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忘却の白と黒の記録書  作者: オトノシユ
5章 ナッチメイル編
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第3話 オーパーツ




〈ライトside〉




「……ベリアが、……可能性が……」


「……アレアは気をつけて」


俺が城に戻ると、やっぱり先輩とアレア隊長はお話中だった。この二人は俺の目からも、黒の本でも、何かしらの繋がりがあるっぽい。

これも気になるなぁと、扉の前で止まっていると中から扉が開いた。


「ライト、気配バレバレだよ〜?」


「もっと強くなりたいなら、まず気配をコントロールできるようになるといいね」


先輩とアレア隊長がアドバイスしながら中に入れてくれる。どうやらそんなに分かりやすかったらしい。これは俺も頑張らないとな。


「それで城下はどうだった?」


「区画整理が厳密に行われていて、街並みがとても整っていました。ただどこも似たようなつくりだから迷いやすいと思います。目印は店の看板とかですかね」


ざっくり報告しながら、途中で会ったエリアルとかいう女性を思い出した。左手がフックの義手とかいう、奇抜な人だけど、もしかしてナッチメイルでは普通なのかな。


そう思って、その人についても話してみると二人はぴたっと固まってしまった。


「どうかしましたか?」


「どうもこうも……。その女性の名前って、エリアル?」


「そうです。もしかして先輩知り合いですか?」


やっぱりフックの手なんて珍しいみたいだ。にしてもどうして知ってるんだろう。

すると先輩が俺の頭を軽くデコピンしてきた。


「あうっ」


「ライト、勉強不足みたいだね。結城にばかり頼っていては駄目だよ」


「す、すみません」


この反応を見るに、俺は何かやらかしたみたいだ。


「次からは気をつけて。一つの判断ミスが命取りになるんだから。

エリアル、彼女は――海賊の船長リーダーだよ」


「ええっ!!」


あの人が……海賊の船長!


偶然にもそんな人と会ったこと、そしてそれに気付かなかった俺の不勉強さに衝撃を受けていた時、そろそろ謁見が始まるという連絡を受けたのだった。




………

……




そして俺たち……というか、フローラ姫はナッチメイルの女王様に会うことになったんだけど……


「にゃははは! 久しいのー、フローラよ!!」


「お久しぶりです、レグルス女王」


そこにいたのは、14,5歳くらいの、大人でもなく幼さが多分に残る女の子がいた。

長い濃紺の髪をストレートにして、切れ長の目を得意げに細めている。何となく感じる不遜な感じが、少しばかり、嫌というか……気になるな。


まさか、この方が女王?


「ふっふーん。どうだ、ナッチメイルは凄いだろー。ジェミニカなんかより、すごいんだー」


「確かに、ナッチメイルの技術力は参考にしたいものが多いですね。ジェミニカとナッチメイルの二国が協力すれば大きな力になることでしょう」


外見よりも精神のほうが幼そうなレグルス女王。同盟国のジェミニカに対して失礼な物言いだが、フローラ姫はあまり気にしたようすもなく冷静に答えている。

それがなんだか誇らしかった。


「むーっ。協力しなくても、ナッチメイルだけでネイコには十分対抗出来るのだぞっ。協力なんて、私に無礼だろ……いてっ!!!」


「おや失礼。手がぶつかってしまいました」


レグルス女王の隣で立っていたメイオール卿が、良い笑顔で女王の頭を小突いていた。


……あれ、絶対ぶつかったとかじゃない。


「ぶ、ぶ、無礼者!! メイオール! 貴様、処刑されたいのか!!」


「したいのならどうぞ。ただ、我のしていた仕事がレグルス様の仕事に上乗せされますが、よろしいですか?」


「むぅぅぅっ。よろしくないわっ。イジワル! 鬼! 悪魔!」


ポカポカとメイオール卿を叩く姿は、やっぱり幼い。これはレグルス女王より年下のルイよりも精神年齢が幼いぞ。……幼いというか、我儘なのかな?


「うぅっ、もういいっ! メイオールが好きやれ!」


「仰せのままに」


メイオール卿は満足したように笑って、恭しく礼をした。レグルス女王は拗ねたように椅子から飛び降り、そのまま何処かへ行ってしまった。なるほど、これは女王がお飾りでメイオール卿が実質のトップと言われるわけだ。


姫はそんな様子を微笑みを崩さずに待っていた。

……本当に、ジェミニカトップ三兄妹が優秀な方揃いで良かったと思う。心から。


「ではここからは我、メイオールが話をしたいと思います」


「レグルス女王はいいの?」


レグルス女王が出ていった扉を見ながら、姫は純粋に心配していた。

それは姫としてではなく、女王を一人飛び出させたままでいいのかという、歳上としての心遣いだった。


「彼女の側近がいますし、問題ありませんよ」


「そう……。

じゃあメイオール、お願いね。……人払いは済ませているのでしょう? 態度もいつも通りでいいわ」


姫がふんわりと微笑むと、メイオール卿は安心したように纏う空気を和らげた。


「それはありがたいのぉ」


「そっちの方が落ち着くもの。それで、私たちに聞いてほしいことがあるのではない?」


薄桃色の瞳がキランと光る。姫の物怖じしない態度を見て、鈴蘭が笑っているのが見えた。

うん、鈴蘭も姫が大好きだよなぁ。


「そうじゃな。我はジェミニカの問題については把握している。そのことに関しては手を貸すとタイガとも約束をしている。

……代わりにナッチメイルの問題にも手を貸してほしい。まず話を聞いてもらって、貴女方の知り得る情報が少しでも欲しいのじゃよ」


ナッチメイルの問題というと……海賊と貧民街の結託について、だっただろうか。


結城の言葉を思い出している間に、メイオール卿と姫は言葉を交わして情報交換をすることになっていた。

メイオール卿はテーブルに小さなプラスチック片を置いた。


「あら、これは……?」


「先日海賊から押収したものなのだが……、使い方が分からなくてなぁ。"まいくろめもりぃ"とか言うらしいが、こちらでも解析を急いでいるところじゃ」


姫は困ったように眉を顰めてから、俺たちの方を向いた。けれど誰一人分かる人はいないようだ。


「あとは、"れぇざぁ銃"やら、"ぱそこん"やらだが……」


ぱそこん、という文字を聞いた時、ショール先輩が静かに笑みを浮かべた。先輩より後ろにいた俺だから気づいたけど……急にどうしたのだろう。


そう思って先輩の視線を辿ると、先には鈴蘭がいた。


……鈴蘭がどうしたのか? 特に何も変わりないみたいだけど。


「これらの物品は、海賊が【アイサルエ島】という場所から輸入したものだ。海賊は、海を司るナッチメイルでも持ち得ない航海技術を持っておる――」


そこからの話はこうだ。


このウルティマ大陸からアイサルエ島に行くためには高度な技術力が必要。そしてそれを持っているのは海賊だけ。

そんな海賊はナッチメイルを拠点に、アイサルエを行き来していて帰ってくる度に得体の知れないさっきのようなモノを持ち帰るそうだ。


中には対処ができない危険な武器もあるため、民間人の手に渡ると危険。そう判断しナッチメイルはできるだけ海賊を取り締まってアイサルエのモノを押収していたけれど、最近問題が起きた。


それが、海賊と貧民街の結託。

海賊がアイサルエからもたらした不明のモノを貧民街の人々へ配り始めたという。そしてそれを使った暴動が頻発しだし、対応が遅れているとか。


「なるほどね。それでこの不明のモノについての情報か欲しいと」


「そのとおり。何か分かったことはないかな。

……そこのショール君とかは、どうかな」


メイオール卿が、突然後ろで待機していたショール先輩を指名した。確かに先輩は飄々といろんなことをこなすから、頼りになる。メイオール卿はそれを見きったのかな。


先輩は緊張もせずに、にんまりと笑いながら一歩前に踏み出した。


「名前を覚えて貰えていたようでとても嬉しく思います、メイオール公爵」


「ふふっ、我が君の名を覚えぬわけがなかろう。君ほど愚かな人も居らぬからのぉ」


瞬間、ピキッと空気が凍りついた。


緊張感、圧迫感、不安……

首が締まっているかと錯覚するくらいに、息苦しくてたまらない。


その空気が発せられていた元は、最初にからかわれたメイオール卿からでも、失礼なことを言われたショール先輩からでもない。


アレア隊長からだった。


「アレア」


「っ! 申し訳ございません」


ショール先輩が静かにアレア隊長の名前を呼ぶと、隊長ははっと我に返って粛々と頭を下げる。


すぐに凍りついた空気が溶けてゆき、俺は大きく息を吐けた。


さっきの緊迫感は何だったんだ。

怖くて、苦しくて、ただの気配であっても死にそうになった。……本で読んだ、鈴蘭の殺気のようなものだろうか。


「うちの騎士が失礼したわ。それで、ショールに何か質問があるのかしら」


微妙な空気になった場を、姫が切り替えてくれた。メイオール卿は面白そうだと言わんばかりに目を三日月に歪め、袖で口を隠す。


「ショール君のことは高く評価している、というのは理解してほしいのぉ。だからこそ聞いておるのよ。

この不明の物体――【オーパーツ】と名付けよう。オーパーツの正体への情報を知らぬかの?」


オーパーツ。

俺はゆっくりテーブルの上を見る。


黒い小さなプラスチック。銃に似た形状の金属。薄い折りたたみ式の四角形。


どれも見たことが無くて、用途も何もわからない。もしもそこらに落ちていても気にしないくらいに馴染みがない。先輩はこんなものを知っているのか?


「……さて? 俺には何の検討もつきません。情報もなく、すみませんね」


先輩はきっぱり首を横に振って否定したけれど、メイオール卿はますます目を細め、先輩の答えを無視して続けた。


「アイサルエからもたらされたものはオーパーツだけではない。とある薬、をつくる方法についても伝わったのだよ。

……例えば、記憶を消す薬……とかなぁ」


えっ!?


俺も、鈴蘭も、そしてヒスイと姫も驚いた反応をした。記憶を消す薬。つい最近、結城とその話をしたばかり。


それに鈴蘭の記憶喪失とも無関係ではなさそうだし……


「……だから、知りませんって。俺は結局本質を掴めていない……」


悲壮な声が、ぽつりと場に落とされた。

先輩の、いつもの貼り付けた笑顔が一瞬崩れた瞬間を……俺は見てしまった。


ショール先輩も正体があまり分かっていない人の一人だ。


白の革命後に表舞台でタイガ様の側近として活躍するようになったこと。

ロベリアは先輩を殺せないこと。

ホタルさんと仲が悪いこと。


わかっていくことも、謎だらけでわからないことばかりだ。もしかして、先輩がセカイ?


そんな風に考えていたら、気づけば話し合いは終わりを迎えていた。結局オーパーツの疑問については誰も答えず、解散となったのだった。




_________





〈鈴蘭side〉



また私はメイオールと向かい合って座っている。話の話題はさっきのこと……オーパーツについてだ。


「先進的、未来的な不明の物体――オーパーツ。

なるほど、それで私にセピアの鈴蘭として聞いてくれと言ったのか」


確かに、セピアはジェミニカよりも、そして先進的と言われるナッチメイルよりも文明が進んでいて先進的だ。

先進的……いや、近未来的と言う方が正しいのか。


「そうじゃよ。先の話し合い、鈴蘭は"ぱそこん"という言葉に反応しておったが……ふふっ、鈴蘭が感情を態度に表すなど、珍しいではないか」


「私が? 態度に出ていた? そんなまさか」


これでもポーカーフェイスには自信がある。もしも感情が漏れていたなら由々しき事態だ。


「まぁ、我とショール君しか気付かなかったじゃろうがの。姫も見ていれば気づいたろうな」


ショールに気づかれたか……

彼はなんというか、私をよく見ているというより、周りをよく見ているからなぁ。私でも少し、ショールを躱すのは苦手だ。


ところでショールと言えば……


「どうしてさっき、ショールにあんなことを訊いた? ショールは何か知っているのか?」


するとメイオールは袖で口を隠しながら笑う。面白がっているのが丸分かりな態度だ。


あれからショールは少し静かになったし、アレア隊長はじわじわ怒ってるし、流石にメイオールとはいえジェミニカ陣営を崩されるのは私も良しと思わない。


「ショール君はのぉ、我にとって未知数な存在じゃから。明らかにするためには動いてもらわねばならん。そこで発破をかけただけよ。

……それより、オーパーツの話はどうかな」


はぐらかされたか。

ショールのことは……後で本人の様子を見に行くとして。


オーパーツに関しては、たしかにパソコンというものに反応した。あれは私がセピアにいた頃、お父さ……ではなく、ミヤケが制作していたものだったからだ。


「メイオールは知っているだろうが、カラア族は現人神に従う。カラアの長、ミヤケは現人神からの指示で色々なものを制作していた。その一つがパソコンだ」


他にも、義眼やら、義手やら、義足やら……

耕運機とかインターホンは実用化されたし、色々と作っていたな。


「ほぉ。アイサルエから来たオーパーツを、数年前にはカラアで制作されていたのか」


「……私も今まで気にしていなかったが、カラアの文明は他と桁が違う。もしかして、アイサルエと関係があるのかもしれない」


アイサルエ島から海賊を経由して、ナッチメイルに渡ったオーパーツ。


現人神から授けられた知識や技術で繁栄してきたカラア族。


「やはり、鍵は現人神か」


メイオールの呟きに、私は小さく頷いてから視線を外へ向けた。

私がジェミニカに戻ってから、何かが動き始めような気がする。もしかすると、私は私に向き合わないといけない時が近づいているのかもしれない。


セピアとも……そして、失った記憶とも。






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