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───それはここではないどこか。
───十二柱の女神に護られし世界。
ここで背景は星空から12人の様々な姿をした女性が並ぶ様子に切り替わりました。皆、荘厳な雰囲気で女神、と言われると確かにそんな感じがします。
───そこには変わらぬ人の営みがある。
おそらくは街の様子が映し出されます。いわゆる中世ヨーロッパを模した、ファンタジーの世界によくある街並みというものです。賑やかで活気がありますが、何より特徴的なのは現実にはないような髪の色や肌の色、普通とは違う見た目……動物の耳や尻尾がついていたりはては二足歩行している動物やトカゲやら、明らかに人間ではないような存在がいることです。
───ある者は武器を取り勇猛なる戦士となり脅威に挑むだろう。
剣を手にした男性が、異形の怪物を派手な動きで切り伏せている光景になります。いわゆる所の英雄譚の主人公、という雰囲気を醸し出していますね。
───ある者は魔術の神秘と深淵の知識を追い求めるだろう。
図書館でしょうか?本棚に本が並ぶ薄暗い部屋でおとぎ話に出てくる魔女のような、三角型の帽子に黒のローブをまとった女性が、ランプの光を頼りに古ぼけた本をめくり読みふけっています。そして何か唱えると、手より淡い光が立ち上り、それが背中に羽の生えた小さな人の姿に変わります。なかなかすごいですね。
───ある者は匠の技をもって至高の一品に己が魂を込めるだろう。
背の低い立派な髭の男性が、一心不乱にハンマーを振るい、真っ赤な鉄を叩いています。おそらくは鍛冶の作業でしょう。となると男性はファンタジー世界によくいる「ドワーフ」という存在なのかもしれません。
───ある者はただ平凡だが平和な時を過ごすかもしれない。
街中でいろいろな物を並べて道行く人を呼び止め、何か一生懸命話をしている男性。露天商っぽいですね。しばらくして場面は切り替わり、賑やかな酒場の中でお客さんに愛想を振りまきながら注文を取り商品を届ける女性の姿が映し出されます。確かに、普通の街の人の姿、と言えます。
───異界の魂を持つ者たちよ。あなたは望むがままに生きよ。
───もう1つの世界があなたを待っている。
───そこには心躍る冒険がある。
4人の男女が狭い石造りの通路を歩いてる光景に切り替わります。先頭を歩く男性が持つランタン?だけが光源であり、その後ろを歩く男性と最後尾を歩く男性は武器を手に周囲を警戒しています。その2人に挟まれる形の女性は何か地図のようなものを広げて、それを確認しながら歩いていく先を指さします。これはいわゆる「ダンジョン」というものでしょうか。
───そこには恐ろしい脅威がある。
ごつごつとした岩場で真っ赤なドラゴンが自分を取り囲む人間をぐるっと一瞥すると大声で吠えるシーンになります。周囲に人間との大きさと比べるとだいたい現実でいうと15メートルから20メートルといったところでしょうか。ゲームとは言え、実際にこれだけ巨大なものが目の前に現れ、動き、しかも戦うとなるとなかなか大変そうです。
───時には勝利をし、栄光をつかむだろう。
またドラゴン、と言ってもさっきのシーンとは違って体の色は茶色で羽がなく、体がごつごつとして鱗というよりは岩のような感じですが、その巨体がぐらりと揺れて倒れ動かなくなると、多くの人間がめいめい手にしている武器を振り上げ歓声を上げているシーン。それがすぐに切り替わり、先ほどの「ダンジョン」のようなシーンから大きな扉を開くと、目もくらむような金銀財宝がうず高く積み上げられた部屋が現れ、それを見た男女が手を取り合って喜ぶシーン。そして最後に、鍛冶をするドワーフの男性が作業を終え、ついに完成した剣を掲げ、満足げに頷くと剣が輝き、視界が光に包まれ真っ白になります。なかなか凝った演出ですね。
───時には敗北をし、大切なものを失うだろう。
一転、視界が黒くなると、次に燃え盛る街が現れます。多くの死体が転がり、黒い雲に覆われた空を多くのドラゴンが飛びまわっています。立派な鎧に身を固めた男性が倒れ、血を流しながら手を伸ばすと、その先には白いドレス姿に銀色の髪をした美しい女性の後ろ姿が見えます。彼女が振り返り、不安げな表情を見せた瞬間、巨大な黒い手が彼女の体を鷲掴みにします。それは漆黒の鱗をもつ巨大なドラゴンで、そのまま彼女を掴んだまま飛び立ちます。彼女は必死に手を伸ばしますが、倒れる男性の手をつかめないまま、ドラゴンは飛び去り、男性はそのまま動かなくなります。悲劇的な物語を想像させる、ドラマチックなシーンだと思います。
───そのどれもが、大切なこの世界の歴史の1ページ。
たき火を囲む複数の人影が見え、その中央にいる人は楽器……おそらくリュート、というものでしょう。それを弾きながら何かを話しています。歌、というよりは弾き語り、でしょうか。そして視界は空へと移り、満天の星空が見えます。
───紡ごう。もう1つの世界であなただけの歴史を。
「AnotherEarth Chronicle」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
時間にして約3分。一応礼儀として最後まで見ました。いい出来だと思いますが早くゲームを始めたい人は見ないのでしょうね、オープニングムービー。
視界の端に常に「SKIP」のボタンが見えてしまっていたので押すかどうか気になってしまったのは事実です。
あと、実はこのオープニングムービーが始まる前に規約書への同意が求められました。もちろんきちんと読んで同意しましたが、あまりゲーム自体には関係ないので詳しい説明は省略します。割と読み飛ばす人も多いそうですし、不正行為の禁止云々なんていちいち解説してもしょうがないですしね。
ただ、ちゃんと読んで内容は確認し、把握しないとダメですよ。
そんな私は今、不思議な空間にいます。真っ暗で、何もないはずの場所なのですが、不思議と暗闇の中にいる時に感じるはずであろう恐怖感や不安を感じない空間です。さすが仮想現実、という所なのでしょうか。なにせVR自体、入るのは初めてですのでこういうのが普通なのかもわかりません。
そうしていると目の前に青白い灯りが2つともり、目の前に1人の女性が現れました。
緩やかなウェーブのかかった薄紫色の髪、目は閉じているので目の色は見えませんが、額の所にもう1つ髪の色と同じ色をした目が開いており、こちらを見下ろしています。白い凝った意匠のドレスをまとい、手には杖を、先端に青い球が浮かびその周囲を四角錘型のオブジェクトが3つくるくると回っているという不思議なデザインの長杖を持っています。額に3つ目の目がある、となると明らかに普通の人間ではないですが、ちゃんと美人な女性に見えますね。
「ようこそ。『アナザーアース・クロニクル』の世界へ。私はこの世界を守護する十二柱の女神のうちの一柱、時と運命を司る女神フェルエ。そして、あなたのキャラクター作成からゲーム開始までをナビゲートするGMとなります」
あ、GMなんですね。よろしくお願いします。
オープニングムービーを考えていたら楽しくなって話が一向に進まなかった件。