第4話 平凡な願い
〈ライトside〉
正直、さっきの話し合いに出たオーパーツはセピアの技術に似通ったものがあるんじゃないかって思った。本で読んだ限り、セピアはかなり文明が進んだ技術を有しているし、父さんの本でもカラア民族は優秀な民族だと書いていた。
アイサルエ島とかいう場所と、カラアが繋がっている可能性は大きい。
「………」
と、色々考えを巡らせているけど、正直思考してでもいないとやってられない空気。
同じ部屋のショール先輩は笑ったまま銃の手入れしてて怖いし、アレア隊長はピリピリした空気を出しながら直立不動で扉の前で立ってる。
ヒスイと姫は別室だし、鈴蘭はまたメイオール卿に呼ばれたし、本当に居心地悪い!
コンコン
あれ、誰か来た。
アレア隊長がノックの音を聞いて扉を開けた。
「あ、鈴蘭か。どうかしたかな?」
どうやら鈴蘭が来たみたいだ。隊長は幾分か優しい声になって鈴蘭を迎えた。
「……なるほど、ショール様なら中にいるよ。どうぞ」
「失礼します」
す、鈴蘭が入ってきた!
なんか自分の部屋じゃないけど、ドギマギするのは何でだろう!
「あれー、鈴蘭どうかしたの?
もしかして、俺のこと心配して来てくれたとか?」
先輩が銃をポーチに仕舞って鈴蘭の方に近づいた。そんな先輩に、鈴蘭は勿論だという様子で頷く。
「そうだ。……だが、少しは元気そうで安心した」
「わぁ、鈴蘭が素直に心配してくれるなら得した気分。ありがとねぇ」
先輩の空気が一変した。
口調も態度もいつもと変わらないのに、花びらが舞いそうなくらいに優しい空気になった。声がやけに柔らかいし、何より目が嬉しさを表している。
どうして鈴蘭が他の人と仲良くしてるのを毎度見ないといけないの! 泣きそうなんだけど!!
「あははっ、なーんか気分いいな。
……鈴蘭、安心していいからね。全部」
「何だその意味深な言葉は。でもま、ショールが元気なら私は何の心配もいらないな」
にっと格好いい笑みを見せて、鈴蘭は颯爽と部屋を出ていった。
……やっぱり鈴蘭は格好いい。俺も見習わないと。
「停滞も……もう無理、か」
先輩の空色の瞳に、強い光が宿ったのが見えた。
………
……
…
それから数日、ナッチメイルでの生活が続いた。最初は慣れなかったけれど、段々と文化も食事も慣れて、かなり快適な国だと思い始めていた。
もうすぐジェミニカへ帰る日が近づいている。
そんな時、大きな問題が起こった。
「レグルス女王が誘拐された!?」
突然の連絡に、俺は驚くしかなかった。
どうやらいつものように職務を放棄して女王が部屋を抜け出したそうだ。それから姿が見えず、城内が騒然とし始めた頃、手紙が来た。
それは貧民街の連中がレグルス女王を拉致したとの手紙。もしも解放してほしくば……フローラ姫を差し出せ。
そういう内容だったらしい。
「姫を差し出したりはしませんよね!?」
俺が先輩に慌てて尋ねると、先輩は当たり前だというように頷いた。
「もちろん。それにナッチメイル政府側もそれを望まないよ。今世界が荒れ始めている時期、同盟国の姫を自国のトラブルに巻き込んで同盟解消なんてしたくないからね」
それを聞いて安心した。
……でも、フローラ姫は複雑だろうな。あの人は優しいから、自分が行かなければレグルス女王が危険という状況が嫌だと思っているはず。
俺の考えが顔に出ていたのか、先輩が背中を叩いて来た。
「そんで、フローラからの命令。
メイオール公爵の指示に従って、俺たちもレグルス女王救出に向かうように……だって」
「わかりましたっ」
_________
〈アルフレッドside〉
ナッチメイルの兵が動き始めた。連絡によると、ジェミニカの護衛チームもレグルス女王救出に動き始めたらしい。ここまでは作戦通り。
「うにゅぅーー!! 私をどうするつもりだ無礼者!! 死刑に値するぞ!!」
……うるさい。
無視していれば、後ろの子供はまた騒ぎ出した。これがナッチメイルの女王とは未だに思えないな。レグルスの側近も親衛隊も俺一人で事足りたし、ナッチメイルは先進的ではあれど武力に関しては本当にジェミニカには及ばないようだ。
「無視をするでない!!
私をどうするつもりだ! お前らはなんだ!」
「俺たちはセピア。……と、リコリス」
今回の作戦。まず海賊と貧民街の人々の協力を得る。
貧民たちにレグルス女王を誘拐させる。
そこで動くであろうナッチメイル兵と、海賊の武器を得た貧民たちに戦ってもらう。ちなみに海賊が貧民たちに武器を配っているのは、俺たちが指示したからではない。海賊が前からしていたことだ。
あと、強い敵は俺たちが相手する。
……それくらいだな。後はなるようになる。
コシロの情報網と、ナシロの作戦立案はいつも最適だ。俺が心配する必要はない。
「失礼するでー。……おわっ、ホンマに女王さん捕まえてるやん!」
「……」
またうるさい人が増えた。海賊の長、エリアル。
「き、貴様はエリアルではないか!!
メイオールが言っていたぞっ。お前は悪いやつだ!」
「せやなぁ。善し悪しは誰が決めるんかは知らんけど、メイオールさんから見れば悪いやつやなぁ」
エリアルはしゃがんでレグルスに目を合わせた。
レグルスには今手足を縛っている状態で椅子に座ってもらっている。それでもレグルスはエリアルを挑戦的に睨んでいた。
「女王さん、覚えときぃ?
あんたは何も見えてへん。なんでアタシらが武器配ってるか分かる? 貧民たちに加担するか分かる?」
「イジワルだからだろう!
高貴な私が羨ましいから、それを妬んで騒ぐ下民だからだ!」
「なぁるほどなぁ。そういう人がいないとは言わへんけど……
正解はな、平凡な幸せが欲しいからやねん」
エリアルはフックになっている左手をレグルスに見せた。
「人はなぁ、理不尽な不幸に見舞われるもんやねん。だから足掻くんや。幸せになりたくて。
……ただ生きていたい。
……自分を見てほしい。
……争いのない世界で生きたい。
……穴の空いた心を埋めたい。
……大切な人に笑顔でいてほしい。
そんで、平凡な暮らしがしたい」
「当たり前のことではないか。そんなの、いつでもできるだろう」
レグルスはエリアルの言葉がわからないというように、顔を険しくした。
そうだろうな、当たり前に持っている人には持たない人の気持ちはわからない。……それは逆もしかりだがな。
「当たり前が、当たり前じゃない人もおんねん。アタシもそうやった。……そんな時、神様がアタシの前に現れてん。そしてアタシに当たり前をくれた。
やから、アタシもそんなふうになりたくて貧民たちに手を貸すねん。幸せのために藻掻く人の助けになるためにな」
「し、知るか! 幸せなんか、その人の運だ! それを受け入れられなくて暴れる奴らの面倒なんか、なんで私が見なければならんのだ!」
「何が善か悪かはアタシにも分からへん。
やけど、女王さんはまず最初に何も見えてへん。まず何を言うにしても、しっかりと直視してからにしぃ?」
エリアルは反論し続けるレグルスを無視して、立ち上がった。そして俺の方を見る。
「アルフレッドさん。女王さんはアタシの部下に監視をさせるわぁ。もう行ってええよ」
「助かる」
踵を返し、建物の階段を降りようと踏み出す。
ここは沿岸の建物。海風が開いた窓から吹き抜け、心地よいと感じた。
「あぁそうや。アルフレッドさん、質問してもええ?」
「なんだ」
「世界に謎が溢れていたとして……アルフレッドさんは、真実が知りたい?」
くだらない質問だ。
俺にとっての全ては、父であるミヤケ。そして先生である鈴蘭だ。
もしも世界に謎があっても、それは――
「どうでもいい」
「へぇそうなんや。……セカイ読者には適さへんな」
振り返らず、そのまま歩き出す。
先生を……鈴蘭を、残酷な王宮から救うために。
_________
〈ライトside〉
姫はかなりレグルス女王の身を案じていた。それこそ、今から飛び出しかねないくらいの勢いで。
ヒスイと鈴蘭は姫の護衛のために城に残って、俺と先輩と隊長はナッチメイル兵に着いていくことになった。護衛が一気に半減したけど、鈴蘭とヒスイなら大丈夫だろうとは思っている。
そしてフローラ姫との取引場所に指定された海岸付近に向かっていると――前方に三人の人影と、後ろに大人数の人影が見えた。
「アハハッ。見てよこの人数、面白そうだよネ」
「ロベリーダーは趣味悪いッスよ。私はそんな趣味ないッスから!」
「趣味悪くないと思うけどナァ。
……では貧民街の諸君、ナッチメイルの兵に日々の鬱憤をぶつけるとイイヨ〜」
ゾッとする声。
俺は始めて聴いたはずのに、どこか生命に恐怖を与えるものがあった。
あぁ、この人が……ロベリア。
「おらぁ! ナッチメイル兵め!!」
「俺達の苦しみを味わえ!」
「助けてくれよぉ!」
「幸せになりたいだけなのに!」
ロベリアの合図で、彼女の後ろにいた貧民街の人たちがナッチメイル兵に一斉に襲い掛かってきた。あまりの人数に、兵もいっぱいいっぱいのようだ。
けれど相手は一般人。変な武器を持っているけれどなんとか保っていた。
問題は……
「ロベリア、ヨモギ、クローリアか。
随分と強敵揃いだね」
「アハッ。出血大サービスダヨ。ジェミニカチームも三人。丁度ピッタリ。ショール、アレア、えーっと……ライト、カナ」
アレア隊長が、すかさず剣を構えて戦闘態勢に入る。隣では先輩もナイフと銃を構えていた。
この三人皆かなり強いけど、特に強いのはロベリアだ。あの鈴蘭相手に互角だったんだから。ロベリアが一番の脅威だと全員が感じてるはずだ。
でも、誰を相手に取っても俺の場合苦戦は免れない。
「お二人とも、俺がロベリアを相手します。
ヨモギは怪力、クローリアは剣達と聞きます。どちらも強敵ですから気をつけて」
アレア隊長がそう言う。
ジェミニカの最高部隊、スラン騎士隊の隊長なら、もしかするとロベリアにも勝てるかもしれない。
「じゃあ、いくヨ?」
斬りかかってきたロベリアを、隊長が受け止める。そのまま剣を交えながら、隊長は俺達からロベリアを引き離してくれた。
じゃあ残り二人はどうすれば……
「……俺が残り二人を相手するよ。ライトは俺の補佐で」
「ええっ!? 二人なんて、無茶です!」
「じゃあライトはどちらかを相手にできる?
君はまだ未熟だ。下手をすれば命を落とす。ナッチメイル兵の増援ももう時期到着する。それまでの辛抱だから」
どうやら先輩は増援を呼んでいたらしい。
俺は……たしかに無力で未熟だ。こんな自分が、悔しい。
悔しがっても何も変わらない。こうして俺は、先輩の後ろで援護するしかなかった。
_________
〈鈴蘭side〉
ショールからの増援要請が来たと、メイオールから連絡が会った。そして追加情報で、ロベリア、ヨモギ、クローリアが現れたことも。
「どうしてリコリスとセピアが……」
「今回の事件は、海賊と貧民街の問題だけじゃないってことかしらね」
ヒスイの言葉に、姫様が重々しく口を開いた。ナッチメイルの問題にジェミニカの犯罪組織が関与しているとなれば、かなり大きな問題だ。
「とにかく、今は敵をどう対処するかよ。ロベリアがいる時点で、こちらの立場はかなり危ないわ。一番強いアレアが応戦していても、勝敗は五分五分……いえ、むしろアレアが負ける可能性も大きい」
確かに、それくらいにロベリアは脅威だ。私も戦ったことがあるけれど、あれほど恐ろしい敵はいない。
「とはいえヨモギの怪力、クローリアの剣術も見過ごせません」
「ええ。ヒスイの心配もわかるわ。
……だから、鈴蘭に援護に行ってほしいの。もしかするとまだ敵はいるかもしれないもの」
なっ!?
私に、取引きに指名された姫様の元を離れろと言うのか。そんなの無理だ。今は姫様から離れるなんて考えられない。
不服さが伝わったのか、姫様は強い光を宿した瞳で私を見る。
「私より、今危険な人がいるわ。私はジェミニカのためにも取引き材料になれないし、ならない。
でも、レグルス女王が心配で、アレアもショールもライトも心配なのよ。……私にはヒスイもいる。この命令を聞いて」
ヒスイのことは勿論信じている。私の相棒なのだから、安心ではある。
だが、それとこれとは違うんだ。
私も三人が心配だが……
「鈴蘭」
……。
ああもう。私は心底姫様の目に弱い。
こんなに強い意志で言われてしまえば、断るなんでできない。
「わかりました。
……ヒスイ、姫様を頼む」
「勿論。絶対に姫を危険に晒さないよ。
鈴蘭も、みんなを頼むよ……相棒」
「分かった。相棒」
私は増援部隊を追い越して、海岸の方へと急いだ。




