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最近、急にブックマークしていただいた数やPVが増えて何があったのか逆に不安に。

ありがたいことなのですが。

 さっそく困ったことになりました。

 

 黒の王魔竜グリムレット、あるいは黒竜グリムレット(魔竜たちの王であるからこういう呼び名らしいですが)はロスフェラード聖王国を襲撃し王都を壊滅させ、王族を皆殺しにして国を滅ぼしています。「ノエルリージュ」にとっては自分を連れ去って家族を殺した憎き敵、のはずです。

 けれど、「私」はその場にいたわけではありません。映像を見ただけです。ノエルリージュの敵を前にして怒ればいいんでしょうか?泣けばいいんでしょうか?


 「えーと……初めまして?」

 

 何を言うか悩んで出た第一声がそれでした。我ながら情けない感じです。だってしょうがありません。私は「ノエルリージュ」ではありませんから。怒るのも泣くのも、なんだか嘘っぽい、演技になってしまう気がしたのです。


 「なるほど『異人』らしいな」

 

 苦笑いというか、あきれたというか、とにかくあんまり向こうも敵対的ではないようです。


 「『イジン』?」


 「『女神の祝福を受け、異界の魂を持つ者』のことを我らはそう呼ぶ。異界の魂に憑かれた者は、性格や記憶も変わってしまうと聞いた。お前がノエルリージュ・ロスフェラードなら私に対してそんな態度はとらないだろう」


 んー、つまりNPCノンプレイヤーキャラクターからPCプレイヤーキャラクターに対してはそういう風に見られて呼ばれている、わけですね。


 「怒ればいいのか、泣けばいいのか悩みました」


 「『異人』になっても、過去の事は『他人の目で見ていたかのように』覚えていると聞く。怒っても泣いてもいいが……そうならない方が、私にとっても都合がいい」


 部屋に置いてあった簡素な作りの椅子を動かすと、グリムレットさんは腰を下ろして座りました。


 「ここは我々魔竜が住む洞窟だ。そしてここはお前が住むために作った家になる。我々は竜だからお前が以前住んでいたような豪華な家を作る技術はないが」


 部屋は石造りの壁でできており、私が寝ているのは一応のベッドと思われるもの、たぶん炊事場っぽいものが部屋の隅にあり、あとは簡素な木のテーブルが1つと椅子が2つ、あります。広さや間取り的にはワンルームマンションの部屋みたいな感じですね。お風呂とトイレはありませんが。トイレはゲームですからたぶん必要ないとは思いますが、お風呂がないのはちょっと困りものですね。


 「お前はここに連れてきた時に、既に瀕死の状態だった。私の血を飲ませ、私の魔力を満たした部屋に眠らせ、体力が戻るのを待っていた……まさか目覚めるまでにこれほど時間がかかるとは思わなかったがな」


 お姫さま万歳!


 蝶よ花よと育てられ、天才姉妹に囲まれた能力一般人です。あんな大きな鉤爪付きの手に遠慮なくつかまれて、そのまま空中旅行してたらそりゃ死にかけますって。

 種族が「竜化人」になっていたのはそのせいですね。血も飲ませたそうですし。確か昔の伝説かおとぎ話に竜の血を飲むか浴びるかして不死身になった英雄がいたはずです。


 「それで、なぜ国を襲ったんですか?なぜ私をさらって連れてきたんです?」


 「『シンピ』を開くためだ」


 シンピを開く……?神秘を開く?

 何か謎解きでもしないといけないんでしょうか。


 「『シンピ』とは十二の女神の領域に至るための扉。女神の足元に至った者はみな命と魂の階位が上がり、より強大な力を得ることができる。私は、いや全ての生きる者は、それを求める」


 ははあ。『神』の『扉』で『神扉』(しんぴ)ですか。


 「ロスフェラードはそもそも『神扉』の番人。資格なき者が『神扉』を汚すのを防ぎ、資格ある者へは『神扉』を開き導く役目を与えられた一族。だからこそ私は、その資格たる力を番人に示した」


 いつの間にか立ち上がっていたのか、グリムレットさんは私に顔を近づけてきて、目の前に彼の顔がドアップに迫ります。


「番人の血筋が途絶えれば、ロスフェラードの『神扉』は永遠に閉ざされることになるだろう。だから私はお前をここに連れてきた。お前たちの家族は、殺さずにおくには手強すぎたからだ」


「……なぜ、『神扉』とやらを開きたいのです?」


 顔が近い近い、人が吐く息の熱まで再現されている凄いなあ、などとちょっとあらぬことを考えていました。顔は美形に分類される感じなのでドキドキする女性はしそうです。私はしませんでした。

 あと目力が強すぎてですね、目だけドラゴンのままなんですよ。睨まれてるわけじゃないんですが、ずっと見つめられているわけで威圧感すごいです。


 いや、グリムレットさんは真剣だと思うんですけど、番人がどうとかいきなり設定を聞かされても、私は知らないので何とも答えようがないんですよね。


 「自らが強くなるために、手段があれば実行する。それは当たり前のことではないのか?それに、だ。私には私に従う多くの者たちがいる。その者たちのために、私が強くならねばならないのは当然のことだ」


 「あー、そこについては賛否両論あるかと思いますが……言いたいことはわかりました。ただ、開き方がどうかとかいきなり言われても『私』はわかりませんよ?」


 ちょっと不思議そうな表情で私に聞き返してきたのを見ると……中身がAIだと考えると自然すぎる反応ですごいなあと思うわけですが……このグリムレットという人(いや、竜かな?)、わりと脳筋で単純なのかもしれませんね。あと意外と仲間というか部下思いっぽいようです。


 「……そうだな。お前も目覚めたばかりだ。ここには〈人化〉した魔竜が暮らすための村がある。案内させるから、しばらくは好きに過ごすがいい……私は村の中身は良く知らないのでな」


 グリムレットさんが声をかけると、1人の女性が中に入ってきます。白っぽい金髪、白い肌、目は赤くやっぱり瞳孔が縦に割れドラゴンのままです。ただ、グリムレットさんほどの威圧感はなくむしろ優し気な感じですね。服装もいかにも「ファンタジーの村人の女性」という感じです。


 「サルカンドラ、彼女に村の中を案内してやれ」


 「わかりました」


 サルカンドラ、と呼ばれた女性は深々とお辞儀をしました。


 「グリムレット様の配下の魔竜が一、白竜サルカンドラと申します。魔竜の村のまとめ役をしております。さあ、どうぞ。この家も村の中に建てたものですから、すぐ案内できますよ」


 さて、魔竜の村ですか……どんな感じなんでしょうね?


 と、立ち上がってついていこうとしたら思わず足がもつれて転びそうに。グリムレットさんが支えてくれましたが、体を動かすのは意外と難しいですね?


 あ、あと、忘れていました。靴をください。靴。

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