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第1話 うちの妹は、超絶かわいい

超絶シスコンなお兄ちゃんは世界一かわいい妹のために何でもします!? を大幅に加筆修正して連載再開します! 既に完結まで書き終わっているので安心してお読みください。

挿絵(By みてみん)

 帝都から馬車で半日の所にある、人里離れた、とある山の麓。

 あたり一面見渡す限り、木、木、木、木。要するに森の中。そんな場所にひっそりと一軒の家が建っている。

 そんな家の中からはジュゥ、ジュゥと言う音と共に香ばしい香りが漂ってきている。

 その音と匂いの発生源は、この俺、ジャック・ドウだ。

 コケコッコーとけたたましい鳴き声が森の静寂を切り裂く。卵を採るために飼っているニワトリが夜が明けたことを知らせてくれたようだ。

 窓の外を見れば確かに東の空が薄らと白んでいる。


「そろそろ師匠を起こさないと、まずいな」


 俺はフライパンを五徳の上から離し、コンロに送る魔力を遮断する。魔力が途絶えたことで五徳の中心から噴き出していた炎が瞬時に消え去る。

 フライパンの余熱で焼ける目玉焼きを白い皿の上に移し変えると、火の消えた五徳の上にフライパンを置き直す。

 俺は、出来上がった朝食をテーブルに並べると玄関とは反対方向のドアを開け、短い廊下を歩いていく。

 そして、突き当たりにあるドアを優しくノックした。


「師匠、朝ですよ。起きてください」


 まずは、扉の外から声をかける。もちろん反応はない。いつものことだ。

 俺は、躊躇(ちゅうちょ)なく扉を開ける。

 そして、ベッドの上に転がる毛布の塊に向かって、少し大きめの声をかける。


「朝ですよ、起きてください。朝飯も準備できていますよ」


 もぞもぞと毛布の塊が動き、止まった。


「あとちょっと、寝かせて」


 俺は、窓のカーテンを開けて、朝日を部屋に取り込む。


「ダメです。今日は、帝都に行くのですから起きてください。起きないなら『()()』やりますよ」


 師匠が中々起きてくれないのは日常茶飯事だ。しかし、今日は帝都に行く日。大事な商談もあるのだ。今日ばかりは、起きてもらわなければならない。


「もう少しだけ。お願い。一生のお願い! ジャック」

「はぁ……分かりました」


 そう言って俺は、師匠の足元に立った。アレを実行するためだ。

 毛布から覗く足におもむろに手を伸ばす。そして足首を片手でつかむと、足の裏を勢いよくくすぐる。

 これまで色々な方法で師匠を起こしてきたが、これが一番効果的なのだ。

 その名も、秘儀・ジャックスペシャル・モーニングエディション。


「アヒャヒャヒャ! わ、分かった。起きる! 起きるから、やめてっっっ! ヒャヒャヒャ!」

「師匠が布団から出たらやめます」


 ズッバッ! という効果音と共に勢いよく師匠が跳ね起きる。


「ほら起きた。起きたから、やめて。ね、やめて」


 俺は、師匠から布団を奪い去ると、くすぐるのをやめた。


「ジャックひどい。老人はいたわれって習ったじゃろ」

「師匠が、すぐに起きてくれれば、こんなことしませんから。いやならすぐに起きてください」


 こんな朝も起きれない残念な人だが、これでも俺たち兄妹の命の恩人なのだ。

 戦争で両親を失い、真冬の路地裏で小さな毛布にくるまって、凍え死ぬのを待つばかりだった俺たち兄妹二人を助けてくれたのだ。


「朝飯、出来てますから、早いとこ来てくださいね」


 俺は師匠の部屋を出ると、廊下を少し戻ったところにある扉をやさしく叩く。


「ジェーン。入るよ」


 部屋の中から「いいよ」と静かに声が返ってくるのを確認して、俺は扉を開けた。

 長い銀髪に窓から差し込む朝日が反射してキラキラと光る少女が、ベッドに座っているのが一番に目に入る。


「おはよう。ジェーン」


 彼女の名前は、ジェーン・ドウ。

 名前からも分かるように、俺の唯一の家族にして最愛の妹だ。


 率直に言おう、世界一かわいい妹だ。


 そのプラム色の瞳は世界中のどんな宝石よりも輝いていて、その肌は、血管が透けて見えそうなほど白く透き通っている。小さくも筋の通った鼻筋に、白い肌によく映えるピンクの唇。シルクのように光り輝く銀色の髪の毛。すべてのパーツが神様の最高傑作であり、完璧な設計図に基づいて配置されているのだ。


 あえて、もう一度言おう、世界一かわいい俺の妹だ。


「調子はどう? 朝ごはんは食べれそう?」

「おはよう。お兄ちゃん。うん。今日はとっても調子いいみたい」


 ジェーンは、生まれつき心臓が弱い。運動はもちろんのこと、調子が悪い日は、ベッドから起き上がることすらできない。

 神様は、なぜか丈夫な体だけは、ジェーンに与えてくださらなかったらしい。多分、女神様が嫉妬をしたのだろう。

 体が弱いせいで、年は三つしか変わらないのに、小さく、細い。そのせいで、本来の年齢よりも幼く見える。それが、(はかな)げな美貌(びぼう)をさらに際立たせている。


「それならよかった。ご飯出来てるから、行こう」


 俺は、ベッドの脇まで行くとジェーンに背を向けてしゃがむ。ジェーンをおんぶしていくためだ。

 毎朝の薪割りやその他、重労働をたくさんしているおかげもあってか、俺は平均よりも筋力があるのだ。

 お兄ちゃんは、ジェーンを背中に乗せたままどこまででも歩いていっていく自信がある……いや、どこまでも歩く。俺の背中は、ジェーンをおぶるために存在していると言っても過言ではない。


「大丈夫だよ。お兄ちゃん。歩いて行けるよ」

「遠慮するなよ。そんなに苦じゃないから。毎朝、担ぐ薪に比べれば、軽いものさ」

「調子のいい日ぐらい歩かないと、歩き方忘れちゃいそうだもん!」


 ジェーンは、ベッドの手すりに体を預けながら、俺の隣にゆっくりと立つ。

 俺が顔を向けると、にっこりと優しい笑顔を向けてくれる。


「分かった。じゃあ、手、つないでいこう」


 俺は、ジェーンの細い右手を優しく握る。

 ゆっくりと歩き出したジェーンに合わせて俺も歩き出す。

 一人で歩いてきたときは、師匠を起こす時間を合わせても5分足らずで来れた距離を、その倍以上の時間をかけて、リビングに到達する。


 リビングのテーブルの上には、既に、俺の用意した朝食が並べられている。

 今日の朝食は、とれたて卵の目玉焼き(もちろん黄身は半熟のトロトロだ)と自家製のイチゴジャムをこれでもかというほど乗せたこれまた自家製のパン、ほくほくのジャガイモとごろっとした肉厚ベーコンの熱々ポトフだ。

 ほとんどの食材がジェーンの健康を考えて、俺が自ら育て、収穫したものだ。


「流石、我が弟子、いつもうまそうな朝食だな。祈りをして食べよう」


 師匠が胸の前で両手を重ねて握る。俺もジェーンも同じように手を組んだ。


「父よ、あなたの慈しみに感謝してこの食事をいただきます。ここに用意された食事を祝福し、私たちの心と体を支える糧としてください」


 そしてしばらくの黙とうをへて、師匠が食事に手を付ける。


「ジェーン、あーん」


 俺は、隣に座ったジェーンのポトフをスプーンですくうと、「ふぅ、ふぅ」と息を吹きかけて冷ましてからジェーンの口元に運ぶ。


「自分で食べられるよ。お兄ちゃん」

「だいぶ熱いから、ジェーンがやけどするかもしれないだろ」


 ジェーンがやけどをしてしまうなどあってはならないことだ。細心の注意を払うのは、兄として当然の義務だ。本当は、口移しで食べさせてやりたいぐらいなのだ。


「あのね、お兄ちゃん。ジェーンは、もう子供じゃないの! レディなの! 一人でできるの! 今度子ども扱いしたらお話してあげないからね!」

「……でも……」

「分かった!?」

「……はい」


 俺は、渋々と木製のスプーンをポトフの中に沈める。

 ジェーンとしゃべれなくなるなんて、考えるだけでも耐えられない苦行だ。


「本当に熱いから気を付けて食べるんだよ」

「本当にお兄ちゃんは、心配性なんだから」


 俺は、ジェーンがポトフをゆっくりとすくって口の中に含むのを、ハラハラドキドキしながら見守る。もう、心臓が破裂しそうだ。


「うん。お兄ちゃん、すっっっんごくおいしい!」


 ジェーンが満面の笑みで、食事の感想を言ってくれる。

 もはや、天上神の使いが舞い降りたか言うほどの美しさを放っている。

 満面の笑みのジェーンを見られれば、朝日の昇る前から準備したかいがあるというものだ。


「ありがとう。ジェーン。師匠は、もう少しゆっくり食べてください」


 ゆっくりと食べるジェーンとは裏腹に、師匠は目玉焼きを一口でぺろりと食べてしまう。


「食いっぷりがいい方が料理人もうれしいだろう?」

「師匠、食いっぷりはいいかもしれませんが、もっと味わってください。そこまで早いと逆に作り甲斐(がい)がありません。あと、健康に悪いです!」

「ハァ、文句の多い弟子じゃのう」


 師匠の食べる速度がほんの少しだけ遅くなる。

 俺としては、師匠には長生きしてほしい。

 普段の生活が病気の元となると聞いたことがある。こういうところから健康的に生活をしてもらいたいのだ。

 そんな俺の思いを師匠は知ってか知らずか、注意すれば直してくれる。

なんだかんだで、師匠もやっぱりいい人なのだ。


「ご馳走様!」


 きれいさっぱり食べ終わった師匠は、帝都に行く準備をするために仕事場に向かって先に席を立った。


「ジェーン。今日は、師匠と二人で帝都に行ってくるよ。帰りは、日が暮れてからになるかもしれないから、先にご飯を食べて寝といていいから」


 本当は、ジェーンを一人この小屋の中に残していきたくはないのだが、ジェーンは帝都まで馬車に揺られていくだけの体力がないのだ。以前、一緒に帝都に行った時は、馬車の中で高熱を出してしまった。

 あの時は、ジェーンを連れて行った自分自身を殺そうかと思った。


「分かったよ、お兄ちゃん」

「お昼ご飯は、テーブルに置いておくから食べるんだよ。夕食も同じ場所においてあるから」


 朝ごはんと一緒に作ったサンドイッチとミートパイがある。


「ありがとう。師匠もお兄ちゃんも気を付けて行ってきてね。ちゃんと帰ってきてよ」

「もちろん、気を付けて行ってくるよ」


 ジェーンがこの家にいる限り、死んでも帰ってくる。


「おい、ジャック! ちょっと来てくれ!」


 そこで先に食事を済ませた師匠が仕事場から俺を呼ぶ声が聞こえる。


「急ぎですか? 洗い物、終わらせてからでもいいですか?」

「その後で構わないぞ!」

「分かりました。洗い物が終わったらすぐに行きます!」

お読みいただきありがとうございます!

誤字脱字等ありましたら感想欄にてご指摘お願い足します。


もやしも様にファンアート書いて頂きました!

感謝感激です!

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