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忘却の白と黒の記録書  作者: オトノシユ
5章 嵐前の日常編
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第6話 荒療法




<ショールside>




フローラに呼ばれた俺は、面白い作戦の片棒を担がされることとなった。


ヒスイが心理的な影響で剣を振るえなくなった。というわけで、荒療法を思いついたらしい。


作戦はシンプル。

フローラが、変装した鈴蘭に誘拐される。そしてヒスイには鈴蘭と戦って姫を奪還してもらうというものだ。


さすがに鈴蘭が相手だとバレるのではないか、とか。ヒスイは負けてしまうのではないか、とか。思うところはあるけれど……

鈴蘭は「手を抜くつもりはない」と言っていたし、フローラは「心配いらないわ。二人とも私の優秀な側近だもの」とのろけられた。もう俺が口出しできない。


決行は明日。俺の役目はその舞台設営を今日中にすることだった。人使い荒いよね。

嘆息しながら歩いていると、向かいに亡霊もびっくりの無気力で歩く我が後輩が見えた。どうしたのだろうか。心なしか顔が真っ青。


「あっれー、ライト? どうしたのそんなぼんやりしてー」


わざとおどけた言い方をしながら近づくと、彼はびくっと身体を跳ねさせてから俺と目を合わせた。そして少しほっとした様子を見せる。


「あ、先輩。お久しぶりです。俺そんなにぼんやりしてました?」


「してたしてた。俺が軽く引くくらいには」


「変人の先輩に引かれるなんて相当でしたね!」


んー? それ悪口じゃあないかな。

まあ今はあえてスルーしてあげるよ。俺ってば優しい。


するとライトは俺の顔を見てから何か思い出したように、気の毒そうな表情をした。ライトは表情がコロコロ変わる上にわかりやすい。いつか誰かに騙されて壺でも買わされそうだ。


「何か色々あるんだろうね。一つだけなら相談に乗ってあげるけどどうする?」


「じゃあ質問があります。もし先輩が……」


そこで言葉が途切れてしまった。

……先輩が、何?

なんの言おうか悩んでいるようだ。そのすぐ落ち込んだり感情的になる癖直した方がいいと思う。若さかね。


「先輩は、自分の力不足を痛感したらこれから先どうしようと思いますか?」


力不足の痛感。

俺なら、俺は、痛感した日から……


「死に物狂いであらゆる手を尽くすかな。自分を高めるのはもちろん、周りを利用しようとだってするかも」


「割とあっけらかんと言いますね」


「俺の行動はもう大分見てきたでしょう?」


「まあ」


どうして急にそんなことを聞いたのかと尋ねる視線を向けていたら、察したライトはおずおずと口を開いた。


「ホタルさんとそういう話をしたんです。俺はホタルさん程の覚悟も、決心もなかったなって思い知って」


ホタルとこんな会話をしたのか。今のあいつがどんな思想を持ってるのか全然知らないけど……


「何て言ってた?」







『作り直すよ。

全部最初から』


『……?』


『自分の失敗で幸せが手の届かないところに行ってしまったのなら、また始めれば良いと思うんだ。自分の手元に、消えないように、作り直して、作り変えるんだ』





「わお、随分傲慢な回答だね」


「作り直すとか、俺の発想には無かったんです。今度からは自分が努力するとか、手段を択ばなくなる、とかならわかるんですけど……まさかそう来たかって」


ホタルらしいと言えばらしいけど。あいつにとって、自分が改めて努力するだとか、周りを利用するだとかは当たり前なんだろう。だからこそ、そのもう一つ先に……


「作り直す……か」


思い当たるものが頭を掠めて、背筋に冷たいものが走った。

やっぱり俺はホタルが苦手だ。何を考えているのか全く分からない。


「それよりさ、もっと面白いことが始まりそうなんだよね。

良かったらライトも片棒を担がない?」


「はい?」




 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄




<ヒスイside>


雑木林を駆け抜ける。後ろからの追手は人間とは思えぬ動きで迫って来ていた。

木から木へと飛び移り、僕の真上まで追いつかれる。


「っっ!!」


上から振り下ろされた剣を、転がるようにして躱す。

しかし一息付いている暇も無く、重い斬撃が追撃してきた。


何とか鞘を抜いていない剣で受け止めたけれど、鞘か、剣か、はたまた僕の骨か。ミシッと嫌な音を立てた。対して攻撃を仕掛けてきた謎の相手は、仮面をつけていて表情は見えないものの余裕そうだ。


どうしてこんなことになったのか。

それは数時間前に遡る。



……

………



今日は姫が執務室に来るのが遅いなと、鈴蘭と心配していた朝のこと。

珍しく扉から入ってきたショールさんは、これまた珍しく取り乱したように言った。


「フローラが誘拐されたっ」


それからショールさんが近衛騎士団に連絡するから、僕と鈴蘭で先に救出に向かおうということになって、誘拐犯の拠点があると思われる雑木林に向かった。


今の僕は剣を使うことが出来ない。

だから鈴蘭と二人で行動していたけれど、一向に姫を見つけることが出来ない。そこで二手に別れて何かあればすぐに連絡しようということになったのだった。


だというのに、別れた直後、僕の前に刺客が現れたのだ。仮面を被って、真っ黒な衣服に身を包んでいる。ボディラインは見えないタイプで、声も出さないから男女の区別はわからない。その人が姫を誘拐した犯人なのかわからないまま、剣を抜いて斬りかかって来た相手に応戦するのだった。



………

……



回想してみたものの、やっぱり意味が分からない。

なんで僕を攻撃するのだろうか。これだけ大きく動いていても鈴蘭が来ないということは、あっちにも誰か刺客が来ているのかもしれない。となると、この人たちが姫を誘拐した犯人だろうか。


「くっ!」


少し思考に神経を向けていると、その隙をついて攻撃される。

速い上に、強い。力だけじゃなく、実戦経験が滲み出る戦法だった。


最近の自信喪失と精神の疲弊も合わさって、どこか諦めに近いものが生まれていた。


相手はそれを察知したのか、物陰から何かを引っ張りだしてきた。


「離しなさいっ!」


「姫!?」


「ヒスイ!」


現れたのは、縄で拘束された姫。そこには擦り傷があった。


去年のジャスピアンの暴動の時を思い出す。


斬りかかられた彼女を、守り切れなかった悔しさを。傷つけてしまったのに、彼女に笑顔で大丈夫だと言わせてしまった自分への憤りを。


何より。乱暴に彼女を引っ張る仮面の刺客に、突然怒りが噴出した。


「彼女を離せ」


無我夢中だった。

姫を傷つける人は誰であろうと許さない。





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