第2話 4つの悩みの種
【第一話 ネイコ王子とその側近】
ネイコはウルティマ大陸の三国の中でも、最も豊かな国と言われた。肥沃な大地、豊富な資源、先進の医療技術。王国であったけれど国民の権利は多く、住みやすい国であった。
そんなネイコは優しい国王が統治し、優秀な騎士が側近についていた。
国王には二人の息子がいた。
兄はホタル。弟はセン。
二人は血の繋がった兄弟でありながら、全く正反対であった。
光のような金の髪を持つホタル。夜のような瑠璃色の髪のセン。
ホタルは湖色の瞳。センは空色の瞳。
天才のホタル。努力家のセン――
「兄上様!」
幼いセンは、キラキラした瞳でホタルに駆け寄る。齢は5つくらいだろうか。純粋な好意を向けられたホタルは心底嬉しそうに弟の頭を撫でた。
「セン、どうしたの。なにかいいことあった?」
「きょう、おれたちのそっきんがはっぴょうってききました。たのしみです!」
ホタルとセンは2、3ほど年の差があるけれど、まだ二人とも側近が付いていなかった。そして今日は、その側近が発表されることになったのだ。
「ぼくもたのしみだよ。どうやら、父上様の側近のこどもが、ぼくたちの側近になるみたいだけど……」
「そうなのですね!
おれ、しりあいがふえるのうれしいなぁ」
どんな人なんだろう、とはしゃぐ弟をなだめつつもホタルも内心浮かれているのだった。
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その日の夕刻。
二人は国王の謁見の間にて座っていた。周りには貴族がずらりと並んでいる。けれどこれは二人にとって普通の光景で緊張することもない。ただ部屋に入ってくるであろう自分の側近を待ちわびていた。
そして、国王の側近の男が口を開く。
「このような名誉ある役職を子どもたちに与えて頂き、ありがとうございます。兄妹ともまだ幼く未熟ではありますが、訓練を重ねて能力的にも問題はありません。これからよろしくお願いします」
そうして、騎士の二人の子供が現れる。
瞬間、ホタルもセンもその兄妹に目を奪われた。
兄の方は、爽やかな人の良い少年だった。面倒見も良さそうで信頼できそうな見た目だ。
妹の方は、漆黒の髪と真紅の瞳が印象的な少女。まだ幼女と言ってもいい年齢であるにも関わらず、その佇まいは騎士のそれだ。
自分の側近。自分だけの理解者。国王と側近騎士の信頼関係を間近で見てきた王子たちにとって、その存在は憧れだった。
「上がアレア。下が涼花です」
さっと、紹介された二人は王子たちの前に跪いた。
ホタルの前には、アレア。
センの前には、涼花。
「これからよろしくお願いします」
この時、どちらがどちらの王子の側近になるかは年齢に合わせて決められていた。
兄のアレアがホタルに。妹の涼花がセンに。
けれどこれが後に問題になるとは誰も予測していなかったのだ。
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それから数日後。
側近の発表はあったものの、実際に共に働くのは後になるとのことで二組の兄弟は顔を合わせることがなかった。
しかしその間にも事態は進行していたのだ。
それは兄妹が現役騎士と試合をすることになったことから始まった。兄妹はまだ5歳と8歳程度。未熟で現役騎士と渡り合える訳がない。初めは試合というより稽古を兄妹につけてあげているだけであった。
けれど妹の涼花が……騎士を負傷させたのだ。
もちろん故意ではない。稽古の延長で、騎士との力の差を感じてもらうための試合をした。そこで涼花が勝利してしまっただけのことだ。
けれど、5歳の女の子が騎士に勝つなんて前代未聞。
その噂はまたたく間にネイコ中に駆け巡り、貴族は王にこう進言した。
『涼花をホタル王子の側近に変えましょう』
第一王子は、基本的に次期王になる。より強い人を側近に、と思うのも理解できる話。王はそれを承諾した。
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「いいかい涼花。お前には剣の才能がある。
だがその才能は……人を傷つける。私は父親として、その "暗殺剣術" を封じる。代わりに、 "活人剣術" を教えよう。
人を守る、誇り高き騎士になれ」
涼花は騎士との試合で勝った後、父親にそう告げられた。言葉の意味は完璧に理解しているわけではないけれど、人を守りなさい、と言っていることはわかった。
「人をまもれる、ほこりたかききしになります!」
涼花は自分に、生まれ持った暗殺剣術の才能があるなんてわからなかった。
そもそもその剣術が何を意味するのか、幼い彼女にわかるはずもない。
「わたしはわたしのあるじを……。ふたりのおうじをまもります…!」
「あぁ…。お前なら大丈夫だ」
ただ、将来を危惧した父親は誰かに知られる前にそれを封じようと決心した。強すぎる力は利用されかねない。父親として、それだけは避けたかったのだ。娘を守るために。
そして三年が経つ――。




