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忘却の白と黒の記録書  作者: オトノシユ
6章 追憶のネイコ編
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第1話 不仲の二人




<ショールside>




「なるほど。そういう形になったか」


主人であるタイガへ報告すると、予想通りといわんばかりに余裕の反応を見せられた。

俺がヒスイの動向を見ていたのは、彼らが友人だということも一つにあるけれど、タイガからの命令でもあったのだ。


「今回の試合も観に行けなかったみたいだけど、まだ具合悪いの?」


タイガは今年に入ってから、頻繁に床に臥すようになった。主治医のホタルからは、ただの風邪だときいているけど、そろそろそれも疑わしい。


「何か隠してるなら、さっさと言ってよ。もしもタイガに何かあれば、ジェミニカは混乱する。それくらいわかってるくせに」


すると、弱弱しい笑みを見せながら口を開く。

いつもの威圧的なタイガが気に入ってるのにな…と、少し心配、というより不満な気持ちだ。


「私はジェミニカを愛している。混乱させたまま消えるわけには行かないさ。すでに手は打ってある」


「ふうん? ……まあしばらくは元気でいなよ。まだ若いんだからさあ」


本気で思う。

あんたがいなくなったら困るんだ。


「ふっ。らしくないな。

……っ! ゲホッガハッ!」


突然、タイガの口から大量の血が噴き出した。


「タイガ!?

誰か、すぐにホタルを呼んで来い!!!!」


やっぱり、ただの風邪なわけがない。

驚きと焦りの中、冷静な自分がいた。




………

……





「とりあえず、これで大丈夫だよ」


ホタルの治療が終わって、一緒に寝室を出る。やはり腕は確かだから迅速な措置を行えた。


でもこれはハッキリさせておきたい。


「ねえ、風邪じゃないよね。どうして本当のことを言わなかったの」


するとホタルを困ったように薄く笑いながら返答する。


「これはタイガさんの意思だよ。医者は患者の意思を尊重する。口外してほしくないと言われたら、それを優先させる」


「でも相手は国の王子だ。王がほぼ使い物にならないジェミニカで唯一の統治者だ。

万一のことがあればすぐに対処できない。ホタルにだってわかるよね」


イライラする。

この男はいつもそうだ。正論のようなものを振り回して、人を傷つけていることに気づかない。誰かのためなんて、そんなことが聞きたいわけじゃない。そんなの、ホタルの自己満足だろう。


本人の意思も知らず、守ろうとして……その人を傷つけるんだ。


「もう一つ隠してることあるよね?」


俺がそういうと、さっきまで何も動じた様子の無かったホタルに変化があった。

これは……『隠してることが多すぎる。どれのことだろう』って顔だ。


「アレアの怪我、完治しないんだよね。後遺症が残るんだよね」


「ショールは知ってたのか」


「アレアがわかりやすいだけ。

どうしてこんなに俺に隠す?

まだ俺が信用できないわけ?」


イライラする、イライラする。

この人がわからない。

……わかりたかった。もう無理だけど。


「ショール、私は――」


「別に気にしないよ。

俺は昔とは違う。ホタルには何の期待もしてない」


ホタルの言葉を聞く前に、踵を返した。

後ろから追いかける様子もない。もちろん、追いかけられても困る。


昔はホタルの気持ちはよくわかったのに、今では全然わからない。


もしかすると、昔もわかってなんて、なかったのかな?

だとすれば滑稽だな。俺はいい笑い者じゃないか。







「ホタルなんか……兄上なんか、大嫌いだ」







………

……





<ヒスイside>





思わずショールさんとホタルさんの言い争いを聞いてしまった。全く盗み聞きするつもりはなかったのだけど。




ショールさんと、ホタルさん。

二人は実の兄弟だ。




二人が兄弟だというのは、黒の記録書で知っていた。聖礼祭の夜、ライトが来る前に一冊だけ隠した本。

あれは誰かの手に渡っても、誰も幸せにならない。そんな本だ。


とはいえ、僕はリカとセカイを追うことになった。

あの巻は確実に大きな鍵になる。もう一度読みなおす必要があるかもしれない。


部屋に戻ってすぐに、鍵のかけた引き出しを開けた。

パラパラとページを捲る。






さて時間は遡る。


鈴蘭がアルフレッドに拾われてセピアに入るよりずっと前。




これは、鈴蘭が記憶を失う前のお話。




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