第6話 武道大会
<ライトside>
季節は流れて大会が始まった。
大会にはスポンサーのパールや、同盟国の代表としてナッチメイルからメイオールが来た。他にも各地から大会を見るために人々が集まり、王都は今までになく活気づいていた。
7年に一度。しかも前回は白き英雄なんてものを生み出した。注目が集まるのは当然と言える。スラン復活かと言われていたこともあって、大会が始まる前はかなり期待度は高かった。
ところが。
「蓋を開けてみれば……これは面白くない大会だな」
「そう言うなよ。……まぁ確かに、スランって名乗ってるやつの独壇場すぎるもんな」
俺と結城は今日の試合の準備が整えられた競技場を眺めながらこぼす。
なんというか、確かにスランを名乗る男が注目というのは事前情報通りだった。彼は凄まじい強さを誇っていたし、どんどん勝ち進んで、とうとう明日は決勝戦だ。
だけどなんというか、他の参加者が拍子抜けするほど大したことがないのだ。
「なぁ、流石におかしくないか」
スラン以外の選手同士の戦いなんて、そこら辺の喧嘩を見せられているのかと思うほど華も迫力もない。技術も大したことなく、もしかすると俺でも決勝戦に行けるレベルだ。
「……」
「結城?」
どこか遠くを見たまま動かない。きっと何か考えているのだと察して押し黙る。
俺も何か考えようと思うが、そもそも俺と結城では持っている最初の情報量が違うのでは……と自分の不利を思ってやめた。
「ライト」
「はいはい?」
多分、何かまとまったんだろう。いつもみたいにヒントをくれるのか。はたまた情報を教えてくれるのか。少なくとも何か現状わかっていないことが進展するだろうと思い、楽な気持ちで返事をした。
けれど見上げた結城の顔は今までにない強張った表情をしていた。
「お前は今後、何を優先させたい」
「え?」
「今日までいくらでも考える時間があったはずだ。鈴蘭の本を通して現状を知り、自分の父親のところへ戻って西の街について知り、アレアの負傷で自分の弱さを実感した」
突然まくしたてるように言われて戸惑う。確かに結城の言ってることは正しい。
「お前は何を考えた。強くないなりたいか。真実を知りたいか。セカイを見つけたいか」
「それは、全部そうで……」
「全部は無理だ。もう時間がないらしい。気づかなかった俺も馬鹿だが、悠長にしている暇はないらしい」
突然の豹変ぶりに驚いて何も言えない。急にどうしたんだ。時間がないって……。
「西の街はもういいのか」
「!」
そう言われて今まで意識していなかったことを引き出される。
「……。まだ何も考えてないんだな。ライト、お前は優しいけど、優柔不断で決断ができない。そのままだと全てを失うぞ。――早く決めないと決断しないと」
最後はまるで自分に言い聞かせるようにつぶやき、結城は去っていった。
強くなりたい。憧れる鈴蘭の傍にいたい。真実を全て知りたい。探してくれと願うセカイを見つけ出したい。
……西の街か。もう何の未練もないはずだけど。どうなのだろう。父が治めていた街。父を殺された街。
「決断、しないと」
※
そして決勝戦が始まった。もっと何かすごいことが起こるのではないかと思ったけれど、何も起こらなかった。観客も連日のつまらない戦いに飽き飽きしているようだった。スランが相手の武器を壊し、ものの数分で試合が終わる。深くかぶったフードがめくれ上がることもなく、男は競技場の中央に立っていた。
「優勝はスラン!」
審判の声にも、観客はまあそうだろうなという反応だ。これだけ期待させておいてなんという楽しくない結果だろう。この大会は本当に腕に自信のある人が集められたのか?
とはいえ優勝は優勝。優勝者には可能な限り何でも願いを一つ叶えてもらう権利が与えられる。それも面白さの一つだ。観客はそれを楽しみとして、そしてスランは本当に白き英雄なのかという好奇心も後押しして、授与式だけ多くの人が集まった。
タイガ様が前に出てきた。
「優勝者スラン。今回の大会、よく頑張った。さて願いを一つ叶えるが、お前は何を望む」
スランはじっと黙り込む。タイガ様の前でもフードを取らない姿に少し冷や冷やしつつも、彼が何を望むのか気になって前のめりになっていた。
そして彼はそっと外套に手をかける――
「……お前は!」
外套がぱさりと地面に落ち、男の姿が露わになった。違和感を覚えたのは彼の左目だ。顔に大きな切り傷が付いており、眼球は人の目ではなく、何か宝石のような無機物が埋め込まれていた。
男は両手を広げて叫ぶ。
「俺の名はモルガ。7年前に白き英雄スランに敗北した近衛騎士団長だ。
俺の望みはただ一つ。白き英雄ともう一度この場で戦うこと! さあ出てこいスラン! お前がそこにいるのは分かってるんだ!」
観客がざわめきだした。7年前のことを知っている人間であれば、追放されたモルガがこの場に戻ってきたことに驚く。しかも行方不明のスランがこの場にいると言うのだ。騒いでいるのは観客だけではない。騎士も兵士も戸惑いを隠せない様子だった。タイガの隣で控えていたカルセさんが追放者モルガを捕縛しようと動くが、タイガ様はそれを片手を挙げて制した。
「追放した犯罪者がこの場にいること、また身元を偽り大会に参加したこと。それは罪に当たる。
……だが優勝者であることもまた事実」
俺はぞっとした。まるでタイガ様はモルガの願いを叶えようとしているようではないか。
ぱっと鈴蘭の方を見る。俺が警備しているところから少し距離があるせいで、鈴蘭の表情は見えなかった。
「白き英雄との再戦、それがお前の願いか」
「そうだ」
瞬間、タイガ様が笑った気がした。
「いいだろう。白き英雄の正体は極秘だが……大会優勝者の願いは必ず叶えなければならないのが決まりだ」
その言葉で一層辺りがざわついた。英雄党が何度も交渉しても実力行使しても教えられなかった英雄の正体、英雄の居場所。それを公表すると言ったようなものだ。
あの人は一体何を考えているんだ。
「白き英雄スラン――いや、鈴蘭」
どうして、今になってそんなことを。
鈴蘭は英雄になんてなりたくないのに。望んでいないのに。
「競技場へ来なさい」
タイガ様の声は無情に響き渡った。




