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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

メンズとブラジャー

作者: 芦川玲

 黒のパンツルックが好き。ボーイッシュな髪型が好き。本当よ。本当に好きよ。あたし。




 万条(ばんじょう)夏恋(かれん)はレズビアンだ。親友に恋をしている。


「カレンまたメンズ? たまには勝負服見せてよー」


 待ち合わせに十五分遅刻してきたリザは悪びれる素振りすら見せずに言った。


「楽なんだからいーじゃん別に。つかあんた遅刻してきたくせ態度でかい」

「マジめんごー」

「ふざけんなチビ」

「るっせーしゴリラ」


 フードコートで待ち合わせたあたしたちは適当にアイスとかパンケーキとかを注文して駄弁りだす。


「カフェ行かんとこんなとこでパンケーキ食うとかリザらJKとして終わってない?」

「つかパンケーキ三枚も食べるとかマジもんの男だよ」


 リザがパンケーキを買いすぎたせいで飲み物は無料の水だ。所持金の計算もしないで馬鹿みたい。金が足りなくなったらあたしに借りればいいと思ってる。


「あんた男もん以外服持ってんの?」

「たり前じゃんあんたの五倍持ってんわ」

「嘘のメガ盛りおつー」


 ケタケタ笑いながらリザがフォークを生地に突き刺す。フードコートのパンケーキなんて店によっちゃホットケーキだろってくらいこんがりカチカチのやつが出てくるけど、ここのはわりとフカフカで二人とも気に入ってる。リザの大きな口がそれよりもっと大きなケーキを飲み込む。クリームが唇に付いたのを、あたしは可愛いって思う。

 益沖(ますおき)リザはあたしの愛方。キラキラネームなのを気にするチビのダンス部だ。あたしとは正反対の長い髪がよく似合ってる。伸ばしたほうが踊ったときにエロいからって言って、その理由づけもあたしは好き。チビだけどスタイルは悪くない。ウエストでくびれたスカートから覗く膝は華奢で、女の子って感じ。


「これ食ったらプリ撮んに行こーよ」

「いーよ」

「それリザも食べたい。一口ちょーだい」

「ん。あーん」

「あーん」


 首を伸ばして待ち構えるリザの唇に、触れるか触れないかの位置までスプーンを持っていく。冷たいアイスがリザの唇に触れた箇所からじわりと溶けていく。ずるっとリザが息を吸って、アイスが舌の上に流れた。



 食べ終わると食器を片してゲーセンに行く。どうせ同級生がいっぱいいるだろうけど気にしない。いつも仲良しのカレリザコンビはプリ撮るのだって当たり前だ。

 機体に入ってメニューボタンを押して、二人でめちゃくちゃにポーズを決める。抱きついたりおんぶしたりフォーリンラブしたり。かわいいポーズとかはあんまりやらない。うちらのノリとは違うかんじがして、なんとなく二人ともしたいとは言い出さなかった。


 撮り終わった写真を見てリザがはしゃいだ声を出す。リザちょーブスく写ってんだけど! やべーこれカレン以外に見せらんないわ。


「にしてもやっぱカレンたんは美人ですなあ」


 リザがおちゃらけて脇腹をつついてくる。

 写真に映る私はめちゃくちゃ楽しそう。そこそこ小顔にそこそこパチ目にそこそこ凛々しい目鼻立ち。どこから撮っても様になるねって、昔からよく言われた。どんな顔でもまあ事故にはならないかなってくらいの、ラッキーな顔だと思う。


 文字とスタンプで適当にデコって完成。QRコードを読み込んでツイッターのアイコンにしとく。仲良しの証明。あたしのリザだよって名札。ばかみたいだ。


「でもさーマジカレン一回ワンピとか着てみ? 今の服じゃ女装した男みたいだし」

「似合うんだから別にいいよ」

「リザがよくねーの」


 ごねるリザをほっといてカメラロールに保存したプリを見る。気づかれないようにお気に入り登録した。

 プリにはリザが勝手に書いた「カレカノでーす笑」、毎回うちらが書く定番のフレーズ。ああ、これだから。



 万条夏恋は女の子だ。本当はスカートもワンピースもたくさん持ってる、可愛い服が好きな女の子だ。

 でもね、リザ。


「あんたとのプリは一生メンズでいいっしょ」


 リザは甲高い声で語気強く言う。「なぁにそれ?」

 だよねえ。

 あたしは本当にばかだ。四百円の写真に書くたったワンフレーズが欲しくて、こんなことを続けてる。


「ガチ謎ー。もう逆にサラシとか巻けば? リアルにメンズでおもろいし」


 深く考えずに言い放つリザに、あたしは半笑いで返した。


「だってブラジャーつけてる方が、エロいっしょ」


 あたしにつられてリザも笑った。


「なにそれ、この浪費おっぱいが!」

「わ、触んなキモいし!」

「ひっど、リザ泣きぴー」


 益沖リザ。かわいいあたしの愛方。

 あんたは理解しなくていいよ。


 私がこんな格好するのも、そのくせブラジャーつけたがるのも、なにも。

 なにも知らなくてもあんたはかわいい。



 ぶかぶか緑のニット、白いさっぱりシャツ、気取ったみたいなスキニーパンツ、私を守る赤のブラジャー。男みたいな格好の、今のあたしを女だと証明してくれるのは、この乳房のふくらみだけ。


 女の子のまま、女の子を愛するのは難しいよ。だって気持ち悪いんだもん。同性を好きって、気持ち悪いことなんだもん。まだ。


 だからこれはあたしの覚悟だ。赤のブラジャーにメンズファッション。女のまま彼氏みたいになるっていう、あたしの覚悟。


 黒のパンツルックが好き。ボーイッシュな髪型が好き。本当よ。本当に好きよ。自分の何もかもが。あたし。あんたが好き。

 あたしはそういうやりかたで、自分もあんたも好きでいる。

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