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ノエル’ズ ダイアリー ~竜姫さまのVRMMO日記  作者: 柚ノ森みんと
3章:大陸西域・レウルザーガ領アルトラント
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 大陸暦1053年 海の月 29日



 依頼:薬草採集

 依頼主:冒険者ギルド

 各種ポーションを作成する材料となる薬草を集めてきてほしい。


 集めるもの(全て品質C以上)

 レッドハーブ×10本

 ブルーハーブ×10本

 イエローハーブ×10本

 ブラックハーブ×10本

 ホワイトハーブ×10本


 期限:なし

 報酬:1000銀貨(10金貨)



 アーシャさんが渡してくれた依頼票です。依頼主を見ると冒険者ギルドになっていますから、冒険者ギルドがポーションの材料を集めている、ということなんでしょうか。

 アーシャさんがじーっとこちらを見ています。


「……どうかしました?」


 何だろうと思いましたが、何か不思議そうな顔をしていますね。


 「……依頼を受けられない? 依頼を受ける、てボタンを押したらキャラクターブックに依頼内容が登録されるんだけど」


 ボタン? 見当たりませんが。


 「……姉さん」


 ローシャさんが、はぁぁぁぁ、という感じで物凄く大きなため息をつきました。


 「……ノエルさんは冒険者ギルドに所属してないから、依頼は受けられないので、当然、依頼票からの受注システムも発動しない」


 「おお」


 おお、じゃないですよ、アーシャさん。自分でわかっててさっきレイラさんと交渉したばかりじゃないですか。

 ローシャさんが私の手から依頼票を取り上げてアーシャさんに返します。


 「……姉さんに任せてると、話が進まない。まずは姉さん、ノエルさんをパーティに誘って」


 「はあい」


 アーシャさんがキャラクターブックを開いて何かを操作すると、目の前にウィンドウが開きました。


 【アーシャよりパーティに勧誘されています。承諾しますか?】


 はい/いいえ、のボタンが出たので、はい、を押します。


 「……冒険者ギルドに登録をして冒険者になれば、ギルドで受けた依頼を依頼票からキャラクターブックに保存することができる。保存しておけば、いつでも依頼内容と期限を見直せるので便利」


 ふむふむ、なるほど。一応、覚えておきましょう。


 「……今回は、姉さんが依頼を受ける。この『薬草採集』の依頼はチュートリアルになっていて、冒険者として依頼を遂行するための手順が学べるようになっている。本当なら、依頼を受けた1回目は何をしたらいいかナビが表示されるんだけど、ノエルさんには見えないから、姉さんが説明して」


 「おっけー」


 アーシャさんが親指を立ててローシャさんに答えます。


 「というわけで、まず最初にすることは」


 「することは」


 いよいよ、冒険者の活動体験スタートですね。ちょっとわくわくします。


 「ギルドの地下の図書室へ行く」


 「図書室へ?」


 ちょっと肩透かしをくらった気分です。というか図書室何かあったんですね。


 「集める薬草のことを調べに行くんだよ。どんな種類の薬草で、どういう見た目で、採集する時にどんな注意が必要か、そういうことがわかってないときちんと集められないからね」


 アーシャさんが得意げに説明してくれます。何となくですが、ナビの受け売りな気がしますけれど。


 「……姉さん、それナビの説明まんま」


 あ、やっぱり?



     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 冒険者ギルドの地下は昨日に引き続いて2回目です。


 「そう言えば、こっちの扉には入ったことがないね」


 地下に降りてすぐの分かれ道で、アーシャさんが一方を指さしました。

 指さしたのは私が昨日入った場所です。


 「そっちは適性検査を受けられますよ」


 「適性検査?」


 「能力値と魔法の適性を調べて、自分が冒険者をやる時にどんなスタイルが向いているかを調べる検査です。結果から何をやるのがいいか、教えてもらえますよ」


 アーシャさんが目をキラキラさせてこっちを見てきます。


 「へー! 検査、てどんなことするの?」


 昨日受けた試験を思い出します。


 「……ドラゴンのぬいぐるみをパンチしたり、ひたすらランニングしたり、ストラックアウトしたり、リズムに合わせて踊ったり?」


 2人が胡散臭そうな目で私を見ます。

 本当ですってば!?


 「2人は受けなかったんですか?」


 「……普通は受けない」


 ローシャさんが即答しました。


 「そうなんです?」


 「……普通は、キャラクターメイキングの時にどんなスキルを取るか決めて、それに合わせてキャラクターを作るから。やりたいことが決まっているのに適性試験を受ける必要がないから」


 ……確かにその通りです……。



     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 アーシャさんがカードを掲げると扉の鍵が開きます。中に入ると一面に本棚が並びたくさんの本がしまわれています。そんなに広くはないですが、それなりに本があるようですね。現実ではこういった本棚とたくさんの本というのも大きな街にある図書館くらいでしか見られなくなりましたが。

 部屋の中央にテーブルと椅子があり、本を読むことができるようになっています。


 冒険者ギルドの中にこんな部屋があったというのは初めて知りましたね。


 「はい、これ」


 アーシャさんが本棚から取り出した1冊の本を渡してくれます。


 ……と、言うか結構重い。片手で持とうとするとちょっと大変な分厚さです。表紙を見ると「植物図鑑」と書いてあります。


 「これは?」


 「植物図鑑。これで集める薬草のことをまず調べるの」


 さらに私が持っている植物図鑑の上に何かを載せます。

 これは……紙とペン?


 「……これは?」


 「集める薬草の書いてあるページを見つけたら、そのページを書き写すんだよ。そしたらキャラクターブックにファイリングして保管しておけるから。実際に薬草採りに行く時に図鑑は持っていけないでしょ?」


 「それもナビなんですか?」


 「そそ」


 今一つピンと来ませんが、そうするように指示が出ているならそうしないといけないんでしょうね。

 ローシャさんがアーシャさんの背後であきれたようにジト目でアーシャさんを見ています。


 「……姉さん、それじゃ伝わらない……図鑑で一通り薬草の事を読んで複写することで〈動植物知識〉のスキルが覚えられる。あと、複写した内容を実際に現地に持っていて本物の薬草と照合して確認することで〈鑑定〉のスキルが覚えられる。こんな感じで冒険者をやっていくのに必要なスキルが覚えられるようにこの依頼はできている」


 なるほど。依頼をこなすための作業を案内・誘導した上で自然とスキルが取得できるようにできているんですね。

 というか、私がゲームを始めてどう取得するか悩んだ〈鑑定〉スキルとかが、こんな感じで楽に自然と習得できるようにできているんですか。人間は便利ですね。


 「納得いきました。便利にできているんですね」


 「……ver2.0から追加された」


 「ところで〈動植物知識〉も〈鑑定〉も既に持っているんですけど、これやらないといけません?」


 「スキル取得も大事だけど、事前調査も大事だからね」


 アーシャさんににっこりといい笑顔をされました。仕方ありませんね。

 仕方なくテーブル席に座って、図鑑を広げます。

 と、ローシャさんがアーシャさんの肩を叩き、同じ図鑑を渡して席につくように指さしました。


 「……姉さんも、やる」


 「私はもうやったじゃん」


 「……姉さんが作業を完了させないと、ナビが進まない」


 渋々とアーシャさんが私の前に座って、図鑑を広げました。


 なかなか大変そうだなあ。




 では、レッドハーブから調べて行くことにしましょう。


 そう言えばこうやって紙の本をめくっていって読むのは初めてですね。


 「あ、薬草はマナハーブの項目にまとめて書いてあるから『マ』を調べるといいよ。ページにインデックスがついてると思うけど」


 「ありがとうございます」


 確かに、ページのところどころにア、カ、サ……とインデックスがつけてあります。意外と近代的でした。


 マナハーブ、マナハーブ……と、ありました。



 マナハーブ


 マナハーブはこの大陸全般に自生しており、一般的によく見られる植物である。周囲および大地の魔力を吸収し葉・根に蓄える性質を持っている。蓄えた魔力を栄養にして成長するため、劣悪な環境でも生息が可能であるため、様々な場所で見ることができる。

 マナハーブは吸収した魔力の質によって葉や茎の色が変化する。色合いは5種類に変化し、それぞれレッドハーブ、ブルーハーブ、イエローハーブ、ブラックハーブ、ホワイトハーブと呼ばれる。

 生息場所によって吸収される魔力が変化するため、おおむね5種のマナハーブはまったく違う場所にそれぞれ群生しているのが見られる。

 マナハーブは多くの魔力を含んだ植物であり、主に各種ポーションの材料として葉および根が使用される。



 ふむふむ。集める薬草というのは「マナハーブ」という種類の植物で、それが場所によって色が変わったもののようです。

 そういえばグリーンハーブというのはないみたいですが、これは魔力を吸収して色が変化する前が緑色だからみたいですね。ちゃんとカラーの絵がついて、解説してありました。


 では、レッドハーブの項目から書き写していくことにしましょう。


 「あの、すみません、ちょっと質問が」


 「何?」


 同じように図鑑を開いてページを書き写していたアーシャさんが手を止めて答えてくれました。


 「これ、絵がカラーで描いてあるんですけど、これはどうするんですか?」


 「写す」


 即答されました。


 「……どうやってです?」


 「頑張って?」


 小首をかしげてアーシャさんが答えてくれますが、それは答えになってないような。


 「……だいたいで、わかればいいから。別に図鑑の絵の通りに描く必要はない」


 ローシャさんがフォローして補足してくれました。なるほど……って。


 「それは、結局、絵は描き写さないといけないということでは?」


 2人が親指を立てて応えてくれました。

 そうですか、みんなが通る道なんですね、これ。

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