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忘却の白と黒の記録書  作者: オトノシユ
5章 嵐前の日常編
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第2話 ヒスイの苦手なもの




〈ヒスイside〉




人には、少なくとも一つは怖いものが存在する。


恐怖は、防ごうと思って防げるようなものではない。全く予想していなかった方向から、急に飛んでくる。


あぁもう。どうしてこんなことになったんだ。


「紹介する。一週間スラン騎士隊のマネジメントを行う、ヒスイだ。仲良くしてやってほしい」


カルセさんに促されて、俺は一歩前に出た。

目の前には、大勢の騎士。騎士……


「よろしくお願いします。実りある一週間にしたいと思っています」


僕はちゃんと、笑えているだろうか。



………

……



とりあえず、特に目立った問題は見られなかったので普段の稽古をしてもらうことにした。僕なんかが口出ししてもいいものかわからないけど、弛んでいたら引き締める役割で。


すると、端の方から話し声が聞こえてきた。


「やっぱりカルセドナが隊長なのは違和感あるな」

「そうだよなぁ。実力もカリスマ性もあるけど……、アレアさんには敵わないって言うか」

「アレアさんも不思議な人だけどな。最初は誰からも認知されてなかったのに、いつのまにか騎士になって、隊長にまでなったんだから」


気づいたら、足を止めてその話を聞いていた。

アレアさんが、最初は認知されていなかった?

そんな人が隊長になる?

なんとも不思議なことじゃないか。


いやいや、盗み聞きしている場合ではない。今は姫から仰せつかった引き締め役なのだから。


「話は止めて稽古に戻ってもらえますか」


歩み寄りながら、できるだけ優しい言い方にした。けれどその騎士たちはお喋りのようで、僕の顔をまじまじ見たあとで話しかけてきた。


「ヒスイ君、君の話はよくきいている。実に優秀な側近だとな」


「ありがとうございます」


「どこからの貴族の出か? 俺の知る人と雰囲気がそっくりなんだが」


う……わ。

体から血の気が引いていく感覚がした。騎士に囲まれている時点で駄目なのに、この話題は僕的にアウトだ。


「いえ、実力主義のおかげでここまで来たに過ぎない平民です」


「あぁ気を悪くしないでな。俺も平民の出だから、身分は気にしないさ。ただ、向こう側にいる人見えるか?」


そう言って視線を投げたのは、反対側の端にいる男。緑の髪が揺れる、大人しそうな人だ。


「グリーン=グリエル。

スラン騎士隊でも屈指の剣士だ。彼と少し似ている気がしてね。無関係なら悪かったよ」


「い、いえ」


この人はお喋りだけど優しい人なのだろう。

最後に、何かあれば相談してくれとまで言ってくれた。


けれど案外似ていると言われてしまうのだな。


僕が騎士を恐れるようになった原因――グリエル卿に。



………

……



その日は特に大きなことは起こらず、平凡に終わった。正直、流石スラン騎士隊とだけあって気の緩みもほとんどなく、士気の高さにこちらが驚かされたくらいだ。


一体どこが問題なのだろう。

そこがわからない時点で、僕は未熟ということだろうか。鈴蘭なら、何かわかるのかな。


そんなぼんやりした心地で廊下を歩いていると、向かい側から見覚えのあるシルエットが見えた。鈴蘭だ。


「あ、ヒスイ。お疲れ様、今終わりか?」


「鈴蘭もお疲れ様。近衛騎士は大変だったんじゃない?」


鈴蘭は苦笑いしながら、まぁなと答える。

なんとなく、力技でねじ伏せたのかなと察してこちらも微笑み返しておいた。

本当に、鈴蘭はすごい。


「ヒスイは大丈夫だったか? 騎士に囲まれるなんてあまり心地よくはなかったろうに」


「優しい人たちではあったよ。僕も立ち止まってないで、克服しないといけないな」


すると鈴蘭はそうだなと笑ってみせた。優しくて、芯の真っ直ぐな、そして勇気をもらえる。


その姿勢だ。

姫も、僕も、他の皆が君に惹かれる理由が。


どうして僕は、鈴蘭のように気高く生きていけないんだろう。隣で相棒として立つ資格は、僕には……




………

……




二日目、僕はスラン騎士隊同士で試合をさせてみた。鈴蘭のように全員斬り倒すなんて中々できないけど、お互いの長所を見つけて自分に取り入れるというのは剣技でも勉学でも良い方法だ。


均等に見ていって、僕の知っていることを伝えつつ、僕も教えてもらって学び合うことができる。


一組一組見て回っていると、昨日話しかけてくれたお喋り騎士のところへ着いた。彼は騎士の中でも柔軟で凄まじいスピードで周りの力を吸収している。


すごいな。やっぱり騎士なんだ。


ふと、対戦相手を見ると……


「ぅわ」


グリエル卿だった。

たしかにまんべんに見ていたら、いつか顔は合わせる。昨日会わなかったのは無意識に避けていたらしい。


二人の前で固まっていると、昨日の騎士が僕に気づいて手を振ってきた。朗らかな人だ。


「おーい、ヒスイ。こっちのアドバイスも頼んでいいか?」


「はい、よろこんで」


なるべくグリエル卿の方を向かずに近づくと、それに気づいていない朗らかな騎士はニカッと笑いながら肩を叩く。


「ヒスイって教える才能あるよな。君の相方……鈴蘭が近衛騎士の方をスパルタ教育してるって聞いたけど、タイプがまるきり違うんだな」


鈴蘭が悪いとは言わないが、外からの刺激か内からの刺激かの違いというか……。

と、彼は続けた。


褒められたのは感激だ。こんな僕でも自信を持てる。

……けど、今はそれどころでなかった。


グリエル卿が、こっち見てる。


「はは…、ありがとうございます……」


「……キミ」


「はいっ……!」


話しかけるなと念じながら会話を続けていたけれど

願いは虚しくグリエル卿から呼ばれてしまった。


不安と……期待?

もしかして僕が息子だと分かってくれるかも、本当はいい人かも……そんな感情が少しでもある自分が……悔しい。


そんな僕に、彼は――


「……醜い碧の瞳だな」


バッサリと、そう言ったのだ。






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