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「アナザーアース・クロニクル」ではNPCに最新型のAIを利用し、まるで本当に生きているかのような挙動をするリアリティさが売りの1つであることは最初に述べましたが、それとは別で運営自体もAIが担っているそうです。
12体のAIが合同で運営を行っており、それが世界観的には「世界を守護する十二柱の女神」と表現されています。今、目の前に現れたフェルエと名乗ったGMも恐らくはAIなのでしょう。
「アカウント情報を確認しています……確認できました。あらためて、ようこそ『アナザーアース・クロニクル』へ。ただ今から、この世界でのあなた自身となるキャラクターの作成を行います。準備はいいですか?」
しばらくお互いに無言の時間が過ぎました。あ、私が返事をしないと始まらない見たいですね。
「はい」
「了解しました。まず初めにあなたのこの世界での見た目となるアバターですが……アカウントに登録されているアバターが1つあります。使用しますか?」
アバター……私の仮の姿、ですね。そんなもの、登録した覚えはないのですが……?たぶん、一緒に遊ぶはずだった彼が登録しておいてくれたのでしょう。確か、自分の現実の体の情報から作ることも、一からツールで作りあげることもできたはずです。
昔は自分の体から大きくはなれたアバターだと現実生活に支障がでる恐れがあるため使用できなかったそうですが、最近は技術も進み、性別を変えたり、まったく違う姿でも現実に影響はないそうです。
「はい」
目の前に1人の女性の姿が現れました。
身長はだいたい165センチ前後、肌は日本人としては色白で通用するくらいの白さで、長く伸ばした黒髪はしっとりとした艶があり個人的にはすごく私好みです。目鼻立ちは、まあ、美人と言える部類かな、と思います。
ただ体型は成人女性としては良く言うとスレンダー、悪く言うと貧乳寸胴ですね……これは作成者の彼の趣味でしょうね。残念なことにもう本人に苦情を言うことはできませんが。
総合的に見て一言で表すなら「和風美人」ですね。あ、念のため言っておきますけど、リアルの私はこんな美人ではないですね、残念ながら。
「基本的にあなたのキャラクターの外見はこのアバターをベースに作成されます。ただし、作成されたキャラクターによっては、強制的な変更が加えられますが、了承ください」
「アナザーアース・クロニクル」は様々な種族でプレイができるそうなのでこれはやむを得ない話です。 オープニングムービーに出てきたような二足歩行のトカゲとかになるとまったく違う姿にならざるをえないでしょうし。耳がとがったりとか、動物の耳と尻尾が生えたりとか、そういう変化が加えられることもあるのでしょう。
「では続いて、あなたのキャラクターメイキングを開始いたします。手元にキャラクターブックを表示しましたのでご覧ください」
キャラクター「シート」ではなくキャラクター「ブック」ですよ。現に私の手元に1冊のA4サイズのノートのような本が現れています。
ぱらぱらとめくって、中身を見てみました。
----------1ページ目----------
【キャラクター名】
【家名】
【種族】
【生年月日/年齢/寿命】
【言語】[会話] [読解]
【HP】 【SP】 【MP】
【空腹度】 【渇水度】
【ステータス】
[体力]
[生命]
[器用]
[敏捷]
[知性]
[精神]
[魔力]
[幸運]
【スキルとアーツ】
【装備品】
[頭]
[顔]
[上半身]
[下半身]
[手]
[足]
[アクセサリー1]
[アクセサリー2]
[アクセサリー3]
[アクセサリー4]
【所持品】
----------2ページ目----------
【父親】[名前][種族][職業][生年月日/年齢][友好度]
[特筆すべき事項]
【母親】[名前][種族][職業][生年月日/年齢][友好度]
[特筆すべき事項]
【兄弟姉妹】[名前][種族][職業][生年月日/年齢][関係][友好度]
[特筆すべき事項]
【その他家族】[名前][種族][職業][生年月日/年齢][関係][友好度]
[特筆すべき事項]
【出身地】
【文化レベル】
【社会的地位】
【家庭環境と育成方針】[家庭環境][育成方針]
----------3ページ目----------
【生まれた場所】
【異常な誕生】
【幼少期に経験した出来事】
【青年期に経験した出来事】
【成人期に経験した出来事】
【壮年期に経験した出来事】
【老年期に経験した出来事】
----------4ページ目----------
【あなたの歩んだ歴史】
【称号】
-------------------------
……見てて頭が痛くなってきました……VRだから気のせいだと思いますが。
独自のキャラクターメイキングが売りだと聞いていましたが、これ、私にできるんでしょうか。ちなみに現在は4ページしかありませんが、2ページ目の項目と3ページ目の各項目には【自由記入欄】という余白があり、量に応じてページ数は増えていくようです。
「『アナザーアース・クロニクル』のキャラクターメイキングは非常に独特の手法で行われます。いきなりは難しそうに見えるかもしれませんが、『あなた自身であるキャラクターがこの世界でどう生まれ育ったか』をイメージして、作成するとよいでしょう」
にこやかにナビゲート役のフェルエさんが言いますが、正直荷が重いのですが……何より、今になって私自身が気づいたことがあります。
どういうキャラクターを作るか、私自身がまったく考えていませんでした。
1つ言い訳させてもらいますと、私はこういうゲームは初めてですので、当然、キャラクターを作るのも初めてなわけで、どういう心構えで挑めばよいか、というのがさっぱりわかっていませんでしたから、こういう状況になるのもやむを得ないものと思います。
こういう時に彼がいてくれたら、色々とアドバイスがもらえたかもしれないのですが……。
「『アナザーアース・クロニクル』では、あなたがゲームを開始するまでにキャラクターが歩んだ人生を設定することで、あなた自身がこの世界の住人となってプレイをすることが推奨されます。また、それが私たち十二柱のGMの望みでもあります。ご心配にならなくても、多くのユーザーの方がキャラクターメイキングには非常に時間をかけておられますので、ごゆっくり作成ください」
こうしていきなり見せつけられたキャラクターブックのあまりの量に圧倒され固まってしまうのは規定路線なのでしょう。フェルエさんはにこやかにフォローをいれてくれます。(ちなみに後で調べて知りましたが、すごい人だとキャラクターメイキングだけで1週間はかかったとか)
と、とりあえず、キャラクターブックの中身の各項目を見ていくことにしましょうか。
キャラクターシートの表現難しいですね……どうやったらきれいにまとまって見えるようにできるんだろうか。