表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却の白と黒の記録書  作者: オトノシユ
6章 追憶のネイコ編
73/93

第3話 千本槍もしくはガーベラ



【第二話 セン】



自然の国ネイコ。第二王子の名前をセン。

アレアを側近にしており、幼いながらも持ち前の社交的な性格から人気者だった。

また、時事問題や情報を得ることが好きで、センもまた自ら社交界に出ることも多かった。




「セン様。次はレイピアの稽古です」


「レイピアか……。俺苦手だけど、尊敬する兄上に近づくため頑張ろう」


ピアノの稽古が終わったセンに、アレアが話しかける。センは気疲れしたような顔で笑った。悩ましそうな様子はまったく子供らしさのかけらもない。


「セン様、いかがされましたか……?」


「いや、なんでもないよ」


そんなセンを見て、アレアは自分の無力感をヒシヒシと感じていた。

自分の主をサポート出来ていないのではないかと。


センの勉強は最近本格的になり始めていた。将来国を担う人だ。今から知識を入れることは不可欠。

けれど、それはホタルも同様。

ホタルがセンの歳くらいには同じように教育が始まっていたし、歳の差があるのだから二人が別の内容を勉強していることも、また当たり前だった。


「(またホタル様と比べられたのでしょうか……)」


歳の差がある、といえどもその差は知れている。しかもホタルとセンは実の兄弟。

二人が周りから比べられることは防ぐことなどできないほどに、当然のように行われていた。


「アレア、次はレイピアなんでしょ? 早く行こ!」


にっこりと笑う。

社交界に出るようになったからだろうか。作り笑いが上手くなってきた主に、アレアは下手な笑いを返した。




………

……




その日のレイピアの稽古は、ホタルとセン二人で行うものだった。ついでに側近の二人も自由に場所を使えた。


センは先生の解説を真剣な眼差しで聞く。苦手でも取り組もうとする姿は、その先生も好感が持てるものだった。対してホタルは、真面目に聞いていないわけではないものの、ただ淡々と頷きながら聞いていた。


二人共先生の話を一言一句逃すまいとしていたけれど、外から見た様子は反対と言えた。


「さて、では早速レイピアを使ってみましょう」


指示に従い、それぞれ手に取る。

そして手本通りに練習を始めるが、センはふと手を止めて隣に目を奪われる。ほうっと息を漏らしてしまうほどの、あまりに洗練された型は王家の気品に満ちていた。センには到底たどり着けない境地だ。


「さすがはホタル様ですね。私が教えることもありません」


先生がホタルを褒める。

これは今に始まったことではなかった。ホタルは何をするにもすぐに習得して、吸収力と向上心はまさに『天才』と言うに値した。


「(兄上はやっぱりすごい。いや、俺だって……)」


レイピアを握り直し、センは一つ一つに気合を込め何度も練習する。けれどどこかブレてしまったり、ホタルほどは上手くいかない。とはいえ、この年齢では十分過ぎるほど上手い。才能があるのは間違いなかった。けれどもホタルと並べば見劣りしてしまうのは事実。


「セン様も上達が早いですね……!

ホタル様が今のセン様くらいの頃はもう少し早い上達でしたが、やはりご兄弟揃って優秀でいらっしゃる」


これだ。

『ホタルがセンくらいの頃はもう少し早く上達していた』

このことをわざわざ口にするということは、多かれ少なかれセンに落胆しているということだろう。ホタルならもっと上手くできたと、暗に言っているのだから。……いや、暗にではなく、直接的かもしれない。



『セン様は優秀ですね。才能もある。

ただ、ホタルの方が――』

『あんな立派な兄を持てて、幸せでしょう?』

『ホタル様は出来たのですが……』

『ホタル様を見ていたらセン様が微妙に見えるんだよなぁ。普通より優秀なのに』




センはきゅっと口を引き結ぶ。

兄が凄いのも、兄の方が優秀なのも……、わかっている。


『セン様って、ホタル様の劣化版っぽくね?』

『誰かに聞かれてたらどうするんだよ』

『だってなんかさ、パッとしないんだよな。セン様だけの、コレってもんがないってか……』

『子供になぁに期待してんだ。ここにはホタル様、涼花殿、アレア殿と異質な子供が多いだけだ。セン様は普通寄りなんだ。期待しすぎてやるな』


誰もがホタルを持て囃し、崇めた。王になるべくして生まれた子だと。

ホタルだけではない。彼の側近になった涼花も、センの側近のアレアも。比べられて他人の中で彼らに負けていると判断された。


ホタルの評価が上がるごとにセンへの期待は薄れていった。

センの努力は、能力がないからだと言われた。

センの才能は、ホタルの前では霞んでしまった。


いつも可愛がり優しくしてくれるホタルのことは大好きだ。尊敬しているのは嘘ではないし、一番憧れている人だ。


――けれど、一番疎ましい人でもあった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ