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忘却の白と黒の記録書  作者: オトノシユ
5章 嵐前の日常編
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第1話 スパルタ




〈鈴蘭side〉




最近ライトの姿を見ていない。結城曰く、里帰りしているらしいけれど、なぜこの微妙な時期に行ったのだろう。


最近は王宮内がバタバタと騒がしい。主な理由は、アレア隊長の不在にある。一命を取り留めて、数ヶ月の治療が必要なものの完全復帰も可能とのことだ。


けれど、彼の役職はかなり重要で彼の人柄的にも各方面で大きな支えになっていた。それがなくなった今、スラン騎士隊が少し崩れ、アレア隊長の代わりを務めるカルセさんの不在で近衛騎士団も不安定だった。


「最近の騎士たちは不安定だわね。これじゃあ私も不安よ」


姫様がボヤいた。

その気持ちもよく分かる。カルセさんも、カーナさんも、とても優秀な人だ。けれどそれぞれの代わりというのは容易ではない。


「というわけで、鈴蘭とヒスイで騎士たちに喝入れに行ってくれる?」


「「え?」」


にっこり笑う姫様が、何を考えているのか私には検討もつかなかった。




………

……




「えー…、姫から事情は聞いている。突飛な姫のお考えにはいつも驚かされるが、結果は出るのだよな。

だから今回もお前たちに任せようと思っている」


カルセさんはいつものような凛とした佇まいで言った。……いや、前より痩せたかもしれない。


隣にいるカーナさんは、少し不服そうだ。

たしかに……私たちは側近としてそれなりに結果を出してきた。けれどそれでも新入りには変わりない。

そんな私たちが優秀と認められた騎士、加えて最高ランクのスラン騎士隊まで、喝を入れるというのだから変な話だ。


「どうしてこの二人なの……。そんなの、カルセさんがすれば……」


「カーナ、姫の判断だ。従いなさい」


「っ……、はい」


まぁ……、私たちも率先してしたいわけではないのだが。


特に、私はヒスイが心配でならない。

騎士が苦手で、特殊な生い立ちのヒスイがどこまで耐えれるか。


既に心なしか顔が青いし。


「一週間ずつ、二人には私たちに付いて団のマネジメントをしてもらう。今週は鈴蘭がカーナと近衛騎士を。ヒスイは私とスラン騎士隊を、だ」


ん……私はカーナさんと、か。

別に嫌いなわけではないのだが、初対面の印象が良くも悪くもプライドが高い印象を受けたせいで声をかけ辛いところはある。

少しカーナさんの方を見ると、思い切り睨まれた。

ほら、たいして話したことがないのにこんな調子だからな。


「僕が……スラン騎士隊ですか」


ヒスイの確認の声が震えている。

顔が真っ青を通り越して白い。


そうだろうなぁ。


スラン騎士隊には、ヒスイの父親――

グリーン=グリエルがいるから。




………

……




私がカーナさんに付いて近衛騎士屯所へ行くと、中の騎士たちが一斉にこちらを向いた。カーナさんが私をチラッと見てから紹介する。


「皆は知っていると思うけど、彼女はフローラ様の側近鈴蘭。一週間、近衛兵の特別指南役になることになったわ」


「よろしくお願いします」


すると騎士たちがざわめき始めた。

昨年私が姫様の側近になったとき、近衛騎士とは少しいざこざがあったな。普通に考えて、私の存在は受け入れ難いはずだ。


「カーナ、俺達はなぜこの素人に指南されなければならないんだっ」


「っ。私のことを呼び捨てにしないでと何度も言っているでしょ。これでも団長代理なのよ」


「今はそれはどうでもいいだろ」


……どうやら、近衛騎士同士でも上手くいってないようだ。これは姫様が懸念するのもわかるが、さて、どうするか。


「騎士の皆さん、今私のことを素人と呼びましたが、素人では姫様を守れません。あなた達は、姫様が無能を側近にすると思っているのですか? だとすればそれは、姫様への侮辱発言ですね」


そう言うと、面白いほどに騎士は黙った。

ふむ、一応は忠誠心は強いみたいだ。良かった。


「カーナさん、少し時間を頂いてもいいですか」


「え、えぇ……」


「ありがとうございます。では、今から五人グループを作って下さい。そして、五人で協力して私を倒してみて下さい」




………

……




という発言をして、一時間ほど過ぎた。

直後は、「馬鹿にしてるのか」だの「遊びに付き合う暇はない」だの、かなり反発があった。だが、私が指南役になるのは姫様の命だと言えば受け入れざるを得なかったようだ。

するとカーナさんが話しかけてきた。


「鈴蘭、本当に大丈夫なのかしら」


「大丈夫ですよ、騎士の方々に重傷を負わせないようにしますし」


すると彼女は苛立ったように目を釣り上げる。


「そうじゃなくて、あんたはそんな無茶して大丈夫か聞いてるのっ」


……?

私?


「もしかして、私の心配をしているんですか?」


聞き返すと、カーナさんは少し頬を赤く染めて睨みつけてきた。


「だから、そうだっていってるじゃない!

何度も言わせないでくれる!?」


なんと。カーナさんが、私の心配を……

近衛騎士団に自信がある故のことかもしれないけど、それでも、嬉しいな。彼女は私を心配してくれるような人なんだ。


「ありがとうございます。私も安全第一で行わせていただきます」


「ふん。ならいいのよ」


少しずつ、カーナさんの本当の姿が見えてきた気がする。それが少し嬉しくて、肩の力も抜けていったのだった。




………

……




それからしばらくして、近衛騎士たちは稽古場へと集まった。


「では第一グループ、フィールドに入ってください。

戦闘不能、降参させる、もしくは武器を奪い取る破壊する、が出来たほうが勝ち」


「はっ。本当に五対一で大丈夫なのかよ。後で痛い目見ても知らないぞ」


騎士が、怒りを通り越して小馬鹿にしてきた。


「その心配はいりません。さ、始めましょう」




そして戦いが始まる。

五人グループの騎士は、曲がりなりにも近衛騎士。動きも力もチームワークも中々のものだった。


「だが、詰めが甘い」


ある程度まで様子を見ていたけど、慢心か力不足か。

それぞれ重大な欠点が見えてきた。


「さて、そろそろ終わらせるか」


私は一人の背後に回り込み、剣を弾き飛ばした。


「一人」


続けざまに二人ほど手刀で気絶させる。


「二人、三人」


隙きを付こうとしてきた騎士を、薙ぎ払い、剣を奪取した。


「四人」


最後は奪った剣を使い、服を貫通させて壁に縫い止めて動きを封じ込め……


「五人」


首に剣を当てて、終わり。


「正直、これほど弱いと思わなかったな。貴方はスピードが欠けている。そこの貴方は力。そっちは剣技全般。……ま、時間もないし次行くか。次のグループフィールドに入って」


静まり返った稽古場。

息を呑む騎士たちの間に、緊張感がでてき始めた。


良い傾向だ。



………

……



結局、どのグループも私を倒すことは出来なかった。


「これでわかったと思いますが、私一人すら倒せないようでは困ります。これから一週間、鍛えなおしていきますからお願いしますね」


「……うそ、だろ。誰も勝てなかったなんて……」

「連続で戦ってたのに疲れも見せてないぞっ……」

「マジで何者なんだよ」


初めとは大違いの反応に、少し面白さを感じるな。

さぁ。貴方たちの根性、容赦なく鍛えなおしていきますからね。






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