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大陸暦1052年 空の月 25日
〈ドラゴンウィング〉で近づき、転移で逃げる先を読んで先回りする。〈ドラゴンクロー〉発動。
ここまでは今までと同じです。
【MP】を使いますが、多重発動で手を2つ、作ります。
その手で攻撃……は、せずに出現したテレンスを掴みます。
そのまま引きずって行って。
さっき作られた炎の柱の魔法の中に放り込む!
「どうです?〈物理攻撃無効〉でも、自分で使った炎の柱の魔法は、魔法攻撃ですよね?」
「※※※※※※※!!」
よし。
効いてるみたいですね。まとっていたローブも燃えていますし、苦しそうな叫び声も上げています。これならこのまま〈ドラゴンクロー〉で押さえつけておけばいいでしょう。
「※※※※※※!」
叫び声に混じって、何か呪文のような声が聞こえました。杖を天井に向けています。
つられてそちらを見上げました。
赤い光の玉が徐々に大きくなっていってます。
あ、やばそう。
強烈な閃光とともに、高熱が部屋の3分の1ほどを焼き尽くしました。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
テレンス・ネクロマンサーはすでにボロボロです。
もちろん、さっきの爆発ではダメージを受けてないのでしょうが、自分の魔法の炎の柱に焼かれ、ローブはほぼ焼け落ち、全身の骨の姿が見えてしまっています。しかも熱でところどころヒビも入ったようです。
一方の私はと言うと。
逃げ遅れました。
いえ、炎の柱にあいつを押さえつけていたので逃げるべきか、このまま耐えて相手へのダメージを優先するか迷ってしまったんですよね。
〈ドラゴンスケイル〉を大きく展開して防ぎましたが、おかげで【HP】残り12、【MP】残り16というひどさ。
しかも何より問題なのが、炎の柱を全部吹き飛ばされてしまったことです。とにかくもう1度、炎の柱の魔法を使わせないとこちらからダメージを与えられません。
とにかく。ここは虎の子のHP回復ポーションとMP回復ポーションを使いましょう。逃げて回復していたら相手も回復して、一からやり直しです。
見た感じ、相手も相当ダメージは入っている様子。もう1度同じように炎の柱に放り込めば、倒せるはず。
黒い光弾が連続で飛んできます。防ぎながら、所持品からポーションを取り出すと、蓋をあけて、一気に飲みます。感じとしては薄く果物の味がついたおいしい水、という感じでしょうか。ファンタジーっぽくないですが。
「※※※※※※!」
また赤い光の玉が空中に現れます。〈ドラゴンウィング〉発動。急いで離れて距離を取ります。幸い部屋が広いのと爆発までにタイムラグがあるので逃げるのはそれほど難しくはありません。
黒い光弾。防ぐ。
黒い光弾。防ぐ。
赤い光からの爆発。逃げる。
黒い光弾。防ぐ。
黒い光弾。防ぐ。
赤い光からの爆発。逃げる。
……炎の柱、使ってきませんね。
黒い光弾→黒い光弾→大爆発、というルーチンで攻撃してくるようです。
こっちの行動を学習……は、転移で逃げる先が先読みしているにも関わらず逃げ方が変わらないのでないだろうと思うのですが。この手のボスは【HP】が減って行動パターンが変わることがあるそうなので、それかな?
だとすると、非常にまずいですが。
一応、〈ドラゴンバイト〉〈ドラゴンテイル〉も相手に通じないか試してはいませんけど、それでだめなら、すごいめんどくさい計算をして炎の柱を上手く残して倒す算段をしないといけなくなります。
ああ、もう。
とりあえず〈ドラゴンバイト〉と〈ドラゴンテイル〉が通用するか試して、ダメなら撤退ですね。
爆発の魔法を避けてから、一気に地面すれすれを飛んで接近します。当然、転移で逃げますので、先回りして、〈ドラゴンバイト〉。
鋭い牙の並ぶ口が宙に現れ、噛みつきにいきます。
半円形の黒いバリアのようなものがテレンスを覆うと、〈ドラゴンバイト〉はバリアに噛みつくと、そのままバリアを飲み込みました。
うわ、辛い!?
ししとうの辛いのを間違って食べてしまった時のあの予想外の辛さ、みたいな感じですね、これ。
その隙にそのまま、転移で逃げられ、距離を取られます。
次は〈ドラゴンテイル〉。
同じように転移先を読んで、尻尾で薙ぎ払います。吹き飛ばして壁まで叩きつけますが、平然として特にダメージを受けた様子はありません。
駄目っぽいですね。
……ん?
あれ?
……っと。ちょっと。待って。考えごとを。
飛んでくる光弾を防いで、爆発から逃げながら、先ほどの攻防を思い返します。
今、明らかにおかしかったですよね?
〈ドラゴンクロー〉〈ドラゴンテイル〉はそのまま受けて平然としていました。
〈ドラゴンバイト〉は防御しましたね?
じゃ、もう1度。試してみましょう。
今度は移動中に〈ドラゴンバイト〉を発動させておいて……出現と同時に、噛みつきます!
牙の並ぶ口がテレンスの脇腹に噛みつくとそのまま食いちぎりました。
思わず、手を自分の口にやりました。
しょっぱいです。まずくはないですけど、塩味、ききすぎ。
食いちぎった個所が、そのままえぐれて無くなっています。
……なーんだ。
悩んだのが馬鹿みたいでした。通用するじゃないですか、〈ドラゴンバイト〉。
〈物理攻撃無効〉では、噛みついて牙でダメージを与えることはできなくても、食べて吸収してしまえばダメージになるんですね。
つまり喰えば、そういう耐性的なものは無視できる、と考えていいのでしょう。
それともう1つ。
さっき食べた、テレンスの体はきつい塩味でした。
では、その前の、強い刺激のする辛さは何を食べた味?
テレンスが黒い光弾を放ってきます。
普段は〈ドラゴンスケイル〉で防いでいましたが。
「〈ドラゴンバイト〉」
巨大な口が、飛んで来た光弾を飲み込みます。
辛い。
予想通りです。
「※※※※※※!」
赤い光の玉が空中に現れます。それも〈ドラゴンバイト〉で飲み込みます。
……すみません、調子に乗りました。
辛さがより強くなってちょっと耐えられる許容レベルを超えてました。口が痛いです。
でも、これではっきりしました。
塩味はテレンスの体の味。
辛さはテレンスの使う魔法の味。
最初からできることだったのか、グリムレットさんの力を受け継いで上級に進化したからできるようになったのか、それとも〈竜の胃袋〉スキルの「食べることのできる種類が増える」という効果を受けているのか、理由はどれかはわかりませんが。
〈ドラゴンバイト〉は魔法を喰える。
見れば、魔法を喰っても【空腹度】と【渇水度】は回復しているようです。あと〈魔力奪取〉スキルの効果も発動していて、【MP】も回復しています。
完全に形勢逆転。
もう私に単発の魔法攻撃は通用しません。爆発の魔法も、タメが長すぎて発動前に喰ってしまえます。
テレンスの攻撃は封殺できます。そして、テレンスを倒す手段はもうはっきりしました。
後は倒すだけですね。
数分後、テレンスは跡形もなく、消えてなくなりました。
ごちそうさまでした。
ちょっと、喉が渇きましたけど。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
静かになった大部屋。
四方に扉があります。まずは入ってきた扉の正面の扉を開けてみます。
さして広くない部屋です。
行き止まりのようで、扉や先に進む道は見えません。
正面の壁に何か書いてあります。
部屋に入って、近づいて確認をしました。
「↓」
何かで壁を彫って刻み付けたようにそれは書いてありました。
下向きの矢印です。
下。
下を向いてみますが、別に何もありません。
膝をついて床をよく調べてみました。
よく見ると、何かどす黒いものが飛び散って汚れているようです。
どす黒いもの。
飛び散る。
あれ?
目の
前
が
ま
っ
く
ら
に
「死すべき運命の分岐路に立つ、異界の魂よ。あなたには2つの選択肢があります。このままあなたの死を世界の歴史に刻むか、死の運命をなかったことにするか、です」
「何がありました!?」
フェルエさんの所に来たと言うことは、私は死んだのでしょう。
「罠、です。吊り天井ですね。もっとも、吊ってある天井を落とすのでなく、上からプレス機のように天井が高速で下りてきて、中にいる人間を押しつぶす必殺の罠です。ログは見ないことをお勧めします」
確かに天井に押しつぶされて死んでる自分というのはちょっとしたホラーですね。
「何ですかその初見殺しの罠」
「開発にオールドゲームファンの方がおられまして、今、ノエルさんがいるダンジョンは古典の伝説のダンジョン探索ゲームをリスペクトして作ったそうですよ」
フェルエさんはゲーム名を教えてくれました。知らない名前でしたが、コンピューターでゲームをするようになった時代の最も古いゲームの1つだとか。
「ろくでもない開発ですね」
「あまり大声では言えませんが、私もそう思います」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
死に戻りはよかったのですが、テレンス・ネクロマンサーを倒したフラグがリセットされてもう1回戦う羽目になりました。
ボス戦後に初見殺しの即死罠を仕掛けた開発はやっぱり天罰を受けるべきだと思います。
50話更新まで続けることができました。
これからもよろしくお願いします。
本文中に出てくるゲームとはWで始まってYで終わるゲームのことですw




