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投稿しようとして最終チェックしたら間違いに気づく不具合……。
大陸暦1052年 氷の月 20日
かくれんぼ。
伝統的な子供の遊びで、鬼が目をつぶっている間に子が隠れ、鬼が後からそれを見つけ出す単純な遊びである。缶けりとか派生ルールも多い。
「ま、ルールは簡単。私が隠れるから、ノエルが見つける」
「私が鬼というわけですね」
地味にかくれんぼ自体はやったことがないかもしれません。最近はこういう遊びをやることも少なくなっていますし。一応、ルールは心得ていますが。
「そそ。じゃ、目をつぶって10数えてね」
言われるとおりに目を閉じてゆっくりめに10まで数えます。
「……9……10!」
目を開けるとノクターナルさんはいなくなっていました。では、探しに行きましょうか。
”違う違う”
私が歩き始めると、ノクターナルさんの声だけが聞こえてきて、私を止めました。
”これは〈気配察知〉のスキルを覚えるための訓練だからね。〈気配察知〉のスキルを習得する条件は「見えない存在を気配だけで認識すること」。ただ隠れている私を見つけるんじゃなくて、『見えない』私を見つけるんだ”
声はすれども姿は見えず。周囲を見回しますが、ノクターナルさんの姿は見えません。
”今、私は〈透明化〉の魔法と〈隠密〉のスキルを使ってノエルの側にいる。今から、その私を気配を捕まえて、見つけるんだよ”
とりあえず声のする方に意識を集中してみますが、何も感じません。本当にいるんでしょうか?とりあえず集中するために目を閉じ感覚に集中を……
”目を閉じちゃ、駄目”
……したら、ノクターナルさんに駄目だしされました。
”いいかい。気配をとらえるってのは全ての感覚を使ってやるんだ。視覚も大事。でも見るだけじゃだめ。見て、聞いて、感じる。見るだけじゃだめ、聞くだけでもだめ、感じるだけでもだめ”
難しいことを言われます。もう1度ゆっくりと見回しますが、何も姿は聞こえません。風の音しか聞こえません。もちろん存在を感じることもありません。
「いや、難しいですよ、これ」
”かなあ……じゃあヒント。感じるのは五感だけじゃ、ない”
五感だけじゃない……?第六感?そんな超能力みたいなもの使わないとわからないものなんでしょうか。いや、よく考えましょう。五感だけじゃない、現実にはないものを感じるスキルがありましたね?
〈魔力知覚〉
さっきノクターナルさんは言いました〈透明化〉の「魔法」を使っている、と。なら魔力を感じる〈魔力知覚〉なら、見つけられるのでは?
スキルに集中すると、右手側にぼんやりとした人型の魔力の塊を感じます。
どうやら正解のようです。
”私の位置がわかるようになったみだいね。でも、それは魔力を感じて見つけているだけ。気配を捉えてるわけじゃないから、〈気配察知〉のスキルは覚えられないよ。〈魔力知覚〉で私の居場所を見極めたら、そこにある気配を、感じるんだ”
その通りですね。魔力を見ているだけなのでスキルは覚えられていないようです。
1度〈魔力知覚〉を解除します。途端に何も見えなくなりました。
でも、ノクターナルさんはそこにいるはず。感じろ、感じろ……!
”いつまでも同じ場所にはいないよ”
言われてはっ、と気づきました。慌てて〈魔力知覚〉をもう1回。確かに、ノクターナルさん移動してますね。今は、立ち止まっているようなので〈魔力知覚〉を解除して、もう1回。
見るのでなく、聞くのでなく、感じるのでなく、見て聞いて感じろ……っ!
”そう。捉えた、みたいだね”
無意識に私は何も見えないはずの空間を目で追っていました。ただ、間違いなくそこにあるものを、感じて追いかけていたみたいです。
【〈気配察知〉のスキルを習得しました。】
機械的な女性の音声が響きました。キャラクターブックを開いてみると、確かに〈気配察知〉のスキルが増えています。
ふーっ、と私は大きく息を吐きました。
「上手くスキルを覚えられたみたいだね。おめでと」
姿を現したノクターナルさんがぱちぱちと拍手してくれました。
「集中しすぎて、疲れました……でも、気配を捉えるために〈気配察知〉のスキルを覚えようとして、そのために気配を捉えないといけない、てのはなんだか本末転倒ですね」
「あー、それはちょっと違うなあ」
思わず出た私の愚痴に、ノクターナルさんが笑って答えました。
「今の感覚をもう1回やって、て言われても難しいでしょ?本当ならその感覚を何も考えなくてもできるようになるまで繰り返してやっとできるようになった、と言える。でもスキルはそれを1回成功させたら、後は何も考えなくてもできるようにしてくれるんだ。とにかく偶然でも1回成功させちゃえばね」
なるほど。そういう考え方もできますね。
「ま、まだ覚えたばっかりだよ?気配を消してくる相手とかもいるし、気配がそもそも薄いような相手もいる。今はじっと集中してたけど、自分がどんな状況に立たされていても、気配を捕まえないといけない。それができるようになるのが、スキルのレベルが上がる、てことだけどね」
まだまだ先は遠そうですね。とりあえず〈気配察知〉1レベル、です。
しかし、ゲームの中でスキルを覚えるというのも大変なものですね。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
さて、〈気配察知〉のスキルは無事覚えることができたので、次は〈鑑定〉のスキルです。
これを覚える方法は……「辞典に類する書物を30分以上読み込んだ後、実際に生物ないしアイテムの性質・性能を調べて把握する」です。これはこれで結構めんどくさくて大変そうですが、まず私にとっての一番の問題は「辞典に類する書物」というものを入手できるか、ですね。
そんなわけで私はサマリーさんの家に来ています。だって、辞典のような本がありそうなのがここしか思いつかなかったんですもん。
「いや、ないぞ」
サマリーさんの答えはあっさりしたものでした。
「ですか。服飾の一覧みたいなものがあって、それをもって服を調べたら覚えられないかなーと考えてたんですが」
「そもそもこういう技術は人から人に伝わるものだろう。俺のも人間の街で教わったものだしな」
サマリーさんが人間の街で生活して裁縫仕事してたいきさつはちょっと興味はあるので詳しく聞いてみたいですが、とりあえず今の状況にはあまり関係はありませんね。
どちらにせよ、他にあてはありませんし、これはどうしようもないかな?個人的には何とかなると踏んでいたのですが……根拠は、最初にログインするときのフェルエさんの言葉。
リアリティを損なわないようにしつつ、ゲームを楽しめるように、導き手が配置されている。
だからこそ、ご都合主義的に裁縫技術を持つドラゴンのサマリーさんがいたり、ドラゴンが住むような所にか弱いウサギ型モンスターが共存していたりしているのだと思います。なら、基本的なスキルを覚える機会も用意されているのでは?と考えたのですが。ちょっと甘かったですかね。
「ここならその手のものがあるとしたら……あそこしかないか」
ん?何かサマリーさんに心当たりがありそうです。
「あるんですか!?」
「いや、実際にあるかどうかはわからないぞ。ただあるかもしれない、というだけだ」
腕組みして、難しそうな顔をして考え込んでいるサマリーさんですが、私としてはあてがあるなら空振りに終わっても是非、確かめてみたいところです。
「それは、どこなんでしょう?」
「グリムレット様だ。グリムレット様の宝物庫ならもしかしたらそういうものがあるかもしれん」
えっ。さすがにそこに入るのはまずいんじゃ……?