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服も無事着替え終わり、装備品が【ロスフェラード国のドレス】から【粗末な服♀】に無事変わりました。サルカンドラさんが着ていた服と変わらないワンピースで、いかにも村娘です。相変わらず歩いていると足がもつれて転びそうになったりしますが、随分動きやすくはなりました。
そんな私は村の外に出てきています。外と言っても柵とか囲いがあるわけではなく単に家の建ち並ぶ場所から離れただけですけれど。
そして外に出て気づいたのですが、ここはどうやらとても大きな洞窟の中のようです。上を見上げると、空ではなくごつごつした岩が見えます。ところどころに穴が開いていて日の光が差し込んでいるため全体としてそんなに暗くなく、気づいていませんでした。天井に穴がたくさんあるとか崩落の危険がないのだろうか不安になりますがそこはゲームなのでしょう。
そういう日の光が届く環境だからでしょうか、足元は丈の短い草が生えており、さながら草原のようです。何かウサギみたいな小動物っぽいのが何匹か草を食べているのが見えますね。
とりあえず、特にいきなり戦闘する気もありませんし(そもそも戦い方がわかりません)、ぶらぶらと歩いていくことにします。岩壁が遠くに見えますが、かなり遠いようなのでちょっとそこまで行ってみるのは躊躇われますね。
ウサギモドキ(命名私)のことは無視して歩いていると、草原の中にある岩場のような所にたどり着きます。同じような岩場がぽつぽつとあるのが見えますね。登ってみようか……とか思っていると、岩場の上に黒い鱗のドラゴンがいるのに気づきました。
思わず目があって、冷や汗が噴き出たように感じましたが、じっとこちらを見下ろしているドラゴンは、とにかく襲ってくることはないようです。私が竜モドキ人間になったからでしょうか……とにかく敵とみられることはないようです。よく見ると、どうやらこの岩場はドラゴンの巣になっているようです。草原に見える岩場は全部ドラゴンの巣なんでしょうか。
手を振ったりしながら、とにかく急いでその場を離れることにしました。そう言えば「ノエルリージュ」はペットの動物を色々かわいがったりしてましたが、さすがにドラゴンをよしよし撫でる気にはなれませんね。
甲高い鳴き声が聞こえたので思わず上を見上げました。
ドラゴンが2匹、つがいでしょうか、寄り添って飛んで行くのが見えました。ここは広いだけでなく天井も高いようです。こうしてすぐそばにドラゴンが当たり前のようにいるのを見ると、ここがあの黒竜がいるドラゴンの住み家だと思い知らされますね。襲ってくるわけではないので、ファンタジーらしい風景と言えばそうですが。
そういえばこの「アナザーアース・クロニクル」はSSを撮る機能はついてないそうです。代わりに、ゲーム内日時を指定することで自分視点での動画を作成するサービスが公式にあるそうです。(もちろん有料ですけどね)
おそらく、誰もみたことのないこの景色を、記録に残しておくのも悪くないかな……とか考えていた時に、私は「そいつ」と遭遇したのでした。
「そいつ」は、まさしく食事中で、ウサギモドキ(命名私)にかぶりついている最中でした。普通に見えていたらなかなかグロい光景だったかもしれませんが、そこは残酷なシーンへのフィルターがばっちりです。
なので、そいつ───全長1メートルに満たないかくらいの大きさとしては大型犬くらいな黒いドラゴンは、どちらかというとかわいらしく見えました。
たぶん、子供のドラゴンなのでしょうね。目もまだ眼光鋭い感じではなくきらきらと輝いていて、食事が終わると、好奇心いっぱいな様子であたりを見回したり、草むらに顔を突っ込んだりしている姿は、動物好きでなくてもかわいく見えるでしょう。
子供はどんな種族でもかわいく見えるものです。
そうしていると私の存在に気がついたのか、ひょこひょこと近寄って来て、ふんふんと私の匂いを嗅ぎ始めます。ほんとに大型犬みたいですね。そっと撫でてみましたが、特に嫌がる気配はありません。むしろ目を細めて気持ちよさそうにしています。毛皮じゃなく鱗なのでひんやりとした感じですが手触りも悪くないですね。
そのまま撫でていると、私の方に体をすりつけてきます。ああ、かわいい。
……と、急に目の前の風景が灰色に変わっていきます。あれ?
いったい何が……どうして天井が見えるのでしょう……あ……れ……?
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
気がつけば、真っ暗な空間に私はいました。よく覚えています。キャラクターメイキングの時の場所と同じですね。そして同じように紫色の髪をした女性、女神フェルエさんがいます。
「死すべき運命の分岐路に立つ、異界の魂よ。あなたには2つの選択肢があります。このままあなたの死を世界の歴史に刻むか、死の運命をなかったことにするか、です」
……はい?
「予想以上に早い到着ですね、ノエルさん。ここに初めて来られた方に『キャラクターが死亡した場合』について説明させていただいています。よろしいですか?」
「私、死にました?」
「はい。死にました」
フェルエさんは杖を持っていない左手に何か薄い板のようなものを出すと、そちらを眺めて何かを確認します。
「ログを確認しました。ドラゴンパピーの攻撃を受け、致命傷を負っていますね」
パピーというのはさっきの子供ドラゴンのことのようです。
「……スキンシップをしていただけなんですが……」
「ログ映像を見ると、あなたが撫でているところに噛みつかれ、そのまま押し倒されてますね」
小さくてもドラゴンはドラゴンだったようです。まあ、私は作りたてのキャラクターですし、ドラゴンと言えば多くのゲームで最上級に近いモンスターですから、子供でも初心者なんか即、倒されるレベルの敵なのでしょう。
さて。「アナザーアース・クロニクル」ではキャラクターが死亡した場合、いったん女神フェルエの元に送られ、2つの選択肢のどちらかを選ぶことになるそうです。
1つは「このままキャラクターの死を世界の歴史に刻む」
つまり、キャラクターの死亡が確定します。改めてキャラクターを作成してゲームを遊ぶには再作成と同じだけの時間と半分のお金がかかるそうです。一見メリットがないですが、「命と引き換えにやり遂げたこと」は事実として残るそうなので、死して名を残したりすることはできるそうです。あと、あらためてキャラクターを作成するときには前世=以前のキャラクター、に応じたボーナスがつくとか。
もう1つは「死の運命をなかったことにする」
つまり、復活地点と呼ばれる設定した場所に戻され、相応のペナルティを受ける代わりに死ななかったことになります。ちなみにペナルティは一定時間ステータスの減少、所持品をランダムに失う、スキルに蓄積されていた経験値の減少、だそうです。結構厳しいですね。それと死ぬ直前までやっていた行動はキャンセルされるそうです。名もなきNPCがやったことなるんだとか。
「……ちなみに、死を世界の歴史に刻む、と……?」
「ノエルさんの人生が『黒竜グリムレットにさらわれ、その魔力によって竜化人として22年の眠りより目覚めるも、目覚めて3時間でドラゴンパピーに噛みつかれて死亡』となります」
何その人生ひどい。
「じゃあなかったことでお願いします」
「了解しました……では、よき運命を」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
目覚めたのは最初の部屋でした。ここが復活地点として設定されているようです。グリムレットさんは流石にいませんね。
何か疲れました。なんだかんだで1時間くらいはプレイしていたようです。
初日はこれくらいにしてログアウトしましょう。おやすみなさい。