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忘却の白と黒の記録書  作者: オトノシユ
7章 武道大会編
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第4話 中間報告




<結城side>



棚からマグカップを取り出し、台所へ向かう。


「……ちっ」


インスタントのコーヒーしかない。しかも安物。

仕方なくそれをマグに入れて、沸かしていたお湯を入れてかき混ぜる。


「……」


香りが弱い。正直飲む気が失せたが、無駄にするのももったいない。


「飲むか」


後で買いに街まで行こうかと思ったが、今日は王都全ての店が閉まっていることを思い出してため息が出た。苛立ちよりも落胆が大きくなり、大きなため息をついてからマグをテーブルまで運んだ。


読みかけの本を開いて、コーヒーを一口。


「微妙」


コーヒー好きとして言っておくが、最近はインスタントでも安物でも美味しいものは稀だが、ある。だがこれはハズレだ。

自然とコーヒーに手が伸びず、本を読むスピードの方が速くなった。ものの数分で読了し、冷めかけの残りのコーヒーを一気に煽る。


「まっず」


手の中の黒い本、これには先日のナッチメイルの事件についての内容が書いていた。おおよそはライトの話と多方面からの報告通りで目新しい情報はなかった。


セカイのメンバーは6人。カラア民族の現人神とセカイ本人を除けば4人。

ヨモギ、そしてこの巻で出たエリアル。

読んでいれば怪しいとわかるのが、ホタルさんとタイガ。

核心に触れる2人以外は出揃った。


「……気になるのは、半月前に新スラン騎士隊隊長になったネロ・ガーネット」


こいつは2巻で出てきている。一回だけだし印象薄いが、な。

鈴蘭が英雄時代に所属していた、タイガの直属の秘密機関《宵闇》のリーダーだ。


「亡命してきた王子の側近を隊長にしたり、直属の秘密機関のリーダーを隊長にするあたり、タイガはスラン騎士隊を《表の宵闇》にしたいんだろーな」


政府の騎士と言うより、個人で動かしやすい騎士団。

別に問題があるわけではない。ただ俺が人の感情を込みで物事を考えるのが得意じゃないだけの話だ。タイガが何を考えてるのか、セカイが何を考えてるのかが分からなくなってきた。


分からないというのは――怖いことだ。




静まり返った街を窓から見下ろした時、玄関の扉が開く音がした。


「ただいまー……ってうわぁっ。結城、なんで俺の家にいるんだよ」

「おかえり。これからもっと良いコーヒー置いくれ」

「……何かくつろいでるし。どうやって家に入ったんだよ」


帰ってきたライトは俺の向かいの椅子を引いてそこに座る。そして机にある黒い本を見付けてぎょっとした顔になった。


「えっ、これって最新刊?」

「ああ。鍵が開きっぱなしだったから入った。んで、机に置いてあった」

「こわ。セカイを前にすると俺のプライバシーなんて無いようなもんだよな。

というか、その状況でよく一人で我が家のようにのんびりできたな」

「慌てる必要性がなかったからな」


コーヒーを飲もうとマグを持ち上げたが、そういえば飲み切っていたんだ。おかわりするにも不味いやつしかない。


「なあ、今からコーヒー買ってきてくれ」

「今日はどこも店開いてないだろ……。お前ももう少し粛々と喪に服しておけよ……」


昨晩、ジェミニカ王が死去したと発表があった。


今日王都の店が全店閉まっていて、人が家に籠っているのはそれでだ。

だが、タイガ"王子"がもはや"王"として国を治めていたわけだから、現王なんていていないようなものだった。


「国民もそんなに悲しんでないだろ。王がメインだった時代は貴族政治の頃だったから、ほぼ活躍して無かった飾りの王誰も覚えてないさ」

「滅多なこというなよ。確かに印象薄いけど……」


ほらみろ。人の不幸を軽んじてるつもりはないが、現王は国民の毒にも薬にもならなかった人だ。ずっと寝たきりで影響力もなくひっそりと臥せっていた王。

この出来事で何か大きく変わるとしたら、タイガが正式に王になるということぐらいか。


「今日フローラ姫……あれ、姫って言わない方が良いのか? フローラ様は結構悲しんでいらっしゃったしさ。タイガ様はどんな気持ちなんだろうな……」


ライトは思ってることがすぐ顔に出る。

カラア民族の母との間に生まれた、カイトやフローラとは違う生い立ちのタイガ。それを案じているんだろう。


この前はアレアさんとショールさんについても心配してたし、人の感情に左右されて忙しいヤツ。


「だが、新体制になるのがこの時期で丁度良かっただろうな」

「え、なんで?」


きょとんと首を傾げる。馬鹿自分で考えろ、と言ってやりたいがコーヒーがなくて意気消沈してる今そこまで言う気力がない。


「今年の夏は7年ぶりの武道大会だろ。もうすぐジェミニカ各地で予選も始まる。タイガの立場なら今のうち自分に権力を集中させたいと考えるだろ」

「あ」

「絶対に何か起こるぞ。7年前の武道大会は白き英雄、スランが登場して貴族の時代が終わり王族中心の実力主義が幕を開けた」


ものはついでだ。ライトのために少し丁寧に説明してやることにした。


「そして今は反王政派がいる西の街中心に活躍する《何でも屋リコリス》、カラア民族の武装集団セピア、スランを崇拝する組織《英雄党》の活動が活発化してる。しかも白き英雄である鈴蘭が王都に帰って来た」


こうしてみると去年の間に色々起こったものだ。


「色々あったな。プラス、セカイとかいう訳のわからない集団も動いてると」


ライトがため息をつくが、俺はそれに答えることはできなかった。セカイは訳のわからない集団じゃない。普通の人には理解されないだろうが、確かに信念のもとに動いている。

だから全て許されるかと言えば……


違うんだろうな。



――――――――――



数日後、タイガが王になることが正式に発表された。

飾りの王の死など記憶から薄れているのだろう。国は祝福のムードに包まれた。

とはいえ今までとそう変わりはない。タイガが中心に政治を行うのだと。


これから本格的に大会に向けて色々なものが動き出すだろう。俺はそれがほんの少し憂鬱だった。




はい、中間報告。




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