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忘却の白と黒の記録書  作者: オトノシユ
5章 ナッチメイル編
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第10話 ほどけない




〈鈴蘭side〉




姫様が急に南の村へ行きたいと言って、一日でとんぼ返りしてから数日。2月も終盤という頃、ようやく私たちも落ち着きを取り戻していた。


姫様だけでなく、タイガ王子やカイト王子もナッチメイルとの関係のために忙しくしていらっしゃった。

そしてアレア隊長が昏睡状態になって、空いてしまったスラン騎士隊隊長の代理をカルセさんが。カルセさんの近衛兵団長の穴はカーナさんが埋める形となっていた。


ショールはアレア隊長が昏睡状態になってから元気がないし、ホタルさんにアレア隊長の調子を聞いても、目を覚ますかはわからないとのこと。落ち着いてはきたが、不安な日々が続いていた。



そんな朝。


「鈴ねぇ! 来て!」


「ルイ、どうかした?」


私の部屋に来たルイが、慌てたように私の手を引く。顔が晴れ晴れとしていて、朗報だろうと思いながら尋ねると大きく頷いてくれた。


「アレア隊長が起きたの!!」


「っ! 本当か」


「早く早く!」


手を引かれるまま、ルイに付いて行った。彼女の髪に、私が渡したリボンが揺れているのを見ながら。




………

……




「失礼します」


部屋には目覚めたアレア隊長と、傍らに座るショール、そして診察を終えたホタルさんがいた。


「眠っている間に体の傷は大分治っているし、脳の異常も無さそうだね。しばらく休んでいれば元通りになりますよ」


「ありがとうございます、ホタル様」


頭を下げたアレア隊長が、私の姿を見て瞠目した。突然来たから驚かせただろうか。


そんな風に思っていると、アレア隊長はぽつりと呟く。


「ぁあ……涼花……」


「涼花?」


呟かれた名前を復唱すると、部屋の温度が急激に下がったようになった。思わず身を縮こませてしまうほどの冷え冷えとした空気。

その発生源は……ショールと……ホタルさん?


「……こほん。まぁ、意識を取り戻したばかりだし許してあげるよ」


「あ……、すみませんでした」


ショールの言葉に、隊長ははっとして頭を下げた。別に他の人に間違えられて怒るほど私は冷たい人間ではないのだが……。


それに以前もアレア隊長からは涼花さんに似ていると言われたことがある。

あれは初めてアレア隊長と会った時。涼花さんは隊長の亡くなった妹さんらしい。


「ショール、私は気にしないから。それよりもアレア隊長の目覚めをずっと待っていたのだろう。素直に気持ちを伝えるのが先だろう」


そう促すと、ショールは苦笑して隊長に向き合った。


「アレア、本当に良かった。もう無理をしないでよ。生き急ぐことはないんだからね」


「……はい。ショール様、ご心配をおかけしたようで、申し訳ございませんでした」


「はい。本当に悪いと思うなら、今後無茶しないこと。……俺も、悪かったね」


二人の間には、見えなくても確かに存在する強い繋がりがあった。信頼し合った瞳から、それを確かに感じる。

私はふとヒスイを思い浮かべた。信頼し合える相棒。いつかこんな風に目と目が表すような信頼を築けるようになるといい。


「じゃあ、俺はそろそろ行くね。アレア、ちゃんと休むんだよ」


「ショール、もう行くのか」


待ちわびた隊長の目覚めだ。もっと長くいるものだと思っていた。けれどゆっくり首を横に振る。


「待ってたけどさ。ずっと側にいる必要はないよ」


そういうものなのか。男の友情、というものだろうか。


ショールが退出したのに、私が残るのも悪い。私も早々に退出しようと思いつつ、最後のつもりで少し言葉をかけた。

いつの間にかホタルさんとルイも退出していて、私とアレア隊長だけだ。


「体の具合はいかがですか」


「大丈夫だよ。心配かけてごめんね」


「いえ。ゆっくりしてくださいね」


失礼します、と退出しようとしたけれど、アレア隊長から呼び止められた。


「待って。少し、話がしたいんだ」


「……いいですが」


アレア隊長がそんなことを言うなんて珍しい。私たちは言ってしまえば仕事で顔を合わせるくらいの接点しかないのだから。


私は勧められるままショールの座っていた椅子に腰をおろした。


「俺が眠っている間、ショール様はどうだったかな」


「いつも通り、仕事は要領いいですし、私たちの面倒もよく見てくれていました。……ですけど、何処か元気がなかったですね。明らかに隊長を心配していました」


「そうか」


隊長は困ったように笑っていた。

それは自分が倒れたことの後ろめたさからか、ショールの打たれ弱さゆえかはわからないけれど。


「鈴蘭、どうかショール様を見ていてあげてくれるかな。自分へ厳しすぎる人だから、自分で孤独の方へ行ってしまう。

鈴蘭ならそれを繋ぎ止められる気がするんだ」


「……、私はショールの友人ですから。友人が弱ったときは側にいますよ。

ですが、隊長も人任せにしっぱなしにしないでくださいね」


「はは、ありがとう。

了解したよ」


ショールはどこか底知れなさを感じるときがあるけど、実際はただの努力家の人間だ。変わっていると言って避けるには、あまりに可哀想な。


まぁ、見ているくらいなら全然かまわないさ。




__________





〈ライトside〉



ナッチメイルから帰ってきてから数日後、俺は西の街ジャスパへ向かった。仕事は結城がやってくれるらしい。本当に助かる。


そして今日、ジャスパへと到着した。


「父さんの本を見ないと」


ホタルさんたちはアレア隊長の診察のために王都にいるから、今回は監視している人はいないだろう。


ボロボロの屋敷へと足を踏み入れる。

去年来てから特に変わりは無さそうだ。まず墓参りをして家族に挨拶をして、父さんの部屋へ向かった。


「……、あった」


あの日の本は、変わらずそこにあった。


この本に何か真実が書かれているだろう。


「《カラア民族とジャスパの研究について》。何か手がかりがあるなら、見つけないと」


色んなことが、絡み合う前に。






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