第3話 千本槍もしくはガーベラ
【第二話 セン】
自然の国ネイコ。第二王子の名前をセン。
アレアを側近にしており、幼いながらも持ち前の社交的な性格から人気者だった。
また、時事問題や情報を得ることが好きで、センもまた自ら社交界に出ることも多かった。
「セン様。次はレイピアの稽古です」
「レイピアか……。俺苦手だけど、尊敬する兄上に近づくため頑張ろう」
ピアノの稽古が終わったセンに、アレアが話しかける。センは気疲れしたような顔で笑った。悩ましそうな様子はまったく子供らしさのかけらもない。
「セン様、いかがされましたか……?」
「いや、なんでもないよ」
そんなセンを見て、アレアは自分の無力感をヒシヒシと感じていた。
自分の主をサポート出来ていないのではないかと。
センの勉強は最近本格的になり始めていた。将来国を担う人だ。今から知識を入れることは不可欠。
けれど、それはホタルも同様。
ホタルがセンの歳くらいには同じように教育が始まっていたし、歳の差があるのだから二人が別の内容を勉強していることも、また当たり前だった。
「(またホタル様と比べられたのでしょうか……)」
歳の差がある、といえどもその差は知れている。しかもホタルとセンは実の兄弟。
二人が周りから比べられることは防ぐことなどできないほどに、当然のように行われていた。
「アレア、次はレイピアなんでしょ? 早く行こ!」
にっこりと笑う。
社交界に出るようになったからだろうか。作り笑いが上手くなってきた主に、アレアは下手な笑いを返した。
………
……
…
その日のレイピアの稽古は、ホタルとセン二人で行うものだった。ついでに側近の二人も自由に場所を使えた。
センは先生の解説を真剣な眼差しで聞く。苦手でも取り組もうとする姿は、その先生も好感が持てるものだった。対してホタルは、真面目に聞いていないわけではないものの、ただ淡々と頷きながら聞いていた。
二人共先生の話を一言一句逃すまいとしていたけれど、外から見た様子は反対と言えた。
「さて、では早速レイピアを使ってみましょう」
指示に従い、それぞれ手に取る。
そして手本通りに練習を始めるが、センはふと手を止めて隣に目を奪われる。ほうっと息を漏らしてしまうほどの、あまりに洗練された型は王家の気品に満ちていた。センには到底たどり着けない境地だ。
「さすがはホタル様ですね。私が教えることもありません」
先生がホタルを褒める。
これは今に始まったことではなかった。ホタルは何をするにもすぐに習得して、吸収力と向上心はまさに『天才』と言うに値した。
「(兄上はやっぱりすごい。いや、俺だって……)」
レイピアを握り直し、センは一つ一つに気合を込め何度も練習する。けれどどこかブレてしまったり、ホタルほどは上手くいかない。とはいえ、この年齢では十分過ぎるほど上手い。才能があるのは間違いなかった。けれどもホタルと並べば見劣りしてしまうのは事実。
「セン様も上達が早いですね……!
ホタル様が今のセン様くらいの頃はもう少し早い上達でしたが、やはりご兄弟揃って優秀でいらっしゃる」
これだ。
『ホタルがセンくらいの頃はもう少し早く上達していた』
このことをわざわざ口にするということは、多かれ少なかれセンに落胆しているということだろう。ホタルならもっと上手くできたと、暗に言っているのだから。……いや、暗にではなく、直接的かもしれない。
『セン様は優秀ですね。才能もある。
ただ、ホタルの方が――』
『あんな立派な兄を持てて、幸せでしょう?』
『ホタル様は出来たのですが……』
『ホタル様を見ていたらセン様が微妙に見えるんだよなぁ。普通より優秀なのに』
センはきゅっと口を引き結ぶ。
兄が凄いのも、兄の方が優秀なのも……、わかっている。
『セン様って、ホタル様の劣化版っぽくね?』
『誰かに聞かれてたらどうするんだよ』
『だってなんかさ、パッとしないんだよな。セン様だけの、コレってもんがないってか……』
『子供になぁに期待してんだ。ここにはホタル様、涼花殿、アレア殿と異質な子供が多いだけだ。セン様は普通寄りなんだ。期待しすぎてやるな』
誰もがホタルを持て囃し、崇めた。王になるべくして生まれた子だと。
ホタルだけではない。彼の側近になった涼花も、センの側近のアレアも。比べられて他人の中で彼らに負けていると判断された。
ホタルの評価が上がるごとにセンへの期待は薄れていった。
センの努力は、能力がないからだと言われた。
センの才能は、ホタルの前では霞んでしまった。
いつも可愛がり優しくしてくれるホタルのことは大好きだ。尊敬しているのは嘘ではないし、一番憧れている人だ。
――けれど、一番疎ましい人でもあった。




