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ノエル’ズ ダイアリー ~竜姫さまのVRMMO日記  作者: 柚ノ森みんと
3章:大陸西域・レウルザーガ領アルトラント
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 大陸暦1053年 海の月 29日



 ……何とか、該当する薬草5種類の説明の書かれたページを書き写しました。

 もちろん絵もです。見せませんよ?

 アーシャさんはまだ必死に書き写しているようです。ローシャさんが隣に座って冷ややかに作業の様子を眺めています。


 「そう言えばちょっと不思議だったのですが」


 ちょっと気になったことがあったので、アーシャさんではなく、ローシャさんの方を向いて尋ねてみました。


 「ローシャさん、ゲーム始めたばっかりの初心者のわりに色々ゲームのことに詳しいですね」


 「……ああ、それは」


 「私は始めたばっかりだけど、ローシャは違うよ~」


 ローシャさんが答える前に、手を止めたアーシャさんが答えました。


 「βテストの時からずっとこのゲームをやってたんだけど、私がこのゲームやりたい、て言ったらわざわざキャラ作りなおしてつきあってくれてるんだよね」


 頬杖をついて、アーシャさんがローシャさんをにやにやと眺めています。

 照れたようにローシャさんが顔をそむけました。


 「……別に。色々行き詰ってたから、ちょうどよかっただけ」


 仲が良い姉妹の微笑ましい光景なのでしょうが、私は別のことに気を取られていました。



 βテスト。



 ……と、言えば。私にとっては(私が参加したわけではありませんが)、やっぱり気になるのは、あの事です。


 「……じゃあ、『ロスフェラード攻防戦』イベントも参加したんですか?」


 ノエルというキャラクターとしても、私としても。

 直接参加したわけではないけれど因縁のある「ロスフェラード攻防戦」イベント。


 「……あ、うん」


 私の質問にローシャさんが言葉を濁しました。何かあまり言いたくないようなことのようです。


 「あー! やっと終わった!」


 不意にアーシャさんが大声を上げました。


 「次行こう! 次!」


 「……姉さんは図書室で騒がない」


 ため息をついてローシャさんがアーシャさんをジト目で眺めます。よく見るアーシャさんとローシャさんの光景ですね。


 ……うん。何か微妙な雰囲気になっていたので、ちょうどよかったと思いましょう。


 「次はどこですか?」


 「ギルドの受付。地図をもらいに行こう」


 なかなか出発しませんねえ。



     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 というわけで再び冒険者ギルドのホール、受付カウンターのレイラさんの所です。

 時間が時間だからでしょうか。冒険者ギルドのホールと受付ではプレイヤーの冒険者らしき人も見かけます。

 NPCと区別がつくのか? というと、結構、イベントの報酬だったぷち女神をつけてる人がいるんですよね……NPCには見えないそうですが、まさかプレイヤー識別装置となっているとは思いませんでした。


 「アルトラント周辺の地図と、薬草の群生地の情報ですね。合わせて銀貨300枚になります」


 「高っ!?」


 レイラさんの告げた金額に思わず感想がもれてしまいました。

 報酬が銀貨1000枚だったはずですから、おおよそ3分の1です。必要経費としても大きいと思います。


 「さっき図鑑を調べてどういう場所に生えているかはわかったけど、闇雲に探すのは大変だからね。結局、情報を買った方が依頼達成が速くなって、儲かる、というわけ」


 アーシャさんが解説してくれます。なるほど、一理ありますが、とはいえ3分の1を取られるのは痛いのではないでしょうか。


 「……1回買えば、誰かが群生地をダメにしない限り、次からは買う必要はないから」


 「あるいは情報にない群生地を見つけて報告していただけたら、銀貨100枚をお支払いしますよ」


 ローシャさんとレイラさんがそれぞれフォローしてくれます。


 「あと、地図というのは結構高価なんだよ。ここで買えるのはかなりアバウトだけどね」


 ふむふむ。おおまかとは言え、地図は高価。ただ1度買えば次に薬草を集めに行くのにもう1度買う必要がないので次からは報酬を丸々もらえますし、どこかで新しい群生地を見つけたら情報料として100銀貨もらえるので元が取れなくもないので、そんなに損にはならないというわけですね。


 冒険者をやる上での初期投資、と言えばいいのでしょうか。


 「……ところでそんなにお金は持っていないのですが……」


 「報酬で返してくれたらいいからね」


 アーシャさんが300銀貨出してくれました。


 「そういえば、ノエルは〈地図〉技能持っているんだっけ?」


 「え、ええ。はい」


 「なら買った地図をこうやってキャラクターブックに登録すれば」


 言われるがままに取り出した私のキャラクターブックに、アーシャさんが先ほど買った地図を挟み込みます。



 【地図を登録しますか?】



 メッセージが出たので「はい」を選択します。


 おお。私が出てきたダンジョンからアルトラントの街まで歩いて書かれたオートマッピングの地図に、先ほど買った地図に描かれていた地形が足して表示されるようになりました。

 しかも私が歩いた場所は明るくはっきりと、買った地図で描かれていた部分でまだ行ったことのない場所は薄暗く半透明になっていて、自分が行ったことのある場所が区別されてわかるようになっています。


 そして地図にいくつか丸い点が表示されています。

 赤・青・黄・黒・白。おそらくはそれぞれがそれぞれの色のハーブの群生地を示しているのでしょう。


 「便利なものですね」


 「〈地図〉技能はほんとに便利。必須だよね」


 「……いや、姉さん、〈地図〉技能って取得するの大変だから」


 「え? 地図を借りてきて模写するだけじゃん?」


 「……その後、実際に地図の場所に行って検証と確認するまでがセット。そんな手段で〈地図〉技能を覚えるのは姉さんくらい」


 「ええ……じゃあ、ノエルはどうやって〈地図〉技能覚えたの?」


 姉妹の会話から急に話が飛んできました。


 「ダンジョンを1マス1マス歩いてマッピングしてたら覚えましたね」


 何でそんな変な目で私を見るんでしょうか、ローシャさん。


 「……普通はスクロールで覚えるスキル」


 私もできればそれで簡単に覚えたかったです。



    ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 「というわけで、情報収集と事前準備はここまで。実際に薬草集めに行くわけだけど」


 冒険者ギルドのホールの一角。テーブルをアーシャさん、ローシャさん、私の3人で囲んでいます。みなでめいめい自分のキャラクターブックの地図を見ながらです。アーシャさんもローシャさんもなんだかんだで〈地図〉技能を持っているようです。


 「薬草集めに行くのに大きく2つのルートがある。簡単に言うと街の北側に行くか、南側に行くか、ね。基本的には街の北に出てぐるっと回る感じになるよ」


 確かに地図を見ると、街の北と南、それぞれに草原や森があり、各色の点が存在しています。


 「……単純に森の深い所まで行かないといけないから、南側だとローリンダ大森林に入りこまないと行けなくなる。すると、レベルの高いモンスターと遭遇することになるから、初心者に南側は荷が重い」


 集める薬草は5種類ですが、植物図鑑によるとこれはマナハーブという種類の草が生えている場所によって変質したものとされています。現実にはありえないいかにもゲーム世界の植物という感じですが、このうちブラックハーブとホワイトハーブはあまり日光の当たらない場所に生息しており、森の深い所、木々が生い茂って薄暗い場所でないと入手できないようです。


 確かに地図を見ると、黒い点と白い点は街から離れた森の部分に点在していますね。


 「もちろん、私たちも街の北側に行くことになるよ。まず、北門から出て真っすぐ北側の森を目指す。で、黒と白を回収してから、街の方に戻りながら残りを集めるルートで行くよ」


 アーシャさんが大雑把に行動方針を説明してくれます。


 「……いきなり森に行くんですか?」


 「そそ。結構、周る範囲が広いからね。朝一に出発したとして、もし何かトラブルがあったとして、夜になっちゃうと森の中だと身動き取れないでしょ? だから先に森の部分を済ませておいて、後から草原の部分をやるんだよ。草原なら万一夜になってもまだ何とかなるし、街に戻るのも楽だからね」


 なるほど。何か依頼を受けて説明を受けるたびになるほど、と感じているような気がしますが、依頼1つでもいろいろと考えられているんですね。


 「……ただ『巡り』が悪いのが、問題」


 「うん、そうなんだよねえ……」


 地図を見てアーシャさん、ローシャさんの2人が考え込んでいます。


 というか、聞きなれない言葉が出てきました。



 「巡り」?



 「『巡り』とは、何でしょう?」


 「……簡単に言うと、ゲーム内時間とリアルの時間の関係」


 聞くは一時の恥、と言うことで質問してみたところ、ローシャさんが答えてくれました。


 「……『アナザーアース・クロニクル』のゲーム内では1日24時間、朝6時に日の出になって夕方18時に日没になる。つまり昼が12時間、夜が12時間で固定されている。そしてゲーム内では体感で現実の3倍のスピードで時間が流れるので、どういうことが起こるかと言うと、『ゲーム内の昼間の時間帯は決められた現実の特定の時間だけになる』ことになる」


 あんまり気にしたことはありませんでしたが、ゲーム内の3日=現実の1日ですからゲーム内で太陽が出ている時間が現実の時間で見ると特定の時間帯になるというのは当たり前ですね。


 「……常に同じ時間が昼間だとプレイヤーにとって活動しやすかったりしにくかったりと差がでるから一定周期でメンテナンスで時間をずらすようにはなっている……のだけれど」


 「今は昼間の時間帯が微妙なんだよね~。現実で9時~13時、17時~21時、深夜1時~5時だから。ログインしやすい夜の21時から0時あたりがまったく夜なんだよね」


 アーシャさんが笑って言いました。現実の時間はゲーム内では確認できませんが、日が傾きかけているのでだいたい20時くらいでしょうか。


 「……定期的に変化するから『巡り』とプレイヤー間では言われている。今は私たちにとっては昼間に活動しにくいので悪い巡り」


 「なるほど。あんまり気にしたことはありませんでした」


 「……VR廃人」


 ローシャさんがぼそっと何か言いましたが、何でしょうね?


 「結局のところ」


 アーシャさんが自分のキャラクターブックの地図をテーブルの上に広げて私たちに見せます。


 「薬草集め自体は朝一番に出発したら、1日あればいけるよ。ただ」


 地図のカラフルな点を指でなぞって行きながら説明してくれます。


 「次の朝が深夜の1時。それで5時までゲームをするのは徹夜になるからあんまりしたくない。幸い明日は日曜日だから私もローシャも朝から動けるから、ゲーム内で1日おいて次の日、リアルで朝9時からお昼ごろまでで依頼を終わらせてお昼ご飯休憩、というのでどうだろ?」


 「……賛成。私も徹夜はしんどい」


 ローシャさんが軽く右手を挙げます。


 「ノエルは?」


 「あ、私もそれで構いません」


 ローシャさんにならって私も右手を軽く挙げます。


 「よし。じゃあ明後日の朝6時、リアルだと明日の朝9時に冒険者ギルドに集合ね」


 「……おー」


 「はい」


 準備が大変でしたがいよいよ街の外に出発ですね。












 「……で」


 がしっ、とアーシャさんに肩をつかまれました。


 「はい?」


 「出発まで時間があるし、もうすぐ日も沈むから。こういう時はやっぱり懇親会だよね?」


 「コンシンカイ?」


 「大丈夫大丈夫、私、いいお店知ってるから」


 「……ようするに、飲み会」


 何かずるずる引きずられていくことに……。

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