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最終話 それから半年。あと一年は大丈夫。……十年後は、ちょっとわかんない。

最終話 それから半年。あと一年は大丈夫。……十年後は、ちょっとわかんない。


 工場、昼休み、避難階段のなかほど、そこが俺の指定席ね。

 だって俺って、バイトだし。食堂に椅子、持ってねぇし。

 たまに早川くんが顔を出してくれるから、ぼっち、ときどき二人飯ね。

 早川くんは優しいし、それに、食堂のギスギスした雰囲気が嫌いなんだってさ。

 なんでギスギスしてるかって言うと、田中一族が内乱状態なのよ。

 そろって死ねば良いんじゃない? って俺は思うんだけどね。

「金山さんって、ニートのころ、なにやってたんすか?」

「ホント、なにしてたんだろな? ネットしてたことは思いだせるんだけどな?」

「金山さん、昨日の夕飯とか思いだせます?」

「思いだせるよ。思い出せるんだけどね。料理名がわからない料理ね。肉を、なんかピリ辛のなんかで炒めたなんか」

「こういう感じのなんかっすか」

 早川くんはコンビニ弁当だからさ、家庭の味に飢えてて、で、昨日の夕飯の残りのピリ辛のなんかを勝手に持ってっちゃうんだよね。

 まぁ、俺は、とんかつ弁当のメインのとんかつに箸をグサーするんだけどね。

「ニートって結局、なんなんすか?」

「そんな哲学的なことを言われてもな。俺にもよくわかんないよ」

「俺の姉貴の友達が、なんかそんな感じになっちゃったんですよ。金山さんならなにかわかるんじゃないっすか? こう、治しかたとか」

「ただで相談に乗れってこと?」

「女の子紹介しましょうか?」

「ウッソ!? 俺、40だよ? 40のオバさんとか連れてこられたら怒るよ?」

「あ~、大丈夫っすよ。ほら、俺の友達ってバカだから」

 俺も早川くんも、同じくらい女の人に失礼なこと言ってるよね。

 まぁ自覚はしてる。どうせ俺じゃ手は出せないし、妄想くらい良いじゃない。

「って言ってもさ、俺自身、どうやって立ち直ったのかわかんないんだよね」

「なんかヒントの一つくらいくださいよ」

「いや、ホントにね、わっかんないのよ」

「何年くらいニートやってたんすか?」

「18年」

「うーわっ、俺の親父なら包丁持って刺し殺しにきてるわ」

「早川くんの家に生まれなくてよかったな、俺」

「なんか、なんか無いんすか? 姉貴、けっこう参ってるんすよ」

「色々あるんだけどさ、話すと長いよ? 昼休みじゃ終わらないよ?」

「じゃあ、ちょっと待ってください」

 で、早川くんてば、スマホで電話し始めたわけ。

「あ、鈴木さん、マシンの調子見ててもらえます? あ、サボリです、金山さんと二人です。はい、よろしくお願いします。倉庫の片付けで。はい」

 まぁ、上も上なら下も下というわけだ。

「喋んの? 俺、喋んの?」

「はい、お願いします」

 まぁね、周囲にニートが居るって疲れることだもんな。

 早川くんのお姉さんが困ってるって言うなら話すよ、話すけどさ。

 役に立つかどうかは別の話なんだよな。

 どこから話したもんかと思って、とりあえず兄貴が100万渡して去ってったところから始めたの。出来るだけ詳しく。思い出せるだけ。ちゃんと話したの。

 で、これが感想ね。

「春奈ちゃんて可愛いんすか?」

「ぶっ殺すぞテメェ」

「金山さんの兄貴も、結構すごいっすね。100万をポーンって」

「ついでに俺もポーンされたんだけどな?」

「ははは、ウケる」

 笑い事じゃねぇっつうの。……まぁ、当時は笑えなかったよ。

 泣いたよ。ホント、泣いたっての。

「まぁ、話しててわかったことがある」

「なんすか?」

「ニートって、助けようとしても無駄だわ。ほっとけ。完全にほっとけ」

「俺、解決法を聞いてるんすけど?」

「だから、それが解決法なの。小坂さんの話したろ? 多分だけど、俺、小坂さんに助けられたんだと思うんだよね」

「いや、でも、その人……」

「うん、自殺したよ。でもね、教えられたことも多いのよ。最初からなにも望まなければ、絶望することも無い。これってさ、生まれてこなきゃ死なないみたいな話でしょ?」

「まぁ、似たような理屈っすよね」

「欲しがりません勝つまではってあるでしょ? 逆なの、勝つためには欲しがらないと駄目なの。ニートの場合はね」

「もうちょっと簡単に」

「欲望が足りないの。絶望が足りないの。マンガとかネットで中途半端に満たされてるから、自分が本当に欲しいものがわかんないの。心の底から欲しいものを見つけて、手に入らないことを知って、完全に絶望して、で、諦めて、もう一回、スタートしなおさなきゃ始まらないの。よし、次はこれが欲しいなって。で、そのときのために周りの人は力を溜めとかないと助けらんないから、完全にほっとけって」

「そんな都合よく行くんすか?」

「知らない。俺、お医者さんじゃないから。ただの元ニートだから」

「無責任っすね」

「責任感あるニートなんて居るわけ無いじゃん?」

 責任感あるニートはね、ニートになる前に死んじゃうんだよ。

 責任感の無いニートも、けっこう死んじゃうんだけどね。

「結局、本人の問題だからさ。もう死んじゃってる夢を捨てて、まだ生きてる夢を見つけるのよ。えーっと、死んじゃった女のことは忘れて、新しい女を探すみたいなものかな?」

「うわ、かなり最低の男っすね」

「え? 早川くんってそういう人じゃないの?」

「俺、一途っすよ。浮気とかしないほうっすよ」

「じゃあ恋人が死んじゃったら一生を喪に服して生きないとね。それがニートだ」

「嫌っすよ。そんな生き方」

「無いものねだりに一生を捧げるなんて、誰でも嫌だよ」

「金山さんは、いま、なにが欲しいんっすか?」

「葬式の時に泣いてくれる友達。あと、正社員の椅子」

「切実っすね。……駄目だったっすか?」

 まぁ、これには肩を竦めるしかないよね。

 一ヶ月だった試用期間が三ヶ月に、三ヶ月だった試用期間が半年、半年だった試用期間が、こんどは一年満期だ。

 なんかよくわからんが、汚物一族の内輪もめに巻き込まれたらしい。

「仕事、辞めるんすか?」

「仕事は辞めないよ? このクソ溜めみたいな会社を辞めるだけ。ここで夢を見るのはもうおしまい。俺、次の夢を見に行くわ」

「なんかカッコいいっすね? 40じゃなければ」

「バーカ。40だからカッコいいんだよ」

 早川くんとは、それからも時々連絡を取り合っている。

 おもに、あの汚物一族の愚痴で盛り上がっている。

 それから、女の子のことを紹介してくれないのはどういうことなんだろう?

 兄貴はね、相変わらず春奈ちゃんに嫌われてるよ。

 春奈ちゃんはね、相変わらず兄貴のことを嫌ってるよ。あれは趣味だな。

 美奈さんは……、俺と春奈ちゃんの仲の良さをちょっと心配してるみたい。

 親父はね、死んだ。うん、死んだんだよね。死因は浮気。たぶんね、美奈さんに鼻の下を伸ばしてたから母さんに呪い殺されたに違いない。なんて、兄貴と二人で葬式の席で笑ったよ。


 そういうわけで、今日も俺は生きてます。明日も生きてます。一週間後も生きてるんじゃないかな。あと一年は大丈夫。頑張って生きていきますよ。俺。

 ……十年後は、ちょっとわかんないかな。それはちょっと、ゴメン。


 あ、忘れるところだった。

 黒ずんだ蛍光灯なんだけどさ、俺が職業訓練所に入学した日に真っ黒になった。

 あいつさ、ホントに俺のことを見守っててくれたんじゃないかなって、いまでもたまに思ったりするんだよね。



               ニート廃業届 ~自宅警備員、クビになる~ 了

          ©髙田 電卜 初出:小説家になろう2018/05/11




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