失くしたもの
あらすじ
平穏の日々は過ぎ去った。
未熟な学生であるルークはエースである姉のソフィアに付いていく。
1機の練習機は戦場に飛び立った。
襲撃を受けている基地から飛んで来る煤が、火の粉が、塗りたての塗装を剥がしていく。
コクピット越しに伝わってくる爆撃音が頭を突き刺す。
「すごい音だね。」
「出来れば二度と聞きたくはなかったわ・・・」
機体もガタガタと揺れている。
練習機でずっと最高速度を維持しているのだから当然だ。
「それにしてもどうして基地の守備隊が押されているのかしら。此処には空母艦隊がいるはずなのに。」
先程から姉さんは部隊と通信を取ろうとしているが、混線でもしているのかジャマーでも受けたのか謎の機械音だけが聞こえてくる。
その音は実戦をしたことがない僕を不安にさせるには十分だった。
まだ陽が出ているというのに、影が機体を包む。
「何も映らない。私の方のレーダーの調子が悪いのかもしれない。そっちはどう?」
「何故か分からないけど、さっきからレーダーにノイズがかかってるんだ。」
そう、まるで何か大きな物体が頭上にあるかのように・・・
「何ですって?まさか・・・」
その時、真上から光が降り注ぐのが見えた。
雲間から差す太陽光とは違う、大量の小さな金属の塊だ。
これはまさか、機銃弾?
「姉さん!上!」
そこには、巨大なクジラのようなものが飛んでいた。
それは僕が見たどんな艦船よりも大きいものだった。
「そんな!どうしてオリオン級が地球に!」
オリオン級?あの宇宙海賊の大型輸送艦?
重力下でも運用できるのか!?
ピピピッという音がコクピットに鳴り響く。
「所属不明の敵機2!艦から出て来てる!」
「対空砲火を避けながら相手をするだなんて、厳しいわね・・・」
敵機のうち、大きい方の機体が不審な動きをしている。
「1機が変形!」
「ガーディアンを降ろしてきたの!?」
無人機ではない、人が操縦している機体。
それがガーディアン。
訓練の時とは違い、殺意を肌に感じる。
「どうするの?」
「応戦するわ!このままじゃ辿りつけない!」
「でもこっちは練習機だよ、武装も殆ど付いてない!」
「それでもやるしかないわ!変形!」
航空機の形をしていた機体はみるみるうちに人型へと変わっていく。
変形にかかるロスは練習機とはいえかなり短い。
「機体バランサー正常、各部異常なし!」
「よし!やるわよ!」
変形をしなかった方の機体がこちらに射撃をしてくる。
「恐らくあれは無人機ね、近づきさえすれば!」
輸送艦からの対空砲火や敵機の攻撃を全てかわしながら無人機に接近する。
敵機から発射されたビームが機体を掠る。
それでも、お構い無しに相手の懐にもぐりこむ。
これが、エース・・・!
「これでどうよ!」
機体の背面から取りだしたショートソードが無人機を引き裂く。
そしてすぐにブーストで離脱する。
そこに、爆発が起こった。
「もう1機、接近してくる!」
敵ガーディアンがものすごい勢いで切り込んでくる。
「くっ・・・」
敵の放ったビームマシンガンが雨のように降り注ぐ。
回避に徹しようとしても流石に機体が追いつかない。
「右足に被弾!」
「構わないわ!このまま敵艦から離れつつ交戦するわよ!」
そう、姉さんは基地に向かいながら戦っている。
少しでも生き残る可能性を上げるためだ。
「まだ追ってきてる!」
「ルーク!後部のバルカンで敵を撹乱して!」
「了解!」
実弾とビームが交差する。
僕の撃った弾は敵の武器を弾くことに成功した。
しかし、相手の撃った弾もこちらの機体に命中する。
「がぁっ!!」
「姉さん!!」
被弾した機体がガタガタと揺れだす。
「まだよ・・・絶対に墜ちないわ・・・」
「姉さん・・・血が・・・」
姉さんの右足には、機体の破片が突き刺さってた。
「いいえ・・・私の勝ちよ・・・」
「え・・・?」
ここは・・・メルボルン基地の端なのか。
姉さんはここを目指していたんだ。
「ルーク、今から言う事を正確にこなしなさい。」
ボロボロの練習機が基地のある格納庫の前に降り立つ。
戦闘の形跡がない上に人影もない。
一時の安全を確保できるだろう。
「私をここから運び出して。」
「でも今すぐにでも病院に行かないと」
「早く!命令よ!」
右足に大怪我を負った姉さんをひしゃげたコクピットから救出する。
「敵も来てるから止血も適当でいいわ。」
千切ったシャツを右足に巻きつける。
「私をっ・・・格納庫の中に連れてって・・・」
「うん・・・」
姉さんに肩を貸し、歩き出す。
目的地の格納庫は姉さんに案内してもらわないと判別がつかないものだった。
他の建物はカモフラージュなのだという。
ダミーを建ててでも隠したいものがそこにあるのだろうか。
格納庫のライトを点ける。
そこには・・・
白いガーディアンと黒いガーディアンの姿があった。
「これは・・・?」
「極秘裏に進められていたAZ計画の1号機アマテラス、5号機エレボスよ。」
「でも、どうして姉さんが?」
「実はね・・・私、アマテラスのテストパイロットなのよ・・・」
なんとなく想像はしていた。
エースである姉さんには特別なものがあると。
しかしそれが新型のガーディアンだとは思っていなかった。
アマテラスの前まで歩く。
姉さんの右足は引きずられながら血を垂らしている。
「だから、私が護らなくちゃならないの・・・」
その時、ひとつの銃声が格納庫内に響いた。
その銃声は姉さんに向けられたものだった。
「姉さん!!」
倒れた姉さんの肩を引っ張り、アマテラスの影まで避難する。
「姉さん!!しっかりして!!ソフィア姉さん!!」
「ほう、トレミーの鐘がそこにいらっしゃるのか!」
物陰越しに声が飛んで来る。
「誰だ!!」
「私の名は。カインハートとだけ名乗っておこう。」
「カイン・・・ハート・・・ですって・・・?」
「そいつは2年前の左目の分だ、受け取っておけ!」
カツカツと、金属の上を走る音が聞こえる。
「それと、このエレボスとやらはAI認証システムがまだのようだな。」
エンジンの起動する音が聞こえる。
「このガーディアンは頂いていく!さらばだ!」
格納庫のシャッターを腕部内蔵超振動ナイフで切り裂く。
厚いシャッターが紙のように破れている。
ブーストの風圧でさまざまなものが転がっていく。
「そんな・・・エレボスが・・・」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ!」
腹部に銃弾を受けた姉さんがこう告げる。
「・・・命令よ、私をアマテラスまで運びなさい・・・」
「そんなの・・・」
姉さんが血だらけになった右手で頬を触る。
「泣かないで・・・護るんでしょ・・・?」
僕は、泣いていた。
僕は姉さんを担ぎ上げ、アマテラスのコクピットに乗せる。
「練習機と違って単座だから・・・狭いね・・・」
「姉さん・・・早く治療を・・・」
「ふふ・・・あなたが近くにいてくれるだけでいいのよ・・・」
アマテラスが姉さんの認証を受けて起動する。
【AI認証、サレマシタ】
「こんなことしちゃ・・・整備班の人に怒られちゃうけど・・・」
姉さんがキーボードを左手だけで操作する。
「アマテラスの操縦権限を・・・ルーク・アマギに移行します。」
【了解シマシタ、コレヨリ本機ノ操縦権限ハ、ルーク・アマギニ移行サレマス】
「そんな!僕は、僕は!」
「護りたいんでしょう・・・?この子はきっと・・・いい力に・・・なって・・・」
「僕は・・・ただっ・・・」
姉さんを護りたかったんだ。
どうも緋吹 楓です。
読んでいただきありがとうございました。
今回「・・・」が大変多くなってしまいましたね。
会話中の息の描写って難しいですね。
さて、今回出てきた機体および艦の説明をします。
(アマテラス、エレボスはまた今度!)
【太平洋連盟】
フェルツT
フェルツの練習機バージョン。
正規軍のお古を使いまわしているのでかなり旧型。
緊急時用に実弾も装備できる。
練習機なので武装も少ない。
武装:胸部20mmバルカンポッド×4 背面装着型ショートソード×1
【宇宙海賊ゲルト・ハルバード】G.H.
クラックス
G.H.の地球侵攻の為に造られたガーディアン。
しかし、G.H.のパイロットは重力下での操縦に慣れていないため、
リブラでの支援が必須となる。
勿論、カスタマイズも多種多様。
武装:ビームアサルトライフル×1 シールド内蔵ビームマシンガン×1
腰部ビームソード×2 脚部装着ミサイル×6
リブラ
クラックスの無人支援機。
大量に量産され、大量に消費される。
そのため、低コストで運用される。
武装:ビームアサルトライフル×1 20mmバルカンポッド×4
オリオン級
G.H.で最もポピュラーな輸送艦。
最大12機のガーディアンと28機の無人支援機を搭載できる。
重力下でも運用可能。
武装:120mm連装ビーム砲×2 オート式20mm対空砲×16
次回もよろしくおねがいします。