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忘却の白と黒の記録書  作者: オトノシユ
5章 ナッチメイル編
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第6話 エリアル




〈ライトside〉



「久しぶりやなぁ、ライト!」


船から歩いてきたのは、後ろに海賊を従えたエリアルだった。

海賊は貧民街と手を組んでいる。

そして今は貧民街とセピア、リコリスと手を組んでいる。


つまり海賊は俺達の敵……


「先輩……」


「この人数を相手ってなったらもう無理だね。撤退かな」


小声で会話していると、その様子を見てエリアルが片手で部下を制してから一人でこっちに歩いてきた。


「安心しぃ。アタシの目的は、ライトだけやから」


「俺!?」


な、何で!?

クローリアも怪訝そうな顔をしているし、この動きは作戦になかったものなんだろう。じゃあエリアル何を考えているんだ。


「せやからショールさん。ライトを借りてくで」


「うっ……!」


咄嗟に反撃も出来ず、フックで鳩尾を殴られた。

思わず膝から崩れ落ちる。

チカチカする視界の端で、先輩が助けに来ようとしているが見えたけど、海賊たちが迫ってきていた。


先輩……すみませ……




………

……




「……。……ぅ」


なんか……ふわふわする。

ふわふわ? いや、ぐらぐら……


「おえっ」


ちょっと、地面動いてる!

目覚めがこれだと具合悪くなりそう。


「おえって、失礼やなぁ。体調はどぉー?」


「良くない。……エリアル、ここは」


「船の中やね」


起き上がった俺の横に、エリアルが座っていた。薄暗くてランプで照らされた小さな部屋。物置きのようだ。


「先輩は」


「アタシは何もしとらんよ。今頃クローリアさんと戦ってるんちゃう? ライトはすぐ返すって言っといたし」


すぐ返す。何のために俺は船に連れ去られたんだ。


「そんな警戒心剥き出しにせんでもええやん。怖いわぁ」


「じゃあ目的を言ってくれ。俺は早く戻らないといけないんだ」


エリアルは目を細め、しなやかな動きで俺に近づいた。そして左手のフックで俺の顎を上げて顔を近づける。


「おや、少しもドキドキせぇへん? こんないい身体した美人が近くにおるのに」


「悪いけど、好きな人いるから……少ししかしない」


「ほんま正直やなぁ! 好きやで、そういう人。

……なぁライト。もしも世界に謎が溢れているとしたら、真実を知りたいと思う?」


世界に謎が……。


俺は昔から、ただ普通に暮らしたかった。家族と、温かい村で。でも理不尽な世界はそんな些細な願いも叶えてくれなかった。


謎を知ったところで、俺の生活が変わるわけじゃないと思う。理不尽って、どうにかできるものじゃない。どうにかしようって努力は出来ても、それを変えることは出来ない。




でも、俺は知りたいって思う。




先輩は、謎は暴くものだって言ってたけど……俺は別の理由。

知らないと、その先に行けないから。

好奇心とかじゃない。


"知ること"は、新しい路で"進むこと"。


「俺は、知りたい」


本を読んで、思い知った。何も知らなかったって。

本を読んだから俺は色んな人の考えとか、思いを知れた。知れば何とかする努力が出来る。


「知って、その先に進みたいから」


「あぁ、やっぱライトは適任やったんやなぁ」


エリアルは恍惚とした笑みを浮かべ、俺から離れる。そして物置の一角から箱を取り出して、俺の前に置く。



「アタシの名前はエリアル。海賊の船長。

そして、"世界を創造する者"セカイの一員」



世界を創造する者……?

セカイの一員って


「黒の本を書いた、あのセカイ?」


「せやね。

最初ウチのリーダーが読者にライトを選んだときは、なんでこの子なんやろうって思ったけど、やっぱり適任やったなぁ」


心拍数が上がる。

ずっと謎だらけで、近づけなかったセカイが、目の前にいる。


聞きたいことが山ほどあるのに、咄嗟に声が出ない。


「セカイの目的は……何だ」


「書いとったやろ。世界平和。

世界平和は絶対的な存在……神がいることで安定する。やからセカイは神を造ってるんよ」


神を造る。つまり――


「鈴蘭を神にするってやつか」


「正解。

最強で、記憶がないためにしがらみも無い。人を愛する心を持ち、その力で人々に手を差し伸べることも出来る。そして何より愛されている」


本で読んだとおりなんだ。

世界平和のために、鈴蘭を生贄にして神を造る。今は神話を創っている途中なんだ。


「俺はそんなの認めない!

セカイの目的なんて、潰してやる!!」


「ほんまぁ? よろしくなぁ」


エリアルの反応があまりに馬鹿にしているようで、思わず顔を顰めてしまった。けれどエリアルは肩を竦める。


「馬鹿にはしてへんよ。

ただ……私の神様――セカイのリーダーはな、神を造るって以外に本当にしたいことがあるっぽいねん。ライトならそれを満たせるんちゃうかなって」


「本当にしたいこと?」


「そ。人が本を書いて、それを特定の人にプレゼントする時って、例へばどんな気持ちの時やと思う?」


本を書いてプレゼント?

読んでほしいって思ってるってことだよな。上手く書けた……とか?

いや、特定人ってことはその人じゃないといけないんだろうな。その相手に自分の考えとかを知ってほしいとか。


「知ってほしかったり、見てほしいとか?」


「アタシもそう思うよ」


それからエリアルは黙り込み、その話題は終わってしまった。今の質問は何だったんだろう。


そしてエリアルは取り出してきた箱を開けて、中身を俺に渡す。中身は……鍵?


「これあげるわ。いつか役に立つと思うで」


「どうしてこれをくれるんだ。セカイは鈴蘭を殺したいんだろう。どうして俺にヒントを渡すんだよ」


「さっきの言うたやん。

リーダーは別の願いも持ってるって」






『私を、見つけて。

待ってます。』






一巻の最初の文章が頭を掠めた。

知ってほしい、見てほしい。……見つけてほしい?


「さ、ヒントの時間は終わり。

私、ヨモギ……着実にセカイに近づいてるやん。あと四人も悲しい人やから、見逃さないであげて」


「待って……!」


「さようなら。リーダーを救ってやって。

また次会うときは、アタシの悲しみも救ってな」


変な薬の香りが鼻の奥をツンと突いた。靄がかかる視界に、エリアルが満足そうに笑う顔が見える。


リーダーを……セカイを救う。


「見つけて……やる、からな」


小さく俺は呟いて、意識を手放した。




_________





〈ヒスイside〉



姫はじっと連絡を待っている。けれど誰よりも現場に行きたいと思っているだろうな。その証拠に、姫の顔は険しく、両手を強く握っているようだった。


「姫、大丈夫ですよ。鈴蘭も増援に行きましたし、他の人だって――っ!?」


人の気配がする。この部屋はメイオール公爵に安全のために渡してもらった部屋。僕と姫以外はいないはずなのに。


即座に姫を抱き寄せ、右手に剣を構えた。


「え、ヒスイ……!?」


「……誰かいます」


何故かたじたじしている姫に囁くと、彼女ははっとしたように息を飲んで身体を固くした。

怖がらせるつもりはなかったけど……


「安心してください。貴女は僕が必ず守ります」


「っ……ありがとう」


近くにいるからか、姫の鼓動が聞こえるようだ。少し落ち着いたようでよかった。


それにしても、どこにいる? 気配は感じるのに、決定的なものは感じない。


全神経を集中させる。


「………。そこかっ!!」


自分の左側にあるカーテンを切り落とした。後で公爵に謝っておこう。


「あっぶねぇ。よく分かったなぁ。流石だぜぇ」


現れた男は、目つきが凶悪でギラギラとした笑いを浮かべていた。

なるほど、この男は……


「リコリスのリカだね」


「ああ。お前はヒスイだったか、こんな強いやつの相手を任されるなんて怖いなぁ」


僕も黒い本を読んだ一人だ。リカのことも調べさせてもらった。


リカ。元々ネイコ出身だったけれど、1099年のネイコクーデター前の混乱で国外へ。そこでセピアに拾われ使用人として働くが、現人神の命令で行った仕事で精神を壊してしまう。そしてセピアからリコリスへ移動した。


セピアで訓練を受けていただけあって強さは申し分ない。でも勝率はこちらのほうが上回っている。


「リカ、何が目的でここに来た?」


「ナッチメイル側の揺さぶりとしては、レグルスを誘拐したのがジェミニカの組織って事実があれば上々だろ。

次はジェミニカの揺さぶりだ。タイガもカイトも、妹が相当大切らしいからな。ナッチメイルで負傷したってなればナッチメイルとの同盟に消極的になるってなぁ」


……目的を聞いたのは僕だけど、どうしてこんなに正直に教えてくれるんだろう。


「だからぁーー、オレはフローラ姫をー、攻撃しないとぉーーいけないーー!!」


リカはわざとらしく叫ぶ。そんなことをすれば流石に人が来るし、不利になるはずなのに。

……もしかして、本当は姫を傷つけるつもりはない?


何かひっかかりを覚えて、僕は姫を後ろに庇いリカに斬り込んだ。そして剣が交じりあうタイミングで彼に問う。


「貴方は姫を傷つけるつもりはないようだね」


「お前、黒い本の読者に選ばれたヤツだよな?」


拮抗していた力を、一旦弾き距離を取る。


さて、この男はセカイの関係者のようだ。でなければ黒い本のことを知っているわけがない。話を聞きたいけど姫を危険に晒せない。


……ん? なんか服に紙が挟まっている。


『オレは目的があってロベリアに近づいている。信頼を得るために任務も忠実にしないとならない。だが鈴蘭の主を傷つけるつもりはない。オレと戦って合わせてくれ。詳しい話はジェミニカに帰ってからしよう』


なるほどね。リカの鈴蘭への愛情は本を読んだかぎり本物だった。何か訳があってのことなら納得できる。


……とはいえ、姫に剣を向けること自体、僕には許し難いこと。

難しく考えるのは苦手だ。今はとにかく、リカと戦えば良いってことで。


「事情が何であれ、手抜きはしないよ」


「うわ……、マジでこえぇよ」


こうしてしばらくの攻防が続くのだった。






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