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大陸暦1052年 氷の月 20日
目を覚ますと、そこは知ってる暗闇でした。
いや、ログインしたら女神フェルエさんのとこだったわけですけど。
「よくお戻りになられました、ノエルさん」
笑顔で(何か最近はドス黒く見えてきつつありますけど)でフェルエさんが出迎えてくれます。
「あんまり腹黒く見られると悲しくなりますね」
そこは心の声です、心の声!VRだと見えるのかもしれませんけど。
「では、ログアウト中のキャラクターの死亡について説明させていただきますね」
ログアウト時に自分のキャラクターを残していて、かつ、ログアウト中にそのキャラクターが死亡した場合、ゲーム世界からそのキャラクターは即時にいったんゲーム世界から消えるそうです。その後、プレイヤーのログインに合わせて、いったんこの場所を経由して後、復活地点からゲーム開始となるそうです。
その際、死を世界の歴史に刻む=死亡を確定させる、ことはできないそうです。また、死をなかったことにした際のペナルティー(一般的にはデスペナと呼ばれるものです)は受けないそうです。
うーん、私、死にましたか。ミドルラビットとの戦闘とノクターナルさんとの訓練くらいなら危険はないと思っていたんですけどね。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
というわけで改めてログインです。自室のベッドで目を覚ましました。そんな私を出迎えてくれたのは土下座した赤髪の少年でした。
どういうシチュエーション?
「あら、やっと戻ってきたのね」
私に気づいたらしいサルカンドラさんが、部屋に入ってきました。
サルカンドラさんによると、この赤髪の少年の名はヘイズ。まだ年若い魔竜で(だから少年の姿なのでしょう)、〈人化〉の訓練のためにこの村に住んでいる1人だそうです。
で、私がログアウト中に、「異人」の新入りがいると知ったヘイズ君。血の気が多いのか喧嘩っ早いのかはわかりませんが、「『異人』って死なないんだろ?」と言ってノクターナルさんとの訓練場所に乗り込むと、ログアウト中の私と模擬戦をやって見事に手加減なしで私をぶっ飛ばしたそうです。
「ごめんなさいね、ノエル。もうやらないようによーく反省させておいたから」
「すみませんでしたーっ!!!」
サルカンドラさんにぐりぐり頭を押さえつけられて、まだ土下座しているヘイズ君。根は悪い竜じゃないっぽいですがそもそもドラゴンなので人間と感覚が違うみたいですね。
まあ、いくら自分で死を認めないと死なないとはいえ、死ぬと色んな意味で痛いのでやめてもらいたいです。あ、ログアウト中ならデスペナもないしそうでもない……ってこともないですね。本来ならAIが訓練してレベルを上げてくれている時間が減りましたし。
世の中には機会損失という言葉もあるのです。
さて、今日は何をするか、というのを頭の中でまとめる前に、キャラクターブックの確認をしておきましょう。
【HP】60/60 【SP】36/36 【MP】63/63
【空腹度】53/100【渇水度】 62/100
【ステータス】
[体力]7
[生命]22
[器用]18
[敏捷]7
[知性]12
[精神]16
[魔力]31
[幸運]14
【スキルとアーツ】
〈竜闘術〉LV6 〈状態異常耐性〉LV1 〈礼儀作法〉LV4
〈園芸〉LV1 〈調教〉LV1 〈動植物知識〉LV1
〈魔力知覚〉LV3
【装備品】
[頭]
[顔]
[上半身]粗末な服♀
[下半身]粗末な服♀
[手]
[足]粗末なサンダル
[アクセサリー1]ロスフェラードの指輪
[アクセサリー2]
[アクセサリー3]
[アクセサリー4]
ステータスはそれに関連する行動をとると成長します。[魔力]が目に見えて伸びていますが、〈竜闘術〉って魔力ばっかり使うので当然と言えば当然です。ただ体を動かしてるわけではないので、それ以外のステータスはほとんど伸びてないですね。
訓練の時にノクターナルさんにも指摘されましたが、私はどうも体を動かすのが苦手なようです。魔力を把握したりとか相手の攻撃を見切るような感覚の良さはあるようなのですが、走ったり、跳んだり、とっさに体を動かすようなことはダメなようです。
〈竜闘術〉は順調に成長しています。
【アーツ】の方は、
【アーツ】〈ドラゴンクロー〉LV3 〈ドラゴンスケイル〉LV6 〈ドラゴンバイト〉LV2
〈ドラゴンブラッド〉LV1
〈ドラゴンブラッド〉というのを覚えました。これはかかってしまった状態異常を治療する/効果を和らげる自分専用のアーツのようです。
結構、【空腹度】と【渇水度】が上がっているので食事(という名のウサギの丸呑み)をしてから出かけることにしましょう。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
で、今日の私の目標は、〈鑑定〉と〈気配察知〉のスキルを覚えることです!
公式掲示板で「アナザーアース・クロニクル」初心者へのアドバイスというのを見つけまして、そこに「覚えるといい」とあったので今日はそれに挑戦しようと思います。
それぞれのスキルの解説をしますと、〈鑑定〉はモンスターやアイテムの情報を読み取るスキルです。これがなければアイテムの具体的な性能がわかりませんし、戦う相手の情報を知っておくのは重要です。「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」と言いますしね。
〈気配察知〉はその名の通りにモンスターやPC、NPCなどの「生物」の気配を読み取るスキルです。1人で行動する時に何より怖いのは敵からの奇襲、不意打ち。それを防ぎ、周囲の状況を把握しておくためにも必須、だそうです。
多少、ネット情報の受け売りな部分はありますが、この2つに共通するのは「情報を入手する」スキルであることですね。何も知らないまま突っ走れば、落とし穴があれば落ちます。だからこそ、こういう情報を入手するスキルが大事だというのは、合理的ですね。
スキルを覚えるには2つの方法があり、1つは〈魔力知覚〉を取得した時のように、スキルにあった取得条件を満たした行動をとること、もう1つは《スキルスクロール》というアイテムを使用することです。これはスキルの種類ごとに存在し、開いて読めばそのスキルが覚えられるというお手軽簡単な便利アイテムです。大きな街でなら、高いですが基本的なスキルのものを店で売っているとのこと。
「大きな街でなら」「高い」
私が今、いる場所は?お店?そんなものなかったですね。ついでに言うとお金もありません。
というわけで必然としてスキルを取得する条件を満たした行動をとる、ことになります。幸いにもどういう行動をとればいいか、も分析されて情報が開示されていますので問題はありません。
では、まずは〈気配察知〉からいきましょうか。
〈気配察知〉を取得するための行動は「目をつぶって、10分以上動き回る」です。
ただ目をつぶっているだけでは駄目で、移動をしないといけないこと、10分以上となってますが取得にかかる時間はまちまちで長い場合だと1時間ほどかかったという例もあるそうですが、その2点がポイントでしょうか。
周りにドラゴンやウサギやらがいないのを確認して……まずは目をつぶって歩いてみましょう。
目をつぶれば、当然、周りが見えなくなります。実際にやってみたことのある人にはわかると思いますが、この状態で歩くのはとても勇気がいるんですよね。とはいえ、これはゲームでありVRです。体に動けと命じれば目をつぶっていようが体は動き始めます。ゆっくりとですが歩き始めましょう。
しばらく歩き続けましたが、特に何も感じません。スキル取得の表示も出ませんね。こういう時って体感時間は長く感じるようですから、自分ではそれなりに長い時間歩いているつもりでも実際はそうではないんでしょう。
と、その時。
急に首筋に何か冷たいものが触れました。
「ひぃああぁぁ!?」
思わず変な声が出てしまいました。慌てて飛びのいて、振り返って身構えます。
あ、目を開けちゃった。
「何か面白いことしてるね?」
そこにいたのはノクターナルさんです。にやにや笑っている所をみると、私の様子を見て驚かせてみたようですね。というか、まったく気配を感じなかったんですが……。
「目をつぶってそろそろ歩いてるのが見えたからね……〈心眼〉の修行でもしてたのかな?」
〈心眼〉というのは感覚系の上位スキルで、これを持っていると目をつぶっていようが周囲の様子がわかるようになる他、自分の目の届かない背後とかの様子までわかるようになるそうです。
いや、そんな高尚なスキルの修行をしていたわけではないのですが。
「〈気配察知〉ね。ああ……まあ、それでも覚えられるかも、だけど、効率悪いと思うよ?」
ノクターナルさんが首をかしげます。
「そうなんです?こうしたら覚えられると調べたんですけど」
「ふぅん?じゃあ、よかったら私が手伝おっか?〈気配察知〉覚えるの。簡単なやり方があるよ」
ほほう。簡単なやり方があるそうです。目をつぶって10分以上歩く、て割と大変ですからそれより簡単ならいいかもしれません。
「よかったら教えてもらえないでしょうか」
「わかったよ。じゃ、やろうか」
ノクターナルさんはにやり、と笑いました。
「『かくれんぼ』をね!」