第1話 不仲の二人
<ショールside>
「なるほど。そういう形になったか」
主人であるタイガへ報告すると、予想通りといわんばかりに余裕の反応を見せられた。
俺がヒスイの動向を見ていたのは、彼らが友人だということも一つにあるけれど、タイガからの命令でもあったのだ。
「今回の試合も観に行けなかったみたいだけど、まだ具合悪いの?」
タイガは今年に入ってから、頻繁に床に臥すようになった。主治医のホタルからは、ただの風邪だときいているけど、そろそろそれも疑わしい。
「何か隠してるなら、さっさと言ってよ。もしもタイガに何かあれば、ジェミニカは混乱する。それくらいわかってるくせに」
すると、弱弱しい笑みを見せながら口を開く。
いつもの威圧的なタイガが気に入ってるのにな…と、少し心配、というより不満な気持ちだ。
「私はジェミニカを愛している。混乱させたまま消えるわけには行かないさ。すでに手は打ってある」
「ふうん? ……まあしばらくは元気でいなよ。まだ若いんだからさあ」
本気で思う。
あんたがいなくなったら困るんだ。
「ふっ。らしくないな。
……っ! ゲホッガハッ!」
突然、タイガの口から大量の血が噴き出した。
「タイガ!?
誰か、すぐにホタルを呼んで来い!!!!」
やっぱり、ただの風邪なわけがない。
驚きと焦りの中、冷静な自分がいた。
………
……
…
「とりあえず、これで大丈夫だよ」
ホタルの治療が終わって、一緒に寝室を出る。やはり腕は確かだから迅速な措置を行えた。
でもこれはハッキリさせておきたい。
「ねえ、風邪じゃないよね。どうして本当のことを言わなかったの」
するとホタルを困ったように薄く笑いながら返答する。
「これはタイガさんの意思だよ。医者は患者の意思を尊重する。口外してほしくないと言われたら、それを優先させる」
「でも相手は国の王子だ。王がほぼ使い物にならないジェミニカで唯一の統治者だ。
万一のことがあればすぐに対処できない。ホタルにだってわかるよね」
イライラする。
この男はいつもそうだ。正論のようなものを振り回して、人を傷つけていることに気づかない。誰かのためなんて、そんなことが聞きたいわけじゃない。そんなの、ホタルの自己満足だろう。
本人の意思も知らず、守ろうとして……その人を傷つけるんだ。
「もう一つ隠してることあるよね?」
俺がそういうと、さっきまで何も動じた様子の無かったホタルに変化があった。
これは……『隠してることが多すぎる。どれのことだろう』って顔だ。
「アレアの怪我、完治しないんだよね。後遺症が残るんだよね」
「ショールは知ってたのか」
「アレアがわかりやすいだけ。
どうしてこんなに俺に隠す?
まだ俺が信用できないわけ?」
イライラする、イライラする。
この人がわからない。
……わかりたかった。もう無理だけど。
「ショール、私は――」
「別に気にしないよ。
俺は昔とは違う。ホタルには何の期待もしてない」
ホタルの言葉を聞く前に、踵を返した。
後ろから追いかける様子もない。もちろん、追いかけられても困る。
昔はホタルの気持ちはよくわかったのに、今では全然わからない。
もしかすると、昔もわかってなんて、なかったのかな?
だとすれば滑稽だな。俺はいい笑い者じゃないか。
「ホタルなんか……兄上なんか、大嫌いだ」
………
……
…
<ヒスイside>
思わずショールさんとホタルさんの言い争いを聞いてしまった。全く盗み聞きするつもりはなかったのだけど。
ショールさんと、ホタルさん。
二人は実の兄弟だ。
二人が兄弟だというのは、黒の記録書で知っていた。聖礼祭の夜、ライトが来る前に一冊だけ隠した本。
あれは誰かの手に渡っても、誰も幸せにならない。そんな本だ。
とはいえ、僕はリカとセカイを追うことになった。
あの巻は確実に大きな鍵になる。もう一度読みなおす必要があるかもしれない。
部屋に戻ってすぐに、鍵のかけた引き出しを開けた。
パラパラとページを捲る。
さて時間は遡る。
鈴蘭がアルフレッドに拾われてセピアに入るよりずっと前。
これは、鈴蘭が記憶を失う前のお話。




