に恥じぬように頑張ります」


 こうして俺は、帝国で皇族の次に尊敬される騎士として期限付きで活動することになったのである。


 帰ったらジェーンに報告だ!

お読みいただきありがとうございます。

前作を追い抜きました。このまま走り続けます。

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