潜む影
戦闘の後、潜水艦ヒドラに捕らえられたルーク。
そして宿敵カインハートと邂逅する。
銃を抜いたカインハートを止めたのはサモア島の司令官だったメディであった。
缶コーヒーをちびちびと飲みながら、正面に座る男を冷静に観察してみる。
先ほどから飄々とした雰囲気で語りかけてくるが、目は笑っていない。
僕をただ子供扱いしている訳ではなさそうだ。
彼は最初に少尉と階級で呼んできた。
これは軍人として対等に扱っているということだろう。
思っているより警戒しておかなければいけない相手なのかもしれない。
「多少は落ち着いたようだな。これで本題に入れるな。」
「あのガーディアンを引き揚げて君を捕虜にしたのはいくつか理由がある。」
僕がカインハートに殺されそうになっている所を止めたところでなんとなくは察していた。
アマテラスやエレボスのテスト機の秘密を聞き出したいのだろう。
パイロットのAI認証を通さなければ一切動かすことが出来ない機体なんて気味が悪い。
「ひとつ目は例のテスト機のAI認証の話だ。アマテラスは元々君のガーディアンではなかったはずだ。カインハートの話から推測すればトレミーの鐘が搭乗していたんじゃないか?」
彼の予測は当たっている。
トレミー戦役でエースになった姉さんが空を護る為に与えられた力、アマテラス。
3ヶ月前まで姉さんが動かしていたガーディアンだ。
「ならばどうして君が操縦出来る?やはりAI認証をリセットする手段があるのか?」
「・・・姉さんは僕にアマテラスを渡した時、操縦権限だけを移行した。だから僕にはアマテラスのAIの管理は出来ないし、詳しい話も聞かされていない。」
僕はアマテラスのことを殆ど知らない。
こうして聞かれても何も答えることがない。
「やはり君は亡くなったトレミーの鐘の弟なんだな。さっきの口論の内容でなんとなくは察したが。」
頭に血が昇った時に言ってしまった気がする。
僕とトレミーの鐘が姉弟であることを明かしてしまった訳だ。
「いいんだ。これから話すことを考えればそっちの方が好都合だからな。」
彼は懐から薄い何かを取り出す。
それは1枚の写真だった。
「これは一昨日ハワイで撮られた写真だ。この人物が誰か判るか?」
人差し指と中指で挟んだ写真をこちらに投げてくる。
艦が揺れているというのに写真はキレイに僕の手のひらに着地する。
「ちょっと、危ないじゃないですか。ちゃんと手渡して・・・」
僕の言葉はそこで途切れた。
その写真に思いもよらないものが写っていたからだ。
懐かしくて恋しくて胸が締め付けられる感覚に襲われる。
そう、写真に写っている人物は。
「姉さん・・・ソフィア姉さん・・・です・・・」
目の色、顔の造形、髪の質、どれを見ても姉さんとしか思えない。
整形を繰り返したとしてもここまで完璧に似せるなんて不可能だ。
「これが一昨日に撮られたものだって?笑えませんよ・・・」
「何かの間違いならいいんだがな。親族の君が見ても本人だと思うならそうなんだろう。」
そんな馬鹿な話がある訳ない。
死んだ姉さんが生き返ってるだって?
僕の手の中で逝ったのは紛れもない事実なんだ。
確かに僕は姉さんを弔う暇もなく追撃部隊に参加した。
あの後姉さんの遺体がどうなったかは知らされていない。
丁重に弔われたと報告を受けるだけだった。
「こんなの嘘なんでしょう?あり得ない。」
「そう思うなら自分の目で確かめてみるか?」
「え?」
予想だにもしない言葉。
「監視役を付けるがな、捕虜は捕虜として仕事をして来いって事だ。」
「僕が基地に逃げ込めばあなた達は捕虜をみすみす見逃すことになりますけど。」
「軍が君に隠したがっていることを暴きたいならそれは出来んよなぁ。」
言われてみれば僕の存在がバレてしまえば事実を確かめることは困難になるだろう。
行方知れずになっている今がチャンスなのかもしれない。
「正直なところ、君しか動かすことの出来ないアマテラスが格納庫の場所を取ってて邪魔なんだ。分解して持ち帰ってもいいんだが、そうすると1人の男に恨まれそうなんでな。」
そんなことをされてはたまったもんじゃない。
うまくのせられたようで悔しいが、僕も写真に写る姉さんの正体を暴きたい。
敵とはいえ、利害は一致していた。
「これはあくまで俺達が捕虜を脅して行った作戦だ。君が罪に問われたらそう言うといい。」
裏があるんじゃないかと勘ぐってしまう。
それほどに彼の語る言葉には重みがあった。
「でも、アマテラスは損傷が激しいんじゃないですか?」
昨夜の戦闘で海に墜落した衝撃でボロボロになっていそうだが。
「それについてはもう修理が済んである。エレボスの予備パーツを代用したからもとの姿とは少し違うが、万が一に備えて武装も付けてある。」
最初から僕を説得するつもりだったのか。
アマテラスを修復したうえで捕虜の僕を使ってまでこの写真の人物の正体を探りたがっている。
それほどまでに大きな闇が潜んでいるのか?
姉さんが何かしら関わっているのなら、なおさら明かしておきたい。
ここまでくれば乗ってみるしかないのかもしれない。
この人が考えたこの作戦に。
どうも緋吹 楓です。
読んでいただきありがとうございました。
お姉ちゃん出てきちゃいましたね。
幽霊なのかもしれませんね・・・
ということでそろそろハワイ編に突入ですね。
次回もよろしくおねがいします。




