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大陸暦1053年 海の月 29日
「……チームを?」
ものすごく唐突な話で、思わず聞き返しました。
「うん。旅は道連れ、というし、ノエルもこの世界を見て回ろうと思ってるんでしょ? どうせ同じ目的なら一緒に旅する方がいいじゃない? だから私とローシャと一緒にチームを組まないかなーと思って」
一応、アーシャさんの意見は筋が通っているようにも思えます。
けれど、何となく納得がいきません。
「それに、さ」
黙ったままの私にアーシャさんは人差し指を立てた右手を突き付けたまま、にこっ、といい笑顔で笑いました。
「ノエルと一緒にいるのは楽しそうだと思ったからね!」
う、うん……?
これは私のことを評価してもらっているという意味でいいんでしょうか。
チームは冒険者ギルドに登録するパーティのことです。冒険者ギルドで見知らぬプレイヤーに勧誘されたりもしましたけど、基本的にチームに誘うというのは、これからこのアナザーアース・クロニクルで多くの時間を一緒に過ごすという意味になるでしょう。
……ああ、私が何となく納得いかない理由がわかりました。
「……私はまだアーシャさんとはほぼほぼ初対面だと思うのですが」
もし、私がチームを組むとするなら。その相手は十分によく知った信頼できると思える相手を選びます。
まだダンジョンで会って、一緒に小屋に泊まってこの街に来ただけのアーシャさんが私をそういう「信頼できる」相手と見る理由が、私には理解できないのです。
「そだね」
「それをチームに勧誘というのは、どういう意図があってのことでしょう? 先日、ローシャさんといた時に見知らぬプレイヤーからチームに勧誘されましたけど、何かチームのメンバーが増えるとメリットがあったりします?」
本当に純粋な疑問だったのですが、アーシャさんは私の言葉を聞いてぷっと吹き出しました。
……そんな変なことを言ったでしょうか。
「チームの人数が多くなって規模が大きくなるとそれだけ冒険者ギルドの中でのランクが上がるから、とにかく人を集めまくるような人もいるとはローシャに聞いたかな。でも、ノエルを誘ったのはそういうわけじゃないよ?」
「では、どういう理由で?」
アーシャさんが困ったように頭をかきます。
「さっき言ったんだけどなあ……ノエルと一緒にいるのは楽しそうだと思ったから、かな」
「でも、私はアーシャさんのことをよく知りませんし、アーシャさんも私のことをよく知らないと思いますが」
「うん」
「なら、楽しそうかどうかはわからないんじゃないでしょうか?」
「勘」
「かん?」
「そ。勘。直感、第六感。あるいは、第一印象、ふぁーすといんぷれっしょん。何でもいいよ」
アーシャさんが顔を近づけてきます。目の前に、アーシャさんの顔が来ます。
「こう見えても、対人関係の直感ははずれたことがないからね。会って間がないとか、関係ない。私が、ノエルと過ごして、ノエルと話して、一緒に旅したら楽しそう、面白そう、と感じた。だから、一緒に旅してみたいと思った。だから、チームに誘った」
それだけ言って、アーシャさんが離れました。
「ダメかな?」
お、おう……勢いに押されて、呆気に取られてしまいました。
というか、アーシャさん、私の周囲にはいなかったタイプの人なので何だか新鮮な感じです。
私の周囲の知っている人たちはみな論理的に、理屈っぽく考えすぎるタイプで、何をするにしても冷静にしっかりと考えてから動く人たちばかりでした。私もだいぶその影響を受けていますけれどね。
アーシャさんはその真逆。
やりたいと思った、そうしようと感じたら一直線に突っ走るタイプ。
あらためてまじまじとアーシャさんのことを見てみます。
両手を腰に当てて、胸を張ってドヤ顔していますね……何でそんなに自信満々なんでしょうか。
目が合って、アーシャさんが笑いました。とてもいい笑顔です。
思わずつられて、笑ってしまいました。
「確かに、面白そうですね」
「でしょ?」
アーシャさん、て私の理解の外にいる人、なんですよね。何を考えているかわからない……というと言いすぎなような気がします。何をしでかすかわからない……というと、ちょっと悪い風に聞こえてしまいますか。何だかよくわからない人、というのが一番それっぽいかな?
でも、だから何だか面白そう、と思えてしまうんですよね。
ああ、これってまだ見ぬ景色を見に行くとか、まだ知らない世界を体験しようとか、そういう思いと同じ感じなのかな。
ただ。
「……ただ、私、冒険者になったわけじゃないんですが、チーム組むのに大丈夫です?」
「えっ?」
「え?」
……あれ? 何かすごい驚かれてる?
「……冒険者にならなかったの? てっきりなってるものだとばかり」
「いえ、色々と事情がありまして……でも、別に冒険者にならなくても遊べるのでは?」
目を見開いてアーシャさんがまじまじと私の方を見ています。
「いや、だって、ダンジョン踏破して、あれだけ強いじゃない。それなら冒険者やるのが一番楽じゃない? 私なんかローシャに『危険な場所とか冒険者になってレベルを上げないと立ち入り許可もらえないですよ』て言われたから冒険者になってレベル上げしてるのに……」
ああ、そういう仕組みみたいなものもあるんですね。
「だから。世界を見て回ろう、と思うなら冒険者になるのがいいよ!」
拳を握りしめたアーシャさんに強く断言されました。
「アドバイスはありがたいのですが、色々あって、冒険者になるかどうかは悩んでいるのですよね」
「……そうなのかぁ」
さすがに個人的な裏の事情をあれこれ説明するわけにもいきませんからね。
「じゃあ、お試しにやってみる? 冒険者」
「……はい?」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ログインしてきたローシャさんも合流して、冒険者ギルドにやって来ました。連れてこられた、という方が正しいかもしれません。
「……姉さん」
ローシャさんが頭を抱えています。
「何?」
「……他人の迷惑というものも考えるべき」
「ノエルが冒険者になるのに悩んでいる、と言うからじゃあ試しに私たちと一緒に冒険者の依頼を受けてやってみよう、というだけじゃん」
ローシャさん、眉間の皺がひどいことになっています。
「……だから、ノエルさんの都合とか、冒険者じゃない人を冒険者ギルドの依頼に連れ出す問題とか、そういうのを考えないと……」
「まあまあ。私は別に構いませんので」
流石に2人が喧嘩になったら悪いので、仲裁に入ることにします。実際、冒険者のやることを一通り体験できるなら面白いと思いますしね。
ローシャさんが受付の方を見ます。
先ほどからレイラさんがじっとこちらの様子をうかがっていますね。怒っているような感じはしませんが……。
「というわけで、やるのはこの依頼ね」
アーシャさんが掲示板に張り出された依頼票を1枚はがして手に取ります。
「……姉さん。その依頼はあれでは」
「んー、冒険者の依頼の体験というならやっぱりこれじゃない?」
ローシャさんがアーシャさんの取った依頼票の方を見て難しそうな顔をしています。
何か問題のある依頼なのでしょうか。
「……後は……あ、掲示板のこの辺のは恒常依頼と言って、特定の依頼じゃなくて、冒険者全体への依頼みたいなものかな。今だと、ゴブリン退治だね。ゴブリンを退治した証に耳を切り取って納品すれば、1個につき報奨金で金貨1枚がもらえるよ」
アーシャさんが掲示板の上の方を指さします。
そこには大きな張り紙が張り出されています。おそらく先ほどアーシャさんが言ったような内容が書いてあるのでしょう。
「……本当に耳を切り取るわけじゃない。ドロップ品」
あ、そうなんですか。死体から耳を切り取るのは結構めんどくさそうだな、と普通に思ってしまっていました。
「というわけで、レイラさん。この依頼を受けまーす」
手に持った依頼票をひらひらと振りながら、アーシャさんが受付カウンターの方へと行きました。
その後ろをローシャさんが、さらに後ろを慌てて私がついていきます。
依頼票を見たレイラさんは顔をしかめました。
「……これは、初めて依頼を受ける冒険者用の物ですよ。アーシャさんが受けるのはちょっと」
「ノエルが冒険者になるかどうか悩んでいるそうだから、なら、お試しで依頼をやってみよう、と思ってね。私たちが受けた上で、ノエルにこの依頼を実際にこなしてもらう。私たちが責任をもって監視して、万一、依頼が失敗した時の責任は私たちが負う、ということで。ダメ?」
アーシャさんが私の背後に回って、私を前に出します。
ちょうどカウンターを挟んでレイラさんと対峙する形になってしまいました。
うわあ……レイラさんがすごい冷ややかな目でこちらを見ています。
「……そうなんですか?」
「……ええ、と。流れで何となくそういうことに」
はぁ、とレイラさんがため息をつきました。
「……仕方ないですね。『異人』の、新規に冒険者を目指す人への啓蒙と考えれば、冒険者ギルドとしても断りにくいですね。あくまで特例ですからね? あと、依頼の失敗時のペナルティはアーシャさんとローシャさんのチームに負ってもらうことになりますからね」
「わぁい。レイラさんありがと!」
ごり押ししたみたいになりましたが、何とか通ったようです。
この辺もゲーム的な面でプレイヤー優先で融通が利くところなんでしょうね。
「ところで、何の依頼なんでしょう?」
冒険者に成りたての人が初めて受ける依頼、ということでしたが。アーシャさんが選んでどんどん話を進めてしまったので、何の依頼か依頼票を見ていないのですよね。
「薬草採集です」
「薬草集めだよ」
「……薬草採集」
レイラさんとアーシャさんとローシャさんが一斉に答えてくれました。
薬草採集……思ったより普通でした。




