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忘却の白と黒の記録書  作者: オトノシユ
5章 嵐前の日常編
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第7話 ヒスイ VS 鈴蘭



<ライトside>



大変なことになった。

現在、俺の目の前では今世紀最高クラスの決闘が繰り広げられているのではないかと思う。


仮面をつけた鈴蘭が、フローラ姫を引っ張り出した途端。ヒスイは鬼神のようなスピードで鈴蘭に斬りかかったのだ。剣が使えなくなっていたヒスイを治療しようということで発案された作戦だから、もう目標は達成された。もうネタばらししてしまっても構わないはずなのだ。なのに――


「先輩、あの二人止めなくていいんですか!?」


もはや目視出来ない。あれどう見ても二人の世界に入ってしまっている。もちろん、甘い意味ではなく。


「うーーん。だってヒスイはフローラを傷つけられて本気で怒ってるでしょ?

鈴蘭は鈴蘭で、自分より強い相手が少ないからヒスイの本気と戦えるのは楽しいんじゃない?

あれ、止めれると思う?」


「無理です」


確かに、鈴蘭が喜々として戦っているように見える。


「もう次元が違いすぎてわからない……」


鈴蘭が木の枝に飛び移ったら(人の動きじゃない)ヒスイも近くの倒木の一部を投げつけたりして応戦する(こっちも人の力と思えない。どんなビルドアップしたんだ)。

地上での戦いは、一進一退。鈴蘭の洗練されたプロの剣技に対し、ヒスイは不規則な予測不可能な動き。お互いが人の急所を狙った命がけの戦いを繰り広げている。


「やっぱり危ないですよっ。万が一のことがあったらどうするんですか!」


本気の戦いに焦った俺はもう一度先輩に話しかけた。

すると今度は茶化すでもなく、ただ普通の表情で


「ライトはどっちの心配をしてる?」


なんて。そんな質問をしてきた。

そうこうしている間にも、二人は風を巻き起こして戦っている。少し離れた場所にいる俺たちまで届いて、思わず片目を閉じた。


「そんなの……」


鈴蘭は白き英雄だ。カラアの悪魔だ。一番強い人だ。


「でも。どちらが勝ってもおかしくないように見えます。どちらも危ないと思います」


そう答えると、先輩はふうんと気の抜けた返事を返して黙る。

そしてしばらく後に視線は二人に向けたまま口を開いた。


「鈴蘭ってすごく強いと思うんだよね。多分、ロベリアだって本気を出せば敵じゃない。

なのにヒスイとは互角。これ、すごいよ。

ヒスイはこの一年で一番強くなった。そしてこれからも強くなる。鈴蘭のことだって――」



――追い抜く



本で読んだヒスイは……いや、俺が見てきたヒスイも、鈴蘭をひたすら目指していた。

背中を見るだけじゃない。何度だって隣に立とうとしていた。

俺にはあるだろうか。俺だけじゃなく、普通の人に、誰かに追いつこうとするその貪欲で純粋な向上心があるだろうか。


もしかすると、もしかして……ヒスイが勝つのでは。


鈴蘭が誰かに敗北する姿が想像できない。けれどなぜかこの勝負の行く末が気になった。


見届けたい。


そう思った瞬間、二人は決着をつけようと渾身の一撃を放とうとしていた……


「二人とも! 終わりです!」


けれどその切っ先が相手に届くことはなく、ぴたりと停止した。

フローラ姫の声によって。


「ヒスイ。騙してごめんなさい。私は誘拐されてないわ」


「え……?」


急に言われて頭がついて行ってないとばかりに目を白黒させた。

それを見て、鈴蘭は剣を下ろして仮面を外す。


「こういうことだ」


「えっ! 鈴蘭!? 姫の怪我は」


「これ、傷メイクってやつなの」


するとヒスイは力が抜けたように俯いて剣を下ろした。なんとなく申し訳なさを感じたのか、姫と鈴蘭は恐る恐る顔を覗き込む。


「その、悪かった。窮地に立たされたら剣を使えるようになるかと思ったんだ」


「私が最初に言い出したの。だからごめんなさい」


二人は本気で申し訳なさそうにしているけれど、俺の角度からはヒスイが少し嬉しそうな表情をしているのが見えた。


「うん……ありがとうございます。僕は、こんなに思われて、幸せ者です」


そういいながら顔を上げたヒスイは、晴れやかで優しい笑みを浮かべていた。

ああ、もうヒスイは大丈夫だと、そう確信できるような姿だった。





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